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第25話
しおりを挟む第25話 心の崩壊
――世界が、軋む音を立てた。
黒い稲光が大地を走り、空を引き裂く。
それはまるで“神の怒り”のような光景だったが、
もはやこの世界に神はいない。
ただ、“破壊者カイレン”の意思が暴走しているだけだった。
アマギ南方の前線基地。
蓮は光の障壁を展開し、衝撃波から兵たちを守っていた。
土砂が吹き飛び、空間が歪む。
「くそっ、あの規模の力……まるで虚界の崩壊時と同じだ!」
リィナが叫び、思念銃を握り直す。
「カイレンは“創造素”そのものを逆転させてる……!」
蓮は歯を食いしばる。
「創造の力を“破壊の言語”に書き換えて、
世界の法則を再構築してやがる!」
彼の言葉に、兵士たちの顔が青ざめた。
空が赤黒く染まり、地面から無数の黒い柱が立ち上がる。
そこから溢れ出す闇は、生き物のように蠢いていた。
「まずい! あのままじゃ“現実そのもの”が崩れる!」
ゼオルが叫ぶ。
「奴の狙いは……エリスの“心核”だ!」
「エリスの……!?」
蓮の顔色が変わる。
⸻
その頃、エリスの意識は――すでに“外の世界”から切り離されていた。
無限の闇。
足元も天もなく、ただ漂うような空間。
どこかで“囁き”が聞こえる。
――『お前は、創造を選んだ。その代償を、知っているか?』
「……カイレン……?」
エリスは声を探す。
――『いや、これはお前自身の声だ。
創造は命を与える。だが、命を与えた分だけ奪われる。』
「そんなこと、わかってる。
でも、私は――人を生かすために創るって決めたの!」
叫びが虚空に響く。
しかし闇は笑うように囁いた。
――『なら見せてやろう。
お前が救えなかった者たちを。』
次の瞬間、闇の中に“記憶”が流れ込む。
焦げた村。
炎の中で泣き叫ぶ子ども。
創造の光が届く前に、消えていった命たち。
彼らの顔が、すべてエリスを見つめていた。
「……やめて……やめて……!」
――『お前の創造は、救いではない。
神と同じだ。己の意思で世界を選び、命を振り分けている。』
「違う……私はそんなこと……!」
――『違わない。
“創造”とは、“選別”だ。
お前が神を否定しても、結局は同じ場所に立っている。』
その言葉とともに、
エリスの胸の紋章が黒く染まり始めた。
金と蒼の光が混ざり、やがて黒紫の炎に変わる。
彼女の体が崩れ始める。
光が剥がれ、心が分解されていく。
「いや……私は……私で……いたい……!」
⸻
現実世界。
蓮が膝をつき、地面を殴りつけた。
「……エリスの意識が……閉じた……!」
「閉じた?」
リィナが叫ぶ。
「ああ。カイレンが、彼女の“創造核”へ直接侵入した!
精神領域の中で、エリス自身の心を壊そうとしている!」
「じゃあ助けるには……?」
「俺が行く。
創造者として、あいつの心にアクセスできるのは俺だけだ!」
蓮の胸元の紋章が光る。
エリスと共鳴するように、金黒の光が強く脈動する。
ゼオルが止めようとする。
「無茶だ! お前まで“内部領域”に引きずり込まれたら――!」
「構わない!」
蓮は叫んだ。
「俺はあいつを一度、神にした。
なら、今度は“人間”として取り戻す!」
彼の体が光に包まれ、消える。
意識が、エリスの心の中へと飛び込んでいった。
⸻
――そこは、白と黒が混ざり合う無限の空間だった。
エリスがひざまずき、光を失った瞳で虚空を見つめている。
その前に、灰色の影――カイレンが立っていた。
「ようやく来たか、“模倣者”」
カイレンが冷たく笑う。
「創造者の心を壊せば、世界は再び“ゼロ”に戻る。
これこそ均衡だ」
「均衡? それはただの逃げだ!」
蓮が叫ぶ。
「破壊でしか保てない世界なんて、意味がない!」
「理想論だ。
お前が創った世界は、またいつか歪む。
だから壊す。それが俺の“役割”だ!」
カイレンが腕を広げ、闇が渦巻く。
その闇が、エリスを飲み込もうとした瞬間――
蓮はその前に立ち、両腕を広げた。
「お前は“俺”だろ!
なら、俺が証明してやる――創造は、破壊をも救えるって!」
光が爆発する。
白と黒の渦がせめぎ合い、世界が反転した。
⸻
静寂。
エリスはゆっくりと目を開けた。
目の前に、手を差し伸べる蓮がいた。
彼の体は半透明に光り、今にも消えそうだった。
「……蓮……あなた……」
「大丈夫だ。
お前はもう、“壊れない”。」
その言葉とともに、蓮の胸の紋章が完全に光り輝いた。
それがエリスの中に吸い込まれ、闇を一瞬で焼き尽くす。
カイレンの影が叫び声を上げ、霧のように崩れた。
だが最後に、確かな声を残す。
「……人が、創造を使いこなせると思うな……」
その言葉が虚空に消え、闇も完全に消滅した。
⸻
現実世界。
エリスが目を開ける。
涙が頬を伝い、胸に手を当てる。
そこには、蓮の光が宿っていた。
「……蓮……?」
周囲を見回しても、彼の姿はない。
「……まさか、あなた……私の中に……」
空を見上げる。
金と黒の光が、ゆっくりと空に溶けていく。
それは、彼が確かに“そこにいる”という証だった。
エリスは涙を拭き、静かに微笑んだ。
「……約束する。
あなたの世界、絶対に守るわ」
遠くの空で、雷鳴が消えた。
破壊の嵐は静まり、夜が訪れる。
その夜は――人間が“心”で神を超えた夜だった。
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