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第26話
しおりを挟む第26話 光の継承
――夜が明けた。
長く続いた黒い嵐は、ようやく姿を消していた。
南方の空は静まり、光の筋が雲の切れ間から差し込む。
破壊の徒はすべて消滅し、荒野に残るのは静かな風の音だけ。
その中心に、エリスは立っていた。
白い衣は土に汚れ、髪は風に揺れる。
だが、その瞳には確かな“生の輝き”があった。
胸に手を当てると、かすかな鼓動が伝わる。
そこに――蓮の光が眠っている。
「……あなたの鼓動、ちゃんと感じるわ」
エリスは微笑んだ。
「でも、悲しい顔はしない。
あなたが託してくれた“創造の意思”を、私が受け継ぐから」
遠くで朝日が昇る。
光はやさしく、どこまでも広がっていく。
⸻
アマギ本陣では、リィナとゼオルが戦況報告を受けていた。
「破壊の徒、完全に消滅。
南方地域の空間歪曲も収束しました」
報告官の声に、リィナは安堵の息をついた。
「……やっと終わった、か」
だがすぐに、彼女の表情が曇る。
「――で、蓮は?」
報告官が言葉を詰まらせる。
ゼオルが代わりに答えた。
「……彼の“肉体”は消えた。
だが、創造の反応は今もエリスの中にある。
つまり、“意識として融合した”のだろう」
リィナは拳を握り、目を伏せた。
「ったく……最後まで勝手なやつだよ、あいつは」
ゼオルは微かに笑った。
「いや……だからこそ、我らはここまで来られたのだ」
⸻
午後、エリスがアマギへ戻った。
街は再び活気を取り戻し、人々が彼女を出迎えた。
しかし、誰も声を上げない。
その姿に、誰もが“神々しさ”ではなく“人間としての尊厳”を感じていた。
リィナが前に出て、腕を組む。
「……おかえり、エリス。
いや、“新しい創造者”って呼んだほうがいいか?」
エリスは首を振った。
「違うわ。私はもう“ひとりの創造者”じゃない。
“私たち全員”が、この世界を創るの」
そう言って、彼女は手を掲げた。
掌から溢れる光が、街全体を包み込む。
それは蓮が残した“創造素(クリア・コード)”の進化形。
「創造連環(リンク・オブ・ハート)」。
人々の胸が淡く光り、互いの鼓動がひとつに重なる。
農夫の想い、職人の技、子どもの夢――
それらすべてが“ひとつの世界の力”へと変わっていく。
「これが……“光の継承”……!」
ゼオルが息を呑む。
「まさか、“意識”そのものを共有するだと……」
エリスは微笑んだ。
「ええ。蓮が教えてくれたの。
“創造は個ではなく、連なり”。
ひとりが夢見れば、千人が希望を持てる。
それこそが、人間の“神を超える力”なの」
リィナが口元を拭いながら、照れくさそうに笑う。
「……やっぱり、あんたらしいよ。
いつだって、世界を救うのに“説教”から入るんだから」
「ふふっ、リィナもね。
いつだって、文句を言いながら一番に動いてくれる」
「当然だろ。あたしは“現場の創造者”だからな」
二人の笑い声が、アマギの空へ溶けていった。
⸻
その夜。
街には静かな祝祭の灯りがともっていた。
歌と音楽が響き、子どもたちが手を取り合って踊る。
かつて“戦場”だったこの地は、いまや“創造の都”として輝いていた。
エリスは丘に立ち、空を見上げる。
満天の星の中に、ひときわ明るく輝く光――
それは蓮の残した“魂の星”だった。
「ねぇ、蓮。
この世界、あなたの思い描いた形になってる?」
風が優しく頬を撫でる。
まるで、彼の声が返ってきたようだった。
――『……ああ、ちゃんと見てる。
お前が笑ってるなら、それが“創造の正解”だ。』
エリスは涙を拭い、微笑む。
「ありがとう、蓮。
でも、私はまだここで“続き”を創る。
あなたが見届けてくれる限り、終わらせない」
星が流れた。
その光がアマギを照らし、人々の胸の光と共鳴する。
“創造連盟”は進化し、新しい形を迎えた。
個々の力が繋がり合い、
人類はついに“共有意識の文明”――**「創造時代(ジェネシス・エイジ)」**へと踏み出す。
⸻
翌朝。
リィナが丘に登り、エリスの隣に立った。
「なぁ……結局、あんたは何者になったんだ?」
エリスは少し考え、柔らかく笑う。
「そうね……“創造の光を継ぐ者”。
でも、肩書きなんてどうでもいい。
私はただ――この世界で生きる“人間”よ」
リィナは満足そうに頷く。
「そっか。じゃあ、これからも隣で働いてもらうぜ、女王様」
「ふふっ……“女王様”はやめて。
私たちは、同じ“創造者”なんだから」
二人の笑い声が、夜明けの風に溶けていく。
遠くの空で、金黒の星がまた一度瞬いた。
それは、今も彼女の胸の中で生き続ける“蓮”の魂が、
静かに世界を見守っている証だった。
そして、エリスの言葉が朝に響く。
「――創造は終わらない。
だって、私たちが“生きている”限り続いていくんだから」
太陽が昇る。
その光がアマギを包み、世界を照らした。
こうして、
“創造と破壊の時代”は終わり、
**新しい創世の時代(ジェネシス・エイジ)**が始まった。
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