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第27話
しおりを挟む第27話 創世の記録
――あれから、半年が経った。
アマギの街は、今や“世界の中心”と呼ばれるほどに発展していた。
街の上空には、想念で浮かぶ塔や橋が張り巡らされ、
夜になれば、創造素の光が星々と共鳴して輝く。
火や金属ではなく、人々の“想い”が文明を動かしていた。
それが、**創造時代(ジェネシス・エイジ)**の始まり。
エリスは白い机の前に座り、筆を取る。
窓の外には朝陽。
風が頬を撫で、紙の端が静かに揺れた。
「……これで、もう七冊目ね」
目の前には、金色の装丁で綴られた厚い本。
表紙にはこう刻まれている。
――『黎明録(れいめいろく)』――
創造連盟の記録、戦いの軌跡、そして蓮の遺志。
その全てを次代に残すため、エリス自身の手で書かれた“創世の記録”だった。
「私たちが歩いたこの道を、誰かが読んで笑える日が来たらいい……」
そう呟きながら、エリスは筆を進める。
⸻
外の庭園では、リィナが子どもたちの訓練を見ていた。
今の“教育”は、戦い方ではなく“創り方”を教えるものだ。
「いいか、想像ってのは遊びじゃない。
本気で願ったものだけが、形になるんだぞ!」
少年たちは笑いながら、掌に光の球を作ろうと集中する。
まだ小さくても、その瞳には確かな輝きがあった。
「ほら見ろ、あたしの時より筋がいい」
リィナは腕を組み、誇らしげに笑う。
そこへゼオルが歩み寄ってきた。
彼は今、アマギの“防衛顧問”として軍を監督している。
だが、戦ではなく“維持”のための守り。
破壊の徒が消えた後も、未知の脅威に備える必要はあった。
「子どもたちは順調のようだな」
「そりゃそうさ。教え方が上手いからな」
「……口の悪さも、成長していないようだ」
二人の軽口に笑いがこぼれる。
アマギには、ようやく“平穏”という言葉が似合うようになっていた。
⸻
その夜。
エリスは再び机に向かい、『黎明録』の最後の章を書いていた。
蝋燭の火が揺れ、窓の外では風が唸る。
彼女はペンを止め、ふと呟いた。
「……蓮。
あなたの光は、確かにこの世界に根づいたわ。
でもね――まだ、終わりじゃないの」
胸の奥で、かすかな鼓動が響く。
それは蓮の残した“共鳴の光”。
――『……終わりじゃない、か。
なら、まだ俺たちは進化できる。』
幻聴のように、声が聞こえた。
けれどそれは、確かに“彼”の声だった。
「ええ。あなたの世界は、今も進んでる」
筆を取る。
新しい章のタイトルを、彼女はゆっくりと書いた。
――“創造者を超える者たち”――
その文字を書いた瞬間、
机の上の“創造素”が淡く震えた。
エリスが顔を上げる。
窓の外、東の空に不穏な光。
黒と蒼の稲妻が、一瞬だけ夜空を走った。
「……今のは……まさか」
⸻
翌朝。
東方からの使者が、馬ではなく“光の路”を駆けてやって来た。
疲弊した顔で膝をつき、報告する。
「報告します! 東の大陸“ナーヴァ”にて――
“新たな創造者”が現れました!」
エリスの目が見開かれる。
「……創造者? 私たちの連盟の者ではなくて?」
「はい。
アマギの技術にも属さず、
“別の系統の創造”を操る存在――
人々の夢を“強制的に具現化”する力を持つとか……」
ゼオルが険しい表情で言う。
「強制具現……? それは“創造の秩序”に反する行為だ」
リィナが舌打ちした。
「せっかく平和になったと思ったのに、また厄介な奴が出てきたな」
エリスはしばらく黙っていたが、やがて静かに言った。
「――放っておけない。
“創造”が歪められれば、世界そのものが崩壊する。
調査隊を編成しましょう。私も行くわ」
「行く? お前自身が?」
リィナが驚く。
「ええ。今度の相手は、“創造そのもの”を操る存在。
創造連環の核を持つ私が行かなければ、話にならない」
ゼオルが頷く。
「分かった。俺も同行しよう。
だが、これは“交渉”で済む相手ではないかもしれんぞ」
「それでも構わないわ。
――創造を奪う者がいるなら、取り戻すだけ」
⸻
出立の前夜。
エリスはアマギの丘に立ち、星空を見上げた。
胸の奥で、また小さく光が瞬く。
「ねぇ、蓮……見てる?」
――『ああ。
お前が歩くなら、俺もその中で見てる。』
「……ありがとう。
あなたの光がある限り、私は迷わない」
夜空の彼方で、金黒の星がまた一度だけ輝いた。
その光はまるで、新しい時代の扉が開かれる合図のようだった。
エリスは振り返り、微笑んで言う。
「次の章を――創ろう」
そして彼女は、再び世界の果てへと歩き出した。
“創造の記録”はまだ、終わらない。
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