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第37話
しおりを挟む第37話 共鳴する世界
――世界は今、音を奏でていた。
それは風の音でも、機械の唸りでもない。
人々の想いそのものが、
都市の空気を震わせる“共鳴”として響いていた。
アマギ市――創造連盟本部がある街は、
光と夢の境界を失った。
建物は人々の感情に応じて色を変え、
道路は人の流れに合わせて形を変化させる。
まるで、街そのものが生きているようだった。
「……これが、“共鳴圏(レゾナンス・フィールド)”」
エリスは高層の展望台から街を見下ろし、
静かに息を吸った。
夢と現実の融合によって、
すべての人間が“創造素”へ微弱に接続できるようになった。
結果、世界の構造は――人々の心で形を決めるようになったのだ。
「みんなが、世界を一緒に描いてる……」
彼女の隣で、リィナが腕を組む。
「便利っちゃ便利だけどな。
怒ってるやつが多いと、道が震えて危ねぇんだよ」
エリスは苦笑した。
「感情の制御も、“教育”の一部になったのね」
ゼオルが背後から歩み寄る。
「だが、この“共鳴”こそが人類の進化だ。
かつて神々が一人で創った世界を、
今は皆が“共に奏でている”。」
⸻
だが、その進化の裏で、
新たな“揺らぎ”が生まれていた。
街の中心部――“夢層都市リムナ”。
そこでは時折、建物の形が崩壊しては再構築される。
まるで、何かが“意図的に干渉”しているように。
「共鳴ノイズ、上昇中!」
技師の叫びが通信に響いた。
「誰かが、感情を制御できずに暴走してる!?」
リィナがモニターを覗き込み、目を見開く。
映し出された映像には、
一人の少年がいた。
目は真紅に光り、周囲の空気を歪ませている。
「……創造適性指数、300%超え……? ありえない!」
ゼオルが唸る。
「“共鳴暴走”だ。
創造素に同調しすぎた者の、意識の崩壊……!」
エリスは即座に通信を繋ぐ。
「彼の名前を!」
「……レオン・ナツメ。
15歳、想界接続実験の被験者候補――!」
エリスの胸に痛みが走る。
まだ少年だ。
それなのに、世界の進化に巻き込まれている。
⸻
リムナ中心区。
街が震え、空間が歪んでいた。
人々の“恐怖”が形を持ち、
影のような獣が生まれていく。
エリスが到着すると、
その中心に立つ少年――レオンが振り向いた。
「来るな! 僕に近づくと、全部壊れる!」
彼の体から黒い光があふれる。
それは“負の共鳴”――怒りや悲しみが具現化したエネルギー。
エリスはゆっくりと手を伸ばす。
「壊れないわ、レオン。
あなたが生きてる限り、世界はあなたを受け止める。」
「嘘だ! 僕の想いなんて、誰も受け止められない!」
少年が叫ぶと同時に、
影が街を覆った。
人々の“恐怖”が共鳴し、ビルの壁が生物のように蠢く。
だが、エリスは怯まなかった。
彼女の背から金と黒の翼が広がる。
「――“共鳴抑制陣”起動。」
彼女の掌から光の輪が放たれ、
周囲の空気が静まり返る。
レオンの暴走する感情が、
少しずつ吸収されていく。
「感じて。
あなたの“恐怖”は、ひとりのものじゃない。
誰かが悲しい時、誰かが支える。
それが“共鳴の世界”よ。」
レオンの瞳から涙が零れる。
「……僕、怖かったんだ。
夢が現実になるなんて、どう生きていいかわからなくて……」
「怖くていいの。
それを感じられるのが、“生きてる”証よ。」
光が彼を包み、影が消える。
リムナの空に、再び穏やかな風が流れた。
⸻
暴走が収まったあと。
リィナが呆れたように笑う。
「お前、また無茶したな……」
「無茶じゃないわ。
あれが、“共鳴”の本質だから。」
エリスは空を見上げる。
そこには、淡く揺らめく虹色の光輪――“共鳴星”が浮かんでいた。
「共鳴は、力じゃない。
“他者と生きる覚悟”なの。」
ゼオルが頷く。
「だが同時に、危険でもある。
心が乱れれば、世界も壊れる。
この時代は、希望と恐怖の両輪だ。」
「だからこそ、私たちがいるのよ。」
エリスの瞳が輝く。
「創造は止まらない。
でも、暴走させない。
人の想いを“共鳴の調和”へ導くのが、これからの使命。」
⸻
その夜、エリスは静かに空を見上げた。
星々が音を奏でるように瞬き、
想界と現実の境界が、穏やかに溶け合っていた。
だが、その奥底で――
微かな“ひずみ”が、再び生まれつつあった。
それは“共鳴の底”に眠る、未知の意識。
まだ誰も知らない、“第六階層”の胎動。
エリスはそれを感じ取り、
小さく呟いた。
「……まだ、続きがあるのね。」
風が彼女の髪を撫でる。
新しい時代の夜明けは、もうすぐそこにあった。
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