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第41話
しおりを挟む第41話 創造者たちの祈り
――世界が、呼吸をしていた。
光に包まれていた現夢の空は、
いま、穏やかな青を取り戻していた。
鳥の鳴き声が響き、人々の声が重なる。
創造が止まり、“時間”が再び流れ始めたのだ。
アマギの丘からそれを見下ろしながら、
エリスは静かに目を閉じた。
「……終わりじゃない。
“始まりを取り戻した”だけ。」
風が頬を撫でる。
空には、昨日まで存在しなかった新しい星が瞬いていた。
それは、彼女が再定義した“有限創造”――
創造と死が共に存在する世界の象徴だった。
⸻
アマギ中央塔。
連盟の議場には、創造者たちが集まっていた。
リィナ、ゼオル、そして新たに生まれた感創者(エモシオン)たち。
エリスが立ち上がり、静かに言葉を放つ。
「――“共鳴条約”を制定します。
創造は自由。けれど、同時に責任を持たなければならない。
生きることと、創ることは同じ意味を持つから。」
ざわめきが起こる。
リィナが手を挙げる。
「つまり、勝手に創っちゃいけないってことか?」
「そう。
今の世界では、想いがすぐ形になる。
だからこそ、怒りひとつが災害に、憎しみが怪物に変わる。
でも――誰かの祈りが、命を救うこともある。」
ゼオルが頷く。
「“創造=祈り”として扱う……か。
なるほど、創造そのものを倫理に変えるわけだな。」
エリスは微笑む。
「創造は、神の力じゃない。
――“生きる人の祈り”なのよ。」
⸻
その数日後。
新たな時代の礎「共鳴条約」が公布された。
条約の第一条はこう記されている。
『創造は、生の延長であり、死の代替ではない。
終わりを恐れず、続くことを選ぶすべての者へ――。』
人々はそれを“祈りの誓い”と呼んだ。
誰もが、自らの感情に耳を傾け、
心から“創りたい”ものだけを形にするようになった。
戦いのない日々が流れ、
街の中には“想いの花”と呼ばれる光の樹が咲き誇る。
それは、誰かが静かに祈った瞬間にだけ現れる美しい現象だった。
⸻
夜。
丘の上で、エリスはひとり空を見上げていた。
隣にリィナが腰を下ろす。
「……なぁ、もう戦いは終わったんだよな?」
「うん。でも、“創造”は終わらない。
だからこそ、私たちは“守る者”であり続けなきゃいけない。」
「お前、ほんと真面目だな」
リィナが笑う。
エリスも微笑んだ。
「あなたがいるから、私も前を向けるのよ。」
リィナが少し照れたように頬を掻く。
「……そのセリフ、前にも蓮に言ってなかったか?」
「ふふ、似たようなことは言ったかもね。」
エリスの瞳が、遠くの星を見つめた。
あの光の中に、今も蓮の記憶が息づいている気がした。
――『創造は続いていい。意味を持って続けろ。』
その声が、確かに胸の奥で響く。
⸻
翌朝。
新しい命が生まれたとの報が届いた。
“共鳴条約”が発布されて以来、初めての子ども。
その誕生は、人類が“自然な創造”を取り戻した証だった。
リィナが笑う。
「名前、なんてつけたんだ?」
「“ハル”。春のハルだって。」
エリスは空を見上げる。
夜を越えた光が、ゆっくりと世界を包む。
「……ようやく、本当の“始まり”ね。」
⸻
その日、エリスは創造塔の頂で
静かに祈りを捧げた。
蓮へ。
ナミアへ。
そして、この世界を創り続けるすべての命へ。
「終わらせないために――
私は、祈り続ける。」
風が吹く。
花が舞う。
そして、空の星がひとつ瞬いた。
それは、創造者たちの祈りが確かに届いた証だった。
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