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第42話
しおりを挟む第42話 祈りの果て
――あれから、五年が経った。
“共鳴条約”のもと、
世界は静かに、そして穏やかに進化を続けていた。
創造は祈りとなり、祈りは文化となった。
アマギ市では、子どもたちが毎朝、
空に向かって「今日も創れるように」と手を合わせる。
それが、日常の一部になっていた。
創造は制御され、調和を保っていた――
はずだった。
だが、その裏で、“異変”が始まっていた。
⸻
ある夜。
アマギの南端、廃棄区画のひとつ。
静寂を破るように、空間がねじれた。
その中心で、黒い光が立ち上がる。
「……我々は祈りを捨てる。」
声が響く。
十数人の人影が、黒い外套をまとって立っていた。
彼らの額には、かつての“創造紋章”が逆転した形で刻まれている。
「“有限”など偽りだ。
終わりを受け入れるなど、創造者の敗北にすぎない。」
黒衣の中央に立つ男が言った。
その名は――アシュレイ・カイト。
かつて創造連盟の高位研究員だった男。
だが、“無限創造”を否定したエリスに異を唱え、姿を消した人物。
「我々“無限派(インフィニスト)”は、祈りを拒絶する。
神でも人でもない、“永遠の存在”を取り戻すのだ。」
その瞬間、男の掌から光が生まれる。
それはかつてナミアが使った、“無感の創造素”。
黒く澄んだその光は、風景を静止させた。
⸻
翌朝。
アマギ中央塔の警報が鳴り響いた。
「北東区で“無限波”を確認!
建造物が時間停止領域に包まれています!」
リィナが叫ぶ。
「またナミアの残滓か!?」
ゼオルが首を振る。
「違う。これは……人為的な波形だ。
“無限派”が、ナミアのデータを再現している!」
エリスが立ち上がる。
「……アシュレイね。」
リィナが眉をひそめる。
「まさか、生きてたのか?」
「彼は“無限創造”の研究主任だった。
止めたはずのシステムを、自分の中に埋め込んで逃げたのよ。」
⸻
その日の夕暮れ。
エリスは“祈りの庭”と呼ばれる場所を訪れていた。
そこは、世界中の創造者が祈りを捧げる静寂の地。
空には“創造星”が輝き、
無数の祈りの光が花のように舞っていた。
「……祈りは、弱さなの?」
彼女の背後で、
懐かしい声がした。
「弱さだ。だが、それは“人間の証”でもある。」
ゼオルがゆっくりと歩み寄る。
「アシュレイは、強さを求めた。
永遠を望んだ者ほど、“有限”を恐れる。
だからこそ、お前の“祈り”が必要なんだ。」
「……でも、彼らは祈りを憎んでる。
“有限”を拒む者たちに、祈りは届くのかしら。」
ゼオルは小さく笑う。
「祈りは届かなくても、残る。
それが“祈りの果て”だ。」
エリスは静かに目を閉じた。
その言葉が、胸に染み渡っていく。
⸻
夜。
“無限派”の黒い光が、アマギの一角を覆った。
人々の時間が止まり、建物が沈黙する。
そこに、エリスが降り立った。
「アシュレイ!」
黒衣の男が、ゆっくりと振り向く。
その瞳は、ナミアを思わせるほど冷たかった。
「……やはり来たか、エリス。
君こそが“有限”の象徴だ。
だが、祈りは滅びる。
なぜなら、人は“終わり”を本気で受け入れられない。」
「終わりを恐れるのは、当たり前よ。
でも、恐れても前に進める。
それが“人間”なの。」
アシュレイは笑った。
「それを“矛盾”と呼ぶ。
矛盾はいつか世界を壊す。
だから私は、矛盾を消し、“静止した楽園”を創る。」
彼の手が光を放つ。
黒い波が世界を覆い、空の星々が一瞬消える。
エリスは両腕を広げ、祈るように呟いた。
「なら、私は“祈り”で抗う。」
彼女の胸が輝く。
金と桃色の光が混ざり合い、
空を割るように広がった。
⸻
静止した世界に、ひとつの音が戻る。
――心臓の鼓動。
エリスの“祈り”が、人々の胸に届いた。
止まっていた時間が再び流れ、
光が黒い闇を押し戻していく。
「見える? アシュレイ。
これが“祈りの力”。
永遠よりも、たった一瞬の“想い”の方が強いの!」
アシュレイが呻く。
「……祈りなど、儚い幻想だ!」
「幻想でいい。
でも、人はその幻想の中で――“生きたい”って願うのよ!」
光が爆発する。
黒い波が消え、空に再び星が戻った。
⸻
翌朝。
アマギの街に、祈りの鐘が響いた。
倒れていたアシュレイは姿を消し、
ただ黒い紋章だけが残されていた。
リィナが息を吐く。
「……あの男、まだ終わってねぇな。」
エリスは静かに頷く。
「ええ。でも、彼の“祈り”も、きっとどこかに残ってる。
誰もが、どんな形でも“救われたい”と思っているから。」
空を見上げる。
そこには、ゆっくりと昇る朝陽と――
ひときわ強く輝く“創造星”。
それは、祈りの果てに残った“希望”の光だった。
「……祈りは、終わらない。」
エリスの言葉が、世界に静かに染み渡った。
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