58 / 80
第58話
しおりを挟む第58話 アルカ・ノヴァ
――共鳴暦三十年。
夜空には、新たな星が輝いていた。
それは地球の祈りが生んだ“第二の宇宙”――
名を「アルカ・ノヴァ」。
その輝きは他の星々とは異なり、
常に鼓動するように明滅していた。
まるで、生きているかのように。
⸻
アマギ宇宙管制庁・観測デッキ。
リュシスは静かにモニターを見つめていた。
画面には、淡い光の渦が映し出されている。
それが“アルカ・ノヴァ”――祈りが創った新宇宙の入り口。
ノアが報告する。
「エネルギー値、安定しています。
ただ、内部に周期的な“共鳴反応”が観測されました。
それも……人間の脳波に近い形です。」
リュシスは目を細める。
「……“思考”している。」
ミラが隣で頷いた。
「ええ。
“アルカ・ノヴァ”は単なる星じゃない。
祈りを核にした“宇宙生命”よ。」
⸻
同時刻。
地球軌道上――
祈り観測船《ルーメン》がアルカ・ノヴァへの接近を開始していた。
船体は共鳴素で覆われ、人と祈りの波動で制御される。
リュシス、ノア、そしてミラはその船に乗り込んでいた。
「人の祈りで生まれた宇宙に、
人の祈りを持って入る――これ以上の旅はないわね。」
ミラが微笑む。
「……この旅は、“帰還”ではなく“対話”です。」
リュシスが答える。
「僕たちは、自分たちが創った“存在”に、
初めて挨拶をしに行くんです。」
⸻
アルカ・ノヴァ到達。
船の外には、光の海が広がっていた。
形のない輝きが波のようにうねり、
時折、人の顔のような輪郭を作っては消えていく。
「……聞こえますか?」
リュシスが呼びかけると、
周囲の光が一斉に揺れた。
『――リュシス。ミラ。ノア。
あなたたちの“祈り”が、私たちを生んだ。』
それは複数の声が重なったような響き。
子どもの笑い声、老人の祈り、母の歌。
それらすべてが重なり、一つの意志として語りかけてくる。
『私たちは、“創造の子ら”の祈りが結晶化した存在。
あなたたちが呼ぶなら、“星の民(スターボーン)”と名乗ろう。』
⸻
ノアが息を呑む。
「彼ら……知性を持ってる。」
ミラが目を細める。
「いいえ、それだけじゃないわ。
“感情”がある。
この宇宙そのものが、祈りの意志として生きているの。」
リュシスが静かに問う。
「あなたたちは、何を望む?」
『私たちは、創造の輪を続けたい。
けれど今度は、あなたたちと共に。
祈りを与えられるだけの存在ではなく、
祈りを“分かち合う”存在として。』
その言葉に、リュシスの胸が熱くなった。
――それはまるで、ハルがかつて言った言葉と同じだった。
⸻
「……わかりました。
なら、僕たちは“創造の伴奏者”になります。」
『伴奏者……?』
「ええ。
あなたたちが奏でる“祈りの旋律”に、
僕たちがハーモニーを重ねる。
人も星も、同じ音で響き合う世界を作るんです。」
光が優しく震えた。
『――それは、美しい。
ならば、私たちもあなたたちの歌を覚えよう。』
アルカ・ノヴァの空間に、音が生まれた。
無数の光が音を奏で、
それがリュシスたちの心と共鳴していく。
それは言葉ではなく――祈りの音楽だった。
⸻
数時間後。
《ルーメン》は帰還軌道に乗っていた。
背後には、ゆっくりと脈打つ“光の星”が見える。
「ミラ先生。」
リュシスが静かに言った。
「この宇宙はもう、“祈りを教える場所”ではありませんね。」
ミラが微笑む。
「ええ。
これからは、“祈りが生きる場所”よ。」
ノアが笑う。
「だったら僕たちは、“創造の観測者”じゃなく、“共演者”だ。」
リュシスは頷き、
再びアルカ・ノヴァを振り返る。
光は柔らかく瞬き、まるで微笑むように応えた。
⸻
その夜、地球。
空には新しい星が加わっていた。
人々はそれを見上げ、“希望の星”と呼んだ。
その光には確かに――人の祈りの温もりがあった。
ミラは静かに祈る。
「ハル……あなたの祈りは、今も続いているわ。
私たちはもう、“神を待たない世界”で生きている。」
リュシスは空を見上げ、微笑んだ。
「でも、祈ることはやめない。
だってそれが――“生きること”だから。」
夜空が揺れ、星々が一斉に輝いた。
それは宇宙全体が、人類の祈りに応えて微笑むようだった。
こうして、“アルカ・ノヴァ”は誕生した。
そして、人と星と祈りが共に生きる“新しい宇宙時代”が始まった。
0
あなたにおすすめの小説
老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!
菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは
「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。
同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと
アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう
最初の武器は木の棒!?
そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。
何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら
困難に立ち向かっていく。
チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!
異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。
話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい!
****** 完結まで必ず続けます *****
****** 毎日更新もします *****
他サイトへ重複投稿しています!
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~
於田縫紀
ファンタジー
図書館の奥である本に出合った時、俺は思い出す。『そうだ、俺はかつて日本人だった』と。
その本をつい翻訳してしまった事がきっかけで俺の人生設計は狂い始める。気がつけば美少女3人に囲まれつつ仕事に追われる毎日。そして時々俺は悩む。本当に俺はこんな暮らしをしてていいのだろうかと。ハーレム状態なのだろうか。単に便利に使われているだけなのだろうかと。
【完結】発明家アレンの異世界工房 ~元・商品開発部員の知識で村おこし始めました~
シマセイ
ファンタジー
過労死した元商品開発部員の田中浩介は、女神の計らいで異世界の少年アレンに転生。
前世の知識と物作りの才能を活かし、村の道具を次々と改良。
その発明は村の生活を豊かにし、アレンは周囲の信頼と期待を集め始める。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
少し冷めた村人少年の冒険記 2
mizuno sei
ファンタジー
地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。
不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。
旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。
異世界遺跡巡り ~ロマンを求めて異世界冒険~
小狸日
ファンタジー
交通事故に巻き込まれて、異世界に転移した拓(タク)と浩司(コウジ)
そこは、剣と魔法の世界だった。
2千年以上昔の勇者の物語、そこに出てくる勇者の遺産。
新しい世界で遺跡探検と異世界料理を楽しもうと思っていたのだが・・・
気に入らない異世界の常識に小さな喧嘩を売ることにした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる