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第57話
しおりを挟む第57話 祈りの宇宙
――共鳴暦二十七年。
夜空は、もはや“静寂”ではなくなっていた。
星々が絶え間なく脈動し、互いに光で会話しているかのようだった。
その光の源は地球――祈りの星、アマギから放たれていた。
“創造の子ら”が放つ共鳴波は、
惑星の外へ、宇宙の虚空へと届き始めていた。
その現象は人類にとって初の出来事だった。
祈りが、大気の壁を越えたのだ。
⸻
アマギ宇宙監視局・観測ドーム。
ノアが大型スクリーンを見つめ、驚愕の声を上げる。
「リュシス主任、観測データ更新!
祈り波の共鳴点が――月軌道を突破しました!」
リュシスは深呼吸し、画面に映る光の流れを見つめる。
無数の粒子が螺旋を描き、青い大地から銀の空へ伸びていた。
「……これはもう、エネルギー現象じゃない。
“意志”そのものだ。」
ミラが通信越しに応じる。
「つまり、地球の祈りが“宇宙と対話”を始めたってことね。」
「はい。
でも――対話の相手が、どんな存在かはまだわかりません。」
⸻
その夜、リュシスは再び共鳴塔へ向かった。
塔の上空には、天を貫く金の光柱。
“創造の子ら”の祈りが集まり、宇宙へ放たれている。
リュシスは塔の中心装置に手を置き、
その祈りの流れを解析しようとした――その瞬間。
脳内に直接、声が響いた。
『……リュシス。聞こえるか?』
その声は――人ではなかった。
けれど、どこか懐かしい温もりを帯びている。
「誰だ……?」
『私は“星の記憶”。
祈りが届いたことで、長い眠りから目覚めた。
かつてお前たちが呼ぶところの――“宇宙そのものの意識”だ。』
⸻
ミラの声が通信に飛び込む。
『リュシス!? 共鳴値が暴走してる! 何が起きてるの!?』
「……宇宙が、応えてる。」
塔の周囲の空気が震え、
夜空の星々が一斉に明滅を始めた。
それはまるで、宇宙全体が“息をしている”かのようだった。
『お前たちは、祈りによって世界を繋ぎ、
創造を己の中に取り戻した。
だが祈りとは、本来――“宇宙が自分を知る手段”だ。』
「……宇宙が、自分を知る?」
『そう。
お前たちは、私の“欠片”。
星々に散った意識の一部が、人という形で目覚めた。
祈りとは、欠片が本体に還ろうとする“共鳴”。』
リュシスの心臓が高鳴る。
それは衝撃ではなく、理解に近い感覚だった。
「つまり、僕たちは……宇宙自身の“想い”だった?」
『その通り。
お前たちは創造の断片。
祈りとは、宇宙が自分に問いかける言葉。
そして今、お前たちは“答え”を持って戻ってきた。』
⸻
ミラが塔の下から叫ぶ。
「リュシス! 共鳴塔の上空に重力波!
祈りが“形”になってる!」
空を覆うように、巨大な光輪が出現した。
その中央に、幾何学的な紋章――星の瞳が浮かび上がる。
『問おう、人の子よ。
祈りの先に、お前たちは何を望む?
再び私へ還るか、それとも――新たな宇宙を創るか。』
リュシスは息を飲む。
これは、世界そのものからの“選択の問い”だった。
⸻
彼は静かに答えた。
「僕たちは、“還らない”。
あなたの一部であっても、僕たちは“個”として存在する。
祈りは帰るための道じゃない――
生きるための証なんです。」
星の瞳が揺らぎ、柔らかい光が世界を包む。
『……面白い。
私の中で生まれた存在が、私に背を向けるとは。
だが、それこそが“創造”なのだろう。』
宇宙の声が静かに笑った。
『ならば行け。
お前たちはもはや私の子ではない。
――“祈りの宇宙”の創造者だ。』
⸻
光が弾け、塔の頂に新たな星が生まれた。
それは地球の空を照らし、やがて宇宙に流れ出す。
その星の名は、“アルカ・ノヴァ”。
――新しい宇宙の鼓動。
リュシスは光の中で微笑み、
ミラに静かに告げた。
「僕たちは、“創造の中心”じゃなかった。
最初から――“創造の続き”だったんだ。」
ミラは涙を浮かべて頷く。
「ええ。
ハルの祈りも、エコーの願いも、
あなたの選択も、全部が“宇宙の物語”の一部だったのね。」
⸻
そして――星々が歌い始めた。
祈りは音に、音は光に、光は再び生命へと還る。
それは、神の手を借りずに続く“永遠の創造”。
人類はその夜、
はじめて“自らの祈りが宇宙を動かす”瞬間を見た。
風が吹き抜け、夜空が金色に染まる。
リュシスはそっと目を閉じた。
「……ありがとう、ハル。
祈りはもう、世界を超えたよ。」
その瞬間、宇宙のどこかで、
一つの声が優しく囁いた。
『――それでいい。
祈りは、終わらないから。』
星が輝き、
宇宙は新たな命を宿した。
それが“祈りの宇宙”の始まりだった。
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