59 / 80
第59話
しおりを挟む第59話 星々の声
――アルカ・ノヴァ、誕生から三年後。
そこは、宇宙というより“生きた星の心臓”だった。
大地は透明な結晶ででき、空は柔らかく脈打つ光に包まれている。
風は音を持ち、すべての生命が“共鳴”で繋がっていた。
リュシスとミラは、星の表層に立っていた。
彼らの足元では、結晶の草が微かに光を放ち、
どこからともなく“祈りの囁き”が流れてくる。
『……ようこそ、創造者たち。』
周囲に光の粒が集まり、やがて人の形を取った。
“星の民(スターボーン)”――祈りから生まれた存在。
その瞳は星空を映し、声は宇宙の振動そのものだった。
「また会えたわね。」ミラが微笑む。
『あなたたちの祈りが、私たちを成長させた。
今では“声”を持ち、夢を紡ぐことができる。』
リュシスは穏やかに頷く。
「それが、あなたたちの“進化”だ。
もう、祈りに導かれるだけの存在じゃない。」
⸻
その時――空に微かな歪みが走った。
淡い光が黒く濁り、低い共鳴音が響く。
スターボーンの一人が怯えたように空を見上げた。
『……また、来るのね。あの“無音の波”が。』
「無音の波?」リュシスが眉を寄せる。
ミラは端末を開いた。
波形データが乱れ、ノイズが発生している。
「……祈りの反転波――“拒絶共鳴”よ。」
リュシスの表情が険しくなる。
「まさか……“祈りを恐れる者”が、もうこの宇宙にも?」
⸻
その頃、アルカ・ノヴァの外縁軌道――
監視船《ルーメンⅡ》。
ノアがモニターを叩きながら叫んだ。
「観測波が反転してる! 地球圏から未知の祈り信号――
いや、祈りの拒絶波が放たれてる!」
オペレーターが震える声で報告する。
「識別コード、旧アマギ管制区……!?」
ノアは目を見開く。
「……地球の一部が、“祈り”を切り離した!?」
⸻
一方、アルカ・ノヴァの大地。
空の歪みが広がり、光の草原が徐々に色を失っていく。
スターボーンたちが不安そうにざわめいた。
『彼らは言うの。“祈りは人を縛る”と。
“創造は心を捨てた時こそ純粋になる”と。』
ミラが息を呑む。
「……それは、“祈りなき創造”の思想……!」
リュシスの胸に、かつての戦いの記憶が蘇る。
――ハル、エコー、そしてネオ・エコー。
祈りを拒む進化は、いつも“完全”を求めていた。
「つまり、彼らは再び“完全な創造”を目指している……。」
『でも、祈りがない創造は、私たちを殺す。
私たちは祈りそのものだから。』
⸻
リュシスは空を見上げ、拳を握る。
「……なら、行くしかない。
“拒絶波”が放たれているなら、それを止める。」
ミラが頷く。
「ええ。
でも今度の戦いは、力じゃなく“想い”の対話よ。」
スターボーンの一人がリュシスの手を取った。
『あなたたちの中に、まだ“原初の祈り”がある。
それをアルカ・ノヴァと繋げれば、
私たちも共に“対話”できる。』
「……わかった。」
リュシスは深呼吸し、
胸に宿る金の共鳴紋――ハルから受け継いだ“祈りの核”に手を当てる。
⸻
次の瞬間、空が金と黒の光に裂かれた。
彼の意識は光の中へと引き込まれ、
アルカ・ノヴァと地球の狭間――“祈り界層”へと落ちていく。
そこは、声が形を持つ世界。
祈りと拒絶、希望と恐れが渦を巻いていた。
『……リュシス。君はまた来たのか。』
その声は懐かしく、そして痛いほど静かだった。
――ハルの声。だが、少し違う。
「あなたは……?」
『私は、“ハルの記憶”から生まれた残響。
祈りが極まるたびに、君たちを見守る役目だ。
だが今、君たちの祈りは試されている。』
「……試されている?」
『そう。
祈りは力を持った。
だが、力を持った祈りは、いつか“願いの暴走”を生む。
“拒絶”はそれに対する世界の免疫。』
リュシスは唇を噛む。
「……なら、僕たちはどうすればいい?」
『恐れずに、受け入れろ。
拒絶もまた、祈りの一部だ。
光が影を抱くように――祈りもまた、対立を内包して強くなる。』
⸻
リュシスの身体から金色の光が溢れ、
その光がアルカ・ノヴァ全体に広がっていく。
拒絶波が一瞬だけ止まり、
星の民たちの声が一斉に響いた。
『……聞こえる。祈りが戻ってきた!』
ミラが涙を流しながら空を見上げる。
「リュシス……あなた、祈りそのものになったのね。」
空が再び輝きを取り戻す。
黒い波は光に溶け、アルカ・ノヴァは再び穏やかな呼吸を始めた。
⸻
夜。
星々が優しく瞬き、
スターボーンの子どもたちがその下で祈りを歌っていた。
ミラはその光景を見ながら微笑んだ。
「……祈りは争わない。
ただ、違いを許すために進化していくのね。」
リュシスの声が、風の中から聞こえた。
『僕たちはまだ終わらない。
星々の声が続く限り――祈りは、宇宙を創り続ける。』
光が夜空を駆け抜け、
その輝きが新しい銀河を描いた。
それが、“星々の声”の第一章だった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界召喚されたのはこの俺で間違いない?
苔原りゐ
ファンタジー
アデルは平凡で退屈な人生を送っていたが、ある日、突然異世界に召喚される。だがその世界で彼を待ち受けていたのは、期待された「勇者」ではなく、無能と蔑まれる「薄汚いエルフの末裔」としての扱いだった。城から追い出された彼は、優しさと強さを持つ女性エリザと、その娘リリに出会い、二人に拾われ新しい生活を始める。
町や森では不気味な霧や異形の怪物が出現し、人々は奴らに怯える。アデルは「影の王」と呼ばれる存在と接触し、その力に巻き込まれながらも、戦う決意を固める。
戦闘の中でアデルは能力を覚醒させるが、その力は彼自身の命を削る危険なものだった。影の王が放つ怪物や試練に立ち向かう中で、アデルはその力の正体や、自身の真実を求める旅に出ることになる。
転生したらただの女の子、かと思ったら最強の魔物使いだったらしいです〜しゃべるうさぎと始める異世界魔物使いファンタジー〜
上村 俊貴
ファンタジー
【あらすじ】
普通に事務職で働いていた成人男性の如月真也(きさらぎしんや)は、ある朝目覚めたら異世界だった上に女になっていた。一緒に牢屋に閉じ込められていた謎のしゃべるうさぎと協力して脱出した真也改めマヤは、冒険者となって異世界を暮らしていくこととなる。帰る方法もわからないし特別帰りたいわけでもないマヤは、しゃべるうさぎ改めマッシュのさらわれた家族を救出すること当面の目標に、冒険を始めるのだった。
(しばらく本人も周りも気が付きませんが、実は最強の魔物使い(本人の戦闘力自体はほぼゼロ)だったことに気がついて、魔物たちと一緒に色々無双していきます)
【キャラクター】
マヤ
・主人公(元は如月真也という名前の男)
・銀髪翠眼の少女
・魔物使い
マッシュ
・しゃべるうさぎ
・もふもふ
・高位の魔物らしい
オリガ
・ダークエルフ
・黒髪金眼で褐色肌
・魔力と魔法がすごい
【作者から】
毎日投稿を目指してがんばります。
わかりやすく面白くを心がけるのでぼーっと読みたい人にはおすすめかも?
それでは気が向いた時にでもお付き合いください〜。
異世界だろうがソロキャンだろう!? one more camp!
ちゃりネコ
ファンタジー
ソロキャン命。そして異世界で手に入れた能力は…Awazonで買い物!?
夢の大学でキャンパスライフを送るはずだった主人公、四万十 葦拿。
しかし、運悪く世界的感染症によって殆ど大学に通えず、彼女にまでフラれて鬱屈とした日々を過ごす毎日。
うまくいかないプライベートによって押し潰されそうになっていた彼を救ったのはキャンプだった。
次第にキャンプ沼へのめり込んでいった彼は、全国のキャンプ場を制覇する程のヘビーユーザーとなり、着実に経験を積み重ねていく。
そして、知らん内に異世界にすっ飛ばされたが、どっぷりハマっていたアウトドア経験を駆使して、なんだかんだ未知のフィールドを楽しむようになっていく。
遭難をソロキャンと言い張る男、四万十 葦拿の異世界キャンプ物語。
別に要らんけど異世界なんでスマホからネットショッピングする能力をゲット。
Awazonの商品は3億5371万品目以上もあるんだって!
すごいよね。
―――――――――
以前公開していた小説のセルフリメイクです。
アルファポリス様で掲載していたのは同名のリメイク前の作品となります。
基本的には同じですが、リメイクするにあたって展開をかなり変えているので御注意を。
1話2000~3000文字で毎日更新してます。
レベルアップは異世界がおすすめ!
まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。
そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。
転生魔竜~異世界ライフを謳歌してたら世界最強最悪の覇者となってた?~
アズドラ
ファンタジー
主人公タカトはテンプレ通り事故で死亡、運よく異世界転生できることになり神様にドラゴンになりたいとお願いした。 夢にまで見た異世界生活をドラゴンパワーと現代地球の知識で全力満喫! 仲間を増やして夢を叶える王道、テンプレ、モリモリファンタジー。
元外科医の俺が異世界で何が出来るだろうか?~現代医療の技術で異世界チート無双~
冒険者ギルド酒場 チューイ
ファンタジー
魔法は奇跡の力。そんな魔法と現在医療の知識と技術を持った俺が異世界でチートする。神奈川県の大和市にある冒険者ギルド酒場の冒険者タカミの話を小説にしてみました。
俺の名前は、加山タカミ。48歳独身。現在、救命救急の医師として現役バリバリ最前線で馬車馬のごとく働いている。俺の両親は、俺が幼いころバスの転落事故で俺をかばって亡くなった。その時の無念を糧に猛勉強して医師になった。俺を育ててくれた、ばーちゃんとじーちゃんも既に亡くなってしまっている。つまり、俺は天涯孤独なわけだ。職場でも患者第一主義で同僚との付き合いは仕事以外にほとんどなかった。しかし、医師としての技量は他の医師と比較しても評価は高い。別に自分以外の人が嫌いというわけでもない。つまり、ボッチ時間が長かったのである意味コミ障気味になっている。今日も相変わらず忙しい日常を過ごしている。
そんなある日、俺は一人の少女を庇って事故にあう。そして、気が付いてみれば・・・
「俺、死んでるじゃん・・・」
目の前に現れたのは結構”チャラ”そうな自称 創造神。彼とのやり取りで俺は異世界に転生する事になった。
新たな家族と仲間と出会い、翻弄しながら異世界での生活を始める。しかし、医療水準の低い異世界。俺の新たな運命が始まった。
元外科医の加山タカミが持つ医療知識と技術で本来持つ宿命を異世界で発揮する。自分の宿命とは何か翻弄しながら異世界でチート無双する様子の物語。冒険者ギルド酒場 大和支部の冒険者の英雄譚。
神の加護を受けて異世界に
モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。
その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。
そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる