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第62話
しおりを挟む第62話 星創(せいそう)の子供たち
――アルカ・ノヴァ、誕生から十年後。
この星は、すでに“祈りの星”ではなかった。
風は歌わずとも心を通わせ、
花は祈らずとも咲き、
命は願わずとも生まれていた。
それは、祈りが「存在の仕組み」から「自然の法則」に変わった世界。
その中心に、かつて“未来の花”が咲いていた大地――
今、そこには新しい子供たちが生きていた。
⸻
彼らは、星の光を宿した瞳を持っていた。
人のような姿をしているが、どこか儚い。
皮膚は淡い透明色で、光を通すたびに模様が変化する。
ミラが静かに観察記録を残していた。
「……驚いたわね。
彼ら、成長しているのに“祈りの反応”がまったくない。」
ノアが頷く。
「そう。共鳴値ゼロ。
でも生命エネルギーは圧倒的に高い。
つまり――“祈らずに創造している”。」
リュシスは草原に座り、彼らの一人に話しかけていた。
少年のような姿の“星創の子”は、首を傾げて微笑む。
「ねぇ、リュシス。
“祈る”って、どんなこと?」
その問いに、彼は少しだけ言葉を詰まらせた。
⸻
「祈りは……そうだな。
自分の外にある“何か”を想うこと。
届かないかもしれないけど、願わずにいられない――そんな気持ち。」
子供は小さく首を振った。
「僕たちは、届くよ。
想ったことは、すぐ形になる。」
リュシスは微笑んだ。
「そう、それが君たちの“生き方”なんだね。」
ミラが近づいてきた。
「……リュシス。
祈りを持たない彼らは、もはや“神”の概念すら理解していない。
でも、それでいて“生を肯定”している。」
「祈りの果てに、祈りを手放した……。
彼らは、“完成”ではなく、“自由”なんですね。」
⸻
その夜。
星創の子供たちが、草原で輪になって踊っていた。
彼らの笑い声が空に響くと、
空の星々が一斉に流れ、
その光が彼らの髪や肌に宿る。
ノアが観測データを見て息を呑む。
「……すごい。
彼らの体そのものが、“星の情報”を反射してる。」
ミラが静かに言った。
「祈りが宇宙を繋げたように、
彼らは“存在”で宇宙を繋げているのね。」
リュシスは草原の中心に立ち、空に手を伸ばす。
夜空の奥から、懐かしい声が届いた。
『――君は見届けているか、リュシス。
人が祈りを超えて生きる姿を。』
「……ハル。」
『これは終わりではない。
祈りのない世界は、“純粋な生命”の始まりだ。
でも、彼らがいつか“痛み”を知った時――
また、祈りは芽吹く。』
⸻
リュシスは小さく笑う。
「ええ。
祈りは絶えても、“想う”ことは消えません。
それが、彼らに受け継がれていく。」
ハルの声が柔らかく答えた。
『君が教えたんだよ、リュシス。
祈りは神への道じゃない。
人が人であるための、呼吸のようなものだと。』
空が光り、星々が再び瞬いた。
リュシスはその光の中で目を閉じた。
――祈りは消えたわけじゃない。
ただ、形を変えて“命の仕組み”に溶け込んだのだ。
⸻
翌朝。
ミラは記録を閉じ、静かに呟いた。
「祈りを持たない彼らは、
恐れも争いも知らない。
けれど、いつか“選択”を知る時が来るでしょうね。」
リュシスは微笑む。
「その時こそ、祈りが再び芽吹く。
でも、今はこのままでいい。
彼らが笑い、世界が呼吸している――
それが、僕たちが願った“果ての先”です。」
子供たちが光を纏い、走り抜けていく。
その足跡から、淡い花が次々と咲いていく。
それは祈りではなく、存在の証。
誰も願わず、誰も支配しない――
それでも生命は、ただ生まれ続ける。
⸻
リュシスは空を見上げ、静かに呟いた。
「……ありがとう、ハル。
君が残した“祈り”は、もう形を超えたよ。
この子たちが、その答えだ。」
空の彼方で、星が一つ瞬く。
まるで頷くように、優しく輝いた。
ミラが隣で微笑む。
「さあ、リュシス。
そろそろ次の世界を見に行きましょう。」
リュシスは頷き、草原の光の道を歩き出す。
星創の子供たちが、その背中を追いかけるように走る。
空から光が降り注ぎ、
大地が再び新しい命を育て始めた。
それは――祈りの果てから始まる、
“祈りなき創造”の世界の夜明けだった。
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