63 / 80
第63話
しおりを挟む第63話 無垢の選択
――アルカ・ノヴァ、静穏暦五年。
星創の子供たちは、穏やかに成長していた。
祈りを知らず、争う理由もない。
ただ、感じるままに生き、創り、笑う。
彼らの世界には「悲しみ」という概念すら存在しなかった。
命が消えることすら、“自然な循環”として受け入れられていたからだ。
――だが、その均衡は、ひとつの“出来事”によって揺らぐ。
⸻
その日、ひとりの少女が光の湖で倒れた。
名は、リュナ。
星創の子の中でも、最も強い創造力を持つ少女だった。
彼女の体は薄れていき、光の粒となって大気に溶けていく。
それは、星創の子にとって“自然な終わり”――のはずだった。
だが、その場にいた少年――アストが叫んだ。
「いやだ! リュナがいなくなるのはイヤだ!」
その声に、光が震えた。
彼の胸から、見たことのない波動が溢れ出す。
それは“祈り”でも“創造”でもない。
もっと原始的で、もっと強い――痛みの共鳴だった。
⸻
ミラが研究塔から駆けつけた。
リュシスとノアもすぐに後を追う。
「何が起きているの?」
ノアが解析データを映し出す。
「共鳴値が乱れている! アストの内部から未知の波――
まるで“感情”そのものが、物理的現象に変換されてる!」
リュシスは静かに少女の消える姿を見つめた。
「……彼は“失う痛み”を知ったんだ。」
ミラの目が見開かれる。
「まさか……“祈りなき存在”が、感情を?」
リュシスは頷く。
「祈りを超えた存在が、“想い”を覚えたんです。」
⸻
アストは光に包まれたまま叫んでいた。
「お願いだ……! リュナを返して!
僕は創れる! 光だって、命だって、作れる!
だから――だから!」
その瞬間、周囲の大地が震えた。
空から無数の光が落ち、彼の手の中に集まる。
リュナの姿が、再び形を取り戻していく。
ミラが息を呑む。
「……再構成してる!?
祈りも共鳴も使わず、“想い”だけで……!」
ノアが呟いた。
「でも、これは……安定してない!
“痛み”を動力にしてる!」
リュシスはアストに近づき、手を伸ばす。
「アスト、もういい。
“失うこと”は、終わりじゃない。」
だが、少年は首を振った。
「違う! “失いたくない”って気持ちがあるなら――
それを守るために、僕は創る!」
⸻
リュシスの目が揺れる。
その言葉に、かつての自分の姿が重なった。
――最初にスキルを覚醒した日。
“守りたい”という想いが、彼を動かした。
それが、“祈り”の始まりだった。
「……そうか。
君たちは、祈りを知らなくても“想える”んだ。」
リュシスが手を伸ばし、アストの胸に触れた瞬間、
光が爆ぜる。
湖面が輝き、
空に巨大な花のような光輪が広がる。
リュナの身体が再び安定し、
そっとアストの腕の中に戻ってきた。
⸻
ミラが微笑んだ。
「……生き返ったのね。」
リュナがゆっくり目を開ける。
「……アスト……泣いてるの?」
アストは首を振りながら、涙を拭った。
「わかんない。これ、止まらないんだ。」
ミラは静かに彼の肩に手を置く。
「それが“涙”よ。
あなたが“誰かを想う”ときに流れるもの。」
リュシスが空を見上げ、ゆっくりと呟く。
「……祈りが戻ってきたんだ。」
ノアが頷く。
「でも今回は、“恐れ”からじゃない。
“愛”から生まれた祈りだ。」
⸻
その夜。
アルカ・ノヴァの空に、新しい星が生まれた。
それは“リュナとアスト”の祈りが融合した光。
星の民も、星創の子供たちも、その光を見上げていた。
『これが……“痛み”の形?』
誰かが呟いた。
リュシスは微笑みながら答える。
「違うよ。これは“選ぶ”ということさ。
失う痛みを知っても、それでも誰かを想う。
――それが、“無垢の選択”なんだ。」
⸻
ミラが空を見上げ、静かに目を閉じる。
「ハル、見ている?
あなたが願った“祈りの自由”は、
とうとうこの星で形になったわ。」
風が吹き、空の星々が一斉に瞬く。
リュシスはそっと手を伸ばし、
その光を受け止めた。
「これでいいんだ。
祈りがなくても、想いは生まれる。
そして想いが生まれれば――
また、祈りが始まる。」
空に浮かぶ新しい星が、
静かに“心臓”のように脈打っていた。
それは、“祈りの未来”が再び動き出す音だった。
0
あなたにおすすめの小説
異世界デバッガー ~不遇スキル【デバッガー】でバグ利用してたら、世界を救うことになった元SEの話~
夏見ナイ
ファンタジー
ブラック企業で過労死した元システムエンジニア、相馬譲(ユズル)。異世界転生で得たスキルは、世界の情報を読み取り「バグ」を見つけ出す【デバッガー】。攻撃力も防御力もない外れスキルと思われたが、その真価は世界の法則すら捻じ曲げるバグ利用にあった!
モンスターの行動、魔法の法則、スキル限界――あらゆるシステムの穴を突き、元SEの知識で効率的に攻略していくユズル。不遇職と蔑まれながらも、規格外の力でダンジョンを蹂躙し、莫大な富と影響力を築き上げる。
頼れる騎士、天才魔道具技師、影を歩むダークエルフといった仲間と共に、やがてユズルは、この世界そのものが抱える致命的な「システムエラー」と、それを巡る陰謀に直面する。これは、不遇スキルで世界のバグに挑む、元SEの異世界成り上がり譚!
異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!
夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。
ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。
そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。
視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。
二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。
*カクヨムでも先行更新しております。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
ゲームちっくな異世界でゆるふわ箱庭スローライフを満喫します 〜私の作るアイテムはぜーんぶ特別らしいけどなんで?〜
ことりとりとん
ファンタジー
ゲームっぽいシステム満載の異世界に突然呼ばれたので、のんびり生産ライフを送るつもりが……
この世界の文明レベル、低すぎじゃない!?
私はそんなに凄い人じゃないんですけど!
スキルに頼りすぎて上手くいってない世界で、いつの間にか英雄扱いされてますが、気にせず自分のペースで生きようと思います!
神様、ちょっとチートがすぎませんか?
ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】
未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。
本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!
おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!
僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。
しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。
自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。
へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/
---------------
※カクヨムとなろうにも投稿しています
この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました
okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。
異世界あるある 転生物語 たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?
よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する!
土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。
自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。
『あ、やべ!』
そして・・・・
【あれ?ここは何処だ?】
気が付けば真っ白な世界。
気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ?
・・・・
・・・
・・
・
【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】
こうして剛史は新た生を異世界で受けた。
そして何も思い出す事なく10歳に。
そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。
スキルによって一生が決まるからだ。
最低1、最高でも10。平均すると概ね5。
そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。
しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。
そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで
ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。
追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。
だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。
『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』
不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。
そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。
その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。
前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。
但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。
転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。
これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな?
何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが?
俺は農家の4男だぞ?
異世界ほのぼの牧場生活〜女神の加護でスローライフ始めました〜』
チャチャ
ファンタジー
ブラック企業で心も体もすり減らしていた青年・悠翔(はると)。
日々の疲れを癒してくれていたのは、幼い頃から大好きだったゲーム『ほのぼの牧場ライフ』だけだった。
両親を早くに亡くし、年の離れた妹・ひなのを守りながら、限界寸前の生活を続けていたある日――
「目を覚ますと、そこは……ゲームの中そっくりの世界だった!?」
女神様いわく、「疲れ果てたあなたに、癒しの世界を贈ります」とのこと。
目の前には、自分がかつて何百時間も遊んだ“あの牧場”が広がっていた。
作物を育て、動物たちと暮らし、時には村人の悩みを解決しながら、のんびりと過ごす毎日。
けれどもこの世界には、ゲームにはなかった“出会い”があった。
――獣人の少女、恥ずかしがり屋の魔法使い、村の頼れるお姉さん。
誰かと心を通わせるたびに、はるとの日常は少しずつ色づいていく。
そして、残された妹・ひなのにも、ある“転機”が訪れようとしていた……。
ほっこり、のんびり、時々ドキドキ。
癒しと恋と成長の、異世界牧場スローライフ、始まります!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる