64 / 80
第64話
しおりを挟む第64話 創造の涙
――アルカ・ノヴァ、光暦二年。
静寂の夜明け。
光の湖のほとりに、一粒の透明な石が落ちていた。
それは、アストの流した涙が硬質化したもの――
人類史上初の“感情の結晶”だった。
ミラは顕微観測機を通してその石を覗き込み、息を呑む。
「……これは、ただの物質じゃない。
構成粒子の一つひとつが、“感情波”を保持している。
しかも、固定されずに脈動してる……まるで生きているように。」
ノアがデータを読み上げる。
「共鳴値、祈り波ゼロ。創造素にも該当せず。
新しい定義が必要だな。――これを、“感応素(カーネル)”と呼ぼう。」
リュシスは静かに頷く。
「アストの涙が、“祈り”の外側を越えたんだ。
想いそのものが、存在の構造を変えた。」
⸻
光の湖の中央――アストとリュナが座っていた。
ふたりの足元では、小さな光の蕾が咲き始めている。
その蕾から放たれる波が、周囲の空気を柔らかく震わせていた。
アストが不思議そうに呟く。
「これ、僕の涙が作ったの?」
リュナが笑う。
「ううん、“僕たち”の気持ちが作ったの。
あなたが泣いた時、私も“痛い”って思った。
その瞬間、光が生まれたのよ。」
アストは目を見開いた。
「……それって、“一緒に感じた”ってこと?」
リュシスが頷いた。
「そう、それが“感応”。
誰かの想いが、自分の中で響く。
それはもう、祈りじゃない――“共感”だ。」
⸻
アルカ・ノヴァの空に微細な波紋が広がった。
草木、風、光、そして大地までもが震え始める。
その震動は優しく、しかし確かに“心拍”のように脈打っていた。
ミラが観測データを確認しながら言った。
「この波……星の全域で“感応反応”が広がっている。
物質そのものが、情動に反応してるのよ。」
ノアが冗談めかして笑う。
「つまりこの星、今“泣いてる”ってことか?」
ミラは小さく笑った。
「そうね。
でも、悲しみの涙じゃないわ。
――“生まれた”喜びの涙よ。」
⸻
数日後。
アルカ・ノヴァ全体が光に包まれていた。
“感応素”が空気に溶け込み、
星のあらゆる生命が“心”を持ち始めていた。
動物たちは互いに寄り添い、
草花は風に揺れながら音を奏でる。
星創の子供たちもまた、初めて“他者の痛み”を感じ取っていた。
アストが手を握りしめる。
「胸が痛い。
でも、なんでだろう……怖くないんだ。」
リュナが頷いた。
「私も同じ。
悲しいのに、あったかい。」
リュシスは二人を見て微笑んだ。
「それが“創造の涙”なんだ。
悲しみと喜びが同じ場所にある――それが“心”の形だよ。」
⸻
その夜。
アルカ・ノヴァの空に、
まるで星が降るような光が舞い上がった。
“感応素”が結晶化し、無数の光粒となって宇宙に散っていく。
ノアが観測塔で声を上げる。
「感応波、宇宙圏に突入!
地球圏、リュミナ圏、すべてに伝達中!」
ミラはその報告を聞きながら、
夜空を見上げ、微笑んだ。
「……リュシス。
あなたが教えた“想う力”が、
とうとう宇宙全体に伝わったのね。」
リュシスは空に手を伸ばし、囁いた。
「祈りは言葉を捨て、涙に変わった。
そして涙は、世界を繋ぐ水脈になった。
これが、“創造の果て”かもしれませんね。」
⸻
その瞬間、宇宙の彼方で光が弾けた。
アルカ・ノヴァの感応波が触れた銀河が、
淡い光の環を生み出す。
まるで、星々が“感情”を覚えたかのように――。
ミラが息を呑む。
「星が……歌ってる。」
リュシスは微笑む。
「宇宙が“心”を持ったんです。
祈りの時代が終わり、“感じる宇宙”が始まった。」
夜空に響く音は、かつての祈りではない。
涙が光になり、
光が音になり、
音が宇宙そのものを震わせていた。
⸻
リュシスは静かに呟く。
「ハル、見えますか……。
あなたの残した“祈り”は、
今、“感情”という新しい生命に変わりました。」
空から一筋の光が落ち、
リュシスの掌に小さな結晶が舞い降りる。
それは“創造の涙”――
アストの涙と同じ輝きを持つ、小さな宇宙の核。
「これは、始まりだ。」
彼がそう言った瞬間、
大地に光の花が咲き、夜空が白く染まる。
祈りでも創造でもない――
ただ“感じ合う”ことで、宇宙は再び動き始めた。
それが、“創造の涙”が生んだ新しい世界の鼓動だった。
0
あなたにおすすめの小説
老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!
菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは
「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。
同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと
アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう
最初の武器は木の棒!?
そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。
何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら
困難に立ち向かっていく。
チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!
異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。
話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい!
****** 完結まで必ず続けます *****
****** 毎日更新もします *****
他サイトへ重複投稿しています!
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~
於田縫紀
ファンタジー
図書館の奥である本に出合った時、俺は思い出す。『そうだ、俺はかつて日本人だった』と。
その本をつい翻訳してしまった事がきっかけで俺の人生設計は狂い始める。気がつけば美少女3人に囲まれつつ仕事に追われる毎日。そして時々俺は悩む。本当に俺はこんな暮らしをしてていいのだろうかと。ハーレム状態なのだろうか。単に便利に使われているだけなのだろうかと。
【完結】発明家アレンの異世界工房 ~元・商品開発部員の知識で村おこし始めました~
シマセイ
ファンタジー
過労死した元商品開発部員の田中浩介は、女神の計らいで異世界の少年アレンに転生。
前世の知識と物作りの才能を活かし、村の道具を次々と改良。
その発明は村の生活を豊かにし、アレンは周囲の信頼と期待を集め始める。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
少し冷めた村人少年の冒険記 2
mizuno sei
ファンタジー
地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。
不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。
旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。
異世界遺跡巡り ~ロマンを求めて異世界冒険~
小狸日
ファンタジー
交通事故に巻き込まれて、異世界に転移した拓(タク)と浩司(コウジ)
そこは、剣と魔法の世界だった。
2千年以上昔の勇者の物語、そこに出てくる勇者の遺産。
新しい世界で遺跡探検と異世界料理を楽しもうと思っていたのだが・・・
気に入らない異世界の常識に小さな喧嘩を売ることにした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる