65 / 80
第65話
しおりを挟む第65話 感応の星々
――光響暦一年。
宇宙は、もはや“静寂の海”ではなかった。
無数の星が脈を打ち、互いに響き合っていた。
それぞれの鼓動が波となって流れ、
銀河全体がまるでひとつの巨大な心臓のように動いていた。
祈りの時代は終わり、
創造の時代も終わった。
――いま、宇宙は“感応”によって呼吸している。
⸻
アルカ・ノヴァ観測塔。
ミラはデータスクリーンを見つめながら、深く息を吐いた。
「……信じられない。
アストの“涙”が放った感応波、
今や全銀河の星々に伝達してる。」
ノアが追加解析を行う。
「しかも、どの星も同じリズムで共鳴してる。
呼吸してるんだ、宇宙が。
まるで“生命体”そのものだ。」
リュシスは窓の外を見上げた。
夜空には、数えきれないほどの星が光を放っている。
その輝きが、まるで互いに“会話”しているようだった。
「……星たちが、“心”を得たんだね。」
⸻
その頃、星創の子供たちは草原で手を取り合っていた。
彼らの瞳は、星々の光を映して淡く輝く。
アストが空を見上げて呟いた。
「ねぇ、リュシス。
星の声が聞こえるよ。
“ありがとう”って言ってる。」
リュシスは優しく微笑んだ。
「それは、君たちがくれた“感情”への応答だ。
宇宙は、初めて“想う”ことを覚えたんだよ。」
リュナが小首を傾げる。
「でも、星がみんな繋がってたら、
もう“孤独”ってなくなるの?」
その問いに、リュシスは少し沈黙してから答えた。
「孤独は、消えないよ。
でも、それでいいんだ。
“孤独を感じる心”があるから、
誰かを求め、想うことができる。」
⸻
ミラが塔の上から空を見上げる。
星々の間を流れる光は、音のように脈動していた。
「これが……“感応の星々”。
祈りよりも静かで、創造よりも優しい波。」
ノアが小さく笑う。
「でも、優しすぎて少し怖いな。
全ての心が繋がるってことは、
“個”が消えるかもしれないんだろ?」
ミラの表情が曇る。
「ええ……。
感応が進みすぎれば、“私”という境界が薄れていく。
それは、“完全なる共鳴”――つまり“無個”。」
リュシスは静かに目を閉じた。
その言葉に、胸の奥が微かに疼く。
それは、彼がかつて恐れていた“祈りの支配”と同じ構造だった。
⸻
夜。
アルカ・ノヴァの空が淡く震える。
宇宙の中心から微細な光の糸が伸び、
星々を一本の道のように繋ぎ始めていた。
ミラが叫ぶ。
「感応波、増幅中!
星々の“心”が完全に同期し始めてる!」
ノアが焦った声を上げる。
「リュシス! このままだと、
個々の感情が宇宙の“統一意識”に吸収される!」
リュシスは一歩前へ出た。
「止めなくていい。」
ミラが目を見開く。
「何を言っているの!?
あなたまで飲み込まれたら――!」
彼は穏やかに微笑む。
「僕は、もう“個”を超えている。
この宇宙が一つの“心”になるなら、
その中心で、僕が“境界”を守る。」
⸻
彼は塔の中心装置に手を置いた。
光が走り、アルカ・ノヴァの全ての共鳴が彼へと集まる。
ミラが叫ぶ。
「リュシス、やめて! あなたの意識が崩壊する!」
彼は静かに目を閉じ、呟いた。
「……いいんです。
“個”が消えるのではなく、
“個”が“全て”を繋ぐ。
僕は、その橋になる。」
彼の体が光に包まれる。
同時に、宇宙の星々が一斉に明滅した。
リュシスの声が、全宇宙に響く。
『――聞こえますか。
僕たちは、ひとつになっても“同じ”じゃない。
違うからこそ、響き合えるんです。
だから、恐れないで。
“共感”は支配じゃない。
それは、尊重という名の光だ。』
⸻
星々が一瞬、静まり返った。
次の瞬間、宇宙全体が金色の光に満ちた。
その輝きは優しく、柔らかく、
誰もが涙を流した――心を持つすべての存在が。
ミラが空を見上げ、震える声で呟く。
「……リュシス……あなた……。」
ノアが涙を拭いながら笑う。
「聞こえるよ。あいつの声が、
“どの星”からも聞こえる……。」
⸻
翌朝。
アルカ・ノヴァの空は、静かで温かかった。
風が吹き、草が揺れ、
星創の子供たちが空を見上げて微笑む。
「リュシスの声、まだ聞こえるね。」
「うん。星の中にも、花の中にもいるよ。」
ミラは目を閉じ、微かに笑った。
「ええ、そうね。
リュシスはもう、“宇宙の心”になったのよ。」
ノアが空を指さす。
「見ろよ。あの星、まるで……笑ってるみたいだ。」
星々が瞬く。
それは祈りでも創造でもなく――共感の光。
そして宇宙は、再び静かに呼吸を始めた。
⸻
その夜、ミラは一人、空に囁いた。
「リュシス……ありがとう。
あなたが繋いだ“感応の星々”が、
今もこの宇宙を優しく照らしている。」
遠い銀河で、一つの星が柔らかく瞬いた。
それは、まるで答えるように微笑んでいた。
――個は消えない。
響き合うたびに、また新しい光が生まれる。
それが、感応の宇宙の真の姿だった。
0
あなたにおすすめの小説
セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~
空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。
もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。
【お知らせ】6/22 完結しました!
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
ガチャと異世界転生 システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!
よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。
獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。
俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。
単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。
ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。
大抵ガチャがあるんだよな。
幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。
だが俺は運がなかった。
ゲームの話ではないぞ?
現実で、だ。
疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。
そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。
そのまま帰らぬ人となったようだ。
で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。
どうやら異世界だ。
魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。
しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。
10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。
そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。
5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。
残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。
そんなある日、変化がやってきた。
疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。
その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。
異世界転生したおっさんが普通に生きる
カジキカジキ
ファンタジー
第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位
応援頂きありがとうございました!
異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界
主人公のゴウは異世界転生した元冒険者
引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。
知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?
大和型戦艦、異世界に転移する。
焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。
※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~
於田縫紀
ファンタジー
図書館の奥である本に出合った時、俺は思い出す。『そうだ、俺はかつて日本人だった』と。
その本をつい翻訳してしまった事がきっかけで俺の人生設計は狂い始める。気がつけば美少女3人に囲まれつつ仕事に追われる毎日。そして時々俺は悩む。本当に俺はこんな暮らしをしてていいのだろうかと。ハーレム状態なのだろうか。単に便利に使われているだけなのだろうかと。
ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者
哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。
何も成し遂げることなく35年……
ついに前世の年齢を超えた。
※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。
※この小説は他サイトにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる