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第二部 第3章
406.皇城のパーティー3 〜 テオバルド視点 〜
しおりを挟むテオバルド視点
肉料理を美味しそうに頬張る二人を眺めていると、後ろでずっと、「公爵、聞こえているのか、公爵」と小さな声で話しかけてくる者がいるのだが、気付かないふりをしていた。すると、声の主は隣にやって来て、ゴホンッとわざとらしい咳払いをすると、
「公爵、あの肉料理の隣にある、スコッチエッグが見えるだろうか」
「……陛下、スコッチエッグがどうかされましたか」
皇帝に話しかけられたならば、無視はできんと、溜め息を吐きながらも返事をする。
陛下が指差す先には、一口大の小さなスコッチエッグが、皿に盛り付けられていた。
「うむ。あのスコッチエッグはな、朕が作ったのだ」
食して褒めてくれ、というのが顔に出ている皇帝に呆れる。
「陛下主催のパーティーの料理を、陛下ご自身が作られた、と?」
「うむ! 朕の作るスコッチエッグは、イーニアスも、ソロモンも、エリザベスも、子供たち皆が大好きなのだ。ソロモンやエリザは皇城のパーティーに参加した事が数える程度しかないのでな。緊張を解す為にも朕が手料理を作ってやらねばと思って頑張ったのだぞ」
「そうですか……」
胸を張って、子供の為だと言う皇帝に、何も言えなかったのだが……
「何だぁ? この料理は。皇城のパーティーには似つかわしくないものが出ているではないか」
「まぁっ、庶民が食するようなものですわね!」
また面倒な事を言い出す貴族が現れた……
「茶色の丸い揚げ物など、庶民の屋台で出すようなものを出しおって!」
庶民の屋台でそれが売っている事を、よく知っているな。
「なんてお下品!」と大声で喚く者の方が品を疑うが。
「こ、公爵……、朕の手料理は、お下品だったのだろうか……っ」
「陛下、料理に上品も下品もな……」
子供のように泣き出しそうな陛下に、慰めの言葉をかけている時だ。
「ちょっと! 皇城のパーティーで出した料理にケチつけてるのはどこのどいつよ!」
さすがに自身の夫の手料理が乏しめられている事に、皇后も我慢出来なかったのだろう。とても皇后とは思えぬ言葉遣いで、啖呵を切る。
「こ、皇后陛下……、しかし、これは……皇城で出して良いものでは、ありませんぞ!」
「このスコッチエッグのどこが、皇城にふさわしくないというのっ」
スコッチエッグは確かに庶民の宿屋で出される料理だが、皇帝の作ったものは、パーティーでも食べやすいよう、一口大で軽くつまめるようになっている。味はおそらく、一流のシェフと同等かそれ以上なのだろう。
「このスコッチエッグは、世界一美味しいのです」
「私も、この料理が大好きです」
「ソロモン第一皇子にエリザベス第一皇女!?」
皇子に皇女まで出て来たのか。
「レーテ、ソロモン、エリザベス……っ」
私の横で、皇帝が口を押さえて泣いているんだが……。変な噂がたつから止めろ。
「ぅう……っ、朕の愛する妻と子供たちが朕の料理を好きだと……!」
「陛下、泣くな」
「朕は感動したのだ~!」
うるさい。
「うわぁ! お父様、このスコッチエッグ、ここの料理の中で一番美味しいですよ!」
「本当だね、オリヴァー!」
義父上もオリヴァー殿も、肉の塊に飽きたのか、その隣にあった陛下の料理を美味しそうに食べている。それを見た周りの貴族も興味を惹かれ、次々と料理に手を伸ばしていく。
皇后に追い詰められている貴族は、それを見てさらに冷や汗をかき、一緒にいた女はとっくに逃げているにもかかわらず、助けを求めているではないか。
陛下の手料理だと知ったら、失神するのだろうな。まぁ、皇后がそれを言うとは思えんが。
「オホホッ、ウチの一流シェフが作った料理よ!」
とうとう皇帝をシェフ扱いか。
「こ、公爵……っ、ズビッ、朕の料理がこんなにも人気に……っ」
「陛下、鼻水を拭け」
この日のパーティーは、謎の一流シェフの正体を知ろうと必死に情報収集する貴族で溢れ、話題の中心となっていたのだが、その正体が皇帝だと気付く貴族は一人もいなかった。
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