153 / 333
第二部 第3章
405.お風呂に入りたがらない子供の為のおもちゃ
「こういう時の為に、アレがありましたわ!」
以前、テオ様とノアが一緒にお風呂に入った事があったのだけど、その時にノアが早々に出てきて驚いた事がありましたのよ。それで、もっと楽しいお風呂タイムにしてもらいたくて、色々考えましたのよね。
定番の、水に浮かべるアヒルさんをオマージュして、アヒルさんをアカとアオの姿にしたものを、まず作ったのだけど、お風呂で浮かべると、何だか死体みたいになりましたのよね……。アカとアオは大喜びでしたけれど。
これはダメだと片付けましたけれど、何故か偶に浴槽に浮いているのは、妖精たちのせいだろう。
次に挑戦したのは、シャンプーやボディーソープでソフトクリームを作るというおもちゃなのだけど……
「まさか、壁にくっつける方法で頓挫するとは思いませんでしたわ……」
磁石になっているユニットバスの壁じゃないのですから、くっつくわけがありませんのよ。しかも磁石すら見つかっていないなんて……っ
いつか磁石を発見してやりますわ! と気合いを入れた後、さらに頭を悩ませて、やっと思いついたのが、壁に投げるとピタッとくっつく吸盤人形でしたの。
これは手の運動能力も向上する知育おもちゃですのよ。しかもお風呂が楽しくなるので、一石二鳥ですの。
ただ……、公爵家のおもちゃとしては、投げるという行為が些か乱暴だったので、テオ様が良い顔をしないだろうと、今まで封印しておりましたのよね。
「今日はテオ様もおりませんし、あのおもちゃを解禁してみようかしら」
「奥様? 旦那様がいないから解禁するおもちゃ、とは一体……」
ミランダが珍しく不安そうな表情で見てくるのだけど、わたくし何も言わず、自信満々に微笑んでおきましたのよ。そうしたら、余計不安が増したみたいでしたけれど、どうしてかしら?
「……ノア、そろそろお風呂に入った方が良いのではなくて?」
お風呂場に、カラフルな吸盤人形が沢山入ったバケツを用意した後、三人で楽しそうにトランプしている所へ声を掛ける。するとノアは、
「おかぁさま、もぅしゅこしだけ、おねがいちます」
上目遣いでお願いしてくる息子は大変愛らしいが、そうはいきませんのよ。
「あらあら、いいのかしら? お風呂場には新しいおもちゃがありますのに……」
わざと大げさに残念がりながら、チラッと息子を見ると、え!? という顔をしてこちらを見ているではないか。ぺーちゃんやイーニアス殿下まで、手を止め顔を上げた。
「とっても楽しいおもちゃなのですけれど……」
「わたち、おふりょ、はいるの!」
「わたしも、はいるのだ!」
「ぺぇちゃ、みょ!」
目を輝かせた三人は、立ち上がると急いでトランプを片付け、はやく、はやく、とお風呂場へ行ってしまった。カミラが後ろから追いかけて行ったが、大丈夫だろうか……。
お風呂場にはマディソンが待ち伏せしておりますから、安心ですけれど。
この日、子供たちが入ったお風呂場では、楽しそうな声が響き、いつもよりも長風呂だったようだが、マディソンは疲れ果てた様子で、子供たちをタオルで拭いていたと、後にカミラが語っていたので、悪い事をしてしまったわ。と反省したのである。
また、吸盤人形は妖精たちも気に入り、使用人が掃除した後に出してきて投げつけたらしく、壁にはカラフルな人形が沢山くっついたままになっていたそうで、テオ様が夜中に入って驚いたそうだが、その頃にはわたくしも子供たちも夢の中だった。
「おかぁさま、わたち、たくさんペッタンちたのよ!」
「ぺぇちゃ、みょ!」
「うむ。わたしもたくさん、ペッタンしたぞ!」
布団に潜った子供たちは、それぞれ楽しそうに報告してくれて、作って良かったですわ。と改めて思ったのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
~ おまけ ~
【ノアがお風呂にはいらなくなった理由】
「ノア様、今日は奥様がお風呂場に新しいおもちゃを用意してくれたようですよ!」
「あたりゃちぃの!」
カミラの言葉に嬉しそうに浴室へ駆け込むノアに、周りにいたメイドたちもニコニコしている。
「お風呂でおもちゃなんて、すごいですよね~」
水に浮かべて遊ぶおもちゃらしいので、浴槽の縁にちょこんと置かれている。珍しい赤色と青色のキノコの人形が目に入り、カミラはわぁっと目を輝かせた。ノアも同じだったようで……
「あっ、アカ、アオ、いりゅ! いっちょ、はいりゅのね!」
「え? ノア様、あれは……」
アカとアオといえば、妖精様の名前では? とカミラは首を傾げ、ノアの後を追う。
「アカ、アオ、おふりょ、」
ノアがそれに手を伸ばすと、ポチャン……
「あ、おふりょ、おちた」
「ノア様、これは……」
ぷか~っと浮いた赤色と青色のキノコ人形は、ピクリともうごかず、顔をお湯につけたまま死体のよう浴槽内を漂っているではないか。
「……ちんじゃった……っ、アカ、アオ、ちんじゃった……っ」
「いえ、ノア様、あれはおもちゃ……」
「ぅああああんっ、ちんじゃったぁ!」
「───という事がありましたのよ」
「お姉様……ノアがお風呂嫌いになったのは、そのせいです」
「ちょっとオリヴァー!? わたくしは妖精たちに似せた人形を作っただけですのよ!?」
「ノアが号泣した時点でお姉様は有罪ですよ!」
「う……っ」
ノアがお風呂に入らなくなったのは、妖精水死体事件に遭遇したからだと発覚したのだった。
あなたにおすすめの小説
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
継母の心得 〜 番外編 〜
トール
恋愛
継母の心得の番外編のみを投稿しています。
【本編第一部完結済、2023/10/1〜第二部スタート
☆書籍化 2026/2/27コミックス3巻、ノベル8巻同時刊行予定☆
ノベル8巻刊行前に8巻に掲載される番外編を削除予定です。何卒よろしくお願いいたします】
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。
Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。
そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。
そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。
これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。