継母の心得

トール

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第二部 第3章

408.空腹は最高のスパイス

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成長過程において、食べ物の好き嫌いが出てくるのは当たり前の事かもしれないが、栄養面を考えると、何とかぺーちゃんに野菜を食べてもらいたい。

そう思って、シェフに野菜を細かく刻んでもらったり、すりおろして隠してもらったりしているが、ピーマンやネギなどはどうしても苦味や辛味が勝るらしくて、ぺっと吐き出してしまいますのよ。

人間にとって、酸味は腐敗物、苦味は毒物の味なのだそうだ。だから本能的に危険だと感じて避けてしまうらしい。

「だから好き嫌いがあるのもおかしい事ではありませんのよね。だけど……」
「奥様、年を重ねるにつれ、食べられるものが増えていくものです。今は苦味の少ない野菜を使ったものを、ぺーちゃん様に召し上がっていただくのがよろしいかと思いますよ」

マディソンにそう言われて、自分がぺーちゃんに嫌がる事を強要していたのではないかと、ハッとさせられる。

「そうですわよね……、ノアが何でも美味しそうに食べるものだから、つい他の子も大丈夫だと思い込んでしまいましたわ」

わたくしったら、何故焦ってしまっていたのかしら。

「奥様がノア様やぺーちゃん様に野菜を食べてもらいたいと思うのは、当然の事です。身体に良いものを食し、元気に育ってもらいたいと思うのが親なのですから」

それだけ、子育てに真剣に向き合っているという事なのです。と、マディソンは安心感のある笑みをわたくしに向けてくれた。

「マディソン……っ」

さすが子育て経験者ですわね。一言で気持ちがラクになりましたわ。

「あなたがいてくれて、本当に良かったですわ」
「奥様のお役に立てて光栄です」
「いつも本当に助かっておりますのよ。もちろんミランダも、カミラも、公爵家で働いている皆に感謝しておりますわ」
「「「奥様……っ」」」

周りを見ると、使用人たちは嬉しそうに笑っていて、わたくしも頬がゆるみましたのよ。

「奥様、ぺーちゃん様は、甘いお野菜なら食べられます!」
「ノア様も、さつまいもやトウモロコシがお好きですね」

カミラが「はい!」と挙手して言った事に、ミランダも追随すると、メイドたちも、子供たちの食べられそうな野菜を提案してくれるではないか。 

「皆、ありがとう存じますわ」

そうよね。食べられる野菜は沢山ありますもの。エネルギーになるパンや麺類は主食として食べていますし、フルーツや牛乳、肉類でビタミンやタンパク質も摂れていますわ。
焦らなくても、マディソンの言うように年を重ねれば体も大きくなって、活動量が増えますもの。それに伴って食べられるようになりますわ。

「シェフも工夫してくれておりますし、ポタージュは食べてくれますし、気楽に考える事にしますわ」
「はい! ぺーちゃん様は好き嫌いは多いですが、それだけ味に敏感という事ですから、才能ですよね!」

なるほど、カミラのような考え方もできるのか。

そう思うと、好き嫌いも悪くないように思えてきますわね。
将来は皇帝陛下のように、教皇と兼任の料理人になっていたりして。

「かぁちゃ、ぺぇちゃ、ぽんちゃ」
「おかぁさま、わたちも!」
「わたしもだ!」

あらあら、騒がしい三人が席にやって来ましたわ。

魔法の訓練の汗を流しにお風呂へ入った二人を追って、ぺーちゃんもお風呂場に行き、おそらくまた、吸盤ペッタン人形で遊んでいたのだろう。
とても上機嫌に、仲良くお腹を鳴らしながらやって来た三人は、それぞれの席に着くと、まだかまだかとシェフの美味しい朝食を待っているのだ。

「ふふっ、マディソン、この様子だと、お野菜もパクパク食べてしまうかもしれませんわね」
「空腹は最高のスパイスとはよく言ったものです」

二人で顔を合わせて笑っていると、家長であるテオ様がやって来て、全員が揃った。

今日も楽しく美味しく、ご飯をいただきましょう!

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