192 / 369
第二部 第3章
408.空腹は最高のスパイス
しおりを挟む成長過程において、食べ物の好き嫌いが出てくるのは当たり前の事かもしれないが、栄養面を考えると、何とかぺーちゃんに野菜を食べてもらいたい。
そう思って、シェフに野菜を細かく刻んでもらったり、すりおろして隠してもらったりしているが、ピーマンやネギなどはどうしても苦味や辛味が勝るらしくて、ぺっと吐き出してしまいますのよ。
人間にとって、酸味は腐敗物、苦味は毒物の味なのだそうだ。だから本能的に危険だと感じて避けてしまうらしい。
「だから好き嫌いがあるのもおかしい事ではありませんのよね。だけど……」
「奥様、年を重ねるにつれ、食べられるものが増えていくものです。今は苦味の少ない野菜を使ったものを、ぺーちゃん様に召し上がっていただくのがよろしいかと思いますよ」
マディソンにそう言われて、自分がぺーちゃんに嫌がる事を強要していたのではないかと、ハッとさせられる。
「そうですわよね……、ノアが何でも美味しそうに食べるものだから、つい他の子も大丈夫だと思い込んでしまいましたわ」
わたくしったら、何故焦ってしまっていたのかしら。
「奥様がノア様やぺーちゃん様に野菜を食べてもらいたいと思うのは、当然の事です。身体に良いものを食し、元気に育ってもらいたいと思うのが親なのですから」
それだけ、子育てに真剣に向き合っているという事なのです。と、マディソンは安心感のある笑みをわたくしに向けてくれた。
「マディソン……っ」
さすが子育て経験者ですわね。一言で気持ちがラクになりましたわ。
「あなたがいてくれて、本当に良かったですわ」
「奥様のお役に立てて光栄です」
「いつも本当に助かっておりますのよ。もちろんミランダも、カミラも、公爵家で働いている皆に感謝しておりますわ」
「「「奥様……っ」」」
周りを見ると、使用人たちは嬉しそうに笑っていて、わたくしも頬がゆるみましたのよ。
「奥様、ぺーちゃん様は、甘いお野菜なら食べられます!」
「ノア様も、さつまいもやトウモロコシがお好きですね」
カミラが「はい!」と挙手して言った事に、ミランダも追随すると、メイドたちも、子供たちの食べられそうな野菜を提案してくれるではないか。
「皆、ありがとう存じますわ」
そうよね。食べられる野菜は沢山ありますもの。エネルギーになるパンや麺類は主食として食べていますし、フルーツや牛乳、肉類でビタミンやタンパク質も摂れていますわ。
焦らなくても、マディソンの言うように年を重ねれば体も大きくなって、活動量が増えますもの。それに伴って食べられるようになりますわ。
「シェフも工夫してくれておりますし、ポタージュは食べてくれますし、気楽に考える事にしますわ」
「はい! ぺーちゃん様は好き嫌いは多いですが、それだけ味に敏感という事ですから、才能ですよね!」
なるほど、カミラのような考え方もできるのか。
そう思うと、好き嫌いも悪くないように思えてきますわね。
将来は皇帝陛下のように、教皇と兼任の料理人になっていたりして。
「かぁちゃ、ぺぇちゃ、ぽんちゃ」
「おかぁさま、わたちも!」
「わたしもだ!」
あらあら、騒がしい三人が席にやって来ましたわ。
魔法の訓練の汗を流しにお風呂へ入った二人を追って、ぺーちゃんもお風呂場に行き、おそらくまた、吸盤人形で遊んでいたのだろう。
とても上機嫌に、仲良くお腹を鳴らしながらやって来た三人は、それぞれの席に着くと、まだかまだかとシェフの美味しい朝食を待っているのだ。
「ふふっ、マディソン、この様子だと、お野菜もパクパク食べてしまうかもしれませんわね」
「空腹は最高のスパイスとはよく言ったものです」
二人で顔を合わせて笑っていると、家長であるテオ様がやって来て、全員が揃った。
今日も楽しく美味しく、ご飯をいただきましょう!
8,382
あなたにおすすめの小説
妻を蔑ろにしていた結果。
下菊みこと
恋愛
愚かな夫が自業自得で後悔するだけ。妻は結果に満足しています。
主人公は愛人を囲っていた。愛人曰く妻は彼女に嫌がらせをしているらしい。そんな性悪な妻が、屋敷の最上階から身投げしようとしていると報告されて急いで妻のもとへ行く。
小説家になろう様でも投稿しています。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
継母の心得 〜 番外編 〜
トール
恋愛
継母の心得の番外編のみを投稿しています。
【本編第一部完結済、2023/10/1〜第二部スタート☆書籍化 2024/11/22ノベル5巻、コミックス1巻同時刊行予定】
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
【完結】王妃はもうここにいられません
なか
恋愛
「受け入れろ、ラツィア。側妃となって僕をこれからも支えてくれればいいだろう?」
長年王妃として支え続け、貴方の立場を守ってきた。
だけど国王であり、私の伴侶であるクドスは、私ではない女性を王妃とする。
私––ラツィアは、貴方を心から愛していた。
だからずっと、支えてきたのだ。
貴方に被せられた汚名も、寝る間も惜しんで捧げてきた苦労も全て無視をして……
もう振り向いてくれない貴方のため、人生を捧げていたのに。
「君は王妃に相応しくはない」と一蹴して、貴方は私を捨てる。
胸を穿つ悲しみ、耐え切れぬ悔しさ。
周囲の貴族は私を嘲笑している中で……私は思い出す。
自らの前世と、感覚を。
「うそでしょ…………」
取り戻した感覚が、全力でクドスを拒否する。
ある強烈な苦痛が……前世の感覚によって感じるのだ。
「むしろ、廃妃にしてください!」
長年の愛さえ潰えて、耐え切れず、そう言ってしまう程に…………
◇◇◇
強く、前世の知識を活かして成り上がっていく女性の物語です。
ぜひ読んでくださると嬉しいです!
お前は家から追放する?構いませんが、この家の全権力を持っているのは私ですよ?
水垣するめ
恋愛
「アリス、お前をこのアトキンソン伯爵家から追放する」
「はぁ?」
静かな食堂の間。
主人公アリス・アトキンソンの父アランはアリスに向かって突然追放すると告げた。
同じく席に座っている母や兄、そして妹も父に同意したように頷いている。
いきなり食堂に集められたかと思えば、思いも寄らない追放宣言にアリスは戸惑いよりも心底呆れた。
「はぁ、何を言っているんですか、この領地を経営しているのは私ですよ?」
「ああ、その経営も最近軌道に乗ってきたのでな、お前はもう用済みになったから追放する」
父のあまりに無茶苦茶な言い分にアリスは辟易する。
「いいでしょう。そんなに出ていって欲しいなら出ていってあげます」
アリスは家から一度出る決心をする。
それを聞いて両親や兄弟は大喜びした。
アリスはそれを哀れみの目で見ながら家を出る。
彼らがこれから地獄を見ることを知っていたからだ。
「大方、私が今まで稼いだお金や開発した資源を全て自分のものにしたかったんでしょうね。……でもそんなことがまかり通るわけないじゃないですか」
アリスはため息をつく。
「──だって、この家の全権力を持っているのは私なのに」
後悔したところでもう遅い。
皆さん勘違いなさっているようですが、この家の当主はわたしです。
和泉 凪紗
恋愛
侯爵家の後継者であるリアーネは父親に呼びされる。
「次期当主はエリザベスにしようと思う」
父親は腹違いの姉であるエリザベスを次期当主に指名してきた。理由はリアーネの婚約者であるリンハルトがエリザベスと結婚するから。
リンハルトは侯爵家に婿に入ることになっていた。
「エリザベスとリンハルト殿が一緒になりたいそうだ。エリザベスはちょうど適齢期だし、二人が思い合っているなら結婚させたい。急に婚約者がいなくなってリアーネも不安だろうが、適齢期までまだ時間はある。お前にふさわしい結婚相手を見つけるから安心しなさい。エリザベスの結婚が決まったのだ。こんなにめでたいことはないだろう?」
破談になってめでたいことなんてないと思いますけど?
婚約破棄になるのは構いませんが、この家を渡すつもりはありません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。