継母の心得

トール

文字の大きさ
240 / 369
第二部 第3章

455.狙われたイザベル9

しおりを挟む


去年の夏、テオ様が魔石に氷の魔法を込めてくださったので、おもちゃの宝箱も、ディバイン公爵邸も、馬車の中も快適でしたわ。

ノアにもフローズンドリンクや、冷たい麦茶だって飲ませてあげられましたし、快適に過ごすこともできましたもの。

ですが、ディバイン公爵領は避暑地になるほど涼しいとはいえ、夏は夏、暑いのです! 熱中症になる領民もおりました。
おもちゃの宝箱を涼む場所として開放し、麦茶やお水を無料で提供したりもいたしましたが、どうしても夜は閉店してしまいますから……。日本に比べれば、こちらの暑さはまだマシですけれど。

焔神の加護を授かる土地柄、暑くなりそうですが、不思議とひと昔前の日本ぐらいの暑さですのよ。

しかし、夏は食べ物も傷みやすいのです。お腹を壊した子供が結構な数いたらしいのですわ。

聖水があったから助かったものの、食中毒は命を脅かす恐ろしいもの。

「ですから、エアコンと冷蔵庫は必要ですの!」
「ねえ、イザベル様。その『えあこん』? と、『れーぞーこ』? というのはどんな魔道具なの?」

皇后様が興味津々といった様子で、楽しそうに聞いてくる。
皇后様はわたくしの提案するものは、いつも面白そうに聞いてくださるから、話し甲斐がありますのよね。

「エアコンは、火の季節(夏)に部屋を涼しくする魔道具で、寝苦しい夜には本当に重宝しますのよ。冷蔵庫は食品を冷やして、より新鮮な状態を長く保たせるものなのですわ」
「冷やす……、それって、魔道具にする必要があるのかしら? 氷の魔石を置いておけば部屋は冷えるし、そこに食料も保管しておけばいいわけでしょう? つまり、魔石だけで十分その役割は果たせるわ」

皇后様の考えももっともですわ。けれど、

「そうなってしまいますと、部屋の温度が下がり過ぎたり、冬でも寒気が漏れ出てしまいますわ。魔道具には魔石の魔力の調節も出来る技術が組み込まれておりますから、漏れを抑えるためにも魔道具にしてしまったほうが良いと思うのです」
「ああ、それはそうかもしれないわね。けれど、かなりお高くなるでしょう? イザベル様がいうように、庶民には難しいのではないかしら……」

魔道具はかなりの金額がしますものね。

「そこは、涼む為の施設を開放するしかありませんわね……夜も開放出来るような施設があれば……」

コンビニ、スパ、カラオケ、満喫、前世は夜も開いているお店はたくさんありましたけど……。

「教会に設置すれば良い」

それですわ!

テオ様の提案に、大きく頷く。

「貴族に関しては、寝室や執務室に冷蔵庫を置いておけば、いつでも冷え冷えの飲み物が飲めますわ」

子供は体温も高いですし、汗もよくかきますから、冷やしたおしぼりなどを入れておくのもいいかもしれませんわね。
きっとノアも、「ひんやりね」って、天使の笑みを見せてくれるはず。

「イザベル様、その魔道具が出来たら、絶対使わせてちょうだい!」

それには魔道具師が必要ですけれど。

「ベル、暫くは魔石の買い取りだけを行うべきだ。魔道具の開発は時間がかかる上、君が狙われる可能性も上がる」

テオ様は反対のようで、その意見を聞いた皇后様も、

「……確かにそうね。今は時期が悪いかもしれないわ」

と真剣な眼差しでわたくしをみるのだ。

もしかして、先程言っておりました貴族云々の話と関係あるのかしら?

「ベル、大粛清をしたとはいえ、粛清逃れをした貴族もある程度はいる。そういった者たちは、金の匂いを嗅ぎつける事が得意なんだ。虎視眈々と奪い取ってやろうと狙っている」
『ベル、ねらわれてる!』
『ベル、きけん!!』

え!? わたくし狙われておりますの!?

「今やイザベル様の知識は、手に入れた者によって勢力図が簡単に書き変わるほど重要なものよ」
「自覚をしてほしい」

えぇ!? チートな頭脳を持つお二人に言われても、説得力はありませんわよ!?



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



~ おまけ ~


テオバルド視点


『えあこん』に『れいぞうこ』だと?
そんな魔道具が出来てしまったら、私の出番がなくなるではないか……。

去年の火の季節に、魔石に氷の魔法を込めた時、ベルもノアも大喜びしてくれたというのに……っ

「旦那様、まさかそれで反対されたわけではありませんよね?」

火の季節は私の存在意義が増す、絶好のチャンスなのだ。

「おかぁさま、わたち、ちゅめたーいまほお、ちゅかえるよーに、なったのよ!」
「にょあ、ぅっ、にゃい!!」
「ぺーちゃん、わたち、しゅごい?」
「にゃ! ぅっ、にゃーい!」
「うふふ、わたち、しゅっごーい」

私とて、氷魔法は得意だ。

「まぁっ、では今年の火の季節は、ノアが魔石に氷の魔法を込めてくれますのね!」
「はい!」
「にゃ!」

何だと!?

しおりを挟む
感想 11,966

あなたにおすすめの小説

妻を蔑ろにしていた結果。

下菊みこと
恋愛
愚かな夫が自業自得で後悔するだけ。妻は結果に満足しています。 主人公は愛人を囲っていた。愛人曰く妻は彼女に嫌がらせをしているらしい。そんな性悪な妻が、屋敷の最上階から身投げしようとしていると報告されて急いで妻のもとへ行く。 小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

継母の心得 〜 番外編 〜

トール
恋愛
継母の心得の番外編のみを投稿しています。 【本編第一部完結済、2023/10/1〜第二部スタート☆書籍化 2024/11/22ノベル5巻、コミックス1巻同時刊行予定】

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

【完結】王妃はもうここにいられません

なか
恋愛
「受け入れろ、ラツィア。側妃となって僕をこれからも支えてくれればいいだろう?」  長年王妃として支え続け、貴方の立場を守ってきた。  だけど国王であり、私の伴侶であるクドスは、私ではない女性を王妃とする。  私––ラツィアは、貴方を心から愛していた。  だからずっと、支えてきたのだ。  貴方に被せられた汚名も、寝る間も惜しんで捧げてきた苦労も全て無視をして……  もう振り向いてくれない貴方のため、人生を捧げていたのに。 「君は王妃に相応しくはない」と一蹴して、貴方は私を捨てる。  胸を穿つ悲しみ、耐え切れぬ悔しさ。  周囲の貴族は私を嘲笑している中で……私は思い出す。  自らの前世と、感覚を。 「うそでしょ…………」  取り戻した感覚が、全力でクドスを拒否する。  ある強烈な苦痛が……前世の感覚によって感じるのだ。 「むしろ、廃妃にしてください!」  長年の愛さえ潰えて、耐え切れず、そう言ってしまう程に…………    ◇◇◇  強く、前世の知識を活かして成り上がっていく女性の物語です。  ぜひ読んでくださると嬉しいです!

お前は家から追放する?構いませんが、この家の全権力を持っているのは私ですよ?

水垣するめ
恋愛
「アリス、お前をこのアトキンソン伯爵家から追放する」 「はぁ?」 静かな食堂の間。 主人公アリス・アトキンソンの父アランはアリスに向かって突然追放すると告げた。 同じく席に座っている母や兄、そして妹も父に同意したように頷いている。 いきなり食堂に集められたかと思えば、思いも寄らない追放宣言にアリスは戸惑いよりも心底呆れた。 「はぁ、何を言っているんですか、この領地を経営しているのは私ですよ?」 「ああ、その経営も最近軌道に乗ってきたのでな、お前はもう用済みになったから追放する」 父のあまりに無茶苦茶な言い分にアリスは辟易する。 「いいでしょう。そんなに出ていって欲しいなら出ていってあげます」 アリスは家から一度出る決心をする。 それを聞いて両親や兄弟は大喜びした。 アリスはそれを哀れみの目で見ながら家を出る。 彼らがこれから地獄を見ることを知っていたからだ。 「大方、私が今まで稼いだお金や開発した資源を全て自分のものにしたかったんでしょうね。……でもそんなことがまかり通るわけないじゃないですか」 アリスはため息をつく。 「──だって、この家の全権力を持っているのは私なのに」 後悔したところでもう遅い。

私に姉など居ませんが?

山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」 「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」 「ありがとう」 私は婚約者スティーブと結婚破棄した。 書類にサインをし、慰謝料も請求した。 「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。