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第二部 第3章
455.狙われたイザベル9
しおりを挟む去年の夏、テオ様が魔石に氷の魔法を込めてくださったので、おもちゃの宝箱も、ディバイン公爵邸も、馬車の中も快適でしたわ。
ノアにもフローズンドリンクや、冷たい麦茶だって飲ませてあげられましたし、快適に過ごすこともできましたもの。
ですが、ディバイン公爵領は避暑地になるほど涼しいとはいえ、夏は夏、暑いのです! 熱中症になる領民もおりました。
おもちゃの宝箱を涼む場所として開放し、麦茶やお水を無料で提供したりもいたしましたが、どうしても夜は閉店してしまいますから……。日本に比べれば、こちらの暑さはまだマシですけれど。
焔神の加護を授かる土地柄、暑くなりそうですが、不思議とひと昔前の日本ぐらいの暑さですのよ。
しかし、夏は食べ物も傷みやすいのです。お腹を壊した子供が結構な数いたらしいのですわ。
聖水があったから助かったものの、食中毒は命を脅かす恐ろしいもの。
「ですから、エアコンと冷蔵庫は必要ですの!」
「ねえ、イザベル様。その『えあこん』? と、『れーぞーこ』? というのはどんな魔道具なの?」
皇后様が興味津々といった様子で、楽しそうに聞いてくる。
皇后様はわたくしの提案するものは、いつも面白そうに聞いてくださるから、話し甲斐がありますのよね。
「エアコンは、火の季節(夏)に部屋を涼しくする魔道具で、寝苦しい夜には本当に重宝しますのよ。冷蔵庫は食品を冷やして、より新鮮な状態を長く保たせるものなのですわ」
「冷やす……、それって、魔道具にする必要があるのかしら? 氷の魔石を置いておけば部屋は冷えるし、そこに食料も保管しておけばいいわけでしょう? つまり、魔石だけで十分その役割は果たせるわ」
皇后様の考えももっともですわ。けれど、
「そうなってしまいますと、部屋の温度が下がり過ぎたり、冬でも寒気が漏れ出てしまいますわ。魔道具には魔石の魔力の調節も出来る技術が組み込まれておりますから、漏れを抑えるためにも魔道具にしてしまったほうが良いと思うのです」
「ああ、それはそうかもしれないわね。けれど、かなりお高くなるでしょう? イザベル様がいうように、庶民には難しいのではないかしら……」
魔道具はかなりの金額がしますものね。
「そこは、涼む為の施設を開放するしかありませんわね……夜も開放出来るような施設があれば……」
コンビニ、スパ、カラオケ、満喫、前世は夜も開いているお店はたくさんありましたけど……。
「教会に設置すれば良い」
それですわ!
テオ様の提案に、大きく頷く。
「貴族に関しては、寝室や執務室に冷蔵庫を置いておけば、いつでも冷え冷えの飲み物が飲めますわ」
子供は体温も高いですし、汗もよくかきますから、冷やしたおしぼりなどを入れておくのもいいかもしれませんわね。
きっとノアも、「ひんやりね」って、天使の笑みを見せてくれるはず。
「イザベル様、その魔道具が出来たら、絶対使わせてちょうだい!」
それには魔道具師が必要ですけれど。
「ベル、暫くは魔石の買い取りだけを行うべきだ。魔道具の開発は時間がかかる上、君が狙われる可能性も上がる」
テオ様は反対のようで、その意見を聞いた皇后様も、
「……確かにそうね。今は時期が悪いかもしれないわ」
と真剣な眼差しでわたくしをみるのだ。
もしかして、先程言っておりました貴族云々の話と関係あるのかしら?
「ベル、大粛清をしたとはいえ、粛清逃れをした貴族もある程度はいる。そういった者たちは、金の匂いを嗅ぎつける事が得意なんだ。虎視眈々と奪い取ってやろうと狙っている」
『ベル、ねらわれてる!』
『ベル、きけん!!』
え!? わたくし狙われておりますの!?
「今やイザベル様の知識は、手に入れた者によって勢力図が簡単に書き変わるほど重要なものよ」
「自覚をしてほしい」
えぇ!? チートな頭脳を持つお二人に言われても、説得力はありませんわよ!?
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
~ おまけ ~
テオバルド視点
『えあこん』に『れいぞうこ』だと?
そんな魔道具が出来てしまったら、私の出番がなくなるではないか……。
去年の火の季節に、魔石に氷の魔法を込めた時、ベルもノアも大喜びしてくれたというのに……っ
「旦那様、まさかそれで反対されたわけではありませんよね?」
火の季節は私の存在意義が増す、絶好のチャンスなのだ。
「おかぁさま、わたち、ちゅめたーいまほお、ちゅかえるよーに、なったのよ!」
「にょあ、ぅっ、にゃい!!」
「ぺーちゃん、わたち、しゅごい?」
「にゃ! ぅっ、にゃーい!」
「うふふ、わたち、しゅっごーい」
私とて、氷魔法は得意だ。
「まぁっ、では今年の火の季節は、ノアが魔石に氷の魔法を込めてくれますのね!」
「はい!」
「にゃ!」
何だと!?
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