継母の心得

第二部 第4章

498.別人 〜 フェリクス視点/イザベル視点 〜

フェリクス視点


怖い、怖い、怖い!! あれが本当なら……、見たらダメなものを見てしまったんだ。何で……、何でディバイン公爵家に……っ、早くノアに、お母さんに伝えないと!

「───にょあ!」

自分で上げた声に驚いて目が覚める。いつものベッドに、いつもの天井が見えてホッと息を吐いた。

夢、だった……?

「ぺーちゃん様、お目覚めですか? どこか痛みがあったり、気分が悪かったりはございませんか?」

マディソンが心配そうに覗き込んでくるので、首を傾げる。

「みゃじぃ、ぉあにょ!」

マディソンにおはようの挨拶をすると、心配そうな表情が和らぎ、優しく微笑んで抱き上げてくれた。

あたたかい……

「ぺーちゃん、おっきちた?」
「ぺぇちゃ、ふりょ、がぉーちて、ごめんしゃい……」

ノアとフローレンスがそばに来て、私に構ってくれるので、前世を思い出してしまう。

二人に構われると、嬉しい。でも、どうしてフローレンスは謝っているんだろう?

「ぅりょ、じょーちっちゃ?」
「フロちゃん、ぺーちゃんね、どちてごめんなさい、しゅるのって」

さすがノア、私の言う事を正確にフローレンスへ伝えてくれている。

「ふりょ、がぉーちた。ぺぇちゃ、バタンちた」
「ぅりょ、ぎゃおー、ちゃのち!」
「ぺーちゃん、オーガごっこ、たのちかったって」

そう。オーガごっこは楽しい。まさかフローレンスがオーガ役をするとは思わなかったけど、なかなか迫力があって上手いのだ。

「ぺぇちゃ、こぁい、にゃい?」
「にゃい!!」
「よかっちゃ～」
「ぺぇちゃ、ふりょ、ちゅっき!」
「ふりょも、ぺぇちゃ、ちゅき!」

フローレンスが好きだと言ってくれた。前世で姉のように慕っていた人だ。嬉しすぎる。

「わたちも、ぺーちゃん、フロちゃん、しゅきよ!」
「にょあ、にゃぃ、ちゅっき!!」
「うふふ。ぺーちゃん、わたち、だいしゅきなのね」
「にゃ!」

ノアが喜んでくれて、マディソンはニコニコ笑っている。……あれ?

「かぁちゃ……?」

お母さんがいない。どこに行ったんだろうか?

「おかぁさま、おきゃくさまの、ところよ」
「ぅちゃきゅ?」
「しょうよ。おきゃくさま、おけがちてりゅから、わたちたち、ごあいさつ、できないの」
「ぅちぇぎゃ……?」

ノアが言うお客様って、まさか……っ、夢じゃなかった!?

「かぁちゃ、ぁうにゃい!!」



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イザベル視点


「エリス王女殿下、庭を散策出来るまでに回復されたと伺いましたが……」
「……お陰様で、少し、出歩けるようになりました……」

と言いつつ、今はベッドにいらっしゃるのよね。完全回復には程遠いようだけれど……

「ご無理はなさらないでくださいませね」
「はい……ありがとうございます」

相変わらず俯いたままですのね。やっぱり髪で表情が見えませんわ。

「では、御身体に障ってはいけませんので、わたくしはこれで」
「ディバイン公爵夫人……、もう少しだけ……、お話しませんか……?」

王女様に引き留められ、一旦立ち上がりかけた椅子に座り直す。

「どうかされましたか?」
「……ディバイン公爵夫人は、今……妊娠何ヶ月目でしょうか?」

唐突になんですの?

「半年ですけれど……」
「そうですか……半年……、フフッ」

王女様は突然笑い出す。

「あの、何かおかしな事でも言いましたでしょうか?」
「いえ……、あのディバイン公爵と、才能溢れるディバイン公爵夫人のお子様は……どれだけ優秀なのか、と思いました」

何だろう……。不気味な様子なのに、ちっとも警戒心がわかないのは、王女様がか弱く、心細そうだからだろうか。

「今、私の事……、何もできなそうだと思ったでしょう?」
「え……?」
「フフッ、フフフッ、そこの執事も、護衛も、侍女も、皆……私への警戒心、わかないでしょう」
「何を、言っておりますの?」

そういえばわたくし、この方の正体がわかっておりますのに、どうしてここに来てしまったのかしら……

「フフッ、ハハッ、私にもね……、お兄様から役立たずって言われている、私にも、たった一つだけ……特異魔法が使えるの」
「特異、魔法……」
「……『警戒心を無くす魔法』」

ニタリと笑って、わたくしを見た王女は、まるで別人のような顔をしていた。