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第二部 第5章
544.不自然
しおりを挟む「お姉様、エリス王女殿下からいただいた、ロギオン国の資料に、双子王の特異魔法がどのようなものだったか、書かれていました」
オリヴァーが、王女様からもらった資料の写しを手に、わたくしにそう教えてくれる。わたくしとオリヴァー用に、各二部ずつもらった写しだが、弟が言うように、双子王の特異魔法の詳細はどこにもなかったように思う。
首を傾げて弟を見るが、オリヴァーは自身満々といった風に頷いた。
「エリス王女は特異魔法については、双子王が同じ特異魔法持ちという事以外、何も仰っていなかったけれど……?」
「そうでしょうね。この資料にも、そのように書かれていました」
「?」
オリヴァーは何が言いたいのかしら?
「ですが、ここの一文を見てください」
ある一文を指差し、弟は真剣な顔でわたくしを見る。
「『我々が魔法を使う機会が訪れるのは、死ぬ時だけだろう』……これって、兄王の言葉ですわね」
「はい。その一文で、彼らの特異魔法は自身が亡くなる間際に使用できるものだという事がわかります」
「オリヴァー、これは特異魔法とは書いておりませんわ。生活魔法の事ではありませんの?」
王族は身の回りを世話する使用人がおりますから、生活魔法を使う必要はありませんし……。
「お姉様、それこそ死ぬ間際に生活魔法など使わないと思いますよ」
それもそうですわね。
「でしたら、死ぬ時くらいにしか使えない、大した能力ではない、という比喩ではありませんの?」
「そうとも考えられますが、大した事のない能力を、わざわざ比喩を使って書くでしょうか」
「確かに……。だからオリヴァーは、双子王の特異魔法が死ぬ時に使う魔法だと考えておりますのね」
我が弟ながら賢く育ったわ。などと感慨深い思いでいたのだが、オリヴァーは首を横に振るではないか。
「『死ぬ時だけだろう』という文に違和感があります。死ぬ時にしか使えないなら、死ぬ時に使う魔法だと、はっきり書くと思うんです」
オリヴァーは名探偵さながらに、推理していく。
「だから、彼らの特異魔法は死ぬ時だけでなく、他のタイミングでも使えるものだったのではないでしょうか」
なるほど。つまり、
「他のタイミングでも使えるけど、死ぬ時にしか使用する機会がないと言っているという事は、使ったら死んでしまう魔法という事……?」
「おそらくはそうでしょう。死ぬまではいかなくとも、それに近い状態になるのは間違いないかと」
かなりリスクの高い特異魔法ですわ。
「エリス王女や現ロギオン国王の能力から、精神に作用する魔法かと想像しておりましたが、全く違うのかもしれませんわね」
「自らの命を危険にさらすものですしね……」
わたくしたちの間に沈黙が流れる。
「……初代ロギオン国王の後は双子王の息子が2代目国王になっておりますわね。ただ、僅か1年で突然死しておりますわ」
「当時の主治医は、心臓の病だったと診断しているようです」
王族の突然死ほど怪しいものはないものだ。とはいえ、それがロギオン国の現在の闇に繋がるかはわからない。
「不自然なのは、三代から、歴代の王たちが似た行動をとっている事です」
オリヴァーの話に資料から顔を上げる。
似た行動?
「お姉様の見ている日記には書かれていませんが、当時の側近が書き残していたこちらの資料には、ほら、朝食には毎日必ずハチミツを一匙入れた牛の乳と、完熟フルーツを用意しなければならないと書かれています。しかも代が変わっても同様です」
「そうですわねぇ……」
オリヴァーが言う事はわかるのだけど、朝食にミルクやフルーツはよくある事ですのよね。
側近の記した資料をじっくり見ていたその時だ。
「ノア、次はノアがオーガだ。交代しよう!」
「はい! こーたい!」
窓の外から子供たちの楽しそうな声が聞こえてきた。
ノアたちは鬼ごっこ……いえ、オーガごっこを始めたみた、い……あら? これってもしかして……
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