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第二部 第5章
543.姉弟探偵始動
しおりを挟む「───それで、ロギオン国王がエンプティを影で操り、あのノアとぺーちゃんの誘拐を指示したというのですか!?」
これまでの経緯を書き出した紙を、オリヴァーに渡し説明していく。フロちゃん誘拐事件で、大枠は知っているオリヴァーも、まさかエンプティがロギオン国王の影のような存在だったと知って、言葉を失ったようだ。
「ええ。フロちゃんに関しては、ウィーヌス枢機卿……いえ、ウィーヌス様の独断だったようだけれど、ノアとぺーちゃんに関しては、特異魔法が使用できる事を、エンプティ側は知っていたみたい」
「ぺーちゃんも、特異魔法が使用できるのですか!? 赤ん坊ですよ!?」
祝福の儀を受けていないノアが、魔法を使える事も驚きなのに、とオリヴァーはまたしても口をあんぐり開けている。
「ぺーちゃんは赤ちゃんですもの。まだ使えないとは思いますわ。だけど、聖女様がご神託を受けられて、ぺーちゃんがそのご神託の人物なのは間違いないようなの」
「ぺーちゃんが、教皇になる人物だという事と、特異魔法と関係があるのですか?」
「ええ。ぺーちゃんが発現する特異魔法は、未来予知なのだそうよ」
神託では、未来を見る事が出来る者が、教皇になるという事だった。神託は教会関係者ならほとんどの者が知っているようだから、教会を拠点にしていたエンプティなら、情報も手に入れやすかっただろう。だから、ぺーちゃんの事はロギオン国王に筒抜けだった……。
「未来予知ができ、今は赤ん坊であるなら、御しやすいと考えたのでしょうか」
「ええ。未来予知なんて、一国の王からしたら喉から手が出るほど欲しいでしょうし、赤ちゃんなら思い通りに育てられると思ったのでしょうね」
未来予知の特異魔法が使用できるようになるのは、この世でぺーちゃん一人だろう。もしかしたら、特異魔法ではなく、何か別のものなのかもしれない。たとえばスキルとか。
「では、ノアはなぜ誘拐されたのでしょう……」
「ノアは、ディバイン公爵家の次期当主ですわ。氷の攻撃魔法が使えるようになる可能性は高いと踏んだのでしょう。そうでなくても、役立つ特異魔法が発現すると思われていても不思議ではありませんわ」
ディバイン公爵家の直系は、代々魔力が桁違いのようですし。
「わざわざ、外国の子供を拐うなんて、何がしたいのか、僕には理解できません」
「エンプティは特異魔法を持つ子供を集めて、幼い頃から殺し合いをさせ、生き残った者を王の影にするのですって」
「なんと非道な!」
オリヴァーは憤り、怒りに震えている。
優しい子だから、ロギオン国王の非道な行いが許せないのだろう。
わたくしも、許せませんもの。
「あの、お姉様やノア、ぺーちゃんを捕らえたと、ロギオン国王に報告しているんですよね?」
「ええ。わたくしたちを人質に、今度はお父様を脅しているようですの」
「それなら、ロギオン国王はお姉様たちに会わせろと言ってくるのではありませんか!?」
僕だったら、本当に捕らえたか自分の目で確認します! という弟に、同意見ですわ。と頷く。
「それに、一番解せないのは、皇后陛下を捕らえる暴挙に出た事です。ディバイン公爵家を狙うのも理解出来ませんが……」
「表向きはエンプティとロギオン国は無関係を装っておりますもの。関係がバレない自信があるようですわね」
「にしても、リスクが大きすぎますよ……」
そうですのよね。ロギオン国王は、差別意識があるからか、それとも他に理由があるのか、地位のある女性に対しての、コンプレックスのようなものを感じますのよ。
わたくしの研究室で、探偵もののドラマのように真剣に話し合っていると、扉がノックされた。
誰かしら?
「こん、こぉ~、かぁちゃ、ぺぇちゃ!」
ノックの後に、可愛いノック音を口にして、ぺーちゃんがわたくしを呼ぶではないか。
「あら、ぺーちゃん。お庭でノアたちと遊んでいたのではありませんの?」
扉を開けると、マディソンとサリーが立っており、マディソンの足元には羊を模したロンパースを着たぺーちゃんが、わたくしを見上げていたのだ。
垂れた耳と、もこもこの白いロンパースが、ぺーちゃんの可愛さをより引き立てており、つぶらな瞳が頬擦りしたくなるほどだ。
ノアとフロちゃんも一緒に着たら、きっと皆仕事が手につかなくなってしまいますわね。
そんな想像をしながら、羊のぺーちゃんを抱き上げた。
「にょあ、ちゅっ、にょ!」
「ちゅ?」
ノアがいないと、ぺーちゃんの言葉がふわっとしかわかりませんのよね……。
チラッとマディソンに視線をやれば、「ノア様は、イーニアス殿下と魔法の修行をされております」と教えてくれる。
「かぁちゃ、ぺぇちゃ、ぁちょ、う?」
「ぺーちゃん様は、奥様とおもちゃで遊びたいようなのです」
「まぁっ、遊びのお誘いですのね! もちろん、一緒に遊びましょう」
「にゃ!」
探偵業は可愛い羊さんが来た事で、待ったがかかってしまいましたのよ。
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