継母の心得 〜 番外編 〜

トール

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番外編 〜 ネロウディアスとアベル 〜 ノア5歳、アベル0歳

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ネロウディアス視点


「レーテ! ディバイン公爵夫人の子供が、タイラー子爵……いや、アベラルド様の生まれ変わりというのは本当なのだろうか!?」

朕にとってタイラー子爵は、洗脳してきた憎むべき相手ではないかと思われるが、本当の親に放置されていた朕を世話してくれた育ての親でもある。

洗脳は許せる事ではないが、多分洗脳されていなかったら、耐えられるような人生ではなかった。
きっとディバイン公爵のように女性を嫌いになっていただろうし、もしかしたら、部屋に引きこもって出てこれなかったかもしれぬ。
タイラー子爵……アベラルド様は、悪魔に利用されていた中でも、何とか朕を助けてくれようとしたのだろう。優しい人だったから。

それに、彼に世話をしてもらえなかったら、朕はきっと死んでいたに違いない。そういう意味でも、恩人だ。

あの方の優しい心を利用し、操っていた悪魔こそが、憎むべき敵なのだ。

「そうみたいよ。……どうしたい? あなたが会いたくないなら、会う必要はないけど」

レーテが気をつかってくれるが、朕はむしろ……

「会いたいのだ」


◇◇◇


「───おおっ、ディバイン公爵に似ているのだ!」
「本当。ノアちゃんほど瓜二つというわけではないけど、テオ様の面影があるわ!」
「公爵とは違い、感情が豊かそうなのだ」

小さな小さな赤ん坊は、ふにゃふにゃしていてとても可愛いのだ。

「貴族は感情を表に出さないよう教育されますので」
「公爵は出さなすぎなのだぞ。ディバイン公爵夫人はいつも明るいのに」
「ベルは特別です」
「朕のレーテも負けぬがな!」
「ベルには誰も勝てません」
「朕はレーテが一番美しく、優しく、明るく、賢い女性だと思うのだ」
「それはベルの事でしょう。ベルは私の女神です」
「レーテだって朕の女神なのだ!」

バチバチと朕と公爵の間で火花が散る。

公爵は夫人の事となると引かぬからな。ん? 思えば公爵が引いた所など見たことがない! 夫人のことでなくとも、大人げないのだ!

「ネロったら、テオ様に絡んで何をやってんのかしら」
「て、テオ様っ、なんて恥ずかしいことを言っておりますの!?」
「ぁぶ……」
「あら、あーちゃんも呆れてるわぁ」

よしよしと赤ん坊を抱き上げるレーテは、聖母のようだ。
やはりレーテが一番なのだぞ。

「ぁーう」

すると、赤ん坊がレーテの腕の中で朕をじっと見て、何か言っているではないか。

「アベル、もしかして皇帝陛下がわかりますの?」
「ぁぶ」

!? あ、アベラルド様は、朕を覚えているのか!?

あまりに嬉しくて、両手で自身の口を塞いでしまったのだ。
アベラルド様は、「ぁう、ぶー」とやはり朕に話しかけてくるではないか!

「イーニアス殿下にお会いした時も、とっても嬉しそうでしたし……、妖精たちは赤ん坊だから、まだ魂の記憶が表に出ているのかもしれないと話しておりましたわ」
「なんと!?」

やはりアベラルド様は朕を覚えて……っ

「そうです! 朕はアベラルド様に育ててもらった、あのネロウディアスです!」
「ぁぶ」
「覚えておいででしたか! ぅう……っ、朕は嬉しいのだ」

はらはらと涙を流していると、「陛下は赤ん坊に何を言っているんだ」と公爵の冷静な声が耳に届いた。

黙るのだ公爵。今、朕は感動の再会をしているのだぞ!

「ぁ~う」
「はい。あの時は本当にありがとうございました!」
「ぅぶ」
「そうそう、畑の耕し方も教えていただきましたね! お料理も! あ、掃除も裁縫も、今では得意です!」

懐かしいのだ。

「……ネロって本当に皇帝なのかしら」
「話を聞いておりますと、完全に庶民のお母さんですわね」「赤ん坊と会話しているのか?」

アベラルド様は、ぶぶっと口をならし、ヨダレを垂らす。

「前もお伝えしましたが、朕はアベラルド様に感謝しております」
「あぅあ~」
「……そして、生まれてきてくださって、ありがとうございます。今度こそ、皆が幸せに暮らせるよう、朕も頑張りますので、アベラルド様も、」
「ふぇ……っ、ふぇっ」
「!?」

あ、アベラルド様が泣いてしまったのだ!

「あーちゃんどうしたの。ネロが嫌だった? うっとおしくてごめんね~」
「酷いのだぞ!? レーテっ」
「ふぇ……っ」
「よしよし、やっぱり泣き止まないわね……イザベル様、あーちゃんはお母様がいいみたい」

レーテはそう言ってイザベル様の腕の中へとアベラルド様……いや、アベルをそっと返すと、あやすのを懐かしそうに見つめていた。

イーニアスの赤ん坊の頃を思い出しているのだろう。
本当は、レーテとなら、何人でも子供は欲しいが、朕の兄たちの事を思い出すと恐ろしい。

「……ネロ、イザベル様が、アベルちゃんが外出できるようになったら、公爵家の領都にある公園を案内してくれるって!」
「うぬ!? 公園とは、今建設中のあの公園か!」
「そうよ。色々面白そうなものがあるらしいから、今から楽しみよね!」
「うむ! 子供たちもきっと喜ぶのだ!」


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