継母の心得 〜 番外編 〜

トール

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番外編 〜 ノア3〜4歳 〜

番外編 〜 好き嫌い(大人視点) 〜 ノア4歳、イーニアス5歳

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ネロウディアス皇帝視点


「レーテ、大変なのだ!」
「なぁに? 騒がしいわね」

バタバタと廊下を走り、夫婦の部屋の扉を開けると、朕の美しい妻は、アロマオイルという心を落ち着ける精油を、カップのお湯の中に数滴垂らしてその香りにうっとりしている最中だった。

「レーテ、安らいでいる所すまぬのだ……でも、大変なのだ!」
「だから何が大変なのよ」

顔を上げ、朕を見るレーテは美しく、朕はドキドキしてしまうが、そうではない!

「イーニアスが……っ、朕の可愛いイーニアスが、牛乳が嫌いなのだ!!」




「───っていう事があってねぇ。知ってるっていうのよ」
「まぁ、皇帝陛下はご存知ありませんでしたのね」

ホホホッ、と笑い合いながら、遊びに来たディバイン公爵夫人に昨夜の朕の醜態を話すレーテ……酷いのだ。

「そうなの。だってイーニアスってば、牛乳を加工したものは大丈夫なんですもの。だからわからなかったみたいよ」
「牛乳そのものだけが苦手な子は多いですわ」

特に牛乳に含まれるある成分を消化する力が弱いと、お腹を壊す事がありますのよ。と、イーニアスが牛乳嫌いな事を当然のように知っていたディバイン公爵夫人が教えてくれる。

牛乳を飲むとお腹を壊す……

「つまり、牛乳はイーニアスにとって毒ということか!?」

あわわ、と顔から血の気が引いた。

「牛乳をイーニアスの食卓から全て排除せねば!」
「エェ!? お待ちくださいませっ、陛下! 牛乳は毒ではありませんわ!」

朕の言葉にディバイン公爵夫人が慌てて声を張り上げた。

「よろしいですか。お腹を壊しやすい子の場合は、牛乳を数回にわけて飲むか、温める、または何かに混ぜて飲んだり、チーズやヨーグルトに加工して摂取すれば、お腹は壊しませんの。むしろ栄養満点の食べ物(飲み物)ですのよ」

そ、そうなのか!?

「そうよネロ。イーニアスは牛乳そのものが苦手なだけで、加工品はよく食べているじゃない。早合点しすぎよ」
「しかしレーテ、イーニアスは普段好き嫌いなどしない子なのだ。だからこそ、朕は心配で……」
「まったく、過保護なんだから」

呆れたように息を吐くレーテに、ディバイン公爵夫人は苦笑いだ。

「そうだ、ディバイン公爵夫人、ノアは好き嫌いをせぬのか? 公爵家では、好き嫌いに関してどのような対応をしているのか聞きたいのだ」

あの公爵は絶対嫌いなものはなさそうだが、可愛らしいノアならばあるだろうと、参考に聞いて見る事にした。

「そうですわね……ノアは、鳥の皮の部分が苦手なようですの」

頬に手を当て、困ったように眉を八の字にした夫人は、そう言って朕とレーテを見る。

「皮が? なるほど、上手く処理をせねば臭みもでる上、油っぽく、ブニブニとした食感と、噛み切れぬところが苦手なのだろうか……」
「あんた、随分詳しいわね。もしかして、苦手なんじゃないでしょうね……」
「ギクッ」
「ギクッ、じゃないわよ。まったく」

うぅ……っ、朕は食べられぬわけではないのだ。好んで食べぬだけで。

「ノアは、頑張って食べようとするのですが、あの小さなお口に入れてずっともぐもぐさせていると、だんだん涙目になってくるのです。無理はしなくても良いと言っても頑張るものですから、可哀想になってきて……」
「ノアちゃんったら、なんて健気なの……っ」

それは確かに可哀想なのだ……、もしイーニアスがそんな事をしていたら、朕は……、吐き出しても良いと言ってしまう!

「そんな事があったものですから、わたくし、鳥皮を美味しく食べられる方法を考えたのですわ」
「そんな方法があるのか!?」

その方法なら、朕も美味しく食べられるのだろうか!?

「ディバイン公爵夫人、その方法を教えてくれないだろうか!?」
「はい。まず、臭みでないよう、下処理をきちんとするのは当然ですが、出来るだけ皮をパリっと焼くのです。そうすると、噛み切れやすくなり、臭みも気にならなくなりますわ」
「ふむ……シェフはふっくら焼き上げるものが多かったが……パリッとだな」
「はい。皮面はパリッとです。そして、味の少し濃いソースで味をつけますの。これは、照り焼きという料理ですわ」
「てりやき?」
「味は濃いめですから、パンや付け合せのマッシュポテトととても合いますの。ノアも、照り焼きにすると、皮まで美味しいと食べてくれるようになりましたのよ!」

なんと!

「ディバイン公爵夫人、ぜひレシピを教えてもらいたいのだ!」
「もちろんですわ。お試しください」



こうして、朕は照り焼きにハマッてしまい、暫く色んな照り焼き料理が登場し、子供たちにもレーテにも大好評だった。

「ちちうえのおりょうり、だいすきです!」

うむ。イーニアスが喜んでくれる事が、朕の幸せなのだ!


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