継母の心得 〜 番外編 〜

トール

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番外編 〜 ノア3〜4歳 〜

番外編 〜 天使たちのしゅぎょお4 〜 ノア4歳

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手伝ってくれるという子供たちの言葉に甘え、「マナーのしゅぎょおですわよ」と子供たちのやる気を煽って、女性のエスコートの仕方を教えこみ、結果めちゃくちゃ可愛らしい紳士が二人出来上がったのだが……、

可愛すぎてわたくしが悶えてしまいますわ!!

「おかぁさま、わたち、いってくるのよ!」

気合いを入れる愛息子のほっぺをツンツンしたくなる。しかし、ここでそれをやってしまえば、プンプンに怒らせかねないのでぐっと我慢した。

『ノア~、ガンバッテ』

チロがノアのほっぺにチュッとしているので、ちょっと羨ましい。

「はい! アオ、いくのよ」
『アオ、いきまーす!!』

何でアオ!?

当然のようにアオを連れて行くノアにぎょっとした。よく見ると、イーニアス殿下の足元にも赤いおばけキノコがひょこひょこ歩いているではないか……。

「ハリス、こおしゃくふじん、こんにちわ」
「まぁ! もしかして、ディバイン公爵家の公子様でいらっしゃいますか?」
「はい! はしめまちて。ジ…、ディバインこおしゃくがいっし、ノア・きんばりぃ・ディバインでしゅ!」
「はぁぁん! なんて可愛らしい……っ、あ、私は、ハリス侯爵の妻、マリー・ゴールディ・ハリスと申します。イーニアス殿下と公子様のお可愛らしさは、社交界でも噂になっておりました。まさか、この目で見られる日がくるなんて……っ」

そのお気持ち、分かりますわ。ハリス夫人!!

「わたちも、でんかといっしょに、あんない、しゅるのよ!」

そう言って、一輪のお花をハリス侯爵夫人に渡したノアに、夫人は撃沈したのだ。

「ガブッ」

見事、“しゅぎょお”の成果を出し切りましたわね。我が子ながら、恐ろしい子!

「この瞬間を切り取りたいわ! 絵師を連れて来ればよかった!」

本当に!!

「……て、エェ!? 皇后様っ、こんな所で何をしていますの!?」
「やだわぁ。イザベル様がお花摘みから戻って来ないから、様子を見に来たんじゃない。こんな可愛らしい所を覗き見なんて、一人だけずるいわよ!」

皇城の内庭がある廊下を愛息子とイーニアス殿下がエスコートしていく様を、庭の木に隠れて見ていれば、いつの間にか皇后様が後ろに立っていたのだ。

「……お客様はどうされたのですか」
「今はそれぞれお茶とお菓子を楽しんでるわよ。アタシはお花摘み!」

そんなドヤ顔をして言う事ではございませんのよ。

「それにしても、宰相がまさか家に帰ってないなんて思わなかったわ。夫人にも悪い事しちゃったわね」
「ハリス夫人も、皇城の人材不足は理解されているとは思いますの。ですが、ずっと家に帰って来ないとなると、心配にもなりますわ。わたくしも、テオ様が帰って来なかったらと思うと……寂しいですもの」
「だから、夫人の職場見学なんて考えたのね」

そうなのだ。今日集まってもらったのはハリス侯爵夫人だけではない。城で働く文官の奥様方皆を集めた夫の職場見学というのを企画したのだ!

最初は戸惑いと、帰って来ない夫たちに、皆様の不満が爆発しそうだったのだが、ノアとイーニアス殿下の可愛らしいエスコートで、気持ちが幾分か穏やかになっているので、皆様和気あいあいとお茶を楽しんでいるのだけど……本当に、家に帰っていない文官の多い事!

多分今頃、奥様方を集めた会場では、どこの夫も帰れていないと分かって、皆様ホッとしているんじゃないかしら。

「皇后様、最後のお客様、ハリス侯爵夫人も来られましたし、会場に戻りましょう」

わたくしは、皇后様を連れて、奥様方が集まっている会場へと踵を返したのだ。



「───皆様、本日はよく集まってくださったわね!」

ハリス侯爵夫人が来た事で、合計50人が皆揃い、皇后様が挨拶されている。その様相はまるで、大規模なお茶会だ。
いつもと違うのは、貴族だけでなく、騎士爵や男爵家などの奥方も多く見受けられる所だろうか。

「大粛正からこちら、ご主人が家に帰って来ないと、皆様が不安に思っているのではないかと、今回の集まりを企画いたしましたわ! 本当は仕事量を少なくしてあげるのが一番なんでしょうけど、今はどの部署も人材不足でなかなか難しいの。だから、今日はご主人がどんな風に仕事をしているのか、ありのままを見てもらおうと思うのよ。そして……」

部屋の隅にいた天使たちが、皇后様のアイコンタクトで前に出てきて、皇后様の横に並ぶ。

「案内は引き続き、この可愛らしい紳士たちがしてくれるわよ!」
「「よろち(し)く、おねがいします!」」

二人が頭を下げた瞬間、御婦人方がキャーッ と黄色い悲鳴を上げた。

「なんて可愛らしいのかしら!」
「私もあんな可愛い子供が欲しい!」
「もう……っ、もう……っ、メロメロよ~!!」

などと聞こえてきて、思わずうんうんと頷いてしまった。

そして始まった夫の職場見学では、妻の前で張り切った夫たちにより、その日の仕事はかなり捗ったらしく、久々に皆が帰路に着けたのだとか。

その後、愛妻から「もう一人子供が欲しいわ」と言われた夫たちが張り切って、ベビーブームが到来するのだが、それはまた別のお話。

勿論、テオ様が書類のフォーマットを統一したり、手続きを簡易化するという画期的な改革を行った事により、労働環境は改善され、ハリス侯爵夫妻だけでなく、どこのご夫婦の仲も深まったのだとか。

「頭髪は復活しませんでしたが、夫婦仲は復活して良うございましたわ」


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