継母の心得 〜 番外編 〜

トール

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番外編 〜ノア5歳〜 〜

番外編 〜 シモンズ伯爵家の事情4 〜 ノア5歳、イザベル出産間近

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「これは、エンツォ・リー・シモンズが父を脅迫し、書かせた書類よりも後に書かれたものです! これを皇室の鑑定士に見せた所、本物だと認めてもらえました!」

高々と羊皮紙を掲げる男に、皇帝陛下も皇后様も冷たい視線を送る。
傍聴席の貴族たちも、困惑し、ざわついているが、男は気にせず喋り続けていた。

「……では続いて、被告側の弁護人」

「弁護人を引き受けたテオバルド・アロイス・ディバインです」
『テオだ!!』

法廷に堂々たる姿で入室したテオ様に、アオが声を上げる。よく見ると皇后様は口を押さえ、顔を真っ赤にしているではないか。隣の皇帝陛下が心配そうに皇后様に声をかけているが、皇后様は興奮を隠せないようだ。
もちろん、突然のテオ様の登場に、原告の顔は引きつり、傍聴席の貴族たちも騒然としだす。特にご婦人方は違う意味で騒然としていた。

「まず、シモンズ伯爵家前当主についてだが、前当主と親交のあったタフーリ辺境伯から、バルバーリ子爵の持っている書類の日付の頃に、病で倒れた前当主を見舞っていたと証言を得ている。もちろん、証拠となる日記もお借りしており、その日の日記には、文字も書くことが出来ぬほど衰弱していた。とある。さらに、ヴィヴェンツィ男爵、アバーテ伯爵からも同様の証言をいただいている」
「その日記が本当にその日に書かれたものかもわからないではないか! 証拠としては弱いだろうっ」
「原告は勝手な発言を控えてください。弁護人、続けてください」

裁判官が騒ぐイルデブランド・ウーゴ・バルバーリに注意をすると、渋々引き下がるが、裁判が始まった時と違い、イライラしてきているようで落ち着きがない。

「さらに、当時前当主は印章のインクに特殊なものを使用しており、エンツォ・リー・シモンズ伯爵の提出された書類にももちろんそのインクが使用された印章が押されていた。そのインクは皇室に過去数十年に渡って提出された印章付きの書類を確認したところ、全てに使われていた事も調査によって発覚している」

テオ様は無表情で淡々と証拠を並び立てていく。
ノアはそんな父親を、目を輝かせて見つめていた。

ノアがこんな瞳でテオ様を見るなんて、テオ様の魔法を見た時以来かしら。

「フンッ、インクなど気分によって変える事もあるだろう!」
「原告は勝手な発言を控えてください。これで三度目です。もし次に勝手な発言をした場合、退出していただきます」
「チッ」

まぁ警告されて悪態をついておりますわ……。余計裁判官の心象が悪くなりますのに。

「───そして最後に、そちらの書類が偽造されているものだという証拠を得ている。裁判官、証人をこちらに呼びたいので、入室の許可をいただきたい」

テオ様の予想だにしない言葉に法廷が騒然とした。
裁判官ですら戸惑い、話し合いを始めてしまったのだ。

夫と父に注視していたが、テオ様はまだしも、お父様まで一切動揺していないではないか。

どういう事かしら……。先程のアオの言葉といい、2週間前のテオ様の態度といい、こうなる事を知っていたとしか思えないですわ。

「おかぁさま、おとぅさま、かっこいいの」
「まぁっ、ノア、お父様が格好良いと思いましたの?」

ノアがこんな事を言うのは初めてではないかしら!

わたくしの言葉に、少しだけ恥ずかしそうに頷くノアを抱き寄せる。

テオ様に長年放置されて、和解したとはいえ、二人の間にはどうしても埋められない溝が出来ていたのには気付いていましたわ。それが、この子の口から「かっこいい」という言葉が聞けるなんて……っ

「ノア、お父様の格好良い所を見逃さないようにしましょう」
「はい! わたし、おとぅさまがんばれって、おーえんするの!」
「そうね。お母様と一緒に応援ですわよ」
『アオも!!』
『チロも~』

わたくしたちが盛り上がっていると、裁判官に認められ、証人が……あら? 縛られておりますわ? あれが、証人ですの!?

後ろに手を回され、縛られた男が、衛兵に連れられやって来たではないか。

「な!? お、お前……っ」

イルデブランド・ウーゴ・バルバーリが驚愕した表情でその人物を見て、口をパクパクさせている。

「この者は、別件で捕縛した犯罪者だが、捕縛後の家宅捜索で、多数の印章が発見された。どうやらこの男は、印章を偽造し、さらに偽造品の複製をコレクションのように保管していたようだ」
「何ですと!?」
「まさか印章の偽造!?」
「印章の偽造は死刑だぞ!」

テオ様の話にその場が騒然とする。縛られた男は、青い顔をして震え、足に力が入っていないのかへたり込んでしまった。

「その中に、シモンズ伯爵家の印章もあり、問い質した所、イルデブランド・ウーゴ・バルバーリが発注したと口を割った」

偽造印章の複製品が、衛兵から裁判官の手に渡り、裁判官は目を丸くしてそれを確認している。

「な!? ち、違うっ、私は偽造などしていない!! 私は……っ」
「この男は、自分の彫った印章に、鑑定士でもわからぬような目印を付けているようでな。自らそれを“星”と呼んでいた」
「ディバイン公爵、その目印というのは、どういったものでしょうか」
「印章の右下に、かすかな点があるようだ。ゴミの跡のようだが、よく見るとギザギザした点らしい」
「原告の証拠書類をこちらに!」

裁判官が慌ただしく動き出し、書類を見て叫ぶ。

「ありました!! 印章の右下にゴミのような跡……よく見ればギザギザの点です!!」

裁判官たちの言葉に、またもや傍聴席が騒然としだす。

「は、嵌められた……っそう、エンツォ・リー・シモンズに嵌められたのだ!!」
「往生際が悪いぞ。イルデブランド・ウーゴ・バルバーリ。すでにお前の邸を家宅捜索し、偽造印章を発見している」
「!? バカな……っ、そうか、わかったぞ! ディバイン公爵も、エンツォ・リー・シモンズと共謀し、私を嵌めようとしているのだ!」

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