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番外編 〜ノア5歳〜 〜
番外編 〜 シモンズ伯爵家の事情3 〜 ノア5歳、イザベル出産間近
「静粛に! それでは、裁判を始めます! エンツォ・リー・シモンズ伯爵、前へお越しください」
皇城の貴族裁判専用の部屋。厳粛な雰囲気が漂うそこに呼び出された父は、多くの貴族が見守る中、ゆっくりと登場した。
法廷内で一段高くなっている法壇の真ん中には裁判長が座り、そのサイドに裁判官が座って父を見下ろしている。
優しい父をこんな場所に引っ張り出すなんて……っ
原告人であるイルデブランド・ウーゴ・バルバーリは、原告席に座り、ニヤニヤと笑っている。
「ベル、君は絶対にここから動かないように。ノア、お母様をしっかり守ってくれ」
「はい! おかぁさま、まもる!」
『アオもいる!! アオもまもる!!』
『チロも~』
まぁ、素敵な騎士たちに守ってもらえるのね。
特別傍聴席と言って、他の貴族とは少し離れた特別席に座ったわたくしたちは、多分とても目立っている。
妊婦も子供も、裁判を傍聴する事はないからだ。
「では行ってくる」
「テオ様、父の事をお願いいたします」
「もちろんだ」
テオ様の後ろ姿を見ながら、わたくしは今日までにあった事を思い出していた───
── 2週間前 ──
産み月(臨月)まであと少しという時、皇后様からの妖精通信で、今父がどのような状況なのかを知ったわたくしは、皇后様に証拠の書類を見せてほしいとお願いしたのだけど、イルデブランド・ウーゴ・バルバーリ本人が持っているという事で、すぐに見せていただく事はできずにいた。
印章付きの書類で考えられるのは、
一、印章が押された紙を何らかの形で手に入れた
二、文章を自分で書いた
三、元々書かれていた文章に偽造の印章を押した
四、文章も印章も偽造
五、文章も印章も本物
のどれかだ。
前当主が書いたと言われる書類を見せてもらわなければ何とも言えないが、最後の文章も印章も本物という事はあり得ないだろう。
お父様は伯爵家の当主の座に拘るような方ではないし、その座を押し付けられるほどのお人好しなのだから。
「ベル、まだ休んでいなかったのか?」
仕事を終えたテオ様が寝室に入ってくる。
「テオ様……」
「何があった……?」
テオ様は、顔を見た途端足早にそばへとやって来て、わたくしの顎をそっと掴むと自分の方へ向けたのだ。
あごクイですわ! わたくし、夫にあごクイされましたわ!
「ベル、何があったんだ。何か悩みがあるような顔をしている」
ハッ! あごクイの事を考えている場合ではありませんでしたわ。
「テオ様、実は……」
わたくしは先程の皇后様のお話を伝えたのだ。
するとテオ様は、「君は何も心配しなくていい。全て私に任せて、無事に出産する事を考えてくれ」と言われたのだ。
「ですがテオ様、どう解決するのか、教えてくださらないと逆に気になってしまって、わたくし心配ですわ」
「……わかった。随時報告はする。だから何があっても君は何もしないでほしい」
何だかテオ様の言い方……この問題を知っていたような……。
「ベル、大丈夫だ。私を信じてほしい───」
こうして、裁判当日がやって来たのだ。
お父様が裁判にかけられると聞いたわたくしとノアは、心配のあまり皇后様に頼み込み、転移で皇城へとやって来てテオ様に捕まり、特別傍聴席へと案内されたのがここにいる顛末である。
「おかぁさま、さいばん、なぁに? おじぃさま、どおしてあそこ、いるの?」
「裁判というのはね、紛争や犯罪が行われた場合、裁判所にうったえられた人を、あの一段高い所にいる裁判官という人たちが、国の法律……ルールにもとづいてあなたは悪い事をしたから何年牢屋に入りなさいっていうように決めることですわ」
「おじぃさま、わるいこと、しないのよ」
「ええ。ノアの言う通り、おじいさまは悪い事などしておりませんの。あそこに座っている人が、おじいさまが悪い事をしたと勘違いして、ここにおじいさまを連れてきてしまったのよ」
イルデブランド・ウーゴ・バルバーリの座っている場所を見ると、ノアは、
「おじぃさま、やさしいのよ。わるいこと、ぜったいしないの」
『あいつうそつき!!』
「ええ。だから今から、テオ様がおじいさまは悪い事をしていませんって、皆に教えてあげるのですわ」
『テオのわな、あいつはまった!! もーにげられない!!』
アオ、それはどういう意味ですの?
「───事により、原告はエンツォ・リー・シモンズのシモンズ伯爵家当主の継承を不当とし、ここに訴えたものである。被告、エンツォ・リー・シモンズはこれに異議はあるか」
「私は前当主から伯爵家を継承しました。継承に関する書類は全て皇室に保管されており、調査していただければ違法性はないとわかってもらえると思います」
「だからその書類はお前が父を脅迫して書かせたものだろう!」
「原告人は勝手な発言は控えてください。続いて、原告側の証拠書類の提出をお願いします」
始まった裁判は、皇帝陛下や皇后様も見守る中、淡々と進んでいる。
そして、例の証拠書類というものが裁判官に自信満々に提出されたのだ。
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