継母の心得 〜 番外編 〜

トール

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番外編 〜ノア5歳〜 〜

番外編 〜 イザベルの里帰り3 〜

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「夢に潜るって……危険はないんですの!?」
「心配はございません。カーラは闇の神獣。夢のスペシャリストです」

夢のスペシャリスト!?

「それでは二時間ほど、アベル様をお預かりします」

ちょっと不安だけれど、サリーとカーラだもの……大丈夫よね。

「ええ。アベルの事、お願いしますわね」
「承知しました」

サリーはアベルを連れてカーラの所へ行ってしまった。恐らく、裏庭に面したカーラの部屋だろう。
あそこは部屋から裏庭に出られるからと、母もよくお邪魔していたのよね。

「さぁノア、おじいちゃんと遊ぼう!」
「はい!」

お父様とノアはこれから遊ぶ気満々で、お父様の補佐官が「旦那様!? 執務が……」と泣きそうな顔をしているのだけど、補佐官には残念な事かもしれないが、ノアがいる一週間は仕事をする気はないだろう。

父は、家族と遊ぶ時はとことん遊ぶというスタンスの人だから。

「何して遊ぼうか?」
「あのね、あのね、おにわで、かくれんぼ!」
「そうか! じゃあ、かくれんぼをしにお庭へ行こうね」
「はーい!」

あら、二人ともお庭に行くのね……え、もしかして裏庭かしら? カーラの部屋のすぐそばで遊ぶつもりなの??

何だか嫌な予感がして、二人の後を急いで追ったのだ───……




「だめー! アベルに、ちかじゅいた……っ、だめー!!」

嫌な予感が的中したのか、ノアの大声が聞こえ、急いで見に行くと、カーラの部屋のベッドの上に、ノアとアベルが寝かされていた。

これは、どういう状況ですの!?

そばにはサリーと、何が起こったのかわからず困惑する父とノアの護衛の姿があったのだ。

「何がありましたの!?」

呆然と立っている三人に声を掛けると、父が首を傾げこう言った。

「ノアがね、サリーがアベルをベッドに寝かせているのを見て、急に叫んで……突然気を失うように眠ってしまったんだ」

え?

「気を失う!? ノア……、ノアは大丈夫ですの!?」
「見てごらん。幸せそうにすやすや眠っているよ」

父の言葉に、ベッドの上のノアを見ると、それはもう幸せそうに、ぴすぴすと鼻息をたてて、眠っていた。

「馬車の移動で疲れていたのかな? このまま眠らせてあげよう」

そう言って父は部屋を出ていき、護衛は部屋の扉の外側へと移動したのだ。

「……サリー、一体何がありましたの?」
「お嬢様……、実はカーラが神獣の姿でアベル様の夢に入ろうとしていた時、ノア様がそれを目撃してしまったようで、アベル様が獣に襲われていると勘違いし、そのままカーラに触れて一緒に夢の中へと入ってしまわれたのです……」

な、何ですって!?

「ノアが、アベルの夢の中に入った!?」
「正確には、ノア様とアベル様の夢が繋がった状態です」
「危険は!? 危険な事はありませんの!?」
「カーラがおりますので問題ございません」

サリーはそう言うが、わたくしは心配でたまらない。

「ノア……」

一見すやすや眠っているノアの手を握り、無事に夢から醒めてくれる事を願うしか出来ない自分に、苛立ちが募る。

「お嬢様、大丈夫です。眠っているだけですので、二時間経てばすっきり目覚めます」
「それは、確実なの?」
「はい」

サリーが言うのだからそうなのだろう。

「わかりましたわ。でも、予想外の事だったから……わたくしは、ノアとアベルのそばにいますわね」
「……承知しました」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



ノア視点


「───ここは……」

私は先程まで戦場にいたはず……、ここは一体……

『ノア様、ご無事で何よりです』
「!?」

いつからいたのか、私のそばには大きな黒豹が座っていて、こちらをじっと見ていた……。

「喋った……?」
『私はカーラ。闇の神獣です』
「人間の言葉を、喋った……っ」
『神獣ですから。それより、予想外だったのは夢の中のノア様のお姿です。まさか“魂の記憶”が呼び起こされるとは……』

魂の記憶……? 何だそれは……いや、それより神獣??

『ここはあなた様と、あなた様の弟君の夢の中なのです』
「夢……そうか、どうりで現実味が感じられないと思っていた」

私に弟はいないし、獣が喋るなんて……夢に違いない。
明晰夢というものだろうか。

『あなたは私が弟君を襲っていると勘違いされ、丁度夢の中に入ろうとしていた私に触れてしまい、精神が一緒にダイブしてしまったのです』

夢とはいえ、話が突飛すぎてわからない。

「あの、カーラ……と呼んでも?」
『はい』

黒豹は頷くと、長い尻尾をゆったり揺らした。

「ではカーラ、ここは……なんというか随分……変わった場所のようだけど」
『お菓子で出来た街ですね。可愛らしいです』

私は、何故こんな子供のような夢を見ているのだろうか……。

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