継母の心得 〜 番外編 〜

トール

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番外編 〜ノア5歳〜 〜

番外編 〜 イザベルの里帰り2 〜

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サリーとカーラは、アベルが闇の女神の力をどれだけ継いでいるのか確かめたいのだと言っていたけれど……、アベラルド様の生まれ変わりだから、闇とは正反対の光属性なのよね。

「イザベルの部屋はそのままにしているから、ノアはとりあえず君の部屋で寝かせておこうね」

お父様は嬉しそうに言って先導してくれる。

屋敷の中はわたくしがいた頃とは違い、目に見えるほど美しく修繕されていた。
そのままにしていると言っていたわたくしの部屋は、綺麗に掃除されているものの、使っていた時代遅れのドレッサーも、クローゼットも、ベッドも、本当にそのままだった。

「結婚式の朝のままですのね……」
「ああ。掃除はしてもらっているけれどね……、君の部屋だから」
「そうですのね……」

サリーに梳かしてもらっていた櫛もそのまま置かれ、あの日のバタバタした早朝を思い出した。

「閣下がもし、君を不幸にするような事があれば、いつでも連れ戻す気でいたんだけどね」

と笑いながら、ノアをわたくしのベッドへと寝かせると、「その必要もないようだ」と、優しい眼差しですやすや眠るノアを見つめ、布団をそっとかけてあげる父の後ろ姿に、涙が込み上げた。

「お父様、ありがとう存じますわ」

そう伝えた時、父はわたくしに後ろ姿を見せていて、何も言わなかったけれど、その無言の時間が何故か心地良い気がした。

その後リビングへと移り、お父様の補佐官と初めて顔合わせをし、昔から働いてくれている執事(今は執事長)に挨拶している間、お父様はアベルをずっと抱っこしていた。

「オリヴァーが生まれた時を思い出すなぁ」と懐かしそうにつぶやきながら目尻を下げる父は、孫バカなおじいちゃんだ。

おじいちゃんというにはまだ若いのだけれどね。

「マディソン、あなたは馬車の移動で疲れているでしょう。今日はもう、アベルのお世話はサリーとカーラに任せてゆっくり休んでちょうだい」と責任感の強いマディソンが渋るなか、「明日からまた、アベルのお世話をお願いしますわ」と半ば無理矢理休ませる。

こうでもしないと、マディソンは休もうとしないのですもの。カミラもなかなか長期で休もうとしないから、今回は里帰りするタイミングで、良い機会だと思い、一週間有給休暇を取らせたのよね。
「そんなにお休みをいただいたら、クビになったんだと家族に誤解されます!」と言っていたけれど、大丈夫だったかしら。

「そうだ、お父様。ノアが起きてきましたら、遊んであげてくださいましね。ノアったら、お父様と遊ぶのを楽しみにしておりましたのよ」
「そうなのかい。もちろんだよ!」

嬉しそうに返事をするお父様も、どうやらノアと遊ぶのを楽しみにしていたようだ。

そして、一時間後、ノアが目を擦りながらサリーに連れられ起きてきた。

「おかぁさま、めっよ。どぉして、すぐ、おこしてくれないの?」

寝起きで、ご機嫌斜めなのか、シモンズ邸に着いてすぐ起こしてもらえなかったことに怒っているようだった。

真剣に怒っている息子には不謹慎かもしれないけれど、ノアの「めっ」は可愛いですわ。

「まぁ、ノア、もしかしてぷんぷんしておりますの?」
「はい。わたし、ぷんぷんしてるのよ」

と言いながら抱きついてくるノアを、膝の上に乗せる。

「あらあら、ごめんなさいね。お母様が悪かったわ」

ノアに謝ると、ノアはハッとしてわたくしの顔を見る。

「……おかぁさま、わるくないの。ぷんぷん、ごめんなさい」

あら、ノアったらもうぷんぷんがなくなりましたのね。

「フフッ、ぷんぷんしているノアも可愛かったですわ」
「ぷんぷん、はずかし……ごめんなさぃ」

ぎゅうっと、わたくしに抱きついてくる息子が可愛すぎますわよ。

「ノア、起きたんだね。おじいちゃんにも抱っこさせてくれないかな?」

と手を広げたお父様に、ノアはぱぁっと表情を明るくし、わたくしの膝から降りるとお父様に抱きついた。

何だか負けた気分だわ。

「おじぃさま、あいたかったの!」
「私もだよ。おおっ、この間よりも大きくなっているね」
「あのね、わたしね、せがのびたのよ!」
「それはすごい! どのくらい伸びたかな?」
「しゅ、すごーい、のびたの!」

実際は、この間より1センチ伸びただけなのだけど、ノアはすごく伸びたのだと自慢している。

「どれ、ああ、本当だ! 重くなってるね!」
「きゃーっ」

ノアを持ち上げ、高い高いをする父と、それにきゃーきゃーと喜んでいるノアを眺めつつ、アベルを抱っこしているサリーにも目をやる。

「サリー、アベルはどうですの?」
「どう、とは?」

首を傾げるサリーに、わたくしも首を傾げる。

「サリーが、アベルの力を確認したいから連れて来いと言いましたわよね?」
「確かにそうお伝えしましたが、見ただけでわかるものではありません」
「そうなんですの!? わたくしてっきり、オーラとか気のようなものでわかるものとばかり思っておりましたわ……」
「属性ならばそんな感じでわかりますが」
「わかるんですの!?」

前世のマンガのような事が、現実に出来る人をこの目で見れるなんて!

「というわけで、暫くアベル様をカーラのもとに預けますのでご了承ください」
「暫くってどれくらいですの?」
「二時間ほどでしょうか。カーラがアベル様の夢に潜って、潜在能力、セレーネ様の力の影響などを調べます」

ゆ、夢に潜るんですの!?

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