継母の心得 〜 番外編 〜

トール

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番外編 〜ノア5歳〜 〜

番外編 〜 イザベルの里帰り1 〜

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「ベル、私も仕事を終えたらすぐに追いかけるから、待っていてくれ……」

夫が今にも泣きそうな様子で、手を伸ばし訴えてくる。

「テオ様、無理はなさらず、お仕事はきちんと終わらせてくださいませ」
「絶対に行く。いや、私が仕事を終えてから、揃って行った方が良いのではないか。ベルと子供たちだけの旅は危険だろう」

あれだけ話し合った事をまた掘り返す夫に溜め息が出そうになるけど、テオ様は繊細な人だから態度に出すわけにもいかない。

「テオ様、わたくし隣の領地の実家に一週間ほど顔を出すだけですのよ。それに、テオ様を待っていたらいつまでも帰れない気がしますわ」
「そんな事はない。一日……いや、二日で終わらせるから、一緒に、」
「もう父に今日行くと伝えてありますわ。ノアも楽しみにしていますのよ」
「わたし、おじぃさまと、たくさーん、あそぶのよ!」

祖父に会う事を楽しみにしている息子は、ニコニコとご機嫌だ。

「そうですわね。お祖父様と沢山遊びましょう」
「アベルは、まだ旅は難しいんじゃないのか?」
「新型馬車はそこまで揺れませんし、ベッドにもなりますから、生まれて半年のアベルも大丈夫ですわ」

これももう何度も言っているのだが、余程私たちと離れたくないらしい。

「テオ様、夫婦喧嘩の末の里帰りというわけではないのですから、そのように悲しそうなお顔をなさらないで」
「当然だ。だが、君と、子供たちと離れるのは、わずかの間とはいえ辛い……」
「わたくしもですわ。でも、お仕事はあまり根を詰めず、無理だけはなさらないで」
「ああ……」

駄々を捏ねる夫を宥めて馬車に乗る。
早速ベッドになっていたそこへ、すでにふかふかの布団が敷かれていたので、マディソンがやってくれたのだろう。相変わらず、その優秀さに感心させられる。

アベルをそっと布団の上に寝かせ、その隣にノアがちょこんと座った。

「アベル、ばしゃ、たのしみね!」
「ぁう……」
「アベルに、おうた、うたってあげるのよ」

お兄ちゃんは弟の為にお歌を歌ってくれるらしい。

「なんのお歌を歌ってあげるんですの?」
「おんぷの、おうた!」
『アオもうたうー!!』

と、可愛いノアとアオの歌声に合わせるように、馬車は軽やかに出発したのだ。



隣の領地までは、休憩を取りながら数時間。
懐かしい景色に目を細める。

ノアは歌い疲れたのか、アベルの横で眠ってしまった。アオもノアの抱きまくらになって眠っている。
アベルは、あぶあぶと言いながら、眠ったノアの髪を触って喜んでいた。

なんて可愛い子たちなのかしら。あのテオ様に、離れるのが辛いと言わしめるだけはありますわ。

「奥様、シモンズ伯爵邸へ到着いたしました」

ノアが眠っていたので、わたくしがノアを、マディソンがアベルを抱っこして馬車を降りる。ノアの重さに成長を感じ、胸がいっぱいになった。

「イザベル!」

玄関の前にはお父様が、その後ろにはサリーとカーラが迎えに出てくれていて、懐かしい顔に涙が込み上げた。

家を出てそれほども経っていないというのに。

「イザベル、お帰り! ああ、ノアは眠ってしまったのか。アベルも連れて帰ったんだね!」

お父様は嬉しそうに、わたくしからノアを奪ったのだ。

まぁっ、お父様ったらすっかり可愛い孫の虜なのだから!

「お嬢様、お帰りなさいませ」
「サリー、ただいま。言われた通り、アベルを連れて帰りましたわ」
「はい。ありがとうございます」

そう、今回生まれたばかりのアベルを連れて里帰りしたのは、神獣であるサリーから、頼まれたからなのだ。

「お嬢様、お帰りなさいませ。あぁ……ますますセレーネ様に似てきて……」

ハンカチで涙を拭うこのカーラは、サリー曰く、闇の神獣だと言うが、涙もろい普通の女性にしか見えない。

ずっとサリーの母親だと思っていたけど、実はちがいますのよね……。
何だか複雑な気持ちだわ。

「カーラもただいま。わたくしの息子たちを紹介したいのだけど、ノアが眠ってしまったから、また起きてから紹介しますわね!」
「かしこまりました。楽しみにしております」

神獣たちからの呼び出しですものね。
アベルに何事もないと良いのだけど……。

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