継母の心得 〜 番外編 〜

トール

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番外編 〜ノア5歳〜 〜

番外編 〜 家族旅行5 〜 ノア6歳間近の5歳

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息子に手を引かれ、別荘の目の前にある海までの道を歩く。
後ろにはテオ様、アベルを抱っこしたマディソン、そしてカミラとミランダが歩いている。

「わたし、おかぁさま、たのしーってなるよおに、けーかく、したのよ!」

胸を張ってそんな事を言う息子に笑みがもれる。

「まぁ、それは楽しみですわ!」

風に乗って潮の匂いが鼻をくすぐる散歩道を抜けると、白い砂浜と青い海が広がるビーチが現れる。

『うみー!!』
「おっきー!!」

初めて間近で見た海に、テンションが上がったのか、嬉しそうに駆け出すノアとアオに、護衛が慌ててついていく。

『ノア!! ノア、うみ!!』
「アオ、うみよ!!」
「『かいぞくのおーさまに、わたし(アオ)、なる!!』」

二人して両手を上げてそう叫ぶものだから、おかしくて笑ってしまったわ。

「ノアはあの絵本が大好きだからな」
「フフッ、そうですわね。そのうち、絵本のような船を作って、世界へ飛び出して行きそうですわ」
「……それは、困るな」

ノアは後継者なのに。とテオ様が困った顔をして、波打ち際でキャッキャとはしゃぐノアを見ている。

「ノア、アオ、危ないから、二人だけで海に近づいてはいけませんわ!」
『アオ、みずのかみから、ちからもらった!! みず、キケンない!! ノア、みずのかごある!!』
「えぇ……」

アオの言葉に顔が引きつる。

水の神って、あのホラー好き神様よね……。あの神様の加護や力って、水では溺れたり、危険な目には遭わないって事ですの?

「そういえば、私も幼い頃にここの海で溺れそうになったが、不思議な事に波が岸に押し戻してくれた覚えがあるな……」
「そうなのですか!?」

という事は、風の神の加護もあるディバイン公爵家は最強!?

「おかぁさま! みてっ」

神の加護すごい! と考えていると、ノアが何かを持って駆けてくる。アオはノアの顔の横を飛んではしゃいでいる。

「かいがら! わたし、みつけた!!」

キラキラした瞳で、小さな白い貝殻を見せてくれる息子に、この旅行来てよかったわと、幸せな気持ちになった。

「綺麗な貝殻ですわ!」

するとノアが、テオ様の方を見て言ったのだ。

「おとぅさま、かいがら、みつけた!」

まぁっ、ノアがテオ様に、貝殻を見つけたことを報告していますわ!!

「ああ。よくやった」

テオ様はそう言って微笑み、ノアの頭を撫でる。

「ウフフッ、わたし、すぐみつけたの」
『アオも!! アオもいっしょ、みつけた!!』
「アオもよ!」
「そうか」

後ろのマディソンを見ると、とても良い笑顔で頷いていた。アベルもキャッキャと笑っている。

カミラとミランダは、砂浜に新素材で骨組みが作られた、布を張ってある折畳式のビーチチェアを広げて、パラソルを立てている。

あっという間にリゾートっぽくなっているわ……。
これで海上アスレチックとかあれば、ノアも大喜びなんでしょうけど。

「ん? これは……“花貝”か」

テオ様が足元に落ちている何かを拾う。“花貝”と言ったそれは、小さなピンク色をした、桜貝だった。
この世界で桜貝は花貝と言われているらしい。

「まるでベルのように愛らしい貝殻だ」
「まぁ、テオ様ったら」

恥ずかしげもなく、そんなキザなセリフを吐かれると、こちらはめちゃくちゃ恥ずかしくなりますのよ。

「!? おとぅさまだめよ! おかぁさまに、かいがらあげるの、わたしなの!」
『ノア、テオにまけない、もっとキレーなかいがら、みつける!!』
「ハッ! しょうよね!! アオ、いくのよ!」

さっきまで父子らしい会話をしていたのに、急にテオ様へ対抗意識を燃やしたノアは、アオと貝殻探しに行ってしまったのだ。


この後、黙って旅行に来ていたアオを追って、正妖精とアカがやって来て大騒ぎになり、大小様々な、大量の貝殻を貢がれたわたくしは、大笑いしてしまいましたのよ。


「かいがら、たくさんね」
「そうね。ノアがたくさん取ってきてくれたから、お母様嬉しいわ」
「アスでんかの、おみあげも、あるのよ!」
「フフッ、きっとアス殿下もお喜びになるわ」
「はい! うみのおと、おとどけするの!!」

大きな貝殻に耳を当てると、海の音が聞こえるのよ。と教えてあげると、イーニアス殿下に海の音をお土産にするのだと、ノアが張り切るので、パートナーのアカが『アス、ぜったい、よろこぶー!』と、とても喜んでいた。

その後は皆でレストランへ行き、海の見えるバルコニーでとりたての海鮮料理をいただいていたのだけど、テオ様が、

「これは、カレーに入れたほうが美味い」

という発言をしたことで、レストランに戦慄が走ったのだ。
自信を無くしたシェフが立ち直る為にフォローするのが大変だった。

確かに魚介のカレーは美味しいけれど、シェフの前で言ってはいけません!

賑やかな昼食を終えると、今度はテオ様が計画した、真珠のアクセサリーのお店へと連れて行かれ、イヤリング、ネックレス、ブレスレットをプレゼントされる事になり、高級品にずっと顔が引きつっていたのだが、わたくしが引いている事は誰にも気付かれなかったのだった。


◇◇◇


翌日、町に観光に行く前に、オズワルド男爵夫妻を尋ねると、アメリアさんの顔色が随分良くなっており、夫妻との関係も、少しずつ改善しているようだった。
メアリーちゃんはおばあさまからマナーの触りを教わっていて、難しいんですぅと唸っていたが、元気そうでなによりだ。

問題が解決したわけではないけれど、アメリアさんに関しては、オズワルド男爵夫妻もいるので大丈夫だろう。

「問題は山積しておりますわね……」

などと思っていた1週間後、旅行から戻ってすぐにオリヴァーから解決に役立つ素晴らしいものが届くのだが、それはまた別のお話ですのよ。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



~ おまけ ~


「おおっ! ほんとうに、うみのおとが、きこえる! まほーのようだ!」
「はい! うみに、いってきた、おみあげなの!」
「うむ。うれしい! ありがとう、ノア。たいせつにする!」
『アカも、アスと、うみいきたーい!』
「うむ。わたしも、アカとおふねにのりたい!」
「アタシも別荘で羽を伸ばすテオ様を眺めたかった!!」

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