継母の心得 〜 番外編 〜

トール

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番外編 〜 アベルとフローレンス 〜

番外編 〜 スピードアスレチック2 〜 アベル5歳

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「フローレンス! 何をやっているんだい!? パパは君が参加するなんて聞いてないよ!?」

フロちゃんが参加すると聞いて、急いでドニーズさんに確認に行ったのだけど、わたくしたちの話を聞いたドニーズさんは、真っ青になって、慌てて参加者たちが集まる場所へ駆け出した。

それを追い掛けて来たのだけど……。

「パパ、わたし優勝する!」

気合いの入ったフロちゃんは、最近徐々に浸透し始めたパンツを履き、ぐるぐると腕を回している。

「君は幼い女の子なんだよ!? 筋肉魔人のような大人に混じって、こんな筋肉の大会に参加するなんて……っ、パパは許しません!」

ドニーズさん、筋肉魔人にこんな筋肉の大会って、もしかして脳筋に何かされましたの?

「だいじょーぶ! ノア君も、アス殿下も参加するし」
「それの何が大丈夫なんだい!?」

ノアとアス殿下も困り顔だ。
まさかフロちゃんが参加するとは思わなかったのだろう。

「パパ、優勝したら何がもらえるか知ってる?」
「え?」
「魔王様から、おもちゃカフェの、エビフライ無料券がもらえる!」

そうなんですの!?

皆が一斉にテオ様を見るが、首を傾げているではないか。

「知らん」
「もらえる!」
「……知ら、」
「もらえる!!」
「……ハァ、わかった」

今決定!? フロちゃんの押しに負けましたのね。テオ様……。

「こらっ、フローレンス! 閣下にそんな我儘を……っ」
「おとうさま、オレはエビフライだけはいや! ほかのも!」

ドニーズさんがフロちゃんを叱ろうとした時だ。アベルがおかしな主張をし始める。

「あーちゃん、私はエビフライだけでいい!」
「それはフロちゃんだけでしょ! おとうさま、ほかのもむりょおがいー」

アベルがテオ様を見上げる。何だかんだと、テオ様は子供たちに甘い。アベルのお願いに眉間にシワを寄せてはいるが、心の中では喜んでいるのではないだろうか。

「……おもちゃカフェの、食べ放題無料券だ」
「「たべほーだい!!」」

テオ様の一言に、アベルとフロちゃんの瞳が輝いた。

こうして始まったSHINOBIは、筋肉自慢たちの白熱した戦いに観客が熱狂し、盛り上がりを見せた。そして───

「ファースト、セカンド、そしてサードテージを軽々クリアした猛者たちの入場だー!!」

中央にあるファイナルステージに、セカンドステージをクリアし、さらに素晴らしいタイムを叩き出した上位の5人が現れ大歓声を受ける。

ノアとアス殿下、そしてなんとフロちゃんも残っているではないか!

「グスッ、うぅ……」
『アベル……』
『アベル、ガンバッタノ~。イイコ~』
「ほら、アベル。お顔を上げてちょうだい?」
「ずびっ、ぅう……っ」

わたくしに抱きついて泣きじゃくるアベルは……セカンドステージのスパイダーウォークで、身体が小さすぎて失格になってしまったのだ。

手足を広げても大人用なので届かず、失格になった途端、わたくしに抱きついて泣き出してしまった。
ウィルもチロも慰めているが、それが余計に涙を誘っているようだ。

子供用の競技用アスレチックを作るべきかしら……。

「……アベル。大人用のアスレチックでよくやった。また、大きくなったら再挑戦すると良い」
「ぅ……おとぅさま……」

テオ様がそう言って、わたくしの膝の上に乗り、抱っこちゃんになっているアベルの頭を撫でる。

「でき……っ、できると、おもったのに……っ」
「出来ぬ事もある。今はそれがわかっただけでも十分だ」

アベルは手で涙をぬぐい、顔を上げた。

「おにいさま、おうえんする!」
「ああ」

わたくしの膝からは降りる気がないのか、そのまま座っている所が甘えん坊のアベルらしい。

「まったく。うちの王子様は甘えん坊さんね」
『アベルカワイ~』
『アベルは良い子!』

妖精も精霊も、テオ様も、皆アベルを甘やかしていますものね……。大丈夫かしら。

「あーっとぉ!! ウォルト執事長はやい! あっという間にタワーを登りきったぁー!!」

司会の声と大歓声にハッとして前を見ると、ウォルトがタワーの上で顔色も変えずに片手を上げているではないか。

「ウォルトって中肉中背だと思っておりましたけど、すごいですわね」

去年も2位はウォルトでしたし、さすが影ですわ。

「筋肉はつけすぎると重くなる。筋肉ばかりに目を向けていると、素早く動く事が難しくなるんだ。奴らがいい例だ」

とテオ様がボディービルダー(のような)集団に目をやり、すぐにウォルトへと視線を戻す。

「そうですのね」

そういえばテオ様も細マッチョですものね。

うんうんと頷いていれば、アベルが袖をツンツンと引っ張るので、どうしたの? と見れば、

「おかあさま、つぎ、アスおにいさまだよ!」
「まぁ、アベル、しっかり応援してあげないとね」
「はーい!」

いよいよ、子供たちの番がやってきた。
ファイナルステージは、そびえ立つタワーの中央のロープを登りきればクリアだ。
子供たちは体重が軽いから、そこは有利だわ。腕の力が最後まで保つかどうかよね……。

「ここで、イーニアス第二皇子殿下の番が回ってきましたー!!」

観客も参加者も、盛り上がりが最高潮に達している。


「うむ。優勝は私がいただこう」

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