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番外編 〜 ぺーちゃん 〜
番外編 〜 教皇とイザベル3 〜 ノア10歳、アベル5歳
しおりを挟む教皇フェリクス視点
「───何かショックを受けるような事でもあったのかもしれません……。特に異常は見受けられませんので、暫くすれば気がつくでしょう」
「そうですか。良かった……ムーア先生、いつもありがとう存じますわ」
「いえ。赤ん坊は繊細ですから、驚かしたりしないようにしてください」
「ええ。承知いたしましたわ」
「それでは奥様、私はこれで失礼いたします」
「ありがとう存じますわ」
誰かが私の部屋で話しているのか……? クレオではない。知らない誰かだ……。
「何事もなくて良かったですわ。フフッ、見てちょうだいミランダ。気持ち良さそうに眠っていますわ」
優しい声だ……。
「可愛い赤ちゃんね」
お腹をぽんぽんと、優しく撫でてくれる。いい匂いもする……。教会で見かける、『お母さん』みたいな、優しい───
「かぁちゃ……」
「まぁ、目が覚めましたの?」
優しい声の方へ手を伸ばすと、ふわっと身体が浮き、暖かくて、ふわふわで、良い匂いに包まれた。
「かぁちゃ」
「フフッ、可愛い子、安心してねんねして良いのよ」
「ねんね……」
何だかひどく安心して、口が勝手にちゅっちゅと音をたてる。もうミルクは卒業したのに。なのにこの場所が、酷い母しか知らない私でも、母が恋しいという気にさせるのか。
「奥様、フェリクス様はお腹が空いているのでしょうか?」
「そうねぇ……多分これは、リラックスしているのではないかしら」
「リラックスですか……」
うん。すごく、安心する……。これが、母の腕の中なのだろうか。
「ミランダ、大司教に、フェリクス様は異常ありませんでした、と伝えてきてもらえるかしら」
「かしこまりました」
大司教……、そういえば私は、意識を失ったのか……? 何で失神したんだったっけ?? 何か大切なことを忘れているような……。
「馬車の移動でお疲れだったのかしら。夜に熱を出さないといいのだけど……」
そうか、馬車移動で疲れていたのか。ん? そういえば、私を抱っこしているのは…………、
「!? うにゅ……っ」
「あら、どうしましたの?」
あ、あ……っ、悪女ではないか!!
「よしよし」
んな!? 背中のぽんぽんが絶妙で、またちゅっちゅと口が鳴る。
何だこの状況は!? まさか、私まで籠絡する気か!?
「フェリクス様はいい子ね」
「ペーちゃ、いーこ」
くそぅ! 口が勝手に……っ、この抗えない感は何だ!?
「ふふっ、ペーちゃん? 可愛い呼び名ですわ。わたくしもペーちゃんと呼んでもよろしいかしら?」
「いいにょ」
「じゃあ、ペーちゃん、すっかりおめめが覚めたみたいですから、さっきのお部屋に行きましょうか」
「あーぃ」
あーぃって何だ私! だが抗えない……、この安心感……まさか、そういう特殊魔法を使っているのではないか?
……ハッ! 今なら鑑定、出来る!
「ペーちゃん、お腹すいてない? おやつ食べましょうか」
「おやちゅ! ちゃべりゅ!」
おやつを食べてからでも良いだろう。
予想外ではあるが、こうしてイザベル・ドーラ・ディバインが私を抱っこし、クレオの元へと運んでくれた。
「ペーちゃん、異常がなくてなによりですな」
「ペーちゃ、おやちゅ!」
悪女とは思えない優しい腕の中から、クレオにおやつの時間だと声を上げると、クレオは安堵したように笑う。
私は、あの美味しそうなお菓子がいただけるのだと浮かれていたのだ。
自分がなぜ、失神したのかも忘れて……。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
イザベル視点
「なぜ、当然ように私の妻の腕に抱かれているんだ」
大司教の向かいのソファへ座っていたテオ様が、赤ちゃんに対して大人げないことを言っている。
ミランダに言伝を頼んだものの、教皇様の目がすっかり覚めたようだったので、応接室へと戻ったのだけれど、わたくしに抱っこされたまま、おやつを食べられるとご機嫌に笑っていたペーちゃんを見たテオ様は、偶に子供たちにも発揮する大人げなさを前面に押し出してきたのだ。
「みゃおォォォー!!」
テオ様の存在に気付いていなかったペーちゃんは、そう言われて初めて、テオ様の方を見て、猫の鳴き声のような悲鳴を上げた。
やっぱりテオ様を怖がっているのだわ。
今度は気絶しなかったけれど、ガタガタと震え、わたくしに抱きついてくるペーちゃんを守るよう、テオ様から隠す。
「ペーちゃん、大丈夫よ。わたくしの夫は見た目は怖いかもしれませんけれど、とっても優しい人ですのよ」
「こわぃにょ。ペーちゃ、みゃおー、こわぃ」
ぶんぶんと首を横に振るペーちゃんが可哀想になってくる。
結局、ペーちゃんの震えが止まらないことを理由に、テオ様には部屋から出ていってもらう事になった。
「なぜ私が追い出されなければならない!?」
「どうしてかはわかりませんが、ペーちゃんが震えていますもの。落ち着くまで、暫く隣の部屋で待っていてくださいませ」
「ベル……」
テオ様も落ち込んでしまいましたわ。ですが、赤ちゃんを怖がらせるわけにはいきませんもの。
「……ならば、私の代わりにノアを連れてこよう」
と、なぜかテオ様の代わりにノアがやって来たのだ。
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