162 / 186
番外編 〜 ミーシャ 〜
番外編 〜 ミーシャ15歳の日常1 〜
しおりを挟むミーシャ視点
「ミーシャ! 聞いてっ、半年前から予約していたテュエベルホテルのスイーツビュッフェ、やっと明日行けるのよ!」
「へぇ、そうなんだ」
「そうなんだ、って、あのテュエベルホテルよ!? 超絶人気の、予約もなかなか取れないあ・の、テュエベルホテルのスイーツビュッフェなのよ!? 何そのうっすい反応!!」
アカデミーで出来た友人は、嬉しくて興奮しているのか、それとも私の反応の薄さに激怒しているのかわからないが、手を震わせながら、眦をつり上げて迫ってくる。
「いい!? テュエベルホテルは、今までの宿屋の常識を覆した世界初のホテルなの! 外観はもちろん、内装、設備、その他諸々、全てにおいて他の追随を許さず、今やホテル業界のトップオブトップ! その中にある絶品スィーツのお店、モンプティシェリのスィーツビュッフェなのよ!」
すごい熱量で一気に捲し立てられるが、無論知っている。
何せ、私はそこの元締めである、ベル商会の創設者、イザベル・ドーラ・ディバインの娘なのだ。知らないわけがない。
「ミーシャも男爵家の娘なら聞いたことくらいあるでしょ!?」
「まぁ……」
だが、母も、もちろんディバイン公爵である父も有名すぎて、その影響力は面倒……、ゴホンッ、自分の実力を試すことも兼ねて、私はアカデミーを男爵家のミーシャとして一般受験し、通うことにしたのだ。
その際、母にだけは言っておいたが、父や兄たちには内緒にしている。
だから、ここで出来た友人たちは私がディバイン公爵家の娘だとは誰も知らない。
母似のこの顔にも眼鏡をかけ、そばかすメイクまで施しているのだから、バレるはずもない。
「もう! そんなに反応薄いと連れて行ってあげないんだからね!」
「え?」
「だーかーらー、ミーシャと明日行く為に、半年前から予約していたの! もうすぐあなた、15歳の誕生日じゃない」
ああ、そういえば、誕生パーティーの準備をお父様がはりきって何ヶ月も前からしていたような気がする。
デビュタントもあるからって、ドレスも色々作るって言ってたっけ……。
「誕生日、お祝いしてくれるの?」
「そうだって言ってるでしょ!」
「……ありがとう」
この子はクロエといって、裕福な商家の娘で、13歳の年にアカデミーを一般受験した際、たまたま隣の席で受験していたことで出会い、父に似て無愛想と言われる私と仲良くしてくれている数少ない友人だ。
「だから、明日は絶対予定を空けておくのよ!」
「……うん」
「もちろん、ナツィーとコニーも一緒に行くからねっ」
ウィンクしてふふんっと笑うクロエは嬉しそうだ。
ちなみに、ナツィーは男爵家の令嬢で、活発で動物をこよなく愛している、コニーはお花屋さんの娘でおっとりしているが、芯が強い。どちらも、同じクラスで自然と一緒にいるようになった友人だ。
「楽しみにしている」
「じゃあ、明日はまずアカデミーに集合してから、テュエベルホテルへ行くからね!」
「わかった」
翌日、いつも通りそばかすメイクを施し、眼鏡をかけてから、アカデミーに行く用のすごしやすいワンピースを着て玄関に向かっていた。
父も兄たちも、朝食後は早々と仕事に行くので、2年間この格好をしていてもバレたことはない。
「まぁミーシャ、今日はアカデミーはお休みでしょう? どうしてアカデミー用の格好をしていますの?」
「お母様、今日は友人たちとテュエベルホテルへ行ってきます」
「あら、お友だちとお出かけですのね。楽しんできなさい」
「はい」
我が母ながら、皆に女神と言われるだけあって、無駄にキラキラしている。が、昔から母は、私のやりたいようにやらせてくれるのでそんな所も大好きだ。
男爵家の身分も母に手配してもらった。
父も兄たちも母が大好きだから、我が家は母を中心に回っているのかもしれない。
「行ってまいります」
「いってらっしゃい」
母と使用人に見送られ、いつもと同じように公爵邸を出ると、アカデミーの少し手前まで馬車で送ってもらい、後は徒歩で門の前まで移動する。
すでにナツィーとコニーが待っていて、私を見つけ、手を振ってくるので、振り返した。
「二人ともおはよう」
「「おはよー、ミーシャ」」
「クロエは?」
言い出したクロエの姿がなく、周りを見る。
「クロちゃんまだみたい」
コニーがおっとりと返事をし、何が嬉しいのかニコニコしているので首を傾げた。
「ミーちゃん、15歳おめでとう」
「コニー、ミーシャの誕生日、は来週でしょ」
「でも、今日はミーちゃんのお誕生日を祝うために集まったんだし、おめでとうを言いたいの」
「そっか。そうだね! ミーシャ、15歳おめでとう!」
二人はそう言って祝ってくれた。
「うん。ありがとう」
友だちにお祝いしてもらえるって、嬉しいことだな……。
「みんなー! お待たせ!!」
クロエの声がして顔を上げると、馬車からクロエが手を振っていた。
「わぁ、馬車だぁ」
コニーがおっとり声を上げ、ナツィーがポカーンとしている。
「さぁ、乗って、乗って!」
目の前にやって来た馬車から顔を出したクロエは、そう言って私たちを馬車に乗せ、出発させたのだ。
1,771
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です
葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。
王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。
孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。
王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。
働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。
何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。
隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。
そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。
※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。
※小説家になろう様でも掲載予定です。
妹がいなくなった
アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。
メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。
お父様とお母様の泣き声が聞こえる。
「うるさくて寝ていられないわ」
妹は我が家の宝。
お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。
妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる