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番外編 〜 ぺーちゃん 〜
番外編 〜 ぺーちゃん、ミーシャとの邂逅2 〜
しおりを挟む「ぁ~」
母上そっくりの容姿で、ぷにぷにした小さな手を伸ばしてくる赤ん坊は、まさに天使そのもので、つい、「ふぁ~」と声がもれるほど、見惚れてしまった。
「ミーシャ様、フェリクス様ですよ」
ほんのり甘いミルクの香りがする。ぷにぷにしたほっぺたがマシュマロに見えて、少しお腹が空いた。
「みーちゃ……? ぺーちゃ!」
「ぺー」
ミーシャが私の名前を呼んでくれた! すごい。赤ん坊なのに話ができるんだ……っ
「みーちゃ、もちゃ!」
おもちゃで遊ぼう! そう言えば、ミーシャは私の手にあるおもちゃをじっと見た。視線はおもちゃに固定されたまま動かない。
あれ……? 眼光が……、鋭くないか?
「みーちゃ?」
「ぅ…………」
「フェリクス様、ミーシャ様は一緒に遊びましょうと仰っていますよ」
本当に?
「ぺーちゃ、もちゃ、あげりゅ」
私が使っていたおもちゃを貸してあげようと差し出すが、
「…………」
何も反応せず、睨んでくる。
この天使は、もしかして私が嫌いなのだろうか……。
「フェリクス様、ミーシャ様はありがとう、と仰っていますよ」
絶対嘘だ。鋭い眼光で睨みつけられている。表情も動いてない。そう、まるで……
「みゃおー……」
「猫の真似がお上手ですね」
魔王だ! 確かにミーシャの外見は母上に似ているが、びっくりするほど動かない表情筋や、眼光の鋭さは魔王!! 小さな魔王がここにいる!
「ペーちゃ……こわぃ」
「? フェリクス様、何が恐ろしいのでしょうか」
「みーちゃ、こわぃ……」
「まぁ……ミーシャ様が恐ろしいのですか?」
「みーちゃ、ぺーちゃ、にりゃみゅ」
さっきから、魔王と同じ瞳の色で、私を睨んでくるミーシャに震えがはしる。
「フェリクス様、ミーシャ様は睨んではおられないのですよ。お父様に似てしまわれたのか、感情を表に出す事が得意ではないのです」
睨んではいないのか……?
「その証拠に、フェリクス様が差し出してくださったおもちゃをずっと見ておりましたし、一緒に遊ぼうと仰った時にはフェリクス様を見ておりましたでしょう」
「にりゃみゅ、ちがう?」
「興味があるから見つめているのですよ」
そうだったのか……っ
「みーちゃ、いっちょ、あちょぶ?」
「……ペーちゃ」
ミーシャは、やっぱり天使だった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ペーちゃん!?」
ミーシャと遊んだ後、一緒にお昼寝し、気付いたら夜になっていた。なぜか魔王が私たちを迎えに来て、右腕にミーシャ、左腕に私を抱っこし、ご飯の時間だと、食堂へと歩き出した。
何だ、この状況……。
魔王の腕の中で固まっていたら、母上の声がし、固まっていた身体が動き出す。
「かぁちゃ!」
「まーま」
助けて! 母上!!
「ペーちゃんとミーシャが、テオ様の腕の中に!?」
私もミーシャも、母上に短い手を伸ばし助けを求める。
「大司教が遠出するというので預かった」
「まぁっ、どうして早く言ってくださらなかったのですか!?」
母上は私とミーシャに手を伸ばすが、魔王が私たちを離さない。
「サプライズをしたかった……」
「サプライズ? テオ様、わたくしを喜ばせたかったという事ですの?」
「ああ……」
魔王が、かわいこぶってる! 怖い!
「フフッ、早く仰ってくだされば良かったのに」
「ベルの仕事の邪魔はしたくない」
母上の前だと、魔王は草食動物のような顔をするのか……油断させて食らう気だな。
「かぁちゃ」
油断したらダメだ。魔王は人間を片手で捻り潰せるのだから! 私が母上を守らなければっ
「───おぃちぃ!」
ディバイン公爵家の広い食堂で、赤ん坊用の背の高い椅子へ魔王によって押し込められて固定され、初めは拷問器具かと思ったが、これが食べやすい。しかも、割れない食器で食べる絶品料理がまた美味く、舌鼓を打つ。
さすが公爵家。食堂も料理も華やかで、教会の清貧とした食堂とは大違いだ。
教会の食事も嫌いではないが、食べにくい。
「ペーちゃんは一人で食べられますのね! すごいわっ」
「ペーちゃ、ちゅぎょい」
「ふふっ、ぺーちゃんはすごいね」
母上に褒められて、ノアにも褒められ、有頂天になって魔王がいることを忘れていた。
調子に乗って、離乳食を食べさせてもらっているミーシャに、「ペーちゃ、みーちゃ、あーんちゅる!」と言ってしまったのだ。
母上やノア、アベルは快く承諾してくれたのだが……、
「ミーシャにあーんだと!? 私が生きているうちは、そのような事はさせん!」
魔王の逆鱗に触れてしまった。
「テオ様、赤ちゃんに何を仰っていますの」
「赤子でも男だ! 男がウチの娘にあーんをするのは許さんっ」
「テオ様!」
───今頃温泉を楽しんでいるクレオへ。
私、殺されるかもしれない。あれほど調子に乗ってはダメだと言われていたのに、調子に乗った罰だろうか……、たった二年の短い人生だった。
一週間後、無事に生還することが出来たが、何度も辞世の句を読んだ瞬間があったとだけ言っておこう。
魔王の娘には近づいてはならない。
また一つ、公爵家で学習したのだ。
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~ おまけ ~
「まぁ! 美肌の湯が有名なあの温泉地でしか手に入らない、化粧水ではないですか!」
「ベルの為に、大司教に頼んでおいたんだ」
「テオ様……っ」
「そんなものがなくても、ベルは美しいがな」
「早速試してみますわ!」(←話を聞いていない)
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「え? テオ様今なんて??」
「……何でもない」
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