大自然の魔法師アシュト、廃れた領地でスローライフ

さとう

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日常編⑱

第522話、クララベルの羽毛布団

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 村に新しくできた『妖狐の宿』にある、新しい『村長湯』に来ていた。
 妖狐族が作った村長湯の規模は小さい。一人用の湯船が一つに、こじんまりしたロテン風呂が一つ。それと小さな洗い場が一つだけ。
 脱衣所もそんなに広くない。休憩スペースも、タタミ敷きの部屋に座椅子とテーブル、小型冷蔵庫があるだけでとても質素だった。
 だが……とても落ち着いた。
 やたら広い浴場を一人で使うより、こういうこじんまりした一人用の風呂はとても気持ちよかった。もちろん、エルダードワーフたちが作ってくれた村長湯も素晴らしいのは間違いない。
 俺は、休憩スペースで冷たいお茶を飲みながら横になる。

「はぁ~~~……気持ちよかった。ぽっかぽか」

 転移魔法陣から、妖狐族の温泉を直接引いた湯は気持ちいい。とろみがあり、お肌がスベスベになる。
 さらに、お湯の暖かさがじんわりと身体の芯に染みこんでいる。湯冷めは当分しそうにない。
 この『妖狐の宿』が開店し、入浴客は一気に増えた。
 さらに、飲食店もある。大衆向けというよりはちょっと高級感のある料理が多いので、料理目当てにくる人もけっこう多い。
 さらにさらに、宴会場だ。
 エルダードワーフたちが貸し切りで宴会してたな。追加料金で妖狐族の舞とかも見れるらしい。

「……今度、ミュディたち呼んで宴会しよう」

 俺は、ポカポカ気分のまま目を閉じ……深夜、カエデに起こされ慌てて家に帰るのだった。

 ◇◇◇◇◇◇

 ある日。
 ココロの指導を終え、午後は自由時間となった。
 俺は自室で、シルメリアさんと向かい合っていた。

「完成です、ご主人様」
「おお……!」

 シルメリアさんが縫っていたのは、大きめの枕。そして、羽毛布団だ。
 真っ白な布に入れただけで、模様などはない。シンプルな枕と羽毛布団をシルメリアさんから受け取った。
 俺はさっそく枕を抱きしめる。

「ん~……やわらかモフモフ」
「ようやく完成しましたね」
「うん。長かった……クララベルの羽で作った羽毛布団、あと枕」

 そう。この枕と羽毛布団、クララベルの羽で作ったのだ。
 クララベルは『白雪龍ブランシュネージュ・ドラゴン』という龍名で、真っ白な体躯で大きな翼にはふわふわの羽が生えている。
 クララベルの羽は、抜けても一日で生えてくるらしい。
 そして、古くなった羽は綺麗に抜けるのだ。俺はこの羽を集め、枕と羽毛布団をシルメリアさんに作ってもらった。いやぁ長かった。

「さっそく今日はこれで寝るよ」
「はい。では、さっそくお取替えしますね」

 シルメリアさんは、俺のベッドの布団と枕を取り換えた。

「古いの、どうしようかな」
「……こちらでしまっておきます」
「ん、よろしく」

 そう言って、シルメリアさんは枕と布団を持って出て行った。
 ちなみに、かなり後で知ることになる……俺の枕と毛布、シルメリアさんがこっそり自分のと入れ替えて使おうとして、全銀猫にバレて奪い合いになるなんて。
 
 ◇◇◇◇◇◇

 さて、俺はというと……クララベルに報告だ。
 一応、クララベルの羽だしな。作ってることは伝えたから問題ない。
 アイオーンは『変態みたい』とか言いやがった……どこが変態なんだよ。
 今日は仕事休み。勉強でもしてるのか、遊んでいるのか。
 ちょうどゴーヴァンが村を巡回していたので、聞いてみた。

「おーいゴーヴァン、クララベル見なかったか?」
「アシュト様。クララベル様でしたら、近くの川に向かいました」
「川?」
「ええ。ランスローを連れて、水浴びへ。アイオーン様もご一緒です」
「わかった。ありがとう」

 この辺りで水浴びできる場所は一か所のみ。
 そこへ向かうと……いた。
 ドラゴン態で川に浸かっているクララベルとアイオーンだ。近くにはランスローもいる。

「おーい」
『……ん? おお、アシュト村長じゃん』
『あ、お兄ちゃんだ!』

 クララベルは、長い首をグアッと持ち上げる。
 純白の体毛は水に濡れ、キラキラと輝いている。大きな翼がぶわーっと広がり、水が巻き上げられた。いやはや……ガーランド王が溺愛するのわかる。すごく綺麗だ。
 さて、巻き上げられた水でびしょ濡れになったランスローは置いといて、と。

「二人で水浴びか。気持ちよさそうだな」
『えへへ。今日はお休みだしね』
『村長も一緒にどう?』

 アイオーンは、群青色でトゲトゲした首を持ち上げニヤッと笑う。こうしてみると、二人ともすごいドラゴンって感じがする。人型、ドラゴン型、どっちも本当の姿なんだよな。
 俺は水浴びを遠慮し、ここに来た本題を話す。

「実はさ、クララベルの羽で作った布団と枕が完成したんだ。その報告」
『うわっ……』

 アイオーン……なんだその『うわっ』って。
 すると、クララベルは喜んだ。

『えへへ。なんだか恥ずかしい……でも、お兄ちゃんが嬉しいならわたしも嬉しい!』
『健気でいい子ねぇ。ね、アシュト村長』
「そりゃそうだろ。だってクララベルだぞ?」
『いやー、あたしだったら『アシュト村長の髪の毛で編んだセーター完成した』って報告されたらドン引きですわー』
「…………」
『うひひ。まぁそういうことです』

 アイオーンに言われて気付いたけど……もしかして、ドラゴンの常識では抜けた羽で羽毛布団とか枕を作るのって、かなり非常識なのかな。
 さりげなくランスローを見た。

「…………」
「…………」

 あ、顔反らした。
 う、やばいな……なんか恥ずかしくなってきた。

『お兄ちゃん。今日、一緒に寝ようね』
「お、おう」
『うひひ……』
「アイオーン。フォルテシモさんに手紙書くから」
『やめてぇぇぇ!?』

 とりあえず、クララベル……なんかごめん。

 ◇◇◇◇◇◇

 その日の夜。
 寝室にパジャマ姿のクララベルがやってきた。
 さっそく、自分の羽で作られた枕と羽毛布団を触る。

「抜けた羽も集まるとふかふかだね」
「そうだろ? さ、入った入った」
「うん!」

 さっそく潜り込む俺とクララベル。
 うわぁ……枕、すっごく柔らかい。それに毛布も気持ちいい。
 クララベルも、俺にすり寄ってきた。

「あったかいね~」
「ああ。ふかふかだ」
「くぁぁ~~~……なんだか眠くなってきちゃった」
「俺も……これもクララベルの布団のおかげかなぁ?」
「えへへ……うれしい」
「ん……」

 クララベルの頭を撫でると、なんだか無性に眠い……うむむ。
 羽毛布団に枕。アイオーンが何を言おうと、気持ちいいぞ。

「……おやすみ」
「ん……」

 俺とクララベルは、朝までぐっすり眠るのだった……ぐぅ。
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