大自然の魔法師アシュト、廃れた領地でスローライフ

さとう

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日常編⑱

第523話、エルミナの果実酒

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 ある日。
 エルミナは、自身の研究室で清酒の研究……もとい、新たな酒造りをしていた。
 空き家を勝手に研究室にして、アシュトにおねだりしまくって改築までした。今では地下室もある立派な研究室で、エルミナ第二の家でもあった。
 エルミナは、村で収穫された果物が入った籠を床に置く。

「よっ……っと。ふぃぃ、重かった」

 籠の中には、リンゴ、みかん、レモンが入っている。
 先ほど、川で丁寧に洗ってきたのだ。
 そして、銀猫族に作ってもらった氷砂糖、糖蜜から造ったお酒を用意する。

「ふっふっふ。これで果実酒が作れるわ」

 エルミナは、果実酒を作ろうとしていた。
 清酒、ウイスキー、ワインなどは造った。だが、果実酒は買うばかりで作ったことがない。せっかく材料はあるし、手作りしてみようと考えたのである。
 それに、酒造りのヒントになるかもしれない。
 エルミナは、乾いた布を持ち、洗ったばかりの果物を拭き始めた。

「みゃう。なにしてるんだ」
「あ、ルミナ。あんた、いつの間に」

 すると、どこからともなくルミナが現れた。
 エルミナが果物を拭いているのを見ていた。

「これから果実酒を作るのよ」
「……なんだ、お酒か」
「ふふふ。あんたは小さいからわかんないだろうけどね、お酒ってすっごく美味しいのよ?」
「ふーん」

 ルミナを撫でようと手を伸ばすが払われた。
 せっかくなので、エルミナは言う。

「ね、暇なら手伝ってよ」
「みゃあ。やだ」
「……カフェでケーキごちそうしようと思ったのになー」
「…………」

 ルミナのネコミミと尻尾が揺れた。
 すると、テーブルにあった手拭いを掴み、果物を磨き始めた。

「素直じゃないわねー、まぁ可愛いからいいけど」
「みゃう、触るな」

 こうして、二人の果実酒作りが始まった。

 ◇◇◇◇◇◇

 ルミナが果物を磨いている間、エルミナは容器に熱湯を入れて煮沸消毒していた。
 ドワーフに頼んで作ってもらったスライム製容器だ。
 煮沸し、乾いた布で丁寧に磨く。

「ふんふんふ~ん♪」
「…………」
「もう、もうちょっと楽しそうにしなさいよ」
「べつに」

 ルミナは、相変わらずツンツンしている。
 最近は、アシュト以外の住人にも心を開き始めていると聞いた。だが、基本的にルミナは単独行動を好む。この研究室に来たのも、おやつが目当てだった。
 容器の準備を終え、さっそく果物をカットしていく。

「ルミナ、あんたも切ってみる?」
「やったことない」
「大丈夫大丈夫。私が教えてあげるからさ」
「……じゃあ、少しだけ」

 エルミナは、小さめの包丁をルミナに渡す。
 皮が固いレモンはエルミナが切り、皮つきのままでいいリンゴをルミナに任せた。
 単純に、八等分すればいいだけだ。ルミナは意外にも慣れた手つきでカットする。

「上手いじゃない。ほんとに初めて?」
「簡単だ。みゃう……」
「お、嬉しそうね」
「う、うるさい」

 ぷいっとそっぽ向くルミナ。
 エルミナは微笑ましい気持ちになる。撫でてみたいが、引っ掻かれたくはなかった。
 なので、次の作業へ。

「ルミナ、みかん剥いて。白い部分も丁寧にね」
「みゃう……めんどうくさい」
「ケーキ食べさせてあげる分、しっかり働きなさいね」
「みゃあー……」

 ルミナはみかんを剥く。
 エルミナは、固いレモンをなんとか切る。一応、アシュトとウッドの三人で暮らしていたときは調理を担当していたのだ。ナイフの扱いはお手の物である。
 レモンを輪切りに、リンゴを八等分、みかんを全て剥いた。

「よし。準備完了!」
「みゃう」
「じゃ、仕込みまーす」

 まず最初に、カットした果物を瓶の底へ。次に氷砂糖を入れ、また果物を入れ、氷砂糖を入れる。そして糖蜜で作ったお酒を並々と注ぎ、瓶の蓋をして完成。
 
「完成!」
「…………え、おわり?」
「ええ。あとは熟成させて……100日後くらいかしら」
「…………」

 ルミナはもう飽きていた。
 エルミナの袖を引っ張り言う。

「みゃう。ケーキ」
「はいはい。あ、地下に保存するから、瓶持ってきて」
「みゃうー……」

 地下室に瓶を安置し、二人は研究室を出た。

 ◇◇◇◇◇◇

 エルミナ、ルミナの二人は村を歩いていた。
 
「ケーキもいいけど、まずはお昼かしらね」
「お昼……」
「ふふ、奢ってあげる。食堂行くわと」
「みゃう」

 二人が向かったのは『キツネ亭』だ。
 妖狐族が出店した飲食店の一つで、最近はエルダードワーフたちがお昼を食べに利用している。
 お昼が近いので、エルダードワーフたちが集まっていた。
 店に入ると、妖狐族の看板娘レンゲが来た。

「いらっしゃいませー! お、エルミナじゃん」
「やっほーレンゲ。席空いてる?」
「はいよ。お二人様ごあんなーい!」

 エルミナの飲み友達でもあるレンゲ。
 ちなみに、おつまみを作ってはハイエルフの集会によく顔を出していた。
 カウンター席近くの二人用席に座り、メニュー表とお冷を受け取る。

「さ、なんでも注文しなさい」
「さかな」
「迷いないわね……じゃあ、海鮮丼?」
「みゃう」
「私は……本日のおススメセットにしよ。レンゲ、ちゅうもーん!」
「はいはーい」

 料理を注文。
 そして、ほんの五分で運ばれてきた。その五分の間に、仕事休みのエルダードワーフたちがたくさん入ってきた。中には、エルミナに挨拶するエルダードワーフもいた。
 ルミナは、海鮮丼を食べながら言う。

「おまえ、人気あるな」
「そう? まぁエルダードワーフとは飲み友達だしね」
「……お酒」
「そう。お酒よ。ふふ、興味でてきた?」
「べつに……」

 エルミナは、本日おススメセットである『天ぷら定食』を食べながら言う。

「ルミナ。大人になったら一緒に飲みましょ。私がお酒の味を教えてあげるわ」
「…………」
「ふふ、大丈夫。まずは果実酒からね」
「果実酒……さっきの?」
「ええ。ルミナ用に、いろいろ仕込んでおくわ」
「……みゃう」

 ルミナは、海鮮丼を食べながら思う。
 お酒。臭くて変な飲み物。だけど……美味しく飲める日が来そうな気がした。
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