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秋の訪れ
第599話、読書・勉強の秋
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すっかり秋の深まったある日。
見事に紅葉した木々に囲まれた図書館の個室で、クララベルは勉強をしていた。
テーブルの上には教科書が広げられ、ノートも開いている。
だが、ノートには数行の書き取りだけが書かれ、あとは白紙だった。
クララベルの傍には、教科書を手にしたランスローがいる。
「姫様。手が止まっていますよ」
「うぅぅ……ねぇランスロー、甘いの食べたい」
「駄目です」
「うー……わたし、秋のスイーツを考えてて頭いっぱいなのにぃ。サツマイモのスイーツ、ランスローも食べたでしょ?」
「ええ、絶品でした。ですが、勉強とは関係ありません。課題をこなさなければ、アルメリア様に叱られますよ」
「ママ怖いし……うー、でもでも、勉強きらいー」
クララベルはテーブルに突っ伏した。
足をパタパタさせ、もう飽きたとばかりにランスローをジト目で見る。
ランスローはため息を吐くが、甘やかしはしない。
「姫様、駄々をこねても宿題は減りませんよ」
「うー、姉さまも宿題やってるの? こんなにいっぱい……絶対無理だしぃ」
「ローレライ様は期日前に必ず提出していますよ」
「えぇぇ~……」
と、ここでドアがノックされた。
ランスローがドアを開けると、ローレライとゴーヴァンが入ってくる。
ローレライの手には、数冊の本があった。
「クララベル、捗ってるかしら?」
「姉さま! あのね、姉さま。姉さまは宿題終わったの?」
「ええ。もちろん……それより、あなたはまだ終わらないのかしら?」
「うぅぅ」
クララベルは、再びテーブルに突っ伏してしまった。
少しだけ休憩を挟むことになった。
ローレライは椅子に座り、ゴーヴァンが紅茶の支度をする。
クララベルは、ローレライと宿題の進捗を報告するランスローの隙をつき、ゴーヴァンの傍へ。
「ね、ゴーヴァン」
「クララベル様、どうされました?」
「あのね、姉さまってホントに宿題やってるの?」
「それはもちろん。ですが、なぜ?」
「だって……」
クララベルは言う。
ローレライは、毎日図書館で仕事をしているし、家でも読書やドラゴンチェス、暇があればお風呂に入ったり、買い物をしたりマッサージもしている。さらに、寝るときはクララベルが一緒なので、どう考えても勉強なんてしている暇がない。
考えられる可能性は……『ローレライには、宿題がない』である。
これを聞き、ゴーヴァンは「ふむ」と頷く。
「ふふ、ローレライ様はきちんと勉強されていますよ」
「えー?」
「ローレライ様の就寝時間は御存じで?」
「知ってる。姉さま、シェリーやミュディよりも寝るの早い日あるよね」
「ええ。その次の日、ローレライ様は誰よりも早起きをして勉強しているのですよ」
「あ!」
「ローレライ様曰く、『早朝は読書にしろ勉強にしろ頭に入りやすいし作業に適している』とのことです。短い時間で、きっちりと宿題をこなし、期日前に提出するのがローレライ様なのですよ」
「うぅぅ……早起き、できるかな」
クララベルはガクッと肩を落とす。
そして、気付いた。
「あ、そうだ! ねぇゴーヴァン、ゴーヴァンがわたしを起して!」
「は、はい……?」
「姉さまと同じ時間にわたしを起して! お願い!」
「い、いや……な、なぜ私が?」
「だって、ランスローは結婚してるし。朝はメージュと一緒に起きてご飯食べたいだろうし」
「で、ですが」
「お願い! あ、ランスローには内緒で」
「え」
ローレライの騎士であるゴーヴァンが、早朝にクララベルを起こす。
クララベルの騎士であるランスローには内緒で。
「明日、姉さまと同じ時間に勉強するから!」
「え、あの」
「ゴーヴァン、姉さまにも内緒でね。ふふふ、驚かせちゃうんだから」
「…………」
こうして、ゴーヴァンの過酷すぎる任務が始まった。
◇◇◇◇◇◇
翌日の早朝。まだ日が昇る前。
ゴーヴァンは、アシュトの家。クララベルの部屋の前にいた。
騎士服を着て、剣を腰に差したスタイルのゴーヴァンは、隣に立っている銀猫のシャーロットに頭を下げる。
「申し訳ない……どうか、クララベル様を起こしてくださらんか」
「わかりました」
当然だが、ゴーヴァンが部屋に入って起こすわけではない。
既婚者であるクララベルの部屋に、ローレライの騎士、さらに未婚の男性であるゴーヴァンが部屋に入り、クララベルの肩を揺さぶって起こすことなどできるわけがない。というかそんなことをやったら問答無用で打ち首である。
なので、クララベルを起こし、なおかつ着替えさせ勉強の準備を、銀猫のシャーロットに依頼したのである。
「では、起こして参ります。しばしお待ちください」
「よ、よろしく頼む」
シャーロットはドアを静かにノックし、部屋へ。
『クララベル様、朝です。起床時間です』
『ぅぅ~……ねむぃぃ』
『外でゴーヴァン様がお待ちです。ローレライ様と、お勉強なさるのでは?』
『……あー』
『では、失礼いたします』
衣擦れの音。
シャーロットがクララベルの寝間着を脱がし、着替えさせ、髪を梳かしている音だ。
それから、十分もしないうちに、クララベルが出てきた。
「おはようございます。クララベル様」
「うぅ~……ねむい」
「さ、行きましょう。ローレライ様は、すでに勉強を始めていますよ」
「…………」
「クララベル様?」
「……ゴーヴァンの嘘つきぃ。べんきょうなんて、する気になれなぃ~……くあぁ」
クララベルは大きな欠伸をした。
だが、もう起きてしまったのだ。ここからベッドに戻り、眠るなど勿体ない。
ゴーヴァンは、意を決する。
「さ、参りましょう。ローレライ様は図書室にいますよ」
「うぅぅ~」
ゴーヴァンは、とぼとぼ歩きだすクララベルをなんとか誘導し図書室へ。
アシュトの屋敷にも、図書室はある。
蔵書は図書館と比べたら微々たるものだが、ドラゴンロード王国やビッグバロッグ王国から届いた本などが収められている。アシュトやローレライにとって、完全趣味の本が収めてある空間でもある。
ゴーヴァンは、図書室のドアを静かにノックする。
「どうぞ」
「失礼します」
「ええ。ゴーヴァン、甘めの紅茶を淹れてくれない? 飲みやすいように少しぬるめで……え?」
「姉さまぁ~」
「……ゴーヴァン、どういうこと?」
「いちから説明させていただきます」
ゴーヴァンは、全ての経緯を包み隠さず話す。
ローレライの宿題、早朝の勉強、ランスローではなくゴーヴァンがクララベルを起こす、そしてこの件はローレライとランスローには内緒ということ……全て説明した。
ローレライは、静かにため息を吐いた。
「ゴーヴァン……あなたね、誰の騎士なのか忘れたのかしら?」
「申し訳ございません。姫様」
「はっ……姉さま! ゴーヴァンのせいじゃないの。わたしが無理やりゴーヴァンに頼んだから」
クララベルはようやく目が覚めた。
ローレライは苦笑し、立ち上がり、クララベルの頭を撫でる。
「わかっているわ。でも、私が宿題をやってないと思われていたのは心外ね」
「うぅ……だって姉さま、いつも本読んだり、お風呂入ったり、お仕事したり……お勉強、してる暇なんてなさそうだったし」
「ちゃんとやってるわよ? ほら」
テーブルの上には、山積みの宿題……ではなく、執務の書類があった。
宿題ではなく、ドラゴンロード王国の姫としての仕事だ。
緑龍の村に住んでいるからといって、ドラゴンロード王国関係の仕事をしなくてもいい、ということではないのである。ちなみに、クララベルには黙っているが、クララベルの仕事もローレライが引き受けていた。
まだ幼いクララベルには、王国関係の執務は無理だろう。
「姉さま……」
「ゴーヴァン、紅茶をお願い。もちろん、二人分ね」
「かしこまりました」
「ほらクララベル、おいで。せっかく早起きしたんだから、勉強を見てあげる」
「……今ならわたし、すっごく早くお勉強できそう!」
クララベルは、宿題の束をテーブルの上に置き、勉強を始めた。
時折、ローレライの訂正やクララベルの質問が入る。
クララベルは、勉強をしながらゴーヴァンに言った。
「ゴーヴァン、ごめんね」
「え?」
「ゴーヴァンの言った通り、早朝だと勉強しやすいかも!」
「それはよかったです」
「えへへ。ありがとう」
クララベルはにっこり微笑んだ。
その笑顔だけで、苦労した甲斐がある……ゴーヴァンは微笑み、静かに一礼するのだった。
◇◇◇◇◇◇
◇◇◇◇◇◇
◇◇◇◇◇◇
「───……ということがあったの」
「なるほどな。クララベル、ここで勉強してたのか」
ある日。
俺とローレライは、屋敷の図書室で読書を楽しんでいた。
「そういや、何日か前にランスローが落ち込んでたな」
「ええ、クララベルがランスローじゃなくて、私の騎士であるゴーヴァンを頼ったからね。クララベルとしてはランスローに気を遣ったんでしょうけど、やっぱりランスローとしては頼られたかったんでしょうね」
窓からは秋風が吹き、紅葉した木々がカサカサ揺れている。
テーブルの上には、ゴーヴァンが淹れたアップルティーが湯気を立てている。
俺は本のページをめくり、静かに言う。
「そういや、エルミナが言ってた。秋は読書の季節だって」
「へぇ……私たちにピッタリじゃない」
「ああ。確かに……でも、読書にピッタリな季節ってのも理解できるよな」
窓から外を見ると、見事な紅葉が飛び込んできた。
夏が終わると秋になる。冬は三年に一度。三年間は春で、夏と秋は不定期。
オーベルシュタインの地域で、この順番も変わる。年中夏の海沿い、冬だけの地域や、秋だけの地域もある。なんとなくだが、世界を生み出したシエラ様の気まぐれで、こんな季節になったんじゃないかと思った。
「秋が終われば、冬か……」
「違うわ。冬は三年に一度、あと二年あるわよ? 秋が終われば春になるわ」
「……感覚がおかしくなるな」
再び、無言でページをめくる。
すると、窓から猫が飛び込んできた。
『にゃー』
「お、猫……ほら、おいでおいで」
『にゃ』
「あら? ふふ、私の方が好かれてるわね」
猫はローレライの太腿で丸くなった。
なんとなく敗北感……すると、ドアがノックされた。
「姉さま、お兄ちゃん!! 勉強するから教えてっ!!」
「姫様!! お二人の読書を邪魔してはいけません!!」
ビックリした……クララベルが飛び込んで来た。
猫も驚いてローレライの太腿かた飛び降り、再び窓から外へ。
ローレライは本を閉じ、クララベルに言う。
「仕方ないわね。ほら、こっちにおいで」
「わーい!」
「ローレライ様。申し訳ございません……」
「いいのよ。それに、私のところに来た以上、逃がすつもりはないから」
「ね、姉さま?」
「ゴーヴァン。ランスローとお昼を食べてきなさい。私とアシュトはクララベルの勉強に付き合うから……そうね。今日はもう休みでいいわ。また明日ね」
「姉さま!?」
「ふふ、クララベル……久しぶりに、みっちりしごいてあげる」
「「それでは、失礼いたします!!」」
「あ!? 待ってランスロー、ランスロー!!」
「申し訳ございません。ローレライ様の命令ですので……」
「わぁぁぁぁん!! ランスローの裏切り者ぉぉぉぉ!!」
ぎっちり抱きかかえられるクララベル。
ランスローはローレライの命令に逆らう気はないのか、どこか楽し気に部屋を出て行った。
なんというか……茶目っ気出てきたな。
ま、こういうのも悪くない。
俺も本を閉じ、クララベルの頭を撫でた。
「お、お兄ちゃん……」
「クララベル。俺も付いてるからさ……勉強しような」
「お兄ちゃんまでー!!」
俺とローレライは、日暮れまでクララベルの勉強に付き合った。
クララベル、たまには勉強漬けってものいいモンだろ?
「全然よくないし!! うぇぇ~~~んっ!!」
見事に紅葉した木々に囲まれた図書館の個室で、クララベルは勉強をしていた。
テーブルの上には教科書が広げられ、ノートも開いている。
だが、ノートには数行の書き取りだけが書かれ、あとは白紙だった。
クララベルの傍には、教科書を手にしたランスローがいる。
「姫様。手が止まっていますよ」
「うぅぅ……ねぇランスロー、甘いの食べたい」
「駄目です」
「うー……わたし、秋のスイーツを考えてて頭いっぱいなのにぃ。サツマイモのスイーツ、ランスローも食べたでしょ?」
「ええ、絶品でした。ですが、勉強とは関係ありません。課題をこなさなければ、アルメリア様に叱られますよ」
「ママ怖いし……うー、でもでも、勉強きらいー」
クララベルはテーブルに突っ伏した。
足をパタパタさせ、もう飽きたとばかりにランスローをジト目で見る。
ランスローはため息を吐くが、甘やかしはしない。
「姫様、駄々をこねても宿題は減りませんよ」
「うー、姉さまも宿題やってるの? こんなにいっぱい……絶対無理だしぃ」
「ローレライ様は期日前に必ず提出していますよ」
「えぇぇ~……」
と、ここでドアがノックされた。
ランスローがドアを開けると、ローレライとゴーヴァンが入ってくる。
ローレライの手には、数冊の本があった。
「クララベル、捗ってるかしら?」
「姉さま! あのね、姉さま。姉さまは宿題終わったの?」
「ええ。もちろん……それより、あなたはまだ終わらないのかしら?」
「うぅぅ」
クララベルは、再びテーブルに突っ伏してしまった。
少しだけ休憩を挟むことになった。
ローレライは椅子に座り、ゴーヴァンが紅茶の支度をする。
クララベルは、ローレライと宿題の進捗を報告するランスローの隙をつき、ゴーヴァンの傍へ。
「ね、ゴーヴァン」
「クララベル様、どうされました?」
「あのね、姉さまってホントに宿題やってるの?」
「それはもちろん。ですが、なぜ?」
「だって……」
クララベルは言う。
ローレライは、毎日図書館で仕事をしているし、家でも読書やドラゴンチェス、暇があればお風呂に入ったり、買い物をしたりマッサージもしている。さらに、寝るときはクララベルが一緒なので、どう考えても勉強なんてしている暇がない。
考えられる可能性は……『ローレライには、宿題がない』である。
これを聞き、ゴーヴァンは「ふむ」と頷く。
「ふふ、ローレライ様はきちんと勉強されていますよ」
「えー?」
「ローレライ様の就寝時間は御存じで?」
「知ってる。姉さま、シェリーやミュディよりも寝るの早い日あるよね」
「ええ。その次の日、ローレライ様は誰よりも早起きをして勉強しているのですよ」
「あ!」
「ローレライ様曰く、『早朝は読書にしろ勉強にしろ頭に入りやすいし作業に適している』とのことです。短い時間で、きっちりと宿題をこなし、期日前に提出するのがローレライ様なのですよ」
「うぅぅ……早起き、できるかな」
クララベルはガクッと肩を落とす。
そして、気付いた。
「あ、そうだ! ねぇゴーヴァン、ゴーヴァンがわたしを起して!」
「は、はい……?」
「姉さまと同じ時間にわたしを起して! お願い!」
「い、いや……な、なぜ私が?」
「だって、ランスローは結婚してるし。朝はメージュと一緒に起きてご飯食べたいだろうし」
「で、ですが」
「お願い! あ、ランスローには内緒で」
「え」
ローレライの騎士であるゴーヴァンが、早朝にクララベルを起こす。
クララベルの騎士であるランスローには内緒で。
「明日、姉さまと同じ時間に勉強するから!」
「え、あの」
「ゴーヴァン、姉さまにも内緒でね。ふふふ、驚かせちゃうんだから」
「…………」
こうして、ゴーヴァンの過酷すぎる任務が始まった。
◇◇◇◇◇◇
翌日の早朝。まだ日が昇る前。
ゴーヴァンは、アシュトの家。クララベルの部屋の前にいた。
騎士服を着て、剣を腰に差したスタイルのゴーヴァンは、隣に立っている銀猫のシャーロットに頭を下げる。
「申し訳ない……どうか、クララベル様を起こしてくださらんか」
「わかりました」
当然だが、ゴーヴァンが部屋に入って起こすわけではない。
既婚者であるクララベルの部屋に、ローレライの騎士、さらに未婚の男性であるゴーヴァンが部屋に入り、クララベルの肩を揺さぶって起こすことなどできるわけがない。というかそんなことをやったら問答無用で打ち首である。
なので、クララベルを起こし、なおかつ着替えさせ勉強の準備を、銀猫のシャーロットに依頼したのである。
「では、起こして参ります。しばしお待ちください」
「よ、よろしく頼む」
シャーロットはドアを静かにノックし、部屋へ。
『クララベル様、朝です。起床時間です』
『ぅぅ~……ねむぃぃ』
『外でゴーヴァン様がお待ちです。ローレライ様と、お勉強なさるのでは?』
『……あー』
『では、失礼いたします』
衣擦れの音。
シャーロットがクララベルの寝間着を脱がし、着替えさせ、髪を梳かしている音だ。
それから、十分もしないうちに、クララベルが出てきた。
「おはようございます。クララベル様」
「うぅ~……ねむい」
「さ、行きましょう。ローレライ様は、すでに勉強を始めていますよ」
「…………」
「クララベル様?」
「……ゴーヴァンの嘘つきぃ。べんきょうなんて、する気になれなぃ~……くあぁ」
クララベルは大きな欠伸をした。
だが、もう起きてしまったのだ。ここからベッドに戻り、眠るなど勿体ない。
ゴーヴァンは、意を決する。
「さ、参りましょう。ローレライ様は図書室にいますよ」
「うぅぅ~」
ゴーヴァンは、とぼとぼ歩きだすクララベルをなんとか誘導し図書室へ。
アシュトの屋敷にも、図書室はある。
蔵書は図書館と比べたら微々たるものだが、ドラゴンロード王国やビッグバロッグ王国から届いた本などが収められている。アシュトやローレライにとって、完全趣味の本が収めてある空間でもある。
ゴーヴァンは、図書室のドアを静かにノックする。
「どうぞ」
「失礼します」
「ええ。ゴーヴァン、甘めの紅茶を淹れてくれない? 飲みやすいように少しぬるめで……え?」
「姉さまぁ~」
「……ゴーヴァン、どういうこと?」
「いちから説明させていただきます」
ゴーヴァンは、全ての経緯を包み隠さず話す。
ローレライの宿題、早朝の勉強、ランスローではなくゴーヴァンがクララベルを起こす、そしてこの件はローレライとランスローには内緒ということ……全て説明した。
ローレライは、静かにため息を吐いた。
「ゴーヴァン……あなたね、誰の騎士なのか忘れたのかしら?」
「申し訳ございません。姫様」
「はっ……姉さま! ゴーヴァンのせいじゃないの。わたしが無理やりゴーヴァンに頼んだから」
クララベルはようやく目が覚めた。
ローレライは苦笑し、立ち上がり、クララベルの頭を撫でる。
「わかっているわ。でも、私が宿題をやってないと思われていたのは心外ね」
「うぅ……だって姉さま、いつも本読んだり、お風呂入ったり、お仕事したり……お勉強、してる暇なんてなさそうだったし」
「ちゃんとやってるわよ? ほら」
テーブルの上には、山積みの宿題……ではなく、執務の書類があった。
宿題ではなく、ドラゴンロード王国の姫としての仕事だ。
緑龍の村に住んでいるからといって、ドラゴンロード王国関係の仕事をしなくてもいい、ということではないのである。ちなみに、クララベルには黙っているが、クララベルの仕事もローレライが引き受けていた。
まだ幼いクララベルには、王国関係の執務は無理だろう。
「姉さま……」
「ゴーヴァン、紅茶をお願い。もちろん、二人分ね」
「かしこまりました」
「ほらクララベル、おいで。せっかく早起きしたんだから、勉強を見てあげる」
「……今ならわたし、すっごく早くお勉強できそう!」
クララベルは、宿題の束をテーブルの上に置き、勉強を始めた。
時折、ローレライの訂正やクララベルの質問が入る。
クララベルは、勉強をしながらゴーヴァンに言った。
「ゴーヴァン、ごめんね」
「え?」
「ゴーヴァンの言った通り、早朝だと勉強しやすいかも!」
「それはよかったです」
「えへへ。ありがとう」
クララベルはにっこり微笑んだ。
その笑顔だけで、苦労した甲斐がある……ゴーヴァンは微笑み、静かに一礼するのだった。
◇◇◇◇◇◇
◇◇◇◇◇◇
◇◇◇◇◇◇
「───……ということがあったの」
「なるほどな。クララベル、ここで勉強してたのか」
ある日。
俺とローレライは、屋敷の図書室で読書を楽しんでいた。
「そういや、何日か前にランスローが落ち込んでたな」
「ええ、クララベルがランスローじゃなくて、私の騎士であるゴーヴァンを頼ったからね。クララベルとしてはランスローに気を遣ったんでしょうけど、やっぱりランスローとしては頼られたかったんでしょうね」
窓からは秋風が吹き、紅葉した木々がカサカサ揺れている。
テーブルの上には、ゴーヴァンが淹れたアップルティーが湯気を立てている。
俺は本のページをめくり、静かに言う。
「そういや、エルミナが言ってた。秋は読書の季節だって」
「へぇ……私たちにピッタリじゃない」
「ああ。確かに……でも、読書にピッタリな季節ってのも理解できるよな」
窓から外を見ると、見事な紅葉が飛び込んできた。
夏が終わると秋になる。冬は三年に一度。三年間は春で、夏と秋は不定期。
オーベルシュタインの地域で、この順番も変わる。年中夏の海沿い、冬だけの地域や、秋だけの地域もある。なんとなくだが、世界を生み出したシエラ様の気まぐれで、こんな季節になったんじゃないかと思った。
「秋が終われば、冬か……」
「違うわ。冬は三年に一度、あと二年あるわよ? 秋が終われば春になるわ」
「……感覚がおかしくなるな」
再び、無言でページをめくる。
すると、窓から猫が飛び込んできた。
『にゃー』
「お、猫……ほら、おいでおいで」
『にゃ』
「あら? ふふ、私の方が好かれてるわね」
猫はローレライの太腿で丸くなった。
なんとなく敗北感……すると、ドアがノックされた。
「姉さま、お兄ちゃん!! 勉強するから教えてっ!!」
「姫様!! お二人の読書を邪魔してはいけません!!」
ビックリした……クララベルが飛び込んで来た。
猫も驚いてローレライの太腿かた飛び降り、再び窓から外へ。
ローレライは本を閉じ、クララベルに言う。
「仕方ないわね。ほら、こっちにおいで」
「わーい!」
「ローレライ様。申し訳ございません……」
「いいのよ。それに、私のところに来た以上、逃がすつもりはないから」
「ね、姉さま?」
「ゴーヴァン。ランスローとお昼を食べてきなさい。私とアシュトはクララベルの勉強に付き合うから……そうね。今日はもう休みでいいわ。また明日ね」
「姉さま!?」
「ふふ、クララベル……久しぶりに、みっちりしごいてあげる」
「「それでは、失礼いたします!!」」
「あ!? 待ってランスロー、ランスロー!!」
「申し訳ございません。ローレライ様の命令ですので……」
「わぁぁぁぁん!! ランスローの裏切り者ぉぉぉぉ!!」
ぎっちり抱きかかえられるクララベル。
ランスローはローレライの命令に逆らう気はないのか、どこか楽し気に部屋を出て行った。
なんというか……茶目っ気出てきたな。
ま、こういうのも悪くない。
俺も本を閉じ、クララベルの頭を撫でた。
「お、お兄ちゃん……」
「クララベル。俺も付いてるからさ……勉強しような」
「お兄ちゃんまでー!!」
俺とローレライは、日暮れまでクララベルの勉強に付き合った。
クララベル、たまには勉強漬けってものいいモンだろ?
「全然よくないし!! うぇぇ~~~んっ!!」
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ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
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