大自然の魔法師アシュト、廃れた領地でスローライフ

さとう

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秋の訪れ

第598話、みんなでサツマイモを食べよう!

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 秋が深まり、緑龍の村の木々が彩り始めた頃。
 俺は、屋敷の裏で落ち葉集めをしていた。

「ふぅ、結構な量になるな」

 彩り始めた葉っぱが、はらはらと落ちてくる。
 木々が多いので、葉っぱもかなりの量だ。
 仕事が休みで、さらに運動不足ということもあり、裏庭の落ち葉掃除を俺が引き受けたのだ。
 もちろん、一人ではない。

「まんどれーいく」
「あるらうねー」
「お、ありがとう」

 サッとちりとりを構えるマンドレイクとアルラウネ。
 久しぶりに三人で過ごしている。マンドレイクとアルラウネも楽しそうに手伝ってくれてる。
 たまにこうして掃除するのも悪くない。
 のんびり箒で履いていると、大きな木箱を抱えたエルミナがやってきた。

「アシュトー」
「エルミナ。なんだその木箱?」
「よ、っと……ふふふ、見て驚かないでよね!」

 エルミナは木箱を置き、蓋を開けた。  
 中に入っていたのは……なんともまぁ、大きな『サツマイモ』だった。
 エルミナは、サツマイモの一つを手に取って俺に見せる。

「ハイエルフの里にも秋が来てね。おじいちゃんが植えたサツマイモが大豊作なんだって。それで、緑龍の村にもおすそ分けってことで、大量に送られてきたのよ。今、村中を回ってみんなに配ってるの」
「へぇ~……でっかいな」
「大豊作。さらにでっかいおイモよ。甘くておいしい自慢のサツマイモなんだから!」

 エルミナは胸を張って人差し指をピンと立てる。
 マンドレイクとアルラウネは、木箱のサツマイモを指でつついていた。

「よし! まだまだ回らないと。じゃ、また後でね!」
「ああ、ありがとな」

 エルミナは手を振りながら行ってしまった。
 さて、掃除の続き……と思ったが。

「あるらうねー」
「ん? サツマイモが気になるのか?」
「あるらうねー」

 アルラウネがサツマイモを指さし、俺の袖をクイクイ引っ張る。
 マンドレイクは、大きなサツマイモを手に取ってジッと見ている。
 俺はふと思った。
 目の前にあるサツマイモに、集めた落ち葉。
 そういえば……ビッグバロッグ王国に住んでた時、シャヘル先生とよくやったっけ。
 俺はアルラウネの頭を撫で、マンドレイクの持つサツマイモを手に取った。

「よし。せっかくの機会だ、焼き芋でもやるか」
「まんどれーいく?」
「あるらうねー?」
「ははは。知らないか? よーし、任せておけ」

 俺は胸をドンと叩き、焼き芋の準備を始めた。

 ◇◇◇◇◇◇

 さて、用意したのは。
 ヒュンケル兄が置いていった新聞、鍛冶場で使う薄手の耐火布だ。
 俺はたらいに水を張り、マンドレイクとアルラウネにサツマイモを洗ってもらう。

「まんどれーいく!」
「あるらうねー!」
「よしよし。よーく洗ったら、濡らした新聞紙でサツマイモを包むんだ」

 サツマイモを濡らした新聞紙に包み込む。
 マンドレイクとアルラウネは、初めての作業を楽しそうにやっている。見ているこっちも楽しくなるね。
 
「最後に、薄手の耐火布に包んで完成!」
「まんどれーいく!」
「あるらうねー!」
「よし。芋の準備はできた。あとは……焚火だ!」
「「?」」

 包んだサツマイモを落ち葉の中心近くに入れる。
 杖を取りだし、呪文を唱え火球を生み出した。
 そして、火球を落ち葉へ向けて放つと……落ち葉がじっくりジワジワと燃え出す。
 あとは、葉っぱが燃え尽きるまで見守ればいい。

「まんどれーいく……」
「あるらうねー……」
「大丈夫大丈夫。サツマイモは焼けることなく、焚火の熱でじっくり温められるんだ。シャヘル先生とよくやったし、これでいいはずだ」
「まんどれーいく」
「あるらうねー」

 二人は燃える落ち葉をジッと見ていた。
 俺も、休憩がてら落ち葉の傍にしゃがみ込み、焚火を見守る。
 じっくりと燃え、葉っぱが燃え尽きていく……なんというか、寂しいな。
 それから十分ほどで、葉っぱが燃え尽きた。
 俺は手袋をはめ、燃え跡から耐火布に包まれたサツマイモを取り出す。
 
「あちちっ、あち……ん、耐火布に包まれても熱い。いい感じだ」

 耐火布を外すと、黒く焦げた新聞紙が見えた。 
 それを丁寧に剥がしていくと、表面の皮が硬くなったサツマイモが見えた。
 マンドレイクとアルラウネはジッと見てる。

「見てろ……ほぉら、美味そうだぞ~」

 二人の目の前で、焼き芋をぽきっと折る。
 すると……香る香る。焼き芋の甘~い香り!
 ふんわりした甘い香り、もちっとした黄色い芋が目の前に。

「まんどれーいく……!!」
「あるらうねーっ!!」
「ははは。熱いから気を付けてな。はい」

 二人はさっそく焼き芋にかぶりつくと、熱いのか口を「ほっほっ」とさせる。
 俺も、自分の焼き芋を食べる。

「ん……!! うまい。甘くてモチモチ、これぞ焼き芋……!!」
「まんどれーいく!!」
「あるらうねー!!」
「はいよ。おかわりね」

 二人にもう一本ずつ焼き芋を渡すと、ホクホクしながら食べ始めた。
 俺ももう一本食べる。うん、やっぱりおいしい。

「おい」
「ん? おお、ルミナ」
「何食べてるんだ。お前ばっかりずるいぞ」

 ルミナが尻尾を揺らしながら来た。
 ネコミミが片方だけしおれている。ああ、これは不機嫌の証だ。
 俺とマンドレイクとアルラウネだけ焼き芋を食べてるのが気に喰わないんだな。
 俺はルミナの頭を撫でつつ焼き芋を渡す。

「熱いから気を付けろよ」
「みゃ……あちっ、あつい!! みゃうぅぅぅっ!!」
「ほらほら、火傷するなよ?」
「みゃあー……」

 焼き芋の皮をむき、ルミナに渡す。
 ちろちろと舐め、身をパクっと食べる……すると、ネコミミがピンと立った。
 眼もキラキラ輝き、尻尾もブンブン揺れる。ああ、美味いんだな。

「うまい。おい、もっとよこせ」
「はいはい。マンドレイクとアルラウネも食べるか?」
「まんどれーいく」
「あるらうねー」
「よし、俺も食べるぞ。ほらみんな、いっぱい食べろよー」

 俺たちは、お昼ご飯が食べられなくなるくらい、焼き芋を満喫した。

 ◇◇◇◇◇◇
 
 ◇◇◇◇◇◇

 ◇◇◇◇◇◇
 
 場所は変わり、屋敷のキッチン。
 ここでは、ミュディ、ミュア、ライラ、シルメリア。そしてカエデがエプロンを付け気合を入れていた。
 何をするのかと言うと。

「よし。これより、きのことサツマイモの料理を始めるのじゃ!」
「よろしくね、カエデちゃん」
「にゃうー」
「くぅん。サツマイモ、いい匂い」
「よろしくお願いします」

 サツマイモは、エルミナが運んできた物。きのこはアシュトが収穫してきた余りだ。
 たまたまライラと遊びに来ていたカエデが『妖狐族に伝わるサツマイモ料理を教えるのじゃ』と言い出し、キッチンにいたミュディとシルメリアを巻き込んで、こうして料理を始めたのだ。
 ミュディは、カエデの尻尾を触るのを我慢しつつ言う。

「ね、カエデちゃん。サツマイモ、どんな調理をするの?」
「サツマイモは、基本的には焼いたり蒸したりするのが一般的なのじゃ。でも、妖狐族の里では、コメと一緒に炊いたり、揚げたりするのも多いのじゃ」

 カエデは尻尾をフリフリする。
 さっそく包丁を掴もうとするが、シルメリアが先に取った。

「この包丁はカエデには大きすぎます。私とミュディ様でやりますので、指示を」
「にゃあ。わたしもやりたいー」
「わ、わたしも。くぅん」
「むぅ……仕方ないのじゃ。ミュア、ライラには別の仕事を任せるのじゃ」

 ミュアとライラはコメを丁寧に洗う作業を命じた。
 ミュディはサツマイモを輪切りにし、シルメリアは皮をむいてざく切りする。
 ざく切りした芋、コメ、酒を少々、塩を入れ、普通に炊く。
 その間、輪切りにしたサツマイモを鍋に入れ、砂糖、レモン汁、水を入れて火にかけた。
 落し蓋をして、芋が乾燥しないようにして待つ。

「これでいいのじゃ。さて、次はきのこなのじゃ。きのこといえばやっぱり網焼き、そして天ぷらなのじゃ!」
「にゃぉぉー」
「わぅぅん」
「天ぷらって、妖狐族がよく作る揚げ物だよね?」
「うむ。ご飯との相性が抜群なのじゃ」

 カエデの尻尾が今までにないくらい揺れている。
 シルメリアはきゅっと顔を引き締めた。

「天ぷらは、妖狐族の料理人から教わりました。ミュディ様、網焼きをお任せしてよろしいでしょうか?」
「うん。じゃあライラちゃん、一緒にやろっか」
「わん!」
「にゃあ。わたしもシルメリアとやる!」
「わらわもやるのじゃ!」

 キッチンは、一気に騒がしくなる。
 網焼き、天ぷらの音が響き、キッチン内は香ばしい香りで満たされる。
 カエデは、落し蓋を開けて確認した。

「うむ。できたのじゃ! サツマイモのレモン煮、完成なのじゃ!」

 サツマイモのレモン煮。
 サツマイモの輪切りを、レモン汁と砂糖で甘く煮たもので、おやつに最適だ。
 
「こちらもできました。サツマイモの炊き込みご飯です」

 シルメリアが鍋の蓋を開けると、ふんわり甘いサツマイモの炊き込みご飯の匂いが広がった。
 匂いに敏感なライラの尻尾はずっと動きっぱなしだ。

「わぅぅん……いい匂い」
「お昼まで我慢しようね」
「くぅん」

 網焼き、天ぷらも揚がる。
 さすがに換気をしなければと、シルメリアが窓を開けた。
 外の風が室内の空気を押し流し、秋の空気がキッチンに入ってくる。
 すると、ライラが鼻をピクピクさせた。

「わぅ? なんか、焚火の匂いする」
「え? 焚火?」
「まさか……火事ですか?」

 シルメリアが窓を全開にし、外を見た。
 
「……ああ、そういことでしたか」
「え? あ……」
「にゃう?」
「わぅ?」
「む?」

 全員で窓の外を覗き込むと、そこには。

「ん~うまい」
「まんどれーく」
「あるらうねーっ」
「みゃう。もっとよこせ」

 落ち葉で焚火をして、サツマイモを焼いているアシュトたちがいた。
 すると、ミュアが言う。

「にゃあ! ご主人さまーっ!」
「ん? あ、ミュアちゃん。それに、ミュディにシルメリアさん、ライラちゃんにカエデも……何してるんだ?」
「にゃう。お料理してたの。ご主人さま、おいも焼いてるの? いいなー」
「あはは。いっぱいあるから、そっちに持って行くよ」

 と、ここでシルメリアが言う。

「お待ちくださいご主人様。せっかくですので、外で食べませんか? こちらも、もうすぐサツマイモ料理が完成しますので」
「お、いいね。よし、じゃあテーブルの準備するか。みんな、手伝って」
「まんどれーく!」
「あるらうねー!」
「あたいも? めんどう……だけど、今回は手伝うぞ」
「ご主人様!! そのような仕事、私たちが」
「いやいや。やらせてよこれくらい」

 アシュトはテーブルを準備しに行ってしまった。
 ミュディは「よし」と腕まくりをする。

「みんな。こっちも速く仕上げて、みんなでサツマイモ料理食べようね!」
「にゃう!」
「わん!」
「うむ。楽しみなのじゃ」
「はい、ミュディ様」

 全員で準備を済ませ、庭に大量のサツマイモ料理が並んだ。

 ◇◇◇◇◇◇

 ◇◇◇◇◇◇

 ◇◇◇◇◇◇

 テーブルいっぱいに並んだサツマイモ料理は、どれもいい香りがした。
 妖狐族の料理という、サツマイモのレモン煮、サツマイモご飯、サツマイモの天ぷら。以前収穫した残りのきのこも天ぷらに。そして、俺たちが焼いた焼き芋も。
 どれも美味しそう。さっそく俺はレモン煮に手を伸ばす。

「おぉ……これは、甘くてうまい。レモンの味と砂糖の甘み、さらにイモの味が絡み合って……うむむ、とにかくうまいぞ!!」
「みゃう。あたいも食べる」
「アシュト、サツマイモのご飯も美味しいよ!」
「マジか。ミュディ、くれ」
「まんどれーく!」
「あるらうねー!」
「わぅぅん。網焼き、おいしい」
「やはり焼き芋は美味いのじゃ! 甘くてねっとりした芋の味がたまらんのじゃ!」
「……天ぷら。これはどの食材にも合いそうですね。他の銀猫たちにも教えないと」
 
 しばし、全員でサツマイモの料理を楽しんでいると。

「あーっ!! なんかいい匂いすると思ったら、こんなところで食べてるっ!!」
「やっほ、村長」
「やっほー」
「ん~いい匂い。アタシらも食べたいなー」
「サツマイモ料理、素敵ですっ!」

 エルミナ、メージュ、ルネア、シレーヌ、エレインのハイエルフたちだ。
 サツマイモを配り終わったのだろうか。
 俺はみんなを誘う。

「みんなも食べてけよ。どれも美味いぞ」
「やった! ほらみんな食べるわよ。あ、お酒ないお酒?」
「ないって。酒は後にしろよ……」
「酒、か。ふぅむ……エルミナ殿はお酒を造るのが得意じゃな?」
「そうだけど」

 カエデはモフモフ尻尾を揺らしながら焼き芋を食べている。
 そして、思い出したように言った。

「そういえば、妖狐族の里に、サツマイモから造ったお酒があったのじゃ」
「マジで!?」
「ぬぉぉ!?」
「カエデ、それ教えて。ってかちょうだい!!」
「わ、わかったのじゃ!! 尻尾を掴まないでほしいのじゃ!!」

 イモ焼酎というお酒にエルミナがハマり出すのは、間もなくのことだった。
 そして、しばらく村ではサツマイモ料理が大流行するのだった。
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