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秋の訪れ
第600話、やっぱり食欲の秋
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最近の俺は、裏庭で読書することが多かった。
紅葉が美しく、落ち葉が風に吹かれてカサカサ音を立てる。
ミュアちゃんの淹れたカーフィーも、味が濃くてとてもおいしい。最初は苦くて飲みにくかったカーフィーも、二年以上飲んでればこの苦さがたまらない。
今や、屋敷にはカーフィー専用の棚もある。ディミトリからの贈り物もあるし、今度何か送ろうかな。
テーブルの上には、数冊の本。ローレライから借りた、ドラゴンロード王国の作家が執筆した伝記だ。これがまたなんとも面白い。
俺はカーフィーカップに手を伸ばす。
「はぁ……うまい」
「にゃあ。ご主人さま、おかわりする?」
「ああ、お願い」
「にゃうー」
ミュアちゃんは、お代わりのカーフィーを淹れる。
ディミトリの店で買ったカーフィー豆を砕く『ハンドミル』に豆を入れる。このハンドミル、筒に取っ手が付いており、筒の中に豆を入れて取っ手を回すと、豆が砕けるのだ。
カリカリ、カリカリと豆が砕け、ミュアちゃんは金属製のフィルターの上に豆を入れ、カーフィーデカンタという専用のポットにセットする。
そして、お湯をフィルターのカーフィー豆に注ぐと、綺麗なカーフィーがポタポタとデカンタに落ちてきた。
最後に、温めたカップにデカンタのカーフィーを淹れて完成。
「にゃう。カーフィーです」
「ありがとう」
随分と手慣れたもんだ。
俺はクッキーを一つ摘まみ、ミュアちゃんの口へ持っていく。
「にゃ」
「ふふ、おいしい?」
「にゃあ。サツマイモの味がするー」
「クララベルが作った『サツマイモクッキー』だよ。おいしいでしょ」
「にゃぁ……おいしい」
この甘みがカーフィーと合うんだよなぁ。
クララベルのお菓子屋『ブランシュネージュ』でも、今はサツマイモを使ったスイーツがメインで販売されているらしい。サツマイモ……甘い野菜程度の考えだったけど、こうも化けるとはな。
すると、テーブルの下からルミナが出てきた。
「みゃう。あたいにもよこせ」
「お前、いつの間に」
「ふん。お前ばっかりおやつ、ずるいぞ」
「わかったわかった。ほら」
「みゃぁう」
ルミナにサツマイモクッキーが食べられてしまった。
ミュアちゃんもムスッとしてるし、仕方ないな。
「ミュアちゃん、お代わりのクッキー、持ってきてもらっていい?」
「にゃあ。わかりましたー……ルミナはもうダメだからね!」
「ふん。お腹いっぱいだしいらない……ふみゃぁぁ、眠い」
ルミナは欠伸をすると、俺の太腿に座って眠りはじめた。
なんとも可愛いけど、読書するにはちょっと邪魔だな……まぁいいか。
「さて、続き読むか」
のんびり読書を再開すると───今度は、エルミナがやってきた。
◇◇◇◇◇◇
「やっぱり、秋は美味しい物いっぱい食べたい!」
「……いきなり何だよ?」
唐突に、エルミナがそんなことを言い出した。
俺の本をどかし、テーブルに何かを広げる。
エルミナ手書きの羊皮紙には、こんなことが書かれていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
〇秋の味覚を満喫しよう計画!
1、海で今が旬の『ヨンマ』をいっぱい食べる
2、ハイエルフの里で『梨』を収穫、いっぱい食べる。
3、村で収穫した野菜を使って『芋煮会』を開催。
4、仕込んだ清酒の試飲会をする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「お前、食うのばっかじゃん」
「いいでしょ別に。食欲の秋っていうじゃない」
「いや、知らんけど」
すると、シルメリアさんとミュアちゃんが、大きな箱を抱えてやってきた。
俺とエルミナの間に箱を置き一礼する。
「ご主人様。マーメイド族から『ヨンマ』が大量に届きました。同封された手紙に、『今が旬、いっぱい食べてくれ。シードより』と書かれていました……どうやら、海の方も秋が訪れたようで、ヨンマの群れでやってきたようです。ごくり」
「にゃうう」
シルメリアさん、魚大好きだもんな。
木箱には氷が敷き詰められ、二十匹以上のヨンマが入っている。
細長い魚だ。焼くと美味いし、酒の肴にピッタリ……さかなのサカナ、なんてな。
「いいタイミングじゃない!! アシュト、焼くわよ!!」
「お、おい」
「シルメリア、七輪用意!!」
「すでに用意してあります」
「さすが!! よし、今日のお昼はヨンマに決定!!」
「ご主人様。数が尋常ではないので、希望者にお配りしてもよろしいでしょうか?」
「あ、ああ。いいよ」
「ありがとうございます。では、さっそくヨンマを焼きます。ミュア」
「にゃああ。焼く」
七輪に炭を入れ、火種を落とすと……パチパチ静かに爆ぜ、火が付いた。
シルメリアさんは、持参したテーブルと包丁で(どこに持ってたんだ)手早くヨンマを捌き、そのまま網の上に置く。味付けはシンプルに塩のみ。
「くぅぅ、楽しみねぇ」
エルミナは、いつの間にか酒瓶を出していた。
すると今度はルミナのネコミミが動く。ヨンマの焼ける匂いに反応したようだ。
「みゃ……くぁぁ」
「お、起きたか」
「さかな……」
「もうすぐヨンマが焼けるぞ」
「みゃあ」
「ご主人さま、焼けたー」
焼けたヨンマをミュアちゃんが俺の元へ。
俺はフォークで身を分け、まずは自分で食べた。
「───……うまい! 脂が載ってるな」
「みゃう。あたいも」
「はいはい」
「シルメリア!! 私も早くっ!!」
「はい、もうすぐ焼けます」
「にゃあ。わたしもたべたいー」
「あはは。ミュアちゃんとシルメリアさんも一緒に食べよっか」
こうして、エルミナの『ヨンマを喰う』という願いは、実にあっさり解決した。
ヨンマでお腹が膨れ、さらに酒で酔ったエルミナ。
羊皮紙をジーっと眺め、赤い顔で言う。
「次~~~……梨の収穫ぅ」
「梨かぁ。リンゴみたいな果実だよな。ビッグバロッグ王国では輸入品しか見たことがない」
「うっふっふぅ~、ハイエルフの里の梨はおっきくて甘くて絶品よぉ? うへへ、明日クジャタで行くわよぉぉぉぉっ……うぃぃ」
「わかったわかった。シルメリアさん、エルミナをベッドへ」
「かしこまりました」
「うぅぅ……飲みすぎかも~……ぐぅ」
エルミナは引きずられながら寝てしまった。
それにしても……梨、か。
秋の味覚っていうし、村でも栽培できないかな。
「にゃあ。ご主人さま、おでかけするの?」
「ああ。明日、ハイエルフの里に行ってみようと思う。せっかくだし、ココロも連れて行こうかな」
「にゃうー、わたしも行きたい」
「わかった。ミュアちゃんと、ルミナも行くか?」
「ふん、当たり前だろ」
ハイエルフの里で梨の収穫。これって秋っぽいイベントだよな。
◇◇◇◇◇◇
翌日。
酔いの醒めたエルミナ。メージュにルネア、シレーヌとエレイン。ミュアちゃん、ルミナ。そして俺とシロは、クジャタ便に乗ってハイエルフの里へ向かった。
クジャタ便、久しぶりに乗るけど……けっこう速度出るようになったな。
道もすごい整備されてるし、けっこう驚いた。
「村長、驚いた?」
シレーヌが俺の隣に座り、どこか誇らしげに言う。
「ハイエルフの里までの道。すっごく綺麗になったでしょ?」
「ああ。柵もできてるし、道も綺麗に踏み慣らされてるし……初めて通った時とは全然違うよ」
「ふふん。実は、この道の整備を指揮したの、あたしなんだよね~」
「え、そうなのか?」
「うん。最短距離でハイエルフの里に行けるように距離を計算してね。最初は丸一日、その次は夕方までかけて移動してたけど、今じゃ半日かからないで移動できるんだ。クジャタも道慣れしたし、この移動用荷車にも慣れたしね」
「確かに……」
クジャタは、たまに放電するけど迷いなく進んでいた。
放電する瞬間を、俺たちの前に座るミュアちゃんとルミナが見てはしゃいでいる。
シレーヌは、どこか満足そうにしていた。
「いや~……まさか、オーベルシュタインにこんな立派な道ができるなんて、思いもしなかったよ。これも、村長のおかげかもね」
「俺は何もしてないって」
「いやいや、そんなことないって」
シレーヌは俺の腕をバンバン叩く。
すると、ルネアが後ろの席で俺たちをジーっと見た。
「……シレーヌ、村長と仲良し」
「あっはっは。友達だもん、仲良しだって。ねぇ?」
「あ、ああ」
『きゃん!』
退屈になったシロが、俺に甘えるように座席に飛び込んで来た。
ハイエルフの里までもう少し、久しぶりにシロを甘やかしますかね。
◇◇◇◇◇◇
ハイエルフの里に到着した。
まずは長の家へ。長の家と言うかエルミナの家だけどな。
家には、ジーグベッグさんが木彫りの彫刻を作っていた。
眼鏡を外し、驚いたように俺たちを見る。
「これはこれはアシュト村長。何用ですかな?」
「……あれ。お、お久しぶりです、ジーグベッグさん。その、梨が収穫できると聞いたので、来たのですが」
「…………エルミナ」
全員がエルミナを見た。
エルミナは汗をかきそっぽ向いてる……すると、ジーグベッグさんが叫んだ。
「エルミナ!! お前という奴は……連絡の一つもよこさんで、いきなり来るとは何事じゃ!!」
「ごめんなさいっ!! 連絡するのすっかりわすれてた!! お、おじいちゃん、私たち梨の収穫に来たの。梨、いっぱいできてるんでしょ? 収穫は?」
「とっくに終わったわい!! 全く、お前というやつは!!」
「お、終わったぁ!? ちょっとちょっと、大豊作って聞いたけど、もう収穫終わったの!?」
「大豊作だったから、ハイエルフ総出で収穫したんじゃ!! もう仕分けも終わったわい!!」
「早いぃぃ!! 私たち何しに来たかわかんないじゃん!!」
「だから連絡すればよかったのじゃ!!」
うわぁ……これ、どうすりゃいいのよ。
メージュを見ると、首をプルプル振る。
参ったな。せっかく来たのに。
「うっさいねぇ……ジーグベッグ、お前さんのダミ声が外まで響いてるよ」
「あ、バーバおばあちゃん」
「エルミナ。また何かやらかしたのかい?」
「聞いてよ。おじいちゃんってば、大豊作の梨をさっさと収穫しちゃったのよ。私たちが収穫したかったのにぃ」
「馬鹿もん!! 連絡一つよこさんお前が悪い!!」
「どっちもやかましい。ったく、エルミナ、梨の収穫はもう終わっちまったよ。次の秋まで待つんだね」
「そんなぁ……」
「ジーグベッグ。おまえさんもだよ。お客さんの前で馬鹿みたいに孫娘を怒鳴りちらすなんて、ハイエルフの品格を落とすようなモンさね」
「ぐ、ぐぅぅ」
「お客人、悪かったね。もぎたての梨ならたくさんあるから、いっぱい食べていきな。もちろん、土産も渡すよ」
「あ、ありがとうございます」
不思議なおばあちゃんだな。
すると、メージュが耳打ちする。
「バーバジージャ様。ジーグベッグ様と同じくらい長生きしてる、最古のハイエルフの一人だよ」
マジか。
じゃあこの人も、何百万年と生きてるのか。
バーバジージャさんは音もなく去って行った。
「おじいちゃん!! 梨どこ梨!!」
「お前という奴は……はぁ、第三倉庫の梨ならいくら食べてもよい。土産も準備させる」
「やった!! みんな、収穫は無理だったけど、梨いっぱい食べましょ!!」
……いちおう、言っておく。
間違いなく、連絡の一つもしなかったエルミナが悪いからな。
◇◇◇◇◇◇
エルミナに案内された大きな倉庫を開けると、木箱に大量の梨が入っていた。
「よし!! さっそく食べるわよ。みんな、もてるだけ持って里の中央広場へ移動っ!!」
エルミナの仕切りで中央広場へ。
さっそく、エルミナたち女性陣が梨をカットする。
ミュアちゃんも、慣れた手つきで梨を切っていた。
「にゃあ。ご主人さま、どうぞ」
「ありがとう、ミュアちゃん」
「ルミナとシロも」
「みゃう」
『きゃん!』
さっそく、ミュアちゃんがカットした梨を齧る。
「───……うわぁ、すっごい瑞々しい! リンゴとは微妙に違う食感! それに、すっごく甘い!」
「みゃう。うまい」
『きゃんきゃんっ!』
ルミナとシロもモグモグ食べていた。
ミュアちゃんも美味しそうに食べ、エルミナもガツガツ食べていた。
そして、エルミナは気付く。
「…………これでお酒作れないかな」
「梨で? あんた、ほんと酒のことばっかりね」
「メージュ、お酒こそ至高の水よ。ね、ルネア」
「お酒、そんなに好きじゃない」
「はいはい! エルミナ、あたしは好き!」
「さっすがシレーヌ! エレインは?」
「わ、わたしも好きですっ!」
ハイエルフ組はいつも楽しそうだ。
すると、俺たちの騒ぎにハイエルフたちが集まってきた。
酒を持ち寄ったり、焚火を始めて肉を焼き始めたり、音楽隊が現れ音楽を奏で始めたり……いつの間にか、ハイエルフの里では大宴会となっていた。
「あっはっは!! ね、梨最高でしょ、アシュト!!」
「あ、ああ。なんというか……ハイエルフってやっぱすごいな」
「当然!!」
エルミナは酒瓶片手に胸を張り、瓶の口を加えてラッパ飲みを始めた。
まぁ、楽しいからいいか。
紅葉が美しく、落ち葉が風に吹かれてカサカサ音を立てる。
ミュアちゃんの淹れたカーフィーも、味が濃くてとてもおいしい。最初は苦くて飲みにくかったカーフィーも、二年以上飲んでればこの苦さがたまらない。
今や、屋敷にはカーフィー専用の棚もある。ディミトリからの贈り物もあるし、今度何か送ろうかな。
テーブルの上には、数冊の本。ローレライから借りた、ドラゴンロード王国の作家が執筆した伝記だ。これがまたなんとも面白い。
俺はカーフィーカップに手を伸ばす。
「はぁ……うまい」
「にゃあ。ご主人さま、おかわりする?」
「ああ、お願い」
「にゃうー」
ミュアちゃんは、お代わりのカーフィーを淹れる。
ディミトリの店で買ったカーフィー豆を砕く『ハンドミル』に豆を入れる。このハンドミル、筒に取っ手が付いており、筒の中に豆を入れて取っ手を回すと、豆が砕けるのだ。
カリカリ、カリカリと豆が砕け、ミュアちゃんは金属製のフィルターの上に豆を入れ、カーフィーデカンタという専用のポットにセットする。
そして、お湯をフィルターのカーフィー豆に注ぐと、綺麗なカーフィーがポタポタとデカンタに落ちてきた。
最後に、温めたカップにデカンタのカーフィーを淹れて完成。
「にゃう。カーフィーです」
「ありがとう」
随分と手慣れたもんだ。
俺はクッキーを一つ摘まみ、ミュアちゃんの口へ持っていく。
「にゃ」
「ふふ、おいしい?」
「にゃあ。サツマイモの味がするー」
「クララベルが作った『サツマイモクッキー』だよ。おいしいでしょ」
「にゃぁ……おいしい」
この甘みがカーフィーと合うんだよなぁ。
クララベルのお菓子屋『ブランシュネージュ』でも、今はサツマイモを使ったスイーツがメインで販売されているらしい。サツマイモ……甘い野菜程度の考えだったけど、こうも化けるとはな。
すると、テーブルの下からルミナが出てきた。
「みゃう。あたいにもよこせ」
「お前、いつの間に」
「ふん。お前ばっかりおやつ、ずるいぞ」
「わかったわかった。ほら」
「みゃぁう」
ルミナにサツマイモクッキーが食べられてしまった。
ミュアちゃんもムスッとしてるし、仕方ないな。
「ミュアちゃん、お代わりのクッキー、持ってきてもらっていい?」
「にゃあ。わかりましたー……ルミナはもうダメだからね!」
「ふん。お腹いっぱいだしいらない……ふみゃぁぁ、眠い」
ルミナは欠伸をすると、俺の太腿に座って眠りはじめた。
なんとも可愛いけど、読書するにはちょっと邪魔だな……まぁいいか。
「さて、続き読むか」
のんびり読書を再開すると───今度は、エルミナがやってきた。
◇◇◇◇◇◇
「やっぱり、秋は美味しい物いっぱい食べたい!」
「……いきなり何だよ?」
唐突に、エルミナがそんなことを言い出した。
俺の本をどかし、テーブルに何かを広げる。
エルミナ手書きの羊皮紙には、こんなことが書かれていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
〇秋の味覚を満喫しよう計画!
1、海で今が旬の『ヨンマ』をいっぱい食べる
2、ハイエルフの里で『梨』を収穫、いっぱい食べる。
3、村で収穫した野菜を使って『芋煮会』を開催。
4、仕込んだ清酒の試飲会をする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「お前、食うのばっかじゃん」
「いいでしょ別に。食欲の秋っていうじゃない」
「いや、知らんけど」
すると、シルメリアさんとミュアちゃんが、大きな箱を抱えてやってきた。
俺とエルミナの間に箱を置き一礼する。
「ご主人様。マーメイド族から『ヨンマ』が大量に届きました。同封された手紙に、『今が旬、いっぱい食べてくれ。シードより』と書かれていました……どうやら、海の方も秋が訪れたようで、ヨンマの群れでやってきたようです。ごくり」
「にゃうう」
シルメリアさん、魚大好きだもんな。
木箱には氷が敷き詰められ、二十匹以上のヨンマが入っている。
細長い魚だ。焼くと美味いし、酒の肴にピッタリ……さかなのサカナ、なんてな。
「いいタイミングじゃない!! アシュト、焼くわよ!!」
「お、おい」
「シルメリア、七輪用意!!」
「すでに用意してあります」
「さすが!! よし、今日のお昼はヨンマに決定!!」
「ご主人様。数が尋常ではないので、希望者にお配りしてもよろしいでしょうか?」
「あ、ああ。いいよ」
「ありがとうございます。では、さっそくヨンマを焼きます。ミュア」
「にゃああ。焼く」
七輪に炭を入れ、火種を落とすと……パチパチ静かに爆ぜ、火が付いた。
シルメリアさんは、持参したテーブルと包丁で(どこに持ってたんだ)手早くヨンマを捌き、そのまま網の上に置く。味付けはシンプルに塩のみ。
「くぅぅ、楽しみねぇ」
エルミナは、いつの間にか酒瓶を出していた。
すると今度はルミナのネコミミが動く。ヨンマの焼ける匂いに反応したようだ。
「みゃ……くぁぁ」
「お、起きたか」
「さかな……」
「もうすぐヨンマが焼けるぞ」
「みゃあ」
「ご主人さま、焼けたー」
焼けたヨンマをミュアちゃんが俺の元へ。
俺はフォークで身を分け、まずは自分で食べた。
「───……うまい! 脂が載ってるな」
「みゃう。あたいも」
「はいはい」
「シルメリア!! 私も早くっ!!」
「はい、もうすぐ焼けます」
「にゃあ。わたしもたべたいー」
「あはは。ミュアちゃんとシルメリアさんも一緒に食べよっか」
こうして、エルミナの『ヨンマを喰う』という願いは、実にあっさり解決した。
ヨンマでお腹が膨れ、さらに酒で酔ったエルミナ。
羊皮紙をジーっと眺め、赤い顔で言う。
「次~~~……梨の収穫ぅ」
「梨かぁ。リンゴみたいな果実だよな。ビッグバロッグ王国では輸入品しか見たことがない」
「うっふっふぅ~、ハイエルフの里の梨はおっきくて甘くて絶品よぉ? うへへ、明日クジャタで行くわよぉぉぉぉっ……うぃぃ」
「わかったわかった。シルメリアさん、エルミナをベッドへ」
「かしこまりました」
「うぅぅ……飲みすぎかも~……ぐぅ」
エルミナは引きずられながら寝てしまった。
それにしても……梨、か。
秋の味覚っていうし、村でも栽培できないかな。
「にゃあ。ご主人さま、おでかけするの?」
「ああ。明日、ハイエルフの里に行ってみようと思う。せっかくだし、ココロも連れて行こうかな」
「にゃうー、わたしも行きたい」
「わかった。ミュアちゃんと、ルミナも行くか?」
「ふん、当たり前だろ」
ハイエルフの里で梨の収穫。これって秋っぽいイベントだよな。
◇◇◇◇◇◇
翌日。
酔いの醒めたエルミナ。メージュにルネア、シレーヌとエレイン。ミュアちゃん、ルミナ。そして俺とシロは、クジャタ便に乗ってハイエルフの里へ向かった。
クジャタ便、久しぶりに乗るけど……けっこう速度出るようになったな。
道もすごい整備されてるし、けっこう驚いた。
「村長、驚いた?」
シレーヌが俺の隣に座り、どこか誇らしげに言う。
「ハイエルフの里までの道。すっごく綺麗になったでしょ?」
「ああ。柵もできてるし、道も綺麗に踏み慣らされてるし……初めて通った時とは全然違うよ」
「ふふん。実は、この道の整備を指揮したの、あたしなんだよね~」
「え、そうなのか?」
「うん。最短距離でハイエルフの里に行けるように距離を計算してね。最初は丸一日、その次は夕方までかけて移動してたけど、今じゃ半日かからないで移動できるんだ。クジャタも道慣れしたし、この移動用荷車にも慣れたしね」
「確かに……」
クジャタは、たまに放電するけど迷いなく進んでいた。
放電する瞬間を、俺たちの前に座るミュアちゃんとルミナが見てはしゃいでいる。
シレーヌは、どこか満足そうにしていた。
「いや~……まさか、オーベルシュタインにこんな立派な道ができるなんて、思いもしなかったよ。これも、村長のおかげかもね」
「俺は何もしてないって」
「いやいや、そんなことないって」
シレーヌは俺の腕をバンバン叩く。
すると、ルネアが後ろの席で俺たちをジーっと見た。
「……シレーヌ、村長と仲良し」
「あっはっは。友達だもん、仲良しだって。ねぇ?」
「あ、ああ」
『きゃん!』
退屈になったシロが、俺に甘えるように座席に飛び込んで来た。
ハイエルフの里までもう少し、久しぶりにシロを甘やかしますかね。
◇◇◇◇◇◇
ハイエルフの里に到着した。
まずは長の家へ。長の家と言うかエルミナの家だけどな。
家には、ジーグベッグさんが木彫りの彫刻を作っていた。
眼鏡を外し、驚いたように俺たちを見る。
「これはこれはアシュト村長。何用ですかな?」
「……あれ。お、お久しぶりです、ジーグベッグさん。その、梨が収穫できると聞いたので、来たのですが」
「…………エルミナ」
全員がエルミナを見た。
エルミナは汗をかきそっぽ向いてる……すると、ジーグベッグさんが叫んだ。
「エルミナ!! お前という奴は……連絡の一つもよこさんで、いきなり来るとは何事じゃ!!」
「ごめんなさいっ!! 連絡するのすっかりわすれてた!! お、おじいちゃん、私たち梨の収穫に来たの。梨、いっぱいできてるんでしょ? 収穫は?」
「とっくに終わったわい!! 全く、お前というやつは!!」
「お、終わったぁ!? ちょっとちょっと、大豊作って聞いたけど、もう収穫終わったの!?」
「大豊作だったから、ハイエルフ総出で収穫したんじゃ!! もう仕分けも終わったわい!!」
「早いぃぃ!! 私たち何しに来たかわかんないじゃん!!」
「だから連絡すればよかったのじゃ!!」
うわぁ……これ、どうすりゃいいのよ。
メージュを見ると、首をプルプル振る。
参ったな。せっかく来たのに。
「うっさいねぇ……ジーグベッグ、お前さんのダミ声が外まで響いてるよ」
「あ、バーバおばあちゃん」
「エルミナ。また何かやらかしたのかい?」
「聞いてよ。おじいちゃんってば、大豊作の梨をさっさと収穫しちゃったのよ。私たちが収穫したかったのにぃ」
「馬鹿もん!! 連絡一つよこさんお前が悪い!!」
「どっちもやかましい。ったく、エルミナ、梨の収穫はもう終わっちまったよ。次の秋まで待つんだね」
「そんなぁ……」
「ジーグベッグ。おまえさんもだよ。お客さんの前で馬鹿みたいに孫娘を怒鳴りちらすなんて、ハイエルフの品格を落とすようなモンさね」
「ぐ、ぐぅぅ」
「お客人、悪かったね。もぎたての梨ならたくさんあるから、いっぱい食べていきな。もちろん、土産も渡すよ」
「あ、ありがとうございます」
不思議なおばあちゃんだな。
すると、メージュが耳打ちする。
「バーバジージャ様。ジーグベッグ様と同じくらい長生きしてる、最古のハイエルフの一人だよ」
マジか。
じゃあこの人も、何百万年と生きてるのか。
バーバジージャさんは音もなく去って行った。
「おじいちゃん!! 梨どこ梨!!」
「お前という奴は……はぁ、第三倉庫の梨ならいくら食べてもよい。土産も準備させる」
「やった!! みんな、収穫は無理だったけど、梨いっぱい食べましょ!!」
……いちおう、言っておく。
間違いなく、連絡の一つもしなかったエルミナが悪いからな。
◇◇◇◇◇◇
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「よし!! さっそく食べるわよ。みんな、もてるだけ持って里の中央広場へ移動っ!!」
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さっそく、エルミナたち女性陣が梨をカットする。
ミュアちゃんも、慣れた手つきで梨を切っていた。
「にゃあ。ご主人さま、どうぞ」
「ありがとう、ミュアちゃん」
「ルミナとシロも」
「みゃう」
『きゃん!』
さっそく、ミュアちゃんがカットした梨を齧る。
「───……うわぁ、すっごい瑞々しい! リンゴとは微妙に違う食感! それに、すっごく甘い!」
「みゃう。うまい」
『きゃんきゃんっ!』
ルミナとシロもモグモグ食べていた。
ミュアちゃんも美味しそうに食べ、エルミナもガツガツ食べていた。
そして、エルミナは気付く。
「…………これでお酒作れないかな」
「梨で? あんた、ほんと酒のことばっかりね」
「メージュ、お酒こそ至高の水よ。ね、ルネア」
「お酒、そんなに好きじゃない」
「はいはい! エルミナ、あたしは好き!」
「さっすがシレーヌ! エレインは?」
「わ、わたしも好きですっ!」
ハイエルフ組はいつも楽しそうだ。
すると、俺たちの騒ぎにハイエルフたちが集まってきた。
酒を持ち寄ったり、焚火を始めて肉を焼き始めたり、音楽隊が現れ音楽を奏で始めたり……いつの間にか、ハイエルフの里では大宴会となっていた。
「あっはっは!! ね、梨最高でしょ、アシュト!!」
「あ、ああ。なんというか……ハイエルフってやっぱすごいな」
「当然!!」
エルミナは酒瓶片手に胸を張り、瓶の口を加えてラッパ飲みを始めた。
まぁ、楽しいからいいか。
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詳細は近況ボードをご覧ください。
猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る
マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・
何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。
異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。
ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。
断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。
勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。
ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。
勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。
プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。
しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。
それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。
そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。
これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。
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