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4.誘拐犯
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蓮の入った袋は丁寧に馬から降ろされた。
上の方でゴソゴソ音がする。
もしかしたら誰かが袋を開けようとしているのだろうか。
きっと蓮の人生はここまでだ。
きっと奴隷として他国に売られてしまう。
小柄で痩せぎすで綺麗でもなんでもない男だから、酷い買い手にこき使われて二度と村に帰れないんだろう。
院長先生、今までありがとうございました。
子どもの頃はヤンチャで色々迷惑をかけてごめんなさい。
僕がいなくなっても、どうか悲しまないでください。
リアム、お前が親友で良かったよ。
お前がいなかったら、こんなに毎日楽しく過ごせなかったと思う。
いつも一緒にいてくれて嬉しかった。
僕、二人と出会えてとても幸せでした。
せめて少しでも良い買い手に買われるようにこれからは二人に咎められていた悪い態度を封印し、自分を殺してニコニコ従順な男を装おうと思う。
そんなことを思いながら蓮は絶望し、はらはらと涙を流した。
「あれ? どうして泣いているんだ?」
袋の口からひょっこり顔を出したリアムが驚いた顔をしている。
「リアム!!」
心が限界に達していた蓮は思わずリアムに抱きついた。
リアムから魔物の血の匂いがする。
魔物を倒した直後に蓮を助けに来てくれたのだろうか。
本当で勇者の中の勇者様である。
「ちょ、ちょっと落ち着け! 蓮!?」
リアムがあわあわと慌てている。
いついかなる時も平静なリアムが珍しい。
「怖かった! もう二度とリアムに会えないかと思った!」
「と、とりあえず離れてくれ!」
リアムが顔を背けながら言った。
本気で嫌がっているようだ。
男に抱き着かれたら気持ち悪いよな。
申し訳ないと思いながら蓮はリアムから離れた。
「僕が拐われたから助けに来てくれたんだろ? ありがとう」
蓮は涙を袖で拭いながら、リアムに微笑んだ。
「……違う」
リアムがボソッと呟いた。
「何が?」
「俺が蓮を拐ってきた」
リアムが気まずそうな顔をしていた。
「え?」
蓮は何を言われたのか理解出来なかった。
リアムが僕を攫う? 何の為に?
ところで、ここどこ?
……占うしかないか。
「ちょっと待て! 占うな!」
リアムが蓮の考えに何故か気が付き、妨害してきた。
さすが幼馴染。蓮の考えることはお見通しか。
「僕にはリアム様のお考えが理解出来ませんから」
蓮はリアムを冷たい目で睨んだ。
「蓮に近い人間は占えないんだろ?!」
「そうですが、ものは試しですよ」
蓮が狩衣の袖から筮竹と呼ばれる細い棒を取り出すと、顔色を変えたリアムに奪い取られた。
「駄目だ! 占い禁止!」
「ではリアム様。理由をお聞かせくださいませ」
冷静になった蓮は青い瞳でじっとリアムを見つめた。
「…………言わなきゃ駄目か?」
リアムは長く考え込んだ後に言った。
「駄目ですよ」
「お前のことだ。黙って付いてきてくれるとは思っていないが……」
リアムは何故かモジモジしながら言い淀んだ。
ちょっと気持ち悪い。
「もったいぶらず言ってください」
「俺は魔王討伐をすることに決めた。元を絶たないといくら村の周りの魔物を倒しても意味がないことに気がついたんだ」
リアムの言葉に蓮は大きく目を見開き、にっこりと微笑んだ。
「いってらっしゃい、勇者様!」
「いってきます……じゃなくて! 蓮にも一緒に魔王を倒しに行ってもらいたいんだ」
「僕は……占い専門の陰陽師ですが」
「気合でなんとかなるだろ」
「気合いでなんとかなるかもしれませんね! リアム様一人で気をつけて行ってらっしゃい!」
蓮がリアムに背中を向け、逃げ出そうとした。
リアムは逃さず、蓮をくすぐった。
「ひゃっ!? やめて! アヒャヒャ!」
「蓮が承諾するまでくすぐり続けるからな」
「子どもみたいなことをするな。 やめっ……」
「蓮は脇腹が弱いから、ここを重点的に」
「僕が魔王を倒すなんて、無理だって……」
「そんなのやってみないと分からないだろ。うわっ!」
リアムが体勢を崩して蓮を押し倒した。
リアムの金色の髪がさらりと蓮の額に触れる。
至近距離でリアムと蓮は見つめ合った。
「蓮……」
リアムのエメラルドグリーンの瞳が熱っぽく潤んでいる。
リアムってこんな顔していたっけ?
「……なに? くすぐるのは反則だよ。それに重い」
なぜか心臓がドキドキする。
幼馴染で見慣れているとはいえ、イケメンの顔面を至近距離で眺めるのは心臓に悪いようだ。
気恥ずかしさからリアムを投げ飛ばしたい衝動を耐え、努めて素っ気ない態度を取った。
「蓮、魔王討伐は一人じゃ怖い。一緒に来てくれ」
リアムは蓮の耳に触れそうになるほど近くで囁いた。
なんだ、その声!
今まで聞いたことがないんだけど!
リアムの重低音の良い声に蓮は発狂しそうになったが、なんとか耐えた。
「仕方ないな。今までリアム1人に魔物退治を押し付けちゃったし……一緒に行ってあげても良いよ」
蓮はしぶしぶ承諾した。
本当は魔王討伐なんていう柄じゃなかったけど。
リアムと一緒なら悪くないと思った。
というか、リアムと離れて暮らしたことがなかったので、一人になるのが怖かったというのもある。
毎日、院長先生に会いに行くわけにはいかないしな。
「ありがとう。蓮が一緒なら怖くない」
リアムは甘えるように蓮の頬に自分の頬を寄せた。
今日のリアムは子供みたいだ。
違うか……村から離れて勇者じゃない元のリアムに戻ったということか。
蓮はリアムの柔らかな金髪を乱暴にワシャワシャと撫でた。
上の方でゴソゴソ音がする。
もしかしたら誰かが袋を開けようとしているのだろうか。
きっと蓮の人生はここまでだ。
きっと奴隷として他国に売られてしまう。
小柄で痩せぎすで綺麗でもなんでもない男だから、酷い買い手にこき使われて二度と村に帰れないんだろう。
院長先生、今までありがとうございました。
子どもの頃はヤンチャで色々迷惑をかけてごめんなさい。
僕がいなくなっても、どうか悲しまないでください。
リアム、お前が親友で良かったよ。
お前がいなかったら、こんなに毎日楽しく過ごせなかったと思う。
いつも一緒にいてくれて嬉しかった。
僕、二人と出会えてとても幸せでした。
せめて少しでも良い買い手に買われるようにこれからは二人に咎められていた悪い態度を封印し、自分を殺してニコニコ従順な男を装おうと思う。
そんなことを思いながら蓮は絶望し、はらはらと涙を流した。
「あれ? どうして泣いているんだ?」
袋の口からひょっこり顔を出したリアムが驚いた顔をしている。
「リアム!!」
心が限界に達していた蓮は思わずリアムに抱きついた。
リアムから魔物の血の匂いがする。
魔物を倒した直後に蓮を助けに来てくれたのだろうか。
本当で勇者の中の勇者様である。
「ちょ、ちょっと落ち着け! 蓮!?」
リアムがあわあわと慌てている。
いついかなる時も平静なリアムが珍しい。
「怖かった! もう二度とリアムに会えないかと思った!」
「と、とりあえず離れてくれ!」
リアムが顔を背けながら言った。
本気で嫌がっているようだ。
男に抱き着かれたら気持ち悪いよな。
申し訳ないと思いながら蓮はリアムから離れた。
「僕が拐われたから助けに来てくれたんだろ? ありがとう」
蓮は涙を袖で拭いながら、リアムに微笑んだ。
「……違う」
リアムがボソッと呟いた。
「何が?」
「俺が蓮を拐ってきた」
リアムが気まずそうな顔をしていた。
「え?」
蓮は何を言われたのか理解出来なかった。
リアムが僕を攫う? 何の為に?
ところで、ここどこ?
……占うしかないか。
「ちょっと待て! 占うな!」
リアムが蓮の考えに何故か気が付き、妨害してきた。
さすが幼馴染。蓮の考えることはお見通しか。
「僕にはリアム様のお考えが理解出来ませんから」
蓮はリアムを冷たい目で睨んだ。
「蓮に近い人間は占えないんだろ?!」
「そうですが、ものは試しですよ」
蓮が狩衣の袖から筮竹と呼ばれる細い棒を取り出すと、顔色を変えたリアムに奪い取られた。
「駄目だ! 占い禁止!」
「ではリアム様。理由をお聞かせくださいませ」
冷静になった蓮は青い瞳でじっとリアムを見つめた。
「…………言わなきゃ駄目か?」
リアムは長く考え込んだ後に言った。
「駄目ですよ」
「お前のことだ。黙って付いてきてくれるとは思っていないが……」
リアムは何故かモジモジしながら言い淀んだ。
ちょっと気持ち悪い。
「もったいぶらず言ってください」
「俺は魔王討伐をすることに決めた。元を絶たないといくら村の周りの魔物を倒しても意味がないことに気がついたんだ」
リアムの言葉に蓮は大きく目を見開き、にっこりと微笑んだ。
「いってらっしゃい、勇者様!」
「いってきます……じゃなくて! 蓮にも一緒に魔王を倒しに行ってもらいたいんだ」
「僕は……占い専門の陰陽師ですが」
「気合でなんとかなるだろ」
「気合いでなんとかなるかもしれませんね! リアム様一人で気をつけて行ってらっしゃい!」
蓮がリアムに背中を向け、逃げ出そうとした。
リアムは逃さず、蓮をくすぐった。
「ひゃっ!? やめて! アヒャヒャ!」
「蓮が承諾するまでくすぐり続けるからな」
「子どもみたいなことをするな。 やめっ……」
「蓮は脇腹が弱いから、ここを重点的に」
「僕が魔王を倒すなんて、無理だって……」
「そんなのやってみないと分からないだろ。うわっ!」
リアムが体勢を崩して蓮を押し倒した。
リアムの金色の髪がさらりと蓮の額に触れる。
至近距離でリアムと蓮は見つめ合った。
「蓮……」
リアムのエメラルドグリーンの瞳が熱っぽく潤んでいる。
リアムってこんな顔していたっけ?
「……なに? くすぐるのは反則だよ。それに重い」
なぜか心臓がドキドキする。
幼馴染で見慣れているとはいえ、イケメンの顔面を至近距離で眺めるのは心臓に悪いようだ。
気恥ずかしさからリアムを投げ飛ばしたい衝動を耐え、努めて素っ気ない態度を取った。
「蓮、魔王討伐は一人じゃ怖い。一緒に来てくれ」
リアムは蓮の耳に触れそうになるほど近くで囁いた。
なんだ、その声!
今まで聞いたことがないんだけど!
リアムの重低音の良い声に蓮は発狂しそうになったが、なんとか耐えた。
「仕方ないな。今までリアム1人に魔物退治を押し付けちゃったし……一緒に行ってあげても良いよ」
蓮はしぶしぶ承諾した。
本当は魔王討伐なんていう柄じゃなかったけど。
リアムと一緒なら悪くないと思った。
というか、リアムと離れて暮らしたことがなかったので、一人になるのが怖かったというのもある。
毎日、院長先生に会いに行くわけにはいかないしな。
「ありがとう。蓮が一緒なら怖くない」
リアムは甘えるように蓮の頬に自分の頬を寄せた。
今日のリアムは子供みたいだ。
違うか……村から離れて勇者じゃない元のリアムに戻ったということか。
蓮はリアムの柔らかな金髪を乱暴にワシャワシャと撫でた。
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