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5.二人旅
リアムが上機嫌で茶色い立派な体格の愛馬に乗っている。
なんなら鼻歌も歌っている。
こんなに上機嫌なリアムは久しぶりに見た。
そんなに村での生活はキツかったのか。
改めてリアムに苦しい役割を押し付けていたのだと実感する。
魔物も少なく、天気も快晴で爽やかな風が気持ち良い。
リアムが上機嫌になる気持ちも分からなくはない。
村では見たことのない美しい花畑や青々とした湖、穏やかな木漏れ日に蓮の心も癒されるはずだった。
……リアムに抱きかかえられていなければ。
リアムの後ろに乗ろうとしたら、何故か駄目と言われた。
「乗馬は久しぶりだろ。落ちるかもしれないから前に乗れ」
リアムは有無を言わせず、蓮を自分の前に乗せた。
リアムの体温が分かるくらいの近距離にいるのは子どもの頃以来だ。
蓮が馬から落ちそうになるたびにリアムが蓮の腰を支えてくれる。
「蓮、大丈夫か? 落ちるなよ」
「リアム様、近いです」
「蓮が落ちたら俺の責任だから」
「僕だって乗馬くらい出来ます。久しぶりだから勘が戻っていないだけです」
蓮はむっとして不満そうに唇を尖らせた。
「ふーん?」
リアムが面白そうににっと笑った気配がした。
リアムは蓮の後ろにいるから、気配でしか感じられないが。
リアムの愛馬が急に走るスピードを上げた。
「わっ!」
蓮は馬の黒いたてがみに掴みついた。
「こいつは気まぐれだから、急にスピードを上げることがあるんだ。落ちたくないなら、蓮はそこで大人しくしていろよ」
リアムはにっと人の悪そうな笑みを浮かべた。
これは絶対わざとだ。
リアムの愛馬はとても賢いから、主人の命以外で勝手な行動をしているのを見たことがない。
リアムがこっそりスピードを上げるようにサインを出したのだろう。
こいつ、僕をからかっているな!
蓮は拳を握り締めた。
今すぐリアムを殴りたいが、自分が落馬するのは避けたい。
街に行ったら絶対自分専用の馬を買おう。と蓮は決心した。
幸い財布は懐にある。
「蓮、疲れてないか? 休憩するか?」
リアムの吐息が蓮の耳をくすぐる。
リアムに話しかけられる度に背中がゾクっとする。
なんで僕の耳元で話すんだよ?!
背中がゾクゾクするし、なんか変な気分になる。
頼むから早く街に着いてくれ!
と、蓮は心の底から祈った。
「……僕の耳元で囁かないで頂けますか? 勇者様」
蓮は身を捻って必死の抵抗を試みた。
しかし、リアムは蓮を更に抱き締めた。
「落ちるぞ、蓮」
「離れてください」
「蓮、疲れたか?」
この勇者、蓮の話なんか全く聞いていない。
しかしリアムが妙に蓮のことを気にかけてくる。
誘拐してしまった罪悪感があるのだろうか?
誘拐とはいえ、蓮も承諾したのだから気にしなくて良いのに。
意外と律儀なところがある奴だ。
リアムのそんなところが蓮は気に入っている。
「やっぱり少し休憩しよう」
リアムは馬を止めて、馬から軽々と降りた。
リアムが騎士のように丁寧に手を差し伸べてくれる。
蓮はお姫様扱いに戸惑ったが、リアムの有無を言わせない真剣な目に圧倒されリアムの手を取った。
「村から追手が来るかもしれません。少しでも村から離れないと」
蓮はリアムの手を握ったまま、ひらりと馬から降りた。
リアムが村から消えて大パニックになっていることだろう。
勇者で村の人気者だし。
蓮は影が薄いので、多分まだ気づかれていないと思う。
気づいてくれるのは院長先生くらいだろうか。
自分で言っていて少し虚しくなった。
そうだ! 村の様子を占ってみよう。
もしかしたらどれくらいで追手が来るか分かるかもしれない。
蓮は筮竹を狩衣の袖から取り出した。
蓮は易占いは少し苦手だが、軽く占うくらいならなんとかなると思う。
蓮は自分の額に近づけながら、占いの内容を心の中でしっかり唱えた。
手順に従い占いを進めた。
えっと、村の様子はというと……
あれ? パニックになっていない?
「リアム様、もしかして魔物退治に行くとか嘘をついて村を出ましたか?」
「そうだけど。よく分かったな」
「あと1日くらい気づかれなければ良いですが」
蓮はそのまま占いを続けた。
「リアム様、次の分かれ道を右へ。左に魔物がいます」
「分かった」
「わっ! リアム!」
リアムは軽々と蓮を抱き上げ、馬に乗せた。
自分も蓮の後ろに飛び乗る。
「このまま占い出来るだろ?」
「ちょっと難しいと思いますが、やってみます……」
蓮はリアムの吐息が気になって集中出来ないとは言えなかった。
言ったところで止めてもらえるとは思えない。
蓮は目を閉じて集中した。
蓮は千里眼は持っていないが、訓練して百里眼くらいは持っている。
「次は左へ。右は山賊が待ち受けています」
「了解」
「次はうーんと……魔物とハニートラップ、どちらが良いですか?」
「魔物」
「では右へ。ハニートラップの方が楽じゃないですか?」
「駄目だ」
リアムは一太刀で魔物を倒した。
「蓮がハニートラップに引っ掛かったら困る」
リアムは返り血を浴びながら、爽やかな笑みを浮かべた。
この勇者様怖い……
「ようやく街が見えて来たな」
リアムが少し残念そうに言った。
蓮は心底ほっとした。
これでこの地獄のような時間が終わる。
リアムは返り血を拭いながら、蓮を抱きかかえ、馬を走らせた。
なんなら鼻歌も歌っている。
こんなに上機嫌なリアムは久しぶりに見た。
そんなに村での生活はキツかったのか。
改めてリアムに苦しい役割を押し付けていたのだと実感する。
魔物も少なく、天気も快晴で爽やかな風が気持ち良い。
リアムが上機嫌になる気持ちも分からなくはない。
村では見たことのない美しい花畑や青々とした湖、穏やかな木漏れ日に蓮の心も癒されるはずだった。
……リアムに抱きかかえられていなければ。
リアムの後ろに乗ろうとしたら、何故か駄目と言われた。
「乗馬は久しぶりだろ。落ちるかもしれないから前に乗れ」
リアムは有無を言わせず、蓮を自分の前に乗せた。
リアムの体温が分かるくらいの近距離にいるのは子どもの頃以来だ。
蓮が馬から落ちそうになるたびにリアムが蓮の腰を支えてくれる。
「蓮、大丈夫か? 落ちるなよ」
「リアム様、近いです」
「蓮が落ちたら俺の責任だから」
「僕だって乗馬くらい出来ます。久しぶりだから勘が戻っていないだけです」
蓮はむっとして不満そうに唇を尖らせた。
「ふーん?」
リアムが面白そうににっと笑った気配がした。
リアムは蓮の後ろにいるから、気配でしか感じられないが。
リアムの愛馬が急に走るスピードを上げた。
「わっ!」
蓮は馬の黒いたてがみに掴みついた。
「こいつは気まぐれだから、急にスピードを上げることがあるんだ。落ちたくないなら、蓮はそこで大人しくしていろよ」
リアムはにっと人の悪そうな笑みを浮かべた。
これは絶対わざとだ。
リアムの愛馬はとても賢いから、主人の命以外で勝手な行動をしているのを見たことがない。
リアムがこっそりスピードを上げるようにサインを出したのだろう。
こいつ、僕をからかっているな!
蓮は拳を握り締めた。
今すぐリアムを殴りたいが、自分が落馬するのは避けたい。
街に行ったら絶対自分専用の馬を買おう。と蓮は決心した。
幸い財布は懐にある。
「蓮、疲れてないか? 休憩するか?」
リアムの吐息が蓮の耳をくすぐる。
リアムに話しかけられる度に背中がゾクっとする。
なんで僕の耳元で話すんだよ?!
背中がゾクゾクするし、なんか変な気分になる。
頼むから早く街に着いてくれ!
と、蓮は心の底から祈った。
「……僕の耳元で囁かないで頂けますか? 勇者様」
蓮は身を捻って必死の抵抗を試みた。
しかし、リアムは蓮を更に抱き締めた。
「落ちるぞ、蓮」
「離れてください」
「蓮、疲れたか?」
この勇者、蓮の話なんか全く聞いていない。
しかしリアムが妙に蓮のことを気にかけてくる。
誘拐してしまった罪悪感があるのだろうか?
誘拐とはいえ、蓮も承諾したのだから気にしなくて良いのに。
意外と律儀なところがある奴だ。
リアムのそんなところが蓮は気に入っている。
「やっぱり少し休憩しよう」
リアムは馬を止めて、馬から軽々と降りた。
リアムが騎士のように丁寧に手を差し伸べてくれる。
蓮はお姫様扱いに戸惑ったが、リアムの有無を言わせない真剣な目に圧倒されリアムの手を取った。
「村から追手が来るかもしれません。少しでも村から離れないと」
蓮はリアムの手を握ったまま、ひらりと馬から降りた。
リアムが村から消えて大パニックになっていることだろう。
勇者で村の人気者だし。
蓮は影が薄いので、多分まだ気づかれていないと思う。
気づいてくれるのは院長先生くらいだろうか。
自分で言っていて少し虚しくなった。
そうだ! 村の様子を占ってみよう。
もしかしたらどれくらいで追手が来るか分かるかもしれない。
蓮は筮竹を狩衣の袖から取り出した。
蓮は易占いは少し苦手だが、軽く占うくらいならなんとかなると思う。
蓮は自分の額に近づけながら、占いの内容を心の中でしっかり唱えた。
手順に従い占いを進めた。
えっと、村の様子はというと……
あれ? パニックになっていない?
「リアム様、もしかして魔物退治に行くとか嘘をついて村を出ましたか?」
「そうだけど。よく分かったな」
「あと1日くらい気づかれなければ良いですが」
蓮はそのまま占いを続けた。
「リアム様、次の分かれ道を右へ。左に魔物がいます」
「分かった」
「わっ! リアム!」
リアムは軽々と蓮を抱き上げ、馬に乗せた。
自分も蓮の後ろに飛び乗る。
「このまま占い出来るだろ?」
「ちょっと難しいと思いますが、やってみます……」
蓮はリアムの吐息が気になって集中出来ないとは言えなかった。
言ったところで止めてもらえるとは思えない。
蓮は目を閉じて集中した。
蓮は千里眼は持っていないが、訓練して百里眼くらいは持っている。
「次は左へ。右は山賊が待ち受けています」
「了解」
「次はうーんと……魔物とハニートラップ、どちらが良いですか?」
「魔物」
「では右へ。ハニートラップの方が楽じゃないですか?」
「駄目だ」
リアムは一太刀で魔物を倒した。
「蓮がハニートラップに引っ掛かったら困る」
リアムは返り血を浴びながら、爽やかな笑みを浮かべた。
この勇者様怖い……
「ようやく街が見えて来たな」
リアムが少し残念そうに言った。
蓮は心底ほっとした。
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