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Case62.鮮血の迷宮美術館③
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20XX年2月4日(日)に東京都某区の迷宮美術館にて発生した殺人事件の報告書
発見場所は美術館の制御室(扉の開閉や電気系統の管理を行っている部屋)であり、両手首から先が切断されていたものの、血の鮮やかさから被害者と判定。
首と胴体のDNA鑑定を行う間、頭部が発見された一室に続いて制御室も封鎖。その間、美術館全体の事情聴取が開始された。
前述の息子Aには話を聞かなかったものの、頭部が発見された一室で見つかった1枚のーー
※
「う・・・!」
「遠山館長。お手洗いでお願いします」
口元を押さえた遠山を見て、龍はすかさずそう言った。彼はすぐに制御室を出ていき、一番近くにある化粧室に駆け込んだ。2人はその様子を見届けた後、血溜まりに足を浸して遺体を見た。
「血が固まっていないから、殺害されて間もないね。あの少年のが母親で間違い無いだろう。取り敢えず、鑑識を呼んで指紋認証をーー」
その時、2人は被害者の両手首がないことに気がついた。
「まさか」
「両手首も美術館の中にあるんだろうな。全く、どうなってるんだよ」
龍が溜息混じりに呟いた。首、胴体と続いて人の手首が発見される様子など、想像したくもない光景だった。玲央は頷き、口を開く。
「シリアルキラー・・・? いや、まだ断定できないね。遠山館長に頼んで、来館者を1階のロビーに集めよう。制御室も封鎖だ」
その後、玲央の指示で来館者がロビーに集められ、2つの部屋が封鎖された。2人の部下が来館者に事情を軽く説明し、絶対にロビーから動かないよう指示した。
「お、お客様を返してはいけないのですか?」
ロビーで不平不満を口に出す来館者を見て、遠山は2人に尋ねた。龍はきっぱりと首を横に振って答える。
「ダメです。来館者の中に犯人がいる可能性も捨て切れない。胴体をどうやって運んだのかは分かりませんが、取り敢えず被害者の手首を探させています。私たちは聞き込みを行いますから、遠山館長も後ほどご協力をお願いします」
事情聴取は難航を極めたが、被害者が死後1時間も経っていないことから、入館時間でアリバイを明確にすることは可能だった。しかし、殺害時間が短く美術館のどこで殺害に及んだのか、どうやって遺体を運んだのかなどの問題は解決できず、めぼしい話も上がらなかった。
「そういえば、あの少年の名前は?」
事情聴取の合間を縫って、玲央は凪に尋ねた。
「橘翔。亡くなった母親は橘梨江ですって」
「翔君ね。
それにしても、橘か。確か6年くらい前に、橘って名前の会社員が横領で逮捕された事件があったな。翔君は父親がずっといないと言っていたし、彼の年齢を考えると、父親がずっといないこととも繋がるね」
玲央の言葉に凪は呆れながら言った。
「捜査一課の担当する事件じゃないのによく覚えてるわね。あの子に聞くの?」
「いや。仮にそうだったとしても彼は事件自体を知らないだろうし、混乱させるだけだよ。何より、傷心している彼に話すべきじゃない」
凪はそうねと同意し、翔の元に行った。翔は光のない、幽霊のような瞳をして、ずっとロビーの床を見つめていた。警察の質問には何も答えず、見兼ねた美希子と凪が声をかけてはいたが、返事もせず相槌も打っていなかった。
どうすることもできずに玲央がその様子を見つめていると、龍が肩を叩いた。
「兄貴」
「どうしたの?」
龍は質問に答えず、1枚のハンカチを差し出した。真っ白なハンカチで、隅に赤い糸で“A・H”と刺繍が施してある。玲央は思わず眉を顰めた。
「どこでこれを?」
「鏡の間で拾った。落とし物として係員に渡そうと思ってたんだが、遺体発見で忘れてたんだよ。一応来館者に聞いてみたんだが、持ち主はいなかった。名前が違うから、被害者の物でもない。
それに、これ」
龍はハンカチを広げ、端の方を指さした。そこには赤黒い染みがある。インクが滴り落ちたかのように小さいものの、真っ白なハンカチの上ではよく目立っていた。
「血?」
「多分な。制御室の作業が終わり次第、鑑識に回す」
「そうした方がいいね。でも、来館者に持ち主がおらず、被害者の物でもないって、まさかーー」
「この美術館で死んだ誰かの物」
そう言ったのは美希子だった。龍は呆れ、玲央は苦笑いを浮かべる。
龍は未だ少年の隣に腰掛けている凪を一瞥した後、「あの子の側にいろって言っただろ」とこぼす。美希子は不満げに眉を八の字にした。
「いいじゃん。捜査協力!」
「お前なあ・・・。俺たちの上司の娘だからって、何でもかんでも許されるわけじゃないぞ」
「え~玲央さんはどう思う?」
「龍と同じさ。
以前、江本君と一緒の時に協力したと聞いたけど、今回は場合が違う。殺人の残酷さはもちろん、過去に殺害された人間がいるとなれば、危険すぎる。俺たちは仮にも君を預かっている身だ。無茶なことは謹んでくれ」
「でも~」
なお不服そうな美希子を凪が宥めた。彼女は美希子を説得して翔の側にいるよう説得し、美希子は仕方なくというように翔の元に戻った。
玲央は溜息をつきながら尋ねる。
「あんなに好奇心旺盛だったけ? 明るいのは昔からだけど、もう少し落ち着きもあったような」
「江本と出会って以来、少し変わったらしいな」
「ああ、あのスケート大会の事件? 美希子は警察官だけにしか目をくれないと思ってたけど、探偵にも興味を示したってこと?」
「そうらしい。」
玲央はやれやれというふうに首を振り、ロビーを見渡した。スタッフの顔を1人1人見つめ、ふと目を止める。
「すみません」
「え? 何ですか?」
玲央が声をかけたのは年配のスタッフだった。玲央は警戒されないよう、ゆっくりと続ける。
「いつからここで働いているんですか?」
「5年前です」
思ったより短いと感じたが、欲している情報が手に入るかもしれないと思い、玲央は続けた。
「副館長が亡くなったのはいつです?」
「2年前です」
「なぜ亡くなったんですか? 差し支えなければ教えて頂きたいのですが」
スタッフは腕を組んで考え、天井を見つめたまま答える。
「・・・確か・・心筋梗塞だったと思います。ただ、私は葬儀に出ていませんから、館長に聞いた方が早いと思いますよ」
「分かりました、ありがとうございます」
笑って礼を言い、玲央は横目で龍を見た。彼は軽く頷き、遠山の元へ行って同じことを尋ねた。
「はい・・確かに、心筋梗塞で亡くなりました」
「副館長の名前は?」
「浜崎有紗です」
遠山がその名を口にした途端、龍は先ほど拾ったハンカチのイニシャルに思い至った。
「浜崎? もしかして、このハンカチの持ち主は亡くなった副館長ですか?」
龍がハンカチを差し出して見せると、遠山は一瞬怯えたような表情を浮かべた。だが、すぐに悲しそうな笑顔に切り替え、緩やかに視線を逸らす。龍が怪訝な顔をすると、彼は取り繕うように言った。
「ええ、彼女の物です。しかし、なぜ鏡の間にあったのでしょうね。彼女は確かにあの部屋を愛していましたが、お客様に楽しんでもらうべきだからと言って、あまりあの部屋には行かなかった」
その言葉に龍の眉が動いた。遠山は自分の失言に気がついたのか、笑みを崩さず俯く。
龍はすかさず尋ねた。
「なぜ鏡の間にあったと? 私は、このハンカチが落ちていた場所を言っていませんよ」
「・・・・何となく、そうだと思っただけですよ」
根拠にならない発言だった。龍は畳み掛けるように続ける。
「制御室の鍵を持っているのは遠山館長、あなただけだそうですね。すなわち、他の人間は制御室に出入りできないことになる」
「普通に考えればそうでしょうが、合鍵の可能性もありますよ」
遠山は顔を上げずに言った。龍は鷹揚に頷く。
「そうですね。しかし、あなたは常に全ての部屋の鍵を腰に付けている。その状態の鍵を盗んで合鍵を作るなんて芸当、果たしてできるでしょうか?」
龍の推理は賭けに近かった。例え遠山が浜崎有紗殺しの犯人だとしても、今回の事件と一致するとは限らないからだ。龍は慎重に続ける。
「鏡の間にあった床の凹凸。あれは意図的に作られたものではないですか? あの凹凸の側に、床と同じ色の木のカスが落ちていました」
「つまり?」
「あの下に隠し部屋か何かがあるのでは?」
言い終わるなり、遠山はふっと笑い、次第に声を上げて笑い、やがて高笑いへ変わった。2人の前に姿を現した時とは似ても似つかない、狂ったような笑い方だった。
遠山は、笑い過ぎて流れかけた涙を拭いながら言う。
「考えすぎですよ。いくら迷宮美術館と銘打っていても、隠し部屋なんてもの、あるわけがない」
隠し部屋の存在を示すものなどないため、遠山の言葉は受け入れられないわけではなかった。しかし、龍は退くことなく尋ねる。
「では、遺体が制御室にあった理由は何だと思われますか?」
龍の問いに遠山はすかさず答えた。
「人目につかないからじゃないですか? ああ、私は入れるなんて言い方はやめてくださいね。合鍵の可能性は否定できないんですし」
遠山館長は小馬鹿にするような笑みを浮かべて言った。龍は頷いて口を開く。
「そうですね。その可能性は否定できません。制御室が、ただの鍵で開く部屋であるなら」
遠山が眉を動かしあ。彼は笑みを消し、冷たい瞳で龍を見る。龍はその視線を気にすることなく続けた。
「制御室に入るためには3つの段階を踏まなければならない。
1つ、右手の指全ての指紋認証。
2つ、顔認証。瞳孔、鼻、口、ほくろの位置も含めた精巧な認証です。
3つ、パスワードと鍵。まあ、鍵を刺した時に扉が開いたので、鍵にパスワードが埋め込まれているとでも言えるでしょうが」
「・・・・あなた方が扉を開けるまで、10秒もかからなかったはずですがーーよく見ていましたね」
「それはどうも。ついでに、制御室の扉を開けた時のあなたの表情もお教えしましょうか?」
龍の挑発するような口調に、遠山は落ち着いた笑みを浮かべた。
「結構ですよ。教えていただかずとも分かっています。あの時の私が、笑っていたことは」
発見場所は美術館の制御室(扉の開閉や電気系統の管理を行っている部屋)であり、両手首から先が切断されていたものの、血の鮮やかさから被害者と判定。
首と胴体のDNA鑑定を行う間、頭部が発見された一室に続いて制御室も封鎖。その間、美術館全体の事情聴取が開始された。
前述の息子Aには話を聞かなかったものの、頭部が発見された一室で見つかった1枚のーー
※
「う・・・!」
「遠山館長。お手洗いでお願いします」
口元を押さえた遠山を見て、龍はすかさずそう言った。彼はすぐに制御室を出ていき、一番近くにある化粧室に駆け込んだ。2人はその様子を見届けた後、血溜まりに足を浸して遺体を見た。
「血が固まっていないから、殺害されて間もないね。あの少年のが母親で間違い無いだろう。取り敢えず、鑑識を呼んで指紋認証をーー」
その時、2人は被害者の両手首がないことに気がついた。
「まさか」
「両手首も美術館の中にあるんだろうな。全く、どうなってるんだよ」
龍が溜息混じりに呟いた。首、胴体と続いて人の手首が発見される様子など、想像したくもない光景だった。玲央は頷き、口を開く。
「シリアルキラー・・・? いや、まだ断定できないね。遠山館長に頼んで、来館者を1階のロビーに集めよう。制御室も封鎖だ」
その後、玲央の指示で来館者がロビーに集められ、2つの部屋が封鎖された。2人の部下が来館者に事情を軽く説明し、絶対にロビーから動かないよう指示した。
「お、お客様を返してはいけないのですか?」
ロビーで不平不満を口に出す来館者を見て、遠山は2人に尋ねた。龍はきっぱりと首を横に振って答える。
「ダメです。来館者の中に犯人がいる可能性も捨て切れない。胴体をどうやって運んだのかは分かりませんが、取り敢えず被害者の手首を探させています。私たちは聞き込みを行いますから、遠山館長も後ほどご協力をお願いします」
事情聴取は難航を極めたが、被害者が死後1時間も経っていないことから、入館時間でアリバイを明確にすることは可能だった。しかし、殺害時間が短く美術館のどこで殺害に及んだのか、どうやって遺体を運んだのかなどの問題は解決できず、めぼしい話も上がらなかった。
「そういえば、あの少年の名前は?」
事情聴取の合間を縫って、玲央は凪に尋ねた。
「橘翔。亡くなった母親は橘梨江ですって」
「翔君ね。
それにしても、橘か。確か6年くらい前に、橘って名前の会社員が横領で逮捕された事件があったな。翔君は父親がずっといないと言っていたし、彼の年齢を考えると、父親がずっといないこととも繋がるね」
玲央の言葉に凪は呆れながら言った。
「捜査一課の担当する事件じゃないのによく覚えてるわね。あの子に聞くの?」
「いや。仮にそうだったとしても彼は事件自体を知らないだろうし、混乱させるだけだよ。何より、傷心している彼に話すべきじゃない」
凪はそうねと同意し、翔の元に行った。翔は光のない、幽霊のような瞳をして、ずっとロビーの床を見つめていた。警察の質問には何も答えず、見兼ねた美希子と凪が声をかけてはいたが、返事もせず相槌も打っていなかった。
どうすることもできずに玲央がその様子を見つめていると、龍が肩を叩いた。
「兄貴」
「どうしたの?」
龍は質問に答えず、1枚のハンカチを差し出した。真っ白なハンカチで、隅に赤い糸で“A・H”と刺繍が施してある。玲央は思わず眉を顰めた。
「どこでこれを?」
「鏡の間で拾った。落とし物として係員に渡そうと思ってたんだが、遺体発見で忘れてたんだよ。一応来館者に聞いてみたんだが、持ち主はいなかった。名前が違うから、被害者の物でもない。
それに、これ」
龍はハンカチを広げ、端の方を指さした。そこには赤黒い染みがある。インクが滴り落ちたかのように小さいものの、真っ白なハンカチの上ではよく目立っていた。
「血?」
「多分な。制御室の作業が終わり次第、鑑識に回す」
「そうした方がいいね。でも、来館者に持ち主がおらず、被害者の物でもないって、まさかーー」
「この美術館で死んだ誰かの物」
そう言ったのは美希子だった。龍は呆れ、玲央は苦笑いを浮かべる。
龍は未だ少年の隣に腰掛けている凪を一瞥した後、「あの子の側にいろって言っただろ」とこぼす。美希子は不満げに眉を八の字にした。
「いいじゃん。捜査協力!」
「お前なあ・・・。俺たちの上司の娘だからって、何でもかんでも許されるわけじゃないぞ」
「え~玲央さんはどう思う?」
「龍と同じさ。
以前、江本君と一緒の時に協力したと聞いたけど、今回は場合が違う。殺人の残酷さはもちろん、過去に殺害された人間がいるとなれば、危険すぎる。俺たちは仮にも君を預かっている身だ。無茶なことは謹んでくれ」
「でも~」
なお不服そうな美希子を凪が宥めた。彼女は美希子を説得して翔の側にいるよう説得し、美希子は仕方なくというように翔の元に戻った。
玲央は溜息をつきながら尋ねる。
「あんなに好奇心旺盛だったけ? 明るいのは昔からだけど、もう少し落ち着きもあったような」
「江本と出会って以来、少し変わったらしいな」
「ああ、あのスケート大会の事件? 美希子は警察官だけにしか目をくれないと思ってたけど、探偵にも興味を示したってこと?」
「そうらしい。」
玲央はやれやれというふうに首を振り、ロビーを見渡した。スタッフの顔を1人1人見つめ、ふと目を止める。
「すみません」
「え? 何ですか?」
玲央が声をかけたのは年配のスタッフだった。玲央は警戒されないよう、ゆっくりと続ける。
「いつからここで働いているんですか?」
「5年前です」
思ったより短いと感じたが、欲している情報が手に入るかもしれないと思い、玲央は続けた。
「副館長が亡くなったのはいつです?」
「2年前です」
「なぜ亡くなったんですか? 差し支えなければ教えて頂きたいのですが」
スタッフは腕を組んで考え、天井を見つめたまま答える。
「・・・確か・・心筋梗塞だったと思います。ただ、私は葬儀に出ていませんから、館長に聞いた方が早いと思いますよ」
「分かりました、ありがとうございます」
笑って礼を言い、玲央は横目で龍を見た。彼は軽く頷き、遠山の元へ行って同じことを尋ねた。
「はい・・確かに、心筋梗塞で亡くなりました」
「副館長の名前は?」
「浜崎有紗です」
遠山がその名を口にした途端、龍は先ほど拾ったハンカチのイニシャルに思い至った。
「浜崎? もしかして、このハンカチの持ち主は亡くなった副館長ですか?」
龍がハンカチを差し出して見せると、遠山は一瞬怯えたような表情を浮かべた。だが、すぐに悲しそうな笑顔に切り替え、緩やかに視線を逸らす。龍が怪訝な顔をすると、彼は取り繕うように言った。
「ええ、彼女の物です。しかし、なぜ鏡の間にあったのでしょうね。彼女は確かにあの部屋を愛していましたが、お客様に楽しんでもらうべきだからと言って、あまりあの部屋には行かなかった」
その言葉に龍の眉が動いた。遠山は自分の失言に気がついたのか、笑みを崩さず俯く。
龍はすかさず尋ねた。
「なぜ鏡の間にあったと? 私は、このハンカチが落ちていた場所を言っていませんよ」
「・・・・何となく、そうだと思っただけですよ」
根拠にならない発言だった。龍は畳み掛けるように続ける。
「制御室の鍵を持っているのは遠山館長、あなただけだそうですね。すなわち、他の人間は制御室に出入りできないことになる」
「普通に考えればそうでしょうが、合鍵の可能性もありますよ」
遠山は顔を上げずに言った。龍は鷹揚に頷く。
「そうですね。しかし、あなたは常に全ての部屋の鍵を腰に付けている。その状態の鍵を盗んで合鍵を作るなんて芸当、果たしてできるでしょうか?」
龍の推理は賭けに近かった。例え遠山が浜崎有紗殺しの犯人だとしても、今回の事件と一致するとは限らないからだ。龍は慎重に続ける。
「鏡の間にあった床の凹凸。あれは意図的に作られたものではないですか? あの凹凸の側に、床と同じ色の木のカスが落ちていました」
「つまり?」
「あの下に隠し部屋か何かがあるのでは?」
言い終わるなり、遠山はふっと笑い、次第に声を上げて笑い、やがて高笑いへ変わった。2人の前に姿を現した時とは似ても似つかない、狂ったような笑い方だった。
遠山は、笑い過ぎて流れかけた涙を拭いながら言う。
「考えすぎですよ。いくら迷宮美術館と銘打っていても、隠し部屋なんてもの、あるわけがない」
隠し部屋の存在を示すものなどないため、遠山の言葉は受け入れられないわけではなかった。しかし、龍は退くことなく尋ねる。
「では、遺体が制御室にあった理由は何だと思われますか?」
龍の問いに遠山はすかさず答えた。
「人目につかないからじゃないですか? ああ、私は入れるなんて言い方はやめてくださいね。合鍵の可能性は否定できないんですし」
遠山館長は小馬鹿にするような笑みを浮かべて言った。龍は頷いて口を開く。
「そうですね。その可能性は否定できません。制御室が、ただの鍵で開く部屋であるなら」
遠山が眉を動かしあ。彼は笑みを消し、冷たい瞳で龍を見る。龍はその視線を気にすることなく続けた。
「制御室に入るためには3つの段階を踏まなければならない。
1つ、右手の指全ての指紋認証。
2つ、顔認証。瞳孔、鼻、口、ほくろの位置も含めた精巧な認証です。
3つ、パスワードと鍵。まあ、鍵を刺した時に扉が開いたので、鍵にパスワードが埋め込まれているとでも言えるでしょうが」
「・・・・あなた方が扉を開けるまで、10秒もかからなかったはずですがーーよく見ていましたね」
「それはどうも。ついでに、制御室の扉を開けた時のあなたの表情もお教えしましょうか?」
龍の挑発するような口調に、遠山は落ち着いた笑みを浮かべた。
「結構ですよ。教えていただかずとも分かっています。あの時の私が、笑っていたことは」
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