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Case65.2人の探偵①
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ーーどうしてここにいるの。
そんな言葉が、口をついて出そうになった。何とか言葉を飲み込んで名前を呼んだけれど、心の中の動揺と落胆は収まらない。
もし、私がやろうとしていることを彼が知れば、きっと止める。そうならないために、隠し通さなければならない。
私の、全てを。
※
「いい風が吹いてますね」
海里は大型客船の甲板から、夜風に揺れる海を眺めていた。ふと口をついて出た言葉は風に乗って消え、誰にも聞こえることはない。甲板の明かりに照らされた彼の銀髪は美しく、周囲の人々の注目を集めていたが、本人は素知らぬ顔で海を眺め続けている。
寒々しい冬は過ぎ去り、季節は春になっていた。遠くに見える山桜が少しずつ花を咲かせ始め、街中の桜の見頃も近づいていた。
海里は薄い月を移している水面を見つめ、長い息を吐く。
「それにしても・・・編集者さんには頭が上がりませんね。休暇のため、わざわざこんな大型客船予約を取ってくださるなんて」
クリスマス直前の水嶋大学音楽教授殺人事件と、年明け直後の立石家長男殺人事件。2つの事件を解決し、執筆の後に本が出版された後、海里はしばらく休暇を取りたいと編集者に打診していた。編集者は彼の要望を受け、気休めにと進めた大型客船の船旅をしていたのだ。
海里の乗っている大型客船の名は、マリーゴールド号。この船を作った人物がマリーゴールドが好きで、そう名付けたのだと言う。その証拠に船の側面には大きな橙色のマリーゴールドが描かれ、真っ白な船体とマッチしていた。現在、1000人以上の乗客と乗組員や各種スタッフがいるこの船は、日本最大級のものだった。
そんなことを思い返していると、誰かが海里の名を呼んだ。
「あー! 海里のお兄ちゃんだ‼︎」
突然自分の名前を呼ばれ、海里は驚いて振り返った。彼の背後には、自分の方へ駆けてくる元天宮家の次男・夏弥の姿があった。
「夏弥さん? どうして・・・・」
「こんな所でお会いするなんて思いませんでしたよ、江本さん」
「小夜さん!」
夏弥を追いかけるように小夜が歩いて来た。彼女に続いて秋平と春菜がおり、走り去ろうとする弟を捕まえて楽しげに笑い合った。
小夜はそんな様子を見て柔らかい笑みを浮かべ、海里の隣に立つ。
「お久しぶりです。お会いするのは水嶋大学の1件以来ですね」
「ええ。随分と前になりますね。
あ・・・先日は、すみませんでした。電話で不躾なことを聞いてしまって」
海里の言葉が、立石家の事件の時のものだと分かっていた小夜は、ゆっくりと首を横に振った。
「私も感情的になり過ぎました・・・・ごめんなさい。
それより、江本さんはなぜここへ? また小説のアイデア探しですか?」
小夜の問いに、今度は海里が首を横に振った。
「いいえ。今日は編集者さんが休暇を取ってくださって。船旅などどうかとチケットを頂いたんです。中々ない経験ですから、気晴らしに」
「そうだったんですね」
「はい。小夜さんたちはどうしてこちらに? 泉龍寺家の皆様と家族旅行ですか?」
「元々そのつもりでした。でも急にご両親の予定が合わなくなってしまって。せっかくの機会を無駄にするのも勿体ないので、私たち4人で来たんです」
しばらくの間、海里は小夜たちと談笑していた。しかし、彼は話しながら船内に目をやり、妙なことに気がついた。
心が顔に出ていたのか、小夜は少し心配そうに尋ねる。
「江本さん、どうかされましたか? 浮かない顔をされていますけれど」
「ああ・・何と言いますか・・・乗客の方々が・・・・違う気がして。このような言い方は良くありませんが、いわゆる上流階級とそれ以外・・・社会的地位の差があるように思うんです」
刹那、小夜の顔から笑みが消えたが、海里はそれに気が付かなかった。彼女は愛想笑いを浮かべ、船内にいる乗客を見渡す。
「さすが、よく見ていらっしゃいますね。その頭脳があるなら、小説家以外にも道があったでしょうに」
「よく言われます。でも、どうしても小説家になりたくて」
小夜は笑った。船内の明かりが黒い髪を照らす。
「・・・・どうして?」
海里は笑うだけだった。その様子を見て、小夜は答えが得られないと思ったのか、それ以上何も言わずに海里と並んで海に視線を移した。
その時。
「天宮様」
小夜の旧姓を呼んだのは、50代くらいの男だった。真っ白な乗組員の服を纏っており、どこか胡散臭い笑みを浮かべている。
小夜はどこか気怠げな視線を向け、微笑んで応じた。
「こんばんは、六条船長。わざわざ挨拶に出向いてくださるのは嬉しいですけれど、私はもう天宮ではありませんよ?」
「ああ、そうでしたな。申し訳ない。まだ慣れないものでして。
しかし、再びお会いできるとは思いませんでした。その節はお世話になりました」
「お礼なら父に。私は何もしていません」
六条って、マリーゴールド号船長の六条春也じゃないか。なぜ彼が小夜さんに挨拶を? その節って何のことだ?
海里は疑問が湧き上がるのを止められなかったが、小夜は気にせず海里を指し示した。
「六条船長。こちら、カイリさん。以前、天宮家で起きた事件を解決してくださった探偵さんです」
「おお、あなたが小説探偵! 一度お会いしたいと思っておりました。どうぞ、よろしく」
躊躇いなく差し出した六条の手を、海里は遠慮がちに握り返した。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
なぜ挨拶しているのだろうと思いつつ、海里はそう返した。六条は秋平たち3人を見て大きくなったと言い、昔から彼らを知っている素振りを見せた。
しばらくして六条が去っていくと、小夜は深い溜息をついた。持っていたハンドバックからスマートフォンを取り出し、誰かに電話をかける。
「久しぶり。ええ、そうよ。六条さん。私たちに接触しないように頼んでいたはずでしょ? ・・・え? 連絡ミス? だったら言っておいて頂戴。
私たちは、これ以上家に振り回される気はないから」
短い電話を終えると、小夜は苦笑して海里を見た。
「お見苦しいところをお見せしました」
「いえいえ。色々驚きましたが、見苦しいなんてことはありませんよ」
「ふふっ。相変わらずお優しいですね」
小夜はそう言って笑うと、夕食の準備が始まっている船内を一瞥し、自分の腕時計を見た。
「そろそろ夕食の時間ですね。中に入りましょうか」
「あ、そうですね。ご一緒しても?」
「大歓迎です。秋平たちも喜びます」
ハンバーグ、サラダ、白米、コーンスープと、レストランの洋食にも似たメニューが各テーブルに並んでいた。スタッフは2人の話を聞いていたのか、小夜たちのテーブルに海里の食事が既に置かれている。海里はスタッフに礼を言って席に座り、小夜たちと食事を始めた。
夕食中、海里は天宮家の事件後、泉龍寺家でどうしているのかを尋ね、何不自由なく暮らしていることを知った。
「和豊さんたちに面会はされているんですか?」
「一応。父が残した財産のいざこざもあって、会いたくなくても会わなきゃいけないんです。まあ、それも既に終盤。全てが終われば、もう・・・・」
会わなくていい。そう、小夜が呟いた気がした。海里は何も言わずに笑顔を浮かべ、食事を続ける。
少しして、海里は以前から気になっていたことを正面から尋ねた。
「玲央さんをなぜあんなに信頼されているんですか? 失礼ですが、小夜さんはあまり他人を信頼されませんよね?」
突然の質問に、小夜は動揺せずに答える。
「彼は信頼に足る人だから・・・と言っておきます」
「相変わらずかわすのがお上手ですね。本当の理由をそんなに隠したいですか?」
「ええ。みすみす人に話したくはありませんから」
小夜は何食わぬ顔で言って食事を続け、隣にいる秋平たちも何も言わなかった。海里もこれ以上は今は聞けないと思ったのか、相槌を打つだけで談笑に戻った。
食事中、上流階級と思わしき多くの客が小夜たちに挨拶をしに来たが、彼女たちは皆いい顔をしなかった。海里はそれを見ながら、この船における彼女たちの見方と、天宮家の影響力を理解した。
人々が去った後、海里は少し声を落として言う。
「大変ですね。天宮の名をとってもなお、待遇が変わらないのですか?」
「ええ。おかげで、ろくに出かけることもできません。資産家によるグループは全国各地にありますし、未だに天宮家所有になっている土地もある。立石家のように、契約者のみが天宮家の土地も、まだ多く残っています」
「手放されなかったのですね」
「ええ。あまりにも多くて面倒というのもありますけど、いくらか持っている方が安心もできるかと思って」
「なるほど」
そんな他愛もない会話をしながら、海里たちは夕食を終えた。当然部屋は別々なので彼らは食堂を出てすぐに別れ、各々の部屋へ向かった。
「お姉様。いいの?」
春菜の質問に小夜は間を開けて答えた。
「・・・・何が?」
「協力してもらわなくていいのかって話。そりゃ、あの時は仕方なかったけど・・・」
「ダメよ。私たちの目的を知れば、彼はまた反対する。それに彼は・・・・」
優しすぎる。消え入るような小さな声だったが、秋平たちは同意した。小夜は続ける。
「あの事件で、確かに私たちは彼らに救われたわ。でも、彼らと私たちの生きる世界は違う。こんな無茶苦茶な世界に、あの人を巻き込むわけにはいかない」
「・・・・そうだね。江本さんは、私たちとは違うから」
海里は部屋に戻るなり入浴を済ませ、すぐ眠りについた。仕事続きだった彼は、自分が思っているより疲れていたらしく、部屋の外の話し声や船の揺れでも目覚めることもないほど、深く眠った。
一方、小夜は部屋の窓の外を見つめ、揺れる海面を見つめながらつぶやいた。
「ひどい風だわ。荒らしにならないといいけれど」
「・・・・姉さん・・やっぱりこんなこと・・・」
秋平はパソコンをいじる小夜を見ながら呟いた。しかし小夜はすかさず口を開く。
「それは言わない約束よ。それに、私たちが止められる程度の事件に抑えなければならないでしょう? ここで大きな事件が起きれば、江本さんは必ず解決しようとする。でも私は、それを阻止しなきゃならないの。他でもない江本さんのために」
荒れる海。交差する思惑。暗い夜に、事件は起こる。
そんな言葉が、口をついて出そうになった。何とか言葉を飲み込んで名前を呼んだけれど、心の中の動揺と落胆は収まらない。
もし、私がやろうとしていることを彼が知れば、きっと止める。そうならないために、隠し通さなければならない。
私の、全てを。
※
「いい風が吹いてますね」
海里は大型客船の甲板から、夜風に揺れる海を眺めていた。ふと口をついて出た言葉は風に乗って消え、誰にも聞こえることはない。甲板の明かりに照らされた彼の銀髪は美しく、周囲の人々の注目を集めていたが、本人は素知らぬ顔で海を眺め続けている。
寒々しい冬は過ぎ去り、季節は春になっていた。遠くに見える山桜が少しずつ花を咲かせ始め、街中の桜の見頃も近づいていた。
海里は薄い月を移している水面を見つめ、長い息を吐く。
「それにしても・・・編集者さんには頭が上がりませんね。休暇のため、わざわざこんな大型客船予約を取ってくださるなんて」
クリスマス直前の水嶋大学音楽教授殺人事件と、年明け直後の立石家長男殺人事件。2つの事件を解決し、執筆の後に本が出版された後、海里はしばらく休暇を取りたいと編集者に打診していた。編集者は彼の要望を受け、気休めにと進めた大型客船の船旅をしていたのだ。
海里の乗っている大型客船の名は、マリーゴールド号。この船を作った人物がマリーゴールドが好きで、そう名付けたのだと言う。その証拠に船の側面には大きな橙色のマリーゴールドが描かれ、真っ白な船体とマッチしていた。現在、1000人以上の乗客と乗組員や各種スタッフがいるこの船は、日本最大級のものだった。
そんなことを思い返していると、誰かが海里の名を呼んだ。
「あー! 海里のお兄ちゃんだ‼︎」
突然自分の名前を呼ばれ、海里は驚いて振り返った。彼の背後には、自分の方へ駆けてくる元天宮家の次男・夏弥の姿があった。
「夏弥さん? どうして・・・・」
「こんな所でお会いするなんて思いませんでしたよ、江本さん」
「小夜さん!」
夏弥を追いかけるように小夜が歩いて来た。彼女に続いて秋平と春菜がおり、走り去ろうとする弟を捕まえて楽しげに笑い合った。
小夜はそんな様子を見て柔らかい笑みを浮かべ、海里の隣に立つ。
「お久しぶりです。お会いするのは水嶋大学の1件以来ですね」
「ええ。随分と前になりますね。
あ・・・先日は、すみませんでした。電話で不躾なことを聞いてしまって」
海里の言葉が、立石家の事件の時のものだと分かっていた小夜は、ゆっくりと首を横に振った。
「私も感情的になり過ぎました・・・・ごめんなさい。
それより、江本さんはなぜここへ? また小説のアイデア探しですか?」
小夜の問いに、今度は海里が首を横に振った。
「いいえ。今日は編集者さんが休暇を取ってくださって。船旅などどうかとチケットを頂いたんです。中々ない経験ですから、気晴らしに」
「そうだったんですね」
「はい。小夜さんたちはどうしてこちらに? 泉龍寺家の皆様と家族旅行ですか?」
「元々そのつもりでした。でも急にご両親の予定が合わなくなってしまって。せっかくの機会を無駄にするのも勿体ないので、私たち4人で来たんです」
しばらくの間、海里は小夜たちと談笑していた。しかし、彼は話しながら船内に目をやり、妙なことに気がついた。
心が顔に出ていたのか、小夜は少し心配そうに尋ねる。
「江本さん、どうかされましたか? 浮かない顔をされていますけれど」
「ああ・・何と言いますか・・・乗客の方々が・・・・違う気がして。このような言い方は良くありませんが、いわゆる上流階級とそれ以外・・・社会的地位の差があるように思うんです」
刹那、小夜の顔から笑みが消えたが、海里はそれに気が付かなかった。彼女は愛想笑いを浮かべ、船内にいる乗客を見渡す。
「さすが、よく見ていらっしゃいますね。その頭脳があるなら、小説家以外にも道があったでしょうに」
「よく言われます。でも、どうしても小説家になりたくて」
小夜は笑った。船内の明かりが黒い髪を照らす。
「・・・・どうして?」
海里は笑うだけだった。その様子を見て、小夜は答えが得られないと思ったのか、それ以上何も言わずに海里と並んで海に視線を移した。
その時。
「天宮様」
小夜の旧姓を呼んだのは、50代くらいの男だった。真っ白な乗組員の服を纏っており、どこか胡散臭い笑みを浮かべている。
小夜はどこか気怠げな視線を向け、微笑んで応じた。
「こんばんは、六条船長。わざわざ挨拶に出向いてくださるのは嬉しいですけれど、私はもう天宮ではありませんよ?」
「ああ、そうでしたな。申し訳ない。まだ慣れないものでして。
しかし、再びお会いできるとは思いませんでした。その節はお世話になりました」
「お礼なら父に。私は何もしていません」
六条って、マリーゴールド号船長の六条春也じゃないか。なぜ彼が小夜さんに挨拶を? その節って何のことだ?
海里は疑問が湧き上がるのを止められなかったが、小夜は気にせず海里を指し示した。
「六条船長。こちら、カイリさん。以前、天宮家で起きた事件を解決してくださった探偵さんです」
「おお、あなたが小説探偵! 一度お会いしたいと思っておりました。どうぞ、よろしく」
躊躇いなく差し出した六条の手を、海里は遠慮がちに握り返した。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
なぜ挨拶しているのだろうと思いつつ、海里はそう返した。六条は秋平たち3人を見て大きくなったと言い、昔から彼らを知っている素振りを見せた。
しばらくして六条が去っていくと、小夜は深い溜息をついた。持っていたハンドバックからスマートフォンを取り出し、誰かに電話をかける。
「久しぶり。ええ、そうよ。六条さん。私たちに接触しないように頼んでいたはずでしょ? ・・・え? 連絡ミス? だったら言っておいて頂戴。
私たちは、これ以上家に振り回される気はないから」
短い電話を終えると、小夜は苦笑して海里を見た。
「お見苦しいところをお見せしました」
「いえいえ。色々驚きましたが、見苦しいなんてことはありませんよ」
「ふふっ。相変わらずお優しいですね」
小夜はそう言って笑うと、夕食の準備が始まっている船内を一瞥し、自分の腕時計を見た。
「そろそろ夕食の時間ですね。中に入りましょうか」
「あ、そうですね。ご一緒しても?」
「大歓迎です。秋平たちも喜びます」
ハンバーグ、サラダ、白米、コーンスープと、レストランの洋食にも似たメニューが各テーブルに並んでいた。スタッフは2人の話を聞いていたのか、小夜たちのテーブルに海里の食事が既に置かれている。海里はスタッフに礼を言って席に座り、小夜たちと食事を始めた。
夕食中、海里は天宮家の事件後、泉龍寺家でどうしているのかを尋ね、何不自由なく暮らしていることを知った。
「和豊さんたちに面会はされているんですか?」
「一応。父が残した財産のいざこざもあって、会いたくなくても会わなきゃいけないんです。まあ、それも既に終盤。全てが終われば、もう・・・・」
会わなくていい。そう、小夜が呟いた気がした。海里は何も言わずに笑顔を浮かべ、食事を続ける。
少しして、海里は以前から気になっていたことを正面から尋ねた。
「玲央さんをなぜあんなに信頼されているんですか? 失礼ですが、小夜さんはあまり他人を信頼されませんよね?」
突然の質問に、小夜は動揺せずに答える。
「彼は信頼に足る人だから・・・と言っておきます」
「相変わらずかわすのがお上手ですね。本当の理由をそんなに隠したいですか?」
「ええ。みすみす人に話したくはありませんから」
小夜は何食わぬ顔で言って食事を続け、隣にいる秋平たちも何も言わなかった。海里もこれ以上は今は聞けないと思ったのか、相槌を打つだけで談笑に戻った。
食事中、上流階級と思わしき多くの客が小夜たちに挨拶をしに来たが、彼女たちは皆いい顔をしなかった。海里はそれを見ながら、この船における彼女たちの見方と、天宮家の影響力を理解した。
人々が去った後、海里は少し声を落として言う。
「大変ですね。天宮の名をとってもなお、待遇が変わらないのですか?」
「ええ。おかげで、ろくに出かけることもできません。資産家によるグループは全国各地にありますし、未だに天宮家所有になっている土地もある。立石家のように、契約者のみが天宮家の土地も、まだ多く残っています」
「手放されなかったのですね」
「ええ。あまりにも多くて面倒というのもありますけど、いくらか持っている方が安心もできるかと思って」
「なるほど」
そんな他愛もない会話をしながら、海里たちは夕食を終えた。当然部屋は別々なので彼らは食堂を出てすぐに別れ、各々の部屋へ向かった。
「お姉様。いいの?」
春菜の質問に小夜は間を開けて答えた。
「・・・・何が?」
「協力してもらわなくていいのかって話。そりゃ、あの時は仕方なかったけど・・・」
「ダメよ。私たちの目的を知れば、彼はまた反対する。それに彼は・・・・」
優しすぎる。消え入るような小さな声だったが、秋平たちは同意した。小夜は続ける。
「あの事件で、確かに私たちは彼らに救われたわ。でも、彼らと私たちの生きる世界は違う。こんな無茶苦茶な世界に、あの人を巻き込むわけにはいかない」
「・・・・そうだね。江本さんは、私たちとは違うから」
海里は部屋に戻るなり入浴を済ませ、すぐ眠りについた。仕事続きだった彼は、自分が思っているより疲れていたらしく、部屋の外の話し声や船の揺れでも目覚めることもないほど、深く眠った。
一方、小夜は部屋の窓の外を見つめ、揺れる海面を見つめながらつぶやいた。
「ひどい風だわ。荒らしにならないといいけれど」
「・・・・姉さん・・やっぱりこんなこと・・・」
秋平はパソコンをいじる小夜を見ながら呟いた。しかし小夜はすかさず口を開く。
「それは言わない約束よ。それに、私たちが止められる程度の事件に抑えなければならないでしょう? ここで大きな事件が起きれば、江本さんは必ず解決しようとする。でも私は、それを阻止しなきゃならないの。他でもない江本さんのために」
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