小説探偵

夕凪ヨウ

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Case77.血まみれのお茶会⑦

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「返事がない? それは眠っているわけではなく?」
 寝巻きのまま、小夜は扉の鍵を開け、葵と対面した。彼は重苦しい表情で首を横に振る。
「かなり強い力で扉を叩いていますが・・・一向返事がありません。とても眠っているとは思えない」
 小夜は分かりました、と言って龍と玲央を起こし、2人と共に目的の部屋に向かった。もう1度、葵が扉を叩いて呼びかけるが、やはり返事はない。
 すると、龍が叩くのを制止し、扉の前に屈んだ。その瞬間、龍は顔を顰める。手招きで玲央を呼び寄せ、彼も屈んだ後、同じように顔を顰めた。
「・・・葵さん、扉を破っても構いませんか? 道具を取りに行って開けても構いませんが、今は一国を争う」
「構いません、お願いします」
 2人は少し扉から離れると、同時に勢いよく扉を蹴った。鈍い音が聞こえて鍵が壊れ、扉が歪む。玲央が強引に扉を開け放って全員が室内に視線を移しーー絶句した。
「知・・華・・・? 嘘だ・・こんなの、信じない。どうして・・・こんな」
 葵は何度も首を横に振った。玲央は思わず顔を歪め、龍は舌打ちをした。
 彼らの前にあったのは、知華の遺体だった。それも、心臓と顔の下半分が撃ち抜かれた、無残な遺体だった。首と顎は跡形もなく、鼻は無いに等しい。窓が開いていなかった部屋には血の臭いが充満し、鼻を抑えずにはいられなかった。
 その時、
「どうして」
 そう呟いた小夜の顔は真っ青だった。だが同時に、龍と玲央は違和感を覚えた。どうして、などと言わずとも、知華に犯人の魔の手が伸びた。ただそれだけなのだ。小夜のショックの受け方は、尋常ではなかった。
 2人がどういうことかと尋ねようとすると、海里を覗く家族3人も、騒ぎを聞きつけてやってきた。
「何かあったんですか?」
 葵は憔悴しきった顔で両親と弟妹を見た。その表情にただならぬものを感じ取り、4人は一斉に室内を覗く。
 一也たちは遺体を目に留めるなり、言葉を失った。流華は全身を震わせ、両手で顔を覆う。
「嘘・・嘘よ! 知華姉が死ぬはずない‼︎  何で・・・何でよ・・・・⁉︎ いや・・・いやあ!」
 流華はその場に崩れ落ちた。大粒の涙が床を濡らし、細い肩が震えていた。
 一也と愛華も思わず顔を逸らし、娘の肩にそれぞれの手を置いた。
「知華義姉さん?」
 気配もなく現れたのは海里だった。全員が息を飲み、一斉に視線を遺体へ動かす。海里は同時に視線を動かした。
 遺体を見るなり、海里は動きを止めた。微かに体が震え、下唇を噛み締める。彼は勢いよく遺体から視線を体を逸らし、踵を返した。
「海里、待ちなさい!」
 葵は咄嗟に海里の腕を掴んだ。しかし、彼はその強引さに負けじと叫ぶ。
「嫌です‼︎ もう・・もう何も見たくない!」
 葵の腕を振り払い、海里は自分の部屋へ走り去った。龍と玲央は引き止めようとしたが、今やるべきことでは無いと思ったのか、踏み留まる。
 一方、小夜は海里を一度も見ることなく、ずっと遺体を凝視していた。やがて、彼女はハッとし、ハンカチ越しに知華の髪に触れる。
「流華さん。昨夜、知華さんは外に出ましたか?」
 流華は泣き腫らした顔を上げることなく、少し考えた後、答えた。
「・・・・出てないと思う。知華姉は足が悪いし、台風が来てるこの状況で、危険なことなんてしないよ」
 小夜は頷き、龍と玲央を手招きした。2人は彼女と同じように髪に触れ、遺体を凝視し、目を見開く。3人は顔を見合わせ、軽く頷いた。
 小夜は海里以外の江本家の面々に向き直り、口を開く。
「後で、皆さんに昨夜の知華さんの行動を教えて頂きます。彼女は、。殺された場所も、この部屋ではありません」
「馬鹿な! この嵐の中、なぜ外に‼︎」
 一也が叫んだが、小夜はすぐ首を横に振った。
「それは分かりません。とにかく今はーー」
 小夜は遺体の近くに落ちてある猟銃を見た。玲央がハンカチで包んで拾い上げ、残弾の確認をする。
「2発使われていますね。銃口に血痕もありますから、知華さんを殺害した凶器はこれで間違いないでしょう。
 これは、誰の持ち物ですか?」
「・・・・私です」
 一也が答えると、玲央はすぐに彼へ視線を移した。一也は玲央の言いたいことに気が付いたのか、早口で付け加える。
「免許は取ってあります。ただ、最近は使わなくなっていましたから、倉庫にしまっていたはずです」
「・・・・使っていないことは事実のようですね。表面に埃が残っている。この部屋は整頓されていますし、埃はつかないでしょう。
 一也さん、倉庫に案内してください。確かめたいことがあります」
 玲央は猟銃を龍に預け、一也と共に倉庫へ向かった。小夜は愛華たちに1度部屋へ戻って休むよう言いつける。彼女たちは肩を落とし、重い足取りで各々の部屋に戻って行った。


 愛華たちが立ち去ると、小夜は龍に尋ねた。
「そういえば東堂さん。この部屋の鍵はありませんか?」
「鍵?」
「はい。昨日、江本さんにお聞きしたんです。江本家の5人の子供たちは、全員自分の部屋の鍵を持っていて、持ち手のデザインがそれぞれ違うと。知華さんはハートだと言っていました。そこら辺に落ちていませんか? もしくは、彼女の衣服の中とか」
 龍は手早く遺体を探った後、部屋を見渡し、物を退けたり、鍵が落ちていないか調べた。小夜も手伝ったが、なぜか、鍵は見つからない。
「知華さんはこの部屋とは別の場所で殺害されていますから、鍵を持っているのは犯人以外あり得ない。そして犯人は内部の人間」
「つまり、さっきのの中にいるってことか。」
・・・?」
 龍の言葉に、小夜は思わず首を傾げた。龍はすかさず続ける。
「捜査に私情は挟まないからな」
「・・・・ああ、なるほど」
 小夜は少し笑ったが、すぐに真顔になった。視線の先に、微かに空いている机の引き出しを見つけたからだ。彼女は不思議に思いながら、引き出しの中にある小さな箱を取り出す。
「それは?」
「分かりません。ただ、この引き出しだけ、。部屋の掃除ぶりを見る限り、知華さんは綺麗好きでしょうし、そこら辺も見ているはずですから、閉め忘れは考えにくい。何か、私たちに見つけて欲しかったのだと思います」
 龍は、海里と同等、もしくはそれ以上の観察力と推理力に溜息をついた。天宮家で重宝されていたことも、今ならよく分かる。
 小夜は箱自体に細工などが無いことを確認すると、蓋を開けて中身を見た。中には、白いコンセントが入っている。一見何でもないように見えたが、わざわざ箱に入っているには違和感しかなかった。
「東堂さん、これ、もしかして・・・」
「盗聴器だな。コンセント型はオーソドックスだから、普通のコンセントと見分けがつかない。仕掛けやすいだろう。
 そういえば、一也さんの事業は電子機器の製造だったか。裏面に会社のロゴマークが入っているから、会社で製造しているみたいだな」
 その言葉を聞き、小夜は気になったことを尋ねた。
「犯罪にならないんですか?」
「ならないな。自分の部屋にあるということは、家の中で仕掛けていた可能性が高い。となると、住居侵入罪には問われないし、何かを破壊して使用していた形跡はない。
 言ってしまえば、盗聴という行為自体は、何かを間違えたりしなければ、別に犯罪にはならないんだ。そこに不法侵入や破損行為が入った時、犯罪になる」
 小夜は感心したように頷いた。
 しかし、なぜ家の中に盗聴器を仕込んだのかーー。その理由を知るためには、ここに残されているであろう内容を聞くしかなかった。
 その時、倉庫を一回りしてきたらしい玲央が戻ってきて顔を出す。
「ただいま。何見てるの?」
 龍は無言で玲央に盗聴器を見せた。その瞬間、玲央の顔色が変わる。
「家の中にあった?」
「多分な。 そっちは?」
「良くも悪くも当たりってとこかな。倉庫に行ったら、血痕だの何だのって、事件の証拠がどっさり。調べなくて助かったけど、知華さんがあそこで亡くなったことは間違いない」
「玲央、現場の写真はある?」
「もちろん」
 玲央は自分のスマートフォンを取り出し、撮ったばかりの写真を2人に見せた。血痕は拭いたのだろうが、所々残っており、長年放置していたせいで溜まった、床の埃が荒れていた。
「写真じゃ分かりにくいけど、下足痕からして犯人と争った可能性がある。車椅子の後もあったし、知華さんがここにいたことは確定した」
「ああ。問題は、遺体を運んだ理由だ。倉庫で殺害したなら、そのまま放置すれば良かったはず。なぜわざわざ部屋に移動させた? ここは3階で、倉庫は1階。エレベーターがあるとはいえ、運ぶのは男でも苦労するはずだ。車椅子があるとしても、結局遺体を床に寝かせているんだから、手間はかかるだろ」
「そうだよね。うーん・・・外に晒したくなかった、とか?」
 玲央は自分で言った言葉がくだらないと思ったのか、首を振った。しかし、小夜は真逆の反応を示す。
「それだわ。犯人は、知華さんの遺体を倉庫に放置したくなかった。、この部屋に遺体を運んだのよ」
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