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Case78.血まみれのお茶会⑧
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「愛情?」
龍と玲央は揃って首を傾げた。殺人事件自体、家族や友人など親しい間柄で起こることが多いとしても、殺してから愛情を抱くなど考えにくかった。仮に抱いたとしても、放置しておいた方が余計なことを探られずに済むのだから。
小夜は2人の言葉に深く頷きつつ、続ける。
「ええ。犯人は、知華さんに確固たる愛情があった。だから、例え殺害してしまったとしても、遺体を外に放置しておくことができなかったのよ。」
「ちょっと待って。それじゃあ話が矛盾してるよ。仮に君の言う通りだとしたら、なぜ犯人は知華さんを殺したんだ?愛情があるっていうなら、そんなーー」
何か言いかけた玲央だが、突然ハッとして言葉を止めた。横で聞いていた龍も、同じ結論に辿り着いたらしく、2人は一瞬顔を見合わせる。
「そうよ。犯人は、初めから知華さんを殺す気はなかった。これは、“事故”とも言える不遇な殺人。仁さんの時とは違う」
「犯人にとって、予定外の殺人だったんだね」
「なるほど。だからこんな面倒なことをしてまで、遺体を運んだのか。だが、ある意味墓穴を掘ったかもな。もし倉庫に遺体を放置していれば、“内部の人間”という線が薄まった可能性がある。だが部屋の中に遺体を運び、やむを得ないとは言え鍵を持ち去ってしまったことで、内部犯の疑いが強くなった」
「そうだね。おそらく、予定外の殺人をして焦っていたんだろう」
3人は手早く推理を展開した。小夜は軽く窓を開け、洗面所にあった消臭剤を振り撒く。それで検分は終わりかと思いきや、彼女はもう1度遺体を見つめ、軽く頷いた。
「行きましょう。これ以上、ここにいても得られるものはない。ただ、その盗聴器の内容は、私が知りたかった真実を知らせてくれるかも・・・・」
謎の言葉を呟きながら、小夜は知華の部屋を後にした。2人は部屋に立ち入らないよう扉を閉め、ブルーシートを貼って彼女の後を追った。
「盗聴器の話は一也さんたちに言わなくていいの?」
「ええ。変に疑われても困るし、全ては謎解きの時にーーね。
何はともあれ聞いてみましょう。ヒントになるかもしれないから」
3人は龍と玲央の部屋に行き、盗聴器の内容を聞くための準備をした。受信機は知華の部屋のベッドの下に隠されていたため、指紋がつかないよう手袋越しで捜査し、音声を再生する。
以下は、玲央が音声の内容を書き写したもの。会話部分以外は、玲央による状況説明及び推測箇所。
数秒間に渡る沈黙のあと、2つの足音と扉の開閉音。沈黙時に遠くから聞こえていた人の声が消えたため、扉を閉じた音である可能性が高い。
『あの話、本当なんですか? 仁叔父さん』
『あの話? 何のことだ、知華。兄さんたちが待っているから、早く食堂に行こう』
知華と仁の会話であり、部屋に他の人物の気配はなし。“兄さんたち”の一言から察するに、過去の“お茶会”の日に交わされた会話か。
『話を逸らさないでください! もしあの話が真実なら、あなたは犯罪者です!』
知華の唐突な切り出し方を見るに、何かのついでではなく、この話をするために呼び出したか。この間、仁は沈黙。
『あなたがやったことを、父が知らないはずがない! 一体、どんな気持ちでこの家に戻ってきて母を見ているの⁉︎』
仁はため息。息にわずかな震えがあるため(龍の証言)強がっている、もしくは図星と考えられる。
『失礼な。義姉以外に答えなどない』
声は平坦だが、語尾の震えが隠しきれていない(龍の証言)。嘘か。
『嘘ばっかり! あなたは不倫をした父を責めたけど、あなたにそんな資格はないわ! あなたはそれ以上のことをしたんだから!』
一也の不倫は子供たち全員が知っていたこと、仁は兄の不倫を責めたことがはっきりとわかる。
音声はここで終了。電源が切れたとは思えないため、知華自身が編集の際に不必要と判断して消したか。
なるほどね、とつぶやいた小夜は椅子から立ち上がった。部屋の扉を開け、吹き抜けから1階の広間にいる江本家の面々を見据える。皆それぞれに重苦しい表情を浮かべていたが、中でも海里は青白いと言えるほどに顔色が悪かった。彼らは互いの顔を見たり目を逸らしたりして、ボソボソと会話らしきものを交わしていた。
「盗聴器のおかげで、1つ謎が解けた。でも、まだ足りない・・・まだ、明らかになっていない罪がある」
「罪? もう十分暴いたじゃないか。これ以上、何かあるの?」
続いて部屋から出てきた玲央が、即座に尋ねた。小夜はすぐに頷く。
「あるのよ。正直・・・気は進まないけど、知ってしまった以上、戻れないわ」
2人は首を傾げた。小夜は手すりにもたれかかり、2人にこう言った。
「私は探偵の真似事なんてしたくなかった。でも、今回に限ってその意思を曲げるわ」
「どういうこと・・・?」
玲央が眉を顰めながら尋ねた。小夜は堂々とした声で言う。
「私は、この家に隠された全ての罪と嘘を暴く。でも、そのためのまだピースが足りない。この家に、“何もない”という言葉は存在しないから・・・明らかにするしかないの」
「意味が分からないな。真実を解くことに集中して先が見えてない・・・そう江本に言ったんだろう? 同じことをしたくはないんじゃないのか?」
「ええ。でも、心配しないでください。私は、真実を明らかにした後の未来に予想がついています。だから、全て解いても問題ありません」
「断言できるのか?」
龍の質問に、小夜は迷わず頷いた。玲央はやれやれと言ったように首を振る。
「分かった。君の判断を信じよう。ただし、無茶はしないで。君は自分のことを軽んじる癖がある」
「自覚はないけど、分かったわ。ありがとう」
その時、甲高い女性の悲鳴が聞こえた。小夜が素早く江本家の人間を見たが、彼らは彼女と同じように驚いていた。
使用人か誰かの悲鳴だと理解した瞬間、龍は部屋を飛び出して階段を駆け下りていた。彼は悲鳴が聞こえた仁の殺害現場、食堂へ向かった。扉は開け放たれており、入口に流華と使用人の女性がいた。
「流華さん、どうしました?」
「東堂さん! 葵兄が・・・‼︎」
声に応じて食堂を覗くと、中央で葵が頭から血を流して倒れていた。龍は胸ポケットからハンカチを取り出し、葵に駆け寄って傷に当てる。龍は体を揺らさず、できる限り落ち着いた声で尋ねた。
「葵さん、大丈夫ですか? 私がわかりますか?」
「・・・う・・・・東堂・・さん・・」
意識があることを確認すると、龍は安堵の息はを吐いた。続けて小夜と玲央が駆けつけ、食堂の様子を見て扉の前で足を止める。龍はその様子を一瞥したあと、入口に立ち尽くしている流華に声をかけた。
「救急箱はありますか? あるなら今すぐここへ。一也さんたちには一時部屋で待機をお願いします。流華さんも救急箱を兄に渡したら、部屋に戻っていてください」
「は・・はい!」
応急処置が済んだ葵を部屋に運んだ後、3人は食堂に留まった。人の気配がないことを確認したあと、兄弟は己の意見を吐き出し始める。
「あれは事故じゃない。明らかに何かで殴られた跡があった。運良く重傷には至らなかったが、一歩間違えれば脳に障害を及ぼした傷だ」
「きちんとした治療をするべきなのはわかるよ。でも、まだ台風は収まっていない。俺たちがここから出ることはできないよ。殺人犯がいたとしてもね」
「だったら早く謎解きを始めるべきだ。兄貴だって、もう全部わかってるだろ」
「そうだけど、全ての真相を明らかにするためには、まだ足りないんじゃないかな」
「今それにこだわるのか? また誰かが襲われるかもしれないのに? 死人だって出かねないのに?」
「それはそうだけど・・・・」
小夜は腕を組み、2人の会話を静かに聞いていた。正面に向けていた視線を床へ落として葵の流した血と、血が滲んだ食堂のカーペットを見る。
「これは事故ーー言い換えるなら、予定外の殺人未遂。犯人は葵さんが自分の正体に気がつきかけたことを知り、咄嗟に殴りつけてしまった」
そう言いながら、小夜はおもむろに身を翻した。テーブルの手前に置かれたランプを手に取り、ひっくり返す。底には、血がベッタリと付着していた。鮮血のため、葵の血液だと一眼でわかった。
「犯人はこの2件でミスを犯しすぎている。特に今回は、取り返しのつかない過ちを犯した。今回の犯人の行動は、自分が犯人だと私たちに宣言したも同じ」
小夜は息を吐き、龍の腰あたりに視線を移した。そこには、現在彼女たちがいる食堂の鍵がある。
「東堂さん。その鍵・・・昨夜からずっとお持ちですよね?」
「ああ。昨夜もサイドテーブルに置いていたし、兄貴と交代で眠っていたから誰かに取られてもいない」
「わかりました。そうであるなら、もう謎は解けた。でも、もう1つだけ知りたいことがある。2人はここで待ってて」
小夜はそう言い残すと、早足で食堂を後にした。彼女は流華の部屋に向かい、特に躊躇う様子もなくノックをする。
「今よろしいですか?」
扉越しに流華は返事をして扉を開けた。彼女の顔色は非常に悪く、小夜は気遣う言葉をかけた後、部屋を捜索させてほしいと言った。
あまりに唐突すぎる申し出に、流華はギョッとして目を見開く。
「何で私の部屋を⁉︎ この部屋には何もない! 仁叔父さんと知華姉が殺害された証拠だとか、そんな類のものなんて何もないんだから! やめてよ!」
一階にまで響くほどの大声で叫んだ流華だったが、小夜は驚くほど落ち着いていた。彼女は笑みすら浮かべ、小首をかしげながら口を開く。
「あら、私は別に、今回の殺人事件の証拠を探しに来たとは言ってませんよ?」
「えっ・・・?」
流華は呆気に取られたと言うよりも、どこか怯えたような声を上げ、表情を浮かべた。小夜は素早く続ける。
「私が探しているのは別の物です。流華さんなら、お分かりになりますよね?」
小夜はそれ以上何も言わず、開いた扉を潜り抜けて部屋に入り、無言で捜索を始めた。
「ちょっと、やめてください! 警察でもないあなたが勝手に・・・‼︎」
押し倒すような勢いで小夜の腕を掴んだ流華だったが、彼女は緊急事態ですから、と言って手を振り払い、捜索を続けた。
数分後、小夜はサイドテーブルの奥に大事そうにしまってあった袋を見つけ、怪しげな笑みを浮かべた。声にならない悲鳴を上げた流華を振り返り、小夜は口を開く。
「ご家族を集めてください。この一連の殺人事件を解き明かしましょう」
龍と玲央は揃って首を傾げた。殺人事件自体、家族や友人など親しい間柄で起こることが多いとしても、殺してから愛情を抱くなど考えにくかった。仮に抱いたとしても、放置しておいた方が余計なことを探られずに済むのだから。
小夜は2人の言葉に深く頷きつつ、続ける。
「ええ。犯人は、知華さんに確固たる愛情があった。だから、例え殺害してしまったとしても、遺体を外に放置しておくことができなかったのよ。」
「ちょっと待って。それじゃあ話が矛盾してるよ。仮に君の言う通りだとしたら、なぜ犯人は知華さんを殺したんだ?愛情があるっていうなら、そんなーー」
何か言いかけた玲央だが、突然ハッとして言葉を止めた。横で聞いていた龍も、同じ結論に辿り着いたらしく、2人は一瞬顔を見合わせる。
「そうよ。犯人は、初めから知華さんを殺す気はなかった。これは、“事故”とも言える不遇な殺人。仁さんの時とは違う」
「犯人にとって、予定外の殺人だったんだね」
「なるほど。だからこんな面倒なことをしてまで、遺体を運んだのか。だが、ある意味墓穴を掘ったかもな。もし倉庫に遺体を放置していれば、“内部の人間”という線が薄まった可能性がある。だが部屋の中に遺体を運び、やむを得ないとは言え鍵を持ち去ってしまったことで、内部犯の疑いが強くなった」
「そうだね。おそらく、予定外の殺人をして焦っていたんだろう」
3人は手早く推理を展開した。小夜は軽く窓を開け、洗面所にあった消臭剤を振り撒く。それで検分は終わりかと思いきや、彼女はもう1度遺体を見つめ、軽く頷いた。
「行きましょう。これ以上、ここにいても得られるものはない。ただ、その盗聴器の内容は、私が知りたかった真実を知らせてくれるかも・・・・」
謎の言葉を呟きながら、小夜は知華の部屋を後にした。2人は部屋に立ち入らないよう扉を閉め、ブルーシートを貼って彼女の後を追った。
「盗聴器の話は一也さんたちに言わなくていいの?」
「ええ。変に疑われても困るし、全ては謎解きの時にーーね。
何はともあれ聞いてみましょう。ヒントになるかもしれないから」
3人は龍と玲央の部屋に行き、盗聴器の内容を聞くための準備をした。受信機は知華の部屋のベッドの下に隠されていたため、指紋がつかないよう手袋越しで捜査し、音声を再生する。
以下は、玲央が音声の内容を書き写したもの。会話部分以外は、玲央による状況説明及び推測箇所。
数秒間に渡る沈黙のあと、2つの足音と扉の開閉音。沈黙時に遠くから聞こえていた人の声が消えたため、扉を閉じた音である可能性が高い。
『あの話、本当なんですか? 仁叔父さん』
『あの話? 何のことだ、知華。兄さんたちが待っているから、早く食堂に行こう』
知華と仁の会話であり、部屋に他の人物の気配はなし。“兄さんたち”の一言から察するに、過去の“お茶会”の日に交わされた会話か。
『話を逸らさないでください! もしあの話が真実なら、あなたは犯罪者です!』
知華の唐突な切り出し方を見るに、何かのついでではなく、この話をするために呼び出したか。この間、仁は沈黙。
『あなたがやったことを、父が知らないはずがない! 一体、どんな気持ちでこの家に戻ってきて母を見ているの⁉︎』
仁はため息。息にわずかな震えがあるため(龍の証言)強がっている、もしくは図星と考えられる。
『失礼な。義姉以外に答えなどない』
声は平坦だが、語尾の震えが隠しきれていない(龍の証言)。嘘か。
『嘘ばっかり! あなたは不倫をした父を責めたけど、あなたにそんな資格はないわ! あなたはそれ以上のことをしたんだから!』
一也の不倫は子供たち全員が知っていたこと、仁は兄の不倫を責めたことがはっきりとわかる。
音声はここで終了。電源が切れたとは思えないため、知華自身が編集の際に不必要と判断して消したか。
なるほどね、とつぶやいた小夜は椅子から立ち上がった。部屋の扉を開け、吹き抜けから1階の広間にいる江本家の面々を見据える。皆それぞれに重苦しい表情を浮かべていたが、中でも海里は青白いと言えるほどに顔色が悪かった。彼らは互いの顔を見たり目を逸らしたりして、ボソボソと会話らしきものを交わしていた。
「盗聴器のおかげで、1つ謎が解けた。でも、まだ足りない・・・まだ、明らかになっていない罪がある」
「罪? もう十分暴いたじゃないか。これ以上、何かあるの?」
続いて部屋から出てきた玲央が、即座に尋ねた。小夜はすぐに頷く。
「あるのよ。正直・・・気は進まないけど、知ってしまった以上、戻れないわ」
2人は首を傾げた。小夜は手すりにもたれかかり、2人にこう言った。
「私は探偵の真似事なんてしたくなかった。でも、今回に限ってその意思を曲げるわ」
「どういうこと・・・?」
玲央が眉を顰めながら尋ねた。小夜は堂々とした声で言う。
「私は、この家に隠された全ての罪と嘘を暴く。でも、そのためのまだピースが足りない。この家に、“何もない”という言葉は存在しないから・・・明らかにするしかないの」
「意味が分からないな。真実を解くことに集中して先が見えてない・・・そう江本に言ったんだろう? 同じことをしたくはないんじゃないのか?」
「ええ。でも、心配しないでください。私は、真実を明らかにした後の未来に予想がついています。だから、全て解いても問題ありません」
「断言できるのか?」
龍の質問に、小夜は迷わず頷いた。玲央はやれやれと言ったように首を振る。
「分かった。君の判断を信じよう。ただし、無茶はしないで。君は自分のことを軽んじる癖がある」
「自覚はないけど、分かったわ。ありがとう」
その時、甲高い女性の悲鳴が聞こえた。小夜が素早く江本家の人間を見たが、彼らは彼女と同じように驚いていた。
使用人か誰かの悲鳴だと理解した瞬間、龍は部屋を飛び出して階段を駆け下りていた。彼は悲鳴が聞こえた仁の殺害現場、食堂へ向かった。扉は開け放たれており、入口に流華と使用人の女性がいた。
「流華さん、どうしました?」
「東堂さん! 葵兄が・・・‼︎」
声に応じて食堂を覗くと、中央で葵が頭から血を流して倒れていた。龍は胸ポケットからハンカチを取り出し、葵に駆け寄って傷に当てる。龍は体を揺らさず、できる限り落ち着いた声で尋ねた。
「葵さん、大丈夫ですか? 私がわかりますか?」
「・・・う・・・・東堂・・さん・・」
意識があることを確認すると、龍は安堵の息はを吐いた。続けて小夜と玲央が駆けつけ、食堂の様子を見て扉の前で足を止める。龍はその様子を一瞥したあと、入口に立ち尽くしている流華に声をかけた。
「救急箱はありますか? あるなら今すぐここへ。一也さんたちには一時部屋で待機をお願いします。流華さんも救急箱を兄に渡したら、部屋に戻っていてください」
「は・・はい!」
応急処置が済んだ葵を部屋に運んだ後、3人は食堂に留まった。人の気配がないことを確認したあと、兄弟は己の意見を吐き出し始める。
「あれは事故じゃない。明らかに何かで殴られた跡があった。運良く重傷には至らなかったが、一歩間違えれば脳に障害を及ぼした傷だ」
「きちんとした治療をするべきなのはわかるよ。でも、まだ台風は収まっていない。俺たちがここから出ることはできないよ。殺人犯がいたとしてもね」
「だったら早く謎解きを始めるべきだ。兄貴だって、もう全部わかってるだろ」
「そうだけど、全ての真相を明らかにするためには、まだ足りないんじゃないかな」
「今それにこだわるのか? また誰かが襲われるかもしれないのに? 死人だって出かねないのに?」
「それはそうだけど・・・・」
小夜は腕を組み、2人の会話を静かに聞いていた。正面に向けていた視線を床へ落として葵の流した血と、血が滲んだ食堂のカーペットを見る。
「これは事故ーー言い換えるなら、予定外の殺人未遂。犯人は葵さんが自分の正体に気がつきかけたことを知り、咄嗟に殴りつけてしまった」
そう言いながら、小夜はおもむろに身を翻した。テーブルの手前に置かれたランプを手に取り、ひっくり返す。底には、血がベッタリと付着していた。鮮血のため、葵の血液だと一眼でわかった。
「犯人はこの2件でミスを犯しすぎている。特に今回は、取り返しのつかない過ちを犯した。今回の犯人の行動は、自分が犯人だと私たちに宣言したも同じ」
小夜は息を吐き、龍の腰あたりに視線を移した。そこには、現在彼女たちがいる食堂の鍵がある。
「東堂さん。その鍵・・・昨夜からずっとお持ちですよね?」
「ああ。昨夜もサイドテーブルに置いていたし、兄貴と交代で眠っていたから誰かに取られてもいない」
「わかりました。そうであるなら、もう謎は解けた。でも、もう1つだけ知りたいことがある。2人はここで待ってて」
小夜はそう言い残すと、早足で食堂を後にした。彼女は流華の部屋に向かい、特に躊躇う様子もなくノックをする。
「今よろしいですか?」
扉越しに流華は返事をして扉を開けた。彼女の顔色は非常に悪く、小夜は気遣う言葉をかけた後、部屋を捜索させてほしいと言った。
あまりに唐突すぎる申し出に、流華はギョッとして目を見開く。
「何で私の部屋を⁉︎ この部屋には何もない! 仁叔父さんと知華姉が殺害された証拠だとか、そんな類のものなんて何もないんだから! やめてよ!」
一階にまで響くほどの大声で叫んだ流華だったが、小夜は驚くほど落ち着いていた。彼女は笑みすら浮かべ、小首をかしげながら口を開く。
「あら、私は別に、今回の殺人事件の証拠を探しに来たとは言ってませんよ?」
「えっ・・・?」
流華は呆気に取られたと言うよりも、どこか怯えたような声を上げ、表情を浮かべた。小夜は素早く続ける。
「私が探しているのは別の物です。流華さんなら、お分かりになりますよね?」
小夜はそれ以上何も言わず、開いた扉を潜り抜けて部屋に入り、無言で捜索を始めた。
「ちょっと、やめてください! 警察でもないあなたが勝手に・・・‼︎」
押し倒すような勢いで小夜の腕を掴んだ流華だったが、彼女は緊急事態ですから、と言って手を振り払い、捜索を続けた。
数分後、小夜はサイドテーブルの奥に大事そうにしまってあった袋を見つけ、怪しげな笑みを浮かべた。声にならない悲鳴を上げた流華を振り返り、小夜は口を開く。
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