小説探偵

夕凪ヨウ

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Case98.闇夜のダンスパーティー③

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 その場にいればやむを得なかったのかもしれないが、聞いただけでは無茶としか言いようがない。
「全員とは大きく出ましたね。子供もいたでしょう?」
 私の疑問に零さんはすぐに答えた。
「うん。だから、亡くなった子供たちと同じ10歳を基準に、それ以下の子供たちは外されたよ。まあ、それだって無理がありと思うけどね」
「そうですね。いずれにせよ、高齢者を外さなかったから、浅見さん夫婦が容疑者になったということですか・・・・」
 一応、納得はできる。できるのだけれど、何だか圧を感じる
 ーー殺人事件でなくてはならない、というような。

 ーカイリ『闇夜のダンスパーティー』第3章ー

            ※

「どうですか?」
「毒殺だね。外傷はない」
 1時間ほどのダンスが終わった後、海里と玲央は遺体の検分を行っていた。玲央は念のため、ハンカチで口元を覆いながら続ける。
「話を聞く限り10年前の事件も毒殺だったんだろう。外傷はなかったと聞いているし、それ以外を考えることはできないただ、毒を持った方法など、肝心なことは何一つわからない。調べられる物があれば良いんだけど」
「外部との連絡が取れずとも、10年前の情報が得られないと難しいですね」
 海里がそう言うと、人々の間から黒服の男が現れ、2人にスマートフォンを渡した。紛れもなく、彼らの物である。2人が驚いていると、黒服の男は口を開いた。
「お2人にはお返しするよう頼まれました。外部との連絡は遮断されていますが、調べ物は可能です」
「俺たち2人だけ? 他の人は?」
「外部と無理にでも通信する可能性があるから返せない、とのことです。玲央様も、弟君と連絡を取られぬようにと」
「お見通しか。心配しなくても、この状況で外部の人間に頼る気はないよ」
 2人はスマートフォンを受け取ると、部屋に戻って話し合いを始めた。正直メイド2人には出て行ってほしかったのだが、頑なとして出て行かないため、2人は仕方なく話し合いを続けた。
「確かに連絡は遮断されてる。調べ物ができるのはいいけど、正直パソコンの方がいいんだよなあ。過去の事件なんて、簡単に調べて出てくるかどうか」
「そうですね。返して頂いて文句を言うのもなんですが、これはあまり頼りになりません。
 ですので玲央さん、もう少し10年前の事件の概要を説明して頂けませんか? 会場の様子など、人から聞いた程度のことでも構いませんので」
「わかった」
 2人は椅子に腰掛け、向かい合った。玲央は天井を仰ぎながら、考えるように腕を組む。
「何から話そうか・・・・取り敢えず、当時の事件で亡くなった、いわば被害者が誰なのかってことからにしよう」
 玲央は独り言のようにつぶやき、海里に向き直って続けた。
「被害者は全部で4人。麻生義彦の一人娘の真子まこさん、婿養子のさとしさん、2人の子供である優子ゆうこちゃん、優太ゆうた君。子供たちは双子で、事件当時10歳。
 付け加えると、亡くなった日のダンスパーティーは、子供たちの誕生パーティーだったんだよ。だからこそ、怨恨による殺人が疑われた」
 10歳。誕生パーティー。・・・・そんなめでたい日に、事件が起こったのか。確かにそれなら、怨恨が動機として考えられるのも説明がつく。事実はどうあれ、残酷だ。
「彼らは皆、ダンス中に苦しみ出し、血を吐いて倒れ、絶命した。亡くなった後、目や鼻など身体中のあらゆる部分から出血した・・・・」
「・・・・惨いですね」
 海里はその凄惨さを想像してつぶやいた。玲央は頷く。
「うん。でも、亡くなった後に出血したっていう話は、信憑性が薄いんだ。警察内で噂されていて、一応資料に書いてあったけど、本当にそんなことになったのかは、わからない。事件当時、現場に踏み込んだ警察官を動揺したという話だから、記憶が書き換えられた可能性もあるかな」
「でも、麻生さんは否定されていませんでしたよ。本当ではないのですか?」
「じゃあ、取り敢えずそういうことにしておこうか。  
 とにかく、警察は殺人事件として捜査した。当時、一家全員が同時に亡くなったことから自殺の線も一応出たけど、婿養子の智さんは上手く経営をやっているという話で、家族仲も悪くなかった点から、自殺ではないという判断になった」
 海里は頷きながら話を聞いていた。掃除をしているメイドたちも、動きを止めて玲央の話に耳を傾けている。
 玲央は続けた。
「麻生家は代々、資産家として政界に幅を効かせるほどの力を持っていたんだ。天宮家と並ぶと言われても、納得がいくほどのね。
 別に、麻生家は男児が当主であるべきだなんて言っていたわけじゃない。ただ、真子さんが智さんと一緒に父の会社を継ぎたいと言ったから、智さんが婿養子になって、2人の当主と社長という体制を取っていただけ。夫婦は資産家として富を蓄えつつ、会社の経営にも力を入れた。さっきも話した通り事件の日は子供たちの誕生パーティーだったけど、会社設立50周年を記念したものでもあった。偶然、重なったんだね」
「となると・・・・犯人はその日に殺人を計画していたのでしょうね。2つの祝いごとの日に、一家を殺害する。政界にも力が及ぶ資産家ともなれば、大騒ぎになることは必然」
 海里の言葉に玲央は頷き、言った。
「警察はパーティーに出席していた人間全員を容疑者にした。ーー老若男女問わずね」
 最後の一言に、海里は目を丸くした。
「本当に全員、ですか? 少し無理があるのでは?」
「あるね。でも、麻生家の存在が巨大だったからか、大掛かりな事件だと踏んだんだよ。まあ、捜査を進めるうち、亡くなった子供たちと同じ10歳以下は外されたけどね」
「・・・・なるほど。そして、高齢者を外さなかった結果、麻生義彦さんと杏さんが容疑者になったんですね」
 玲央は頷いた。海里は顎に手を当て、少し俯き加減になって続けた。
「しかし妙ではありませんか? 資産家という立場から大掛かりな捜査をしていたのに、最終的にご家族に落ち着くなんて・・・・。
 そもそも、なぜ義彦さんと杏さんは命を狙われなかったのでしょう。娘さんたちが亡くなっても、義彦さんたちが再び経営の指揮を取られる可能性は十分にあったはずです。麻生家を潰すことが目的なら、失敗していると思いますが」
「確かにそうだけど・・・・そう考えると、犯人はやっぱり麻生義彦にならないか? 無理やり動機を捩じ込むなら、再び経営の指揮を取りたかったから、とかになるかな。
 でも、彼は麻生家の存続を望んでいたそうだから、子供たちまで殺害するのは矛盾しているよ。こういう点からも、彼を犯人と断言するのは難しいんだ」
「なるほど・・・・。では、こう考えることはできませんか? 犯人は、
 玲央の顔色が変わった。
「それは・・・・あまり検討されてなかったな。確かに考えるべきだろうけど、実は彼女、麻生義彦と逃亡して、1年足らずで亡くなっているんだ」
「逃亡していたのにそんなことが分かったのですか?」
 海里の問いに玲央はすかさず答えた。
「殺人だったんだよ。麻生杏は、都内の山中で遺体となって発見された。犯人は不明で、凶器は側に落ちていたなた
「殺人ですか。状況から察するに、麻生さんが怪しいですね。そちらの事件も未解決なんですか?」
「ああ。10年前の事件と関係があるとは言われたけどね。だから結局、解決しなきゃいけない事件は2つになる」
 玲央の言葉に頷きながらも、海里は疑問を口にした。
「麻生さんは杏さんが亡くなったことを口にしませんでした。あれは一体?」
「さあ・・・・? 口にすることでもないと思ったのか、思い出したくなかったのか。いずれにせよ、情報が少なすぎるよ。かといって戸惑っていると、被害者が増えるし・・・・」
 2人は頭を抱えた。あまりに少ない情報と時間。遮断された外部との連絡。数多くのアクシデントが、2人の気持ちを逸らせていた。
「龍が外部から気づいて動いてくれればいいんだけど・・・・あいつ、この事件のこと知らないからな。俺だって、父さんから聞いたことがあって覚えていただけだし」
 玲央がため息をつくと、仕方なくスマートフォンで10年前の事件を調べていた海里は、突然はっとして尋ねた。
「玲央さん。1つお聞きしても?」
「何?」
「麻生さんが経営されていたこの会社のロゴマーク・・・・見たことありませんか?」
 海里のスマートフォンの画面には、三日月に向かって羽ばたく梟のロゴマークがあった。色は黒とシンプルだが、梟の躍動感が洒落ている。玲央はすぐに答えに行き着き、自分のスマートフォンで答えを出した。
「やっぱり・・・・! 。天宮家は、麻生家の会社を買収して子会社にしていたんだね」
「だとしたら・・・・小夜さん、何か知ってるんじゃないですか? 彼女でなくとも、刑務所にいる彼らは」
                    

 その頃、2人の行方を追っていた龍は、同じく行方不明になった人々が10年前の事件の関係者であることを突き止めた。そして、麻生家の会社を天宮家が買収していたことも突き止め、刑務所にいる和豊に面会していた。
「麻生? ああ、あの資産家か」
「やっぱり知ってるのか」
 小夜の父、和豊は頷いた。囚人服さえ、なぜか高価なものに見えるのだから不思議である。
「ああ。あの事件より前、麻生義彦がわざわざ私たちに頼んできた。“何かあった時に社員を路頭に迷わせたくないから、子会社として配下に置いてくれ”、と」
「受けた理由は?」
「祖父の代からに世話になっていたこともあるし、私が経営を学んだのが麻生義彦だったからだ」
「なるほど。じゃあ、10年前の事件について知ってはいるんだな?」
「もちろん」
 和豊は胡散臭い笑みを浮かべた。龍は思わず眉を顰める。この男は、殺人の罪を糾弾された時でさえ逃れようとしたが、刑務所に入れば皆、同じ。模範囚として過ごしていることは聞いていた。
「そう怖い顔をするな。それに、あの事件はどうせ怨恨が動機になっている。婿養子の智は麻生義彦に取り入ってあの家に潜り込んだという話もあるし、代々資産家として名を連ねて来た奴らからしたら、是非とも殺したい人間だったはず」
「他人には興味がない・・・・か。お前らしいな」
 龍はこれ以上聞いても時間の無駄だと思い、立ち上がった。龍が部屋を出る直前、和豊は口を開いた。
「あの事件、お前の父親の采配で容疑者を取り逃がしたのか?」
 その言葉に龍は動きを止めた。彼は振り向かずに口を開く。
「・・・・俺の知る所じゃない。とにかく、江本とも連絡が取れない以上、兄貴と一緒にいることは明白だ。謎を解くのは2人に任せる。俺がやるのは、行方不明者の救出だ」
「遺体でもか?」
「答えるまでもないな」
 龍は面会室を後にすると、足早に刑務所を後にした。車に乗り込むなりスマートフォンを出し、躊躇いがちにある電話番号を押す。
 3度目のコール音が鳴るか鳴らないか、という時、電話越しに声が聞こえた。
『君が俺に連絡してくるなんて珍しいね。何か面白い事件でも起こったの?』
「面白い事件なんてねえよ。あんたが10年前に曖昧に終わらせた、血塗れのダンスホール殺人事件。その件で話したいことがある」
『へえ。流石に玲央が心配になったのかな? 相変わらず仲がいいね。』
 揶揄うような口調に、龍は苛つきながら言った。
「会えるか会えないか、どっちだって聞いてんだよ。ーー親父」
 電話の向こうで微かな笑い声が聞こえた。龍はため息を堪え、父親からの返事を待つ。
 少しして、父親が答えた。
『明日の正午、資料室に来て。少しでも遅れたら次の仕事に行くから、ちゃんと時間は守るんだよ』
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