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第十四章 招かれざる客人
第二十四話 護衛騎士との訓練(上)
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三橋友親が帰ってしまうのを、ルーシェは悲しそうな顔で見送っていた。
親友の友親と一緒に温泉へ行くことをずっと楽しみにしていたのだ。残念な気持ちが止まらない。
「ルー、そんなに悲しむな」
「ピルゥゥ…………」
すっかりルーシェはへこんでしまっている。尻尾は垂れ、頭もうなだれたままである。小さな竜の姿のルーシェを膝の上に抱いて、アルバート王子は優しく彼の頭を撫で続けた。
「トモチカ殿はいないが、また今度、温泉というものに行こう。その時、私が一緒に行くのでは駄目なのか」
「ピルピルゥ!!(そんなことない!!)」
「では元気を出しておくれ」
「ピルゥ(うん)」
三橋友親やカルフィー、ケイオスらが、このハルヴェラ王国の王宮へやって来るや否や、またとんぼ帰りで帰国する。それと同時に、アレドリア王国のルティ魔術師も、すっかり大人しくなって国許へ帰ることになった。
ルティ魔術師が諦めて帰国してくれることは、ルーシェ達にとっては有難いことであったが、奇妙なことだった。
だが、そのことを奇妙に思う気持ちも、すぐに薄らぐ。それというのも、ルーシェの暗く沈んでいた気持ちが変わる出来事があったからだ。
バンナムが、アルバート王子の護衛として戻ってきた。
アルバート王子が、竜騎兵として騎竜に乗って 広大な大森林地帯を飛び回っていた時、竜騎兵ではないバンナムは地上にいたものだから、その間、王子の護衛に付くことは出来なかった。しかし、今、ハルヴェラ王国の王宮では竜に乗って飛び回る任務はない。よってバンナムは、昔のようにアルバート王子のそばで護衛に付くことが出来た。
本来の任務を果たせることに、バンナムはとても嬉しそうで、晴れやかな表情をしていた。
そして伴侶のその様子を見て、レネ魔術師も嬉しそうである。
そんな二人を見て、ルーシェの気持ちも浮上していた。
アルバート王子が颯爽と歩く傍らを、バンナムがついていく。
格好いいアルバート王子と、凛々しいバンナムの二人の並ぶ姿はなかなか良いものだ。二人を見ているだけでも目の保養だ。
実際、王宮の女官達もウットリとして二人の男達を眺めている。ルーシェは、そんな女官達を牽制するようにジロリと睨みつけていた。
(バンナム卿も来て、ますます女官とかの目がうるさくなった)
(こうなったら、あとで可愛い幼児姿の俺が王子とイチャイチャして、王子のショタコン疑惑を深めて女官達を絶望させるしかない!!)
そんな姑息なことを小さな竜は一生懸命に考えていた。そしてバンナムを連れたアルバート王子は、いつもハルヴェラ王国の騎士達と剣の稽古をしている中庭の広場に到着した。
アルバート王子の護衛騎士がわざわざラウデシア王国からやって来て、アルバート王子と訓練をするという話を聞いて、ハルヴェラ王国の王宮に詰めている近衛騎士達も、好奇心から見学に来ている者達もいた。
「これまでの訓練の成果を見せて頂きましょうか」
レネ魔術師も中庭の広場にいて、レネはアルバート王子が腰から外した“勇者の剣”を王子から預かっていた。バンナムとレネは、アルバート王子が“勇者の剣”を抜いて、“勇者”の称号を得ていることを事前に教えられていた。アルバート王子はこの王宮内で、“勇者の剣”を使って戦うことはまだ出来ない。力の加減が出来ないため、王宮の建物を破壊する恐れがあったからだ。
バンナムはそれを聞いた時、ゆくゆくは力の加減が出来るようにならなければ困るとハッキリと述べた。今回の訓練の成果を披露してもらう時に、その“勇者の剣”を使用できないことは仕方ないが、今後はその剣も使えるようにして欲しいと。
(まだまだ私の力が足りないということか)
アルバート王子はそう思いつつも、そのことをハッキリと指摘してくれるバンナムがそばに来てくれたことは有難い。
広場にバンナムが佇む。一部の隙もない騎士である。
彼はアルバート王子に言った。
「ルーシェと協力して、私に向かってきて頂いて結構です」
「ルー、やるぞ」
「ピルピルピルルル!!!!(頑張るよ!!!!)」
バンナムは、アルバート王子の少し後ろでパタパタと飛んで、黒い目をキラキラと光らせて、戦意を高揚させている小さな竜のルーシェを見つめた。
「さぁ、かかってきなさい」
バンナムが片手を上げ、手招きするように手をくいと動かす。
それを見てカチンときたのが、ルーシェである。血の気の多い子竜なのである。
(どんなに強いバンナム卿だからって、俺と王子の二人がかりなんだ。そんな悠長にしていられるのも今のうちだけだ!!)
アルバート王子は代替で渡された別の剣を手に、バンナムに向けて振りかぶる。バンナムは難なくそれを避け、自身も剣を抜いて応戦していく。だが、剣の腕前は護衛騎士バンナムの方が遥かに上で、ほどなくバンナムの巧みな剣さばきにアルバート王子は防戦一方になる。
「くっ」
唇を噛み締め、悔し気な表情を見せるアルバート王子に、バンナムは言う。
「殿下、訓練を続けたと言っておりました、こんなものなのですか」
小憎らしい言い方である。
それに反論したくても、アルバート王子は反論する暇も無かった。バンナムからの攻撃が速く、少しでも気を緩めてしまえば一撃を喰らってしまうからだ。
(こんなものなんかじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!)
その代わりのように小さな竜が黒い目を吊り上げ、メラメラと怒りに燃え、内心、叫んでいた。
(バンナム卿がいない間だって、剣の訓練はかかさなかったし、俺の王子はめちゃ頑張っていたんだ!!)
(スライムだって王子が倒したんだぞ!!)
アルバート王子の後ろで「ピルピルピルピル!!!! ピルー!!!!」と鳴いて、小さな竜は怒りにプンプンとしながら反論していた。しかし、当然竜の言葉なんぞバンナムには理解できないので、ルーシェのことを無視している。
おまけにバンナムとアルバート王子の距離が近すぎて、ルーシェが魔法で加勢しようにも、誤ってアルバート王子を攻撃しそうな状態で、迂闊に手を出せない。
(糞、ちょこまかとバンナム卿が動くから、攻撃できない!!!!)
足止めさせようと、土魔法でバンナムの足元を絡め取ろうとしても、当然そのことも予期していたように、ヒョイと飛んでバンナムは避けてしまう。それどころかアルバート王子の方がその土魔法で転びかける。
「ピルピルピルルルルゥゥゥゥ!!!!」
頭に来たルーシェが、バンナムの背に風魔法で攻撃を与えようとしても、バンナムは手の甲を突き出してその魔法を四散させた。見れば、またバンナムの手には魔法の効力を消失させるレネ特製の護符の手甲がつけられていた。当然、戦うバンナムの準備は万端である。
「ピルゥピルピル!!!!」
ルーシェは一度ならずも何度も魔法で攻撃を続ける。バンナムはそれらの魔法を的確に避けながら、王子と剣を激しく合わせている。そのバンナムの腕前に、王宮の近衛騎士達も感嘆しきりであった。
だが、ルーシェの魔法がついに
ついに
ついにアルバート王子へ直撃したのだった。
「ピッ!!!!(あっ!!!!)」
ルーシェの風魔法の攻撃で、巻き込まれたアルバート王子が大きく膝をつく。その首筋に、バンナムは剣を下ろして止めた。
「殿下の剣の腕前はまずまずです。が、ルーシェ」
小さな竜のルーシェはアルバート王子のそばに近寄り、王子を気遣いながらもうなだれている。
自分の攻撃のせいで、王子が負けたのだ。
「主の足を引っ張ってどうするのです。貴方には主と共に、どう戦うか、その想定が全く出来ていない」
その通りだった。
一対一の対人戦で、ルーシェはアルバート王子の力になるどころか、邪魔になってしまっている。
「……私がルーシェと一緒に作戦を練ることを怠ったからです」
「そうです」
バンナムはアルバート王子にも言う。
「これほど素晴らしい魔法を使う竜を、殿下、貴方は使いこなせていない。たとえ素晴らしい剣や竜を手に入れても、それらを使いこなせなければ、意味はないのです」
全くもってその通りなので、アルバート王子もルーシェもグゥの音もでない。
「手にしているものをどう使うのか、それを常に頭に入れて、臨機応変に戦うことができるように、繰り返し身に付くまで訓練をして下さい」
「分かった」
「ピルルゥ」
バンナムの言う通り過ぎて、反論もできない。
アルバート王子とルーシェは頭を下げ、そんな二人にバンナムは剣を腰の鞘に仕舞い、微笑みながら言った。
「そのために私は来たのです。一緒に頑張りましょう」
親友の友親と一緒に温泉へ行くことをずっと楽しみにしていたのだ。残念な気持ちが止まらない。
「ルー、そんなに悲しむな」
「ピルゥゥ…………」
すっかりルーシェはへこんでしまっている。尻尾は垂れ、頭もうなだれたままである。小さな竜の姿のルーシェを膝の上に抱いて、アルバート王子は優しく彼の頭を撫で続けた。
「トモチカ殿はいないが、また今度、温泉というものに行こう。その時、私が一緒に行くのでは駄目なのか」
「ピルピルゥ!!(そんなことない!!)」
「では元気を出しておくれ」
「ピルゥ(うん)」
三橋友親やカルフィー、ケイオスらが、このハルヴェラ王国の王宮へやって来るや否や、またとんぼ帰りで帰国する。それと同時に、アレドリア王国のルティ魔術師も、すっかり大人しくなって国許へ帰ることになった。
ルティ魔術師が諦めて帰国してくれることは、ルーシェ達にとっては有難いことであったが、奇妙なことだった。
だが、そのことを奇妙に思う気持ちも、すぐに薄らぐ。それというのも、ルーシェの暗く沈んでいた気持ちが変わる出来事があったからだ。
バンナムが、アルバート王子の護衛として戻ってきた。
アルバート王子が、竜騎兵として騎竜に乗って 広大な大森林地帯を飛び回っていた時、竜騎兵ではないバンナムは地上にいたものだから、その間、王子の護衛に付くことは出来なかった。しかし、今、ハルヴェラ王国の王宮では竜に乗って飛び回る任務はない。よってバンナムは、昔のようにアルバート王子のそばで護衛に付くことが出来た。
本来の任務を果たせることに、バンナムはとても嬉しそうで、晴れやかな表情をしていた。
そして伴侶のその様子を見て、レネ魔術師も嬉しそうである。
そんな二人を見て、ルーシェの気持ちも浮上していた。
アルバート王子が颯爽と歩く傍らを、バンナムがついていく。
格好いいアルバート王子と、凛々しいバンナムの二人の並ぶ姿はなかなか良いものだ。二人を見ているだけでも目の保養だ。
実際、王宮の女官達もウットリとして二人の男達を眺めている。ルーシェは、そんな女官達を牽制するようにジロリと睨みつけていた。
(バンナム卿も来て、ますます女官とかの目がうるさくなった)
(こうなったら、あとで可愛い幼児姿の俺が王子とイチャイチャして、王子のショタコン疑惑を深めて女官達を絶望させるしかない!!)
そんな姑息なことを小さな竜は一生懸命に考えていた。そしてバンナムを連れたアルバート王子は、いつもハルヴェラ王国の騎士達と剣の稽古をしている中庭の広場に到着した。
アルバート王子の護衛騎士がわざわざラウデシア王国からやって来て、アルバート王子と訓練をするという話を聞いて、ハルヴェラ王国の王宮に詰めている近衛騎士達も、好奇心から見学に来ている者達もいた。
「これまでの訓練の成果を見せて頂きましょうか」
レネ魔術師も中庭の広場にいて、レネはアルバート王子が腰から外した“勇者の剣”を王子から預かっていた。バンナムとレネは、アルバート王子が“勇者の剣”を抜いて、“勇者”の称号を得ていることを事前に教えられていた。アルバート王子はこの王宮内で、“勇者の剣”を使って戦うことはまだ出来ない。力の加減が出来ないため、王宮の建物を破壊する恐れがあったからだ。
バンナムはそれを聞いた時、ゆくゆくは力の加減が出来るようにならなければ困るとハッキリと述べた。今回の訓練の成果を披露してもらう時に、その“勇者の剣”を使用できないことは仕方ないが、今後はその剣も使えるようにして欲しいと。
(まだまだ私の力が足りないということか)
アルバート王子はそう思いつつも、そのことをハッキリと指摘してくれるバンナムがそばに来てくれたことは有難い。
広場にバンナムが佇む。一部の隙もない騎士である。
彼はアルバート王子に言った。
「ルーシェと協力して、私に向かってきて頂いて結構です」
「ルー、やるぞ」
「ピルピルピルルル!!!!(頑張るよ!!!!)」
バンナムは、アルバート王子の少し後ろでパタパタと飛んで、黒い目をキラキラと光らせて、戦意を高揚させている小さな竜のルーシェを見つめた。
「さぁ、かかってきなさい」
バンナムが片手を上げ、手招きするように手をくいと動かす。
それを見てカチンときたのが、ルーシェである。血の気の多い子竜なのである。
(どんなに強いバンナム卿だからって、俺と王子の二人がかりなんだ。そんな悠長にしていられるのも今のうちだけだ!!)
アルバート王子は代替で渡された別の剣を手に、バンナムに向けて振りかぶる。バンナムは難なくそれを避け、自身も剣を抜いて応戦していく。だが、剣の腕前は護衛騎士バンナムの方が遥かに上で、ほどなくバンナムの巧みな剣さばきにアルバート王子は防戦一方になる。
「くっ」
唇を噛み締め、悔し気な表情を見せるアルバート王子に、バンナムは言う。
「殿下、訓練を続けたと言っておりました、こんなものなのですか」
小憎らしい言い方である。
それに反論したくても、アルバート王子は反論する暇も無かった。バンナムからの攻撃が速く、少しでも気を緩めてしまえば一撃を喰らってしまうからだ。
(こんなものなんかじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!)
その代わりのように小さな竜が黒い目を吊り上げ、メラメラと怒りに燃え、内心、叫んでいた。
(バンナム卿がいない間だって、剣の訓練はかかさなかったし、俺の王子はめちゃ頑張っていたんだ!!)
(スライムだって王子が倒したんだぞ!!)
アルバート王子の後ろで「ピルピルピルピル!!!! ピルー!!!!」と鳴いて、小さな竜は怒りにプンプンとしながら反論していた。しかし、当然竜の言葉なんぞバンナムには理解できないので、ルーシェのことを無視している。
おまけにバンナムとアルバート王子の距離が近すぎて、ルーシェが魔法で加勢しようにも、誤ってアルバート王子を攻撃しそうな状態で、迂闊に手を出せない。
(糞、ちょこまかとバンナム卿が動くから、攻撃できない!!!!)
足止めさせようと、土魔法でバンナムの足元を絡め取ろうとしても、当然そのことも予期していたように、ヒョイと飛んでバンナムは避けてしまう。それどころかアルバート王子の方がその土魔法で転びかける。
「ピルピルピルルルルゥゥゥゥ!!!!」
頭に来たルーシェが、バンナムの背に風魔法で攻撃を与えようとしても、バンナムは手の甲を突き出してその魔法を四散させた。見れば、またバンナムの手には魔法の効力を消失させるレネ特製の護符の手甲がつけられていた。当然、戦うバンナムの準備は万端である。
「ピルゥピルピル!!!!」
ルーシェは一度ならずも何度も魔法で攻撃を続ける。バンナムはそれらの魔法を的確に避けながら、王子と剣を激しく合わせている。そのバンナムの腕前に、王宮の近衛騎士達も感嘆しきりであった。
だが、ルーシェの魔法がついに
ついに
ついにアルバート王子へ直撃したのだった。
「ピッ!!!!(あっ!!!!)」
ルーシェの風魔法の攻撃で、巻き込まれたアルバート王子が大きく膝をつく。その首筋に、バンナムは剣を下ろして止めた。
「殿下の剣の腕前はまずまずです。が、ルーシェ」
小さな竜のルーシェはアルバート王子のそばに近寄り、王子を気遣いながらもうなだれている。
自分の攻撃のせいで、王子が負けたのだ。
「主の足を引っ張ってどうするのです。貴方には主と共に、どう戦うか、その想定が全く出来ていない」
その通りだった。
一対一の対人戦で、ルーシェはアルバート王子の力になるどころか、邪魔になってしまっている。
「……私がルーシェと一緒に作戦を練ることを怠ったからです」
「そうです」
バンナムはアルバート王子にも言う。
「これほど素晴らしい魔法を使う竜を、殿下、貴方は使いこなせていない。たとえ素晴らしい剣や竜を手に入れても、それらを使いこなせなければ、意味はないのです」
全くもってその通りなので、アルバート王子もルーシェもグゥの音もでない。
「手にしているものをどう使うのか、それを常に頭に入れて、臨機応変に戦うことができるように、繰り返し身に付くまで訓練をして下さい」
「分かった」
「ピルルゥ」
バンナムの言う通り過ぎて、反論もできない。
アルバート王子とルーシェは頭を下げ、そんな二人にバンナムは剣を腰の鞘に仕舞い、微笑みながら言った。
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