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第2章
第17話
しおりを挟む一週間が経った。
白石が書いた台本の初稿が完成し、クラスで読み合わせが始まった。
「じゃあ、台本読んでみよう」
鈴木が言う。
白石が台本を配り始めた。
台本のタイトルは『白雪姫と七人の同居人』。
白雪姫を現代風にアレンジした恋愛コメディだ。
なぜ、男である俺が白雪姫役になったのかといえば──
「眠っている女子にキスするとか、今の時代アウトでしょ」
女子たちがそう主張して、押し切られた結果だ。
俺は台本を開いて、自分の役を確認した。
白雪姫。
美しい容姿を持つが、継母に嫌われて家を追い出される。
そして、七人の個性豊かな同居人たちと出会う。
最後に、王子様に助けられる──という筋書きだ。
王子様役は、クラス一のイケメン・山崎くんが演じることになった。台本には、キスシーンもある。演技とはいえ、少し恥ずかしい。
「綾瀬、読んでみて」
鈴木が言う。
「えっと……」
俺は、台本の最初のセリフを読み始めた。
「私は、白雪。継母に嫌われて、この街に来た。でも、ここで新しい人生が始まるんだ」
その瞬間、教室が静まった。
「……すごい」
誰かが呟いた。
「綾瀬の声、めっちゃいい」
「白雪姫っぽい」
クラスメイトたちが、次々と感想を言う。
俺は、少し恥ずかしくなった。
「ありがとう」
読み合わせが続く。
七人の同居人役は、クラスの男子たちが分担する。
そして、王子様役は山崎だ。
「綾瀬、山崎とのシーン、やってみようか」
鈴木が言う。
「うん」
俺と山崎が、教室の前に立った。
「じゃあ、目覚めのシーンから」
鈴木が台本を指さす。
目覚めのシーン。
眠っている白雪姫に、王子様がキスをして目覚めさせる場面だ。
「……ん」
俺が目を開けるふりをする。
「目が覚めたか」
山崎が優しく言う。
「あなたは……?」
「僕は、この国の王子だ。君を助けに来た」
その瞬間、教室がざわついた。
「やばい、山崎と綾瀬、カップルみたい」
「絵になりすぎ」
「これ、優勝ありえるって」
クラスメイトたちの声が聞こえる。
俺は、顔が熱くなった。
《綾瀬、近くで見るとやっぱり可愛いな……キスシーンの演技、ドキドキするだろうな》
山崎が演技で軽く手を握ったとき、心の声が聞こえた。俺は、さらに顔が赤くなる。
イケメンにそんなことを思われているなんて…犬や猫を愛でるような「可愛い」でも、恥ずかしい。
読み合わせが終わると、白石が俺のところに来た。
「綾瀬、すごく良かったよ」
「ありがとう。白石の台本、よく出来てるよ」
「本当?良かった」
白石が、少し照れたような顔をする。
その時、田村さんが声をかけてきた。
「ねえ綾瀬、衣装のことなんだけど」
「うん?」
「白雪姫の衣装、女装コンテストの衣装をそのまま使えないかなって」
「え?」
「だって、せっかく可愛い衣装作るんだし。一回だけじゃもったいないでしょ?」
田村さんが笑う。
《本当は、綾瀬の女装姿をもっと見たいだけなんだけどね》
あ、肩に髪の毛落ちてるよと田村さんの手がそっと触れる。
田村さんの心の声に少し戸惑った。
「でも……」
「大丈夫だよ。白雪姫って、美しい設定だし。ドレス着ても違和感ないって」
「そうそう。綾瀬なら似合うよ」
別の女子も賛成する。
結局、女装コンテストの衣装をそのまま使うことになった。
クラスの女子たちは、嬉しそうにしていた。
《綾瀬の女装姿、楽しみすぎる》
《絶対可愛いよね》
綾瀬くんなら大丈夫!とぽんぽんと肩を叩いてくる女子たちの心の声が次々と聞こえてくる。
俺は、少し恥ずかしくなった。
その時、親衛隊のメンバーの一人が立ち上がった。
「あの、綾瀬は演技の負担が大きいんじゃないか?」
その声に、教室が静まった。
「何言ってんの。綾瀬、めっちゃ楽しそうだったじゃん」
田村さんが反論した。
「でも……」
「大丈夫だよ。みんなでサポートするから」
鈴木も言う。
親衛隊のメンバーは、それ以上何も言えなくなった。
放課後、演技の練習が始まった。
「綾瀬、もう一回、目覚めのシーンやってみようか」
鈴木が言う。
「うん」
俺と山崎が、再び教室の前に立った。
俺が机に座って、眠っているふりをする。
山崎が近づいてきて、俺の顔を見下ろす。
「……美しい」
山崎が台詞を言う。
その声には、本当に感情が込められていた。
《綾瀬、本当に綺麗だな……演技なのに、ドキドキする》
山崎がそっと手を添え、心の声が聞こえた。
そして、ゆっくりと顔を近づけてくる。
キスシーンだ。
実際には、角度をつけてキスしているように見せるだけ。
でも、山崎の顔が近づいてくると、心臓がドキドキした。
「……ん」
俺が目を開ける。
「目が覚めたか」
山崎が優しく微笑む。
その笑顔は、本当に王子様みたいだった。
練習が終わると、クラスメイトたちが拍手をした。
「綾瀬と山崎、最高!」
「本番が楽しみだね」
その言葉に、俺は少し嬉しくなった。
教室を出ると、廊下で千隼と奏多が待っていた。
「遙真!練習、どうだった?」
「うん。楽しかった」
「良かったね」
千隼が笑う。
「遙真、演技うまいんだろうな」
奏多が言う。
「そんなことないよ」
「謙遜しなくていいって」
三人で校舎を出ると、不破先輩と橘先輩が校門で待っていた。
「遙真」
「あ、先輩たち」
「練習、どうだった?」
橘先輩が聞く。
「キスシーンの練習をしました」
「キスシーン?」
不破先輩の表情が一瞬で変わった。
「相手は誰だ?」
「山崎です。クラスで一番のイケメンで」
「そっか」
不破先輩は、明らかに不機嫌そうな顔をしていた。
「遙真がキスされるシーンか……見たくない」
橘先輩が言った。
「え?」
「だって、遙真が他の男にキスされるなんて」
橘先輩が少し頬を赤らめる。
「演技ですよ」
「わかってる。でも、やっぱり嫌だ」
不破先輩も頷いた。
「俺も嫌だ。演技でも」
その時、校門の近くに、親衛隊のメンバーたちが集まっているのが見えた。
10人以上いる。
「……また」
俺は、少し不安になった。
「大丈夫だ」
不破先輩が、俺の前に立った。
橘先輩も、俺を守るように横に並ぶ。
千隼と奏多も、俺の両側に立った。
「行くぞ」
五人で、親衛隊の前を通り過ぎようとした。
その時、佐藤が声をかけてきた。
「綾瀬様」
「……何ですか」
「演劇の練習、お疲れ様です」
佐藤の声には、何か複雑な感情が込められていた。
「ありがとうございます」
「でも……あまり無理はしないでください」
「大丈夫です」
俺は、はっきり言った。
佐藤は、何も言えなくなった。
五人で校門を出る。
親衛隊は、何もしなかった。
ただ、俺たちを見送っているだけだった。
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