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第2章
第16話
しおりを挟む放課後。
教室では、文化祭の準備が本格的に始まっていた。
文化祭は一ヶ月後。まだ時間はあるけれど、演劇の台本を決めるため、クラスメイトたちが集まっている。
「何の話にする?」
「恋愛ものがいい!」
「コメディはどうー?」
いろいろな意見が飛び交う中、俺は席に座って様子を見ていた。
その時、親衛隊のメンバーの一人が立ち上がった。
「綾瀬は、裏方の方がいいんじゃないか?」
その声に、教室が一瞬静まった。
「なんで?」
女子の一人が聞き返す。
「だって、足首も治ったばっかりだし……」
「もう完治してるし、本番は一ヶ月後だよ?それに、綾瀬くんが出た方が、絶対いい演劇になるって」
別の女子が反論した。
親衛隊のメンバーは、それ以上何も言えなくなって、
話し合いは再開した。
「台本はどうする?」
「オリジナルがいいよね」
「じゃあ、誰かに書いてもらう?」
その時、クラス委員の鈴木が手を挙げた。
「うちのクラスに、文芸部の奴がいるよ。おい、白石」
「あ、白石くん!」
白石は、窓際の席に座っている、おとなしそうな男子だ。
「白石、台本書いてくれない?」
鈴木が聞く。
「えっ、俺?」
「なにぼーっとしてんだよ。お前、文芸部だろ。得意分野じゃん」
「まあ……書けるけど」
白石が少し照れたような顔をする。
「じゃあ、お願い!」
「テーマは?」
「恋愛コメディで」
「わかった。そうだな、じゃあ……白雪姫をモチーフにするのはどう?」
「白雪姫?」
「そう。でも、現代風にアレンジして、コメディ要素を入れる。それなら俺も書きやすい」
白石の提案に、クラスメイトたちが興味を示した。
「いいね!」
「面白そう」
「じゃあ、それで決まり」
白石が頷いて、ノートにメモを取り始めた。
次に配役の話になった。
「主人公は……綾瀬くんがいいんじゃない?」
「え?」
俺は驚いて声を上げた。
「だって、綾瀬くん、顔も整ってるし。白雪姫の王子様役にぴったりだよ」
「そうだよ。綾瀬くんなら、みんな見に来るって」
クラスメイトたちが、次々と賛成の声を上げた。
「でも……」
「大丈夫だよ。みんなでサポートするから」
女子の一人が、優しく言ってくれた。
その言葉に、俺は何も言えなくなった。
結局、俺が王子様役をやることになった。
配役が決まると、クラスは衣装班、大道具班、音響班などに分かれていった。
「綾瀬くん、衣装のサイズ測らせて」
衣装班のリーダー、田村さんが声をかけてきた。
「あ、はい」
田村さんは、メジャーを持って俺の肩幅や身長を測り始めた。
「綾瀬くん、本当にスタイルいいね」
「そ、そんなことないです」
「いやいや、モデルみたい」
田村さんの手が、俺の肩に触れた。
《綾瀬くん、近くで見ると本当に綺麗……こんな子と一緒に作業できるなんて》
心の声が聞こえた。
俺は、少し照れくさくなって、視線を逸らした。
「ありがとうございます」
「あ、それとね」
田村さんが、少し真剣な顔になった。
「綾瀬くん、もっとタメ口で話してくれない?」
「え」
「だって、同級生なのに敬語って、距離感じるじゃん」
「あ……ごめん」
「謝らなくていいよ。これから、普通に話そう?」
田村さんが笑った。
その笑顔は、本当に優しかった。
「……うん。わかった」
「よし!じゃあ、女装コンテストの衣装も、私たちで作るからね」
「お願いします……じゃなくて、お願いね」
俺が言い直すと、田村さんが嬉しそうに笑った。
測定が終わると、次は大道具班の男子たちが声をかけてきた。
「綾瀬、舞台の背景、どんな感じがいいと思う?」
クラスメイトの山田が聞いてくる。
「えっと……綺麗な感じがいいと思う」
「綺麗な感じか。わかった」
山田が俺の肩をポンと叩いた。
《綾瀬、意外と普通に話せるんだな。もっと近寄りがたいと思ってたけど》
山田の心の声が聞こえた。
俺は、少し驚いた。
山田は、俺のことを近寄りがたいと思っていたのか。
「山田も、何かあったら教えて」
「おう、頼むわ」
山田が笑った。
その笑顔は、本当に自然だった。
準備が進む中、何人かのクラスメイトが、俺に話しかけてくれた。
「綾瀬、演技とかやったことある?」
「小学生の発表会くらいしか…」
「そっか。じゃあ、練習、一緒にやろうね」
「うん」
「綾瀬、女装コンテスト楽しみにしてるよ」
「え……それはちょっと、恥ずかしい…かも。でも、ありがとう」
一つ一つの会話が、心に沁み込んだ。
クラスメイトたちは、俺を受け入れてくれている。
親衛隊の圧力ではなく、普通のクラスメイトとして。
その時、音響班の佐々木が話しかけてきた。
「綾瀬、音楽の好みとかある?」
「えっと……特にはないかな」
「そっか。じゃあ、俺が選ぶわ」
佐々木が俺の手に触れた。
《綾瀬の手、柔らかいな……女の子みたい》
心の声が聞こえた。
俺は、少し恥ずかしくなって、手を引っ込めた。
なんか、みんなに同じこと言われるな……。
「あ、ごめん」
「いや、大丈夫」
佐々木は、少し照れたような顔をしていた。
準備が一段落すると、クラス委員の鈴木が立ち上がった。
「みんな、お疲れ様。今日はここまでにしよう」
「お疲れ様ー」
クラスメイトたちが、次々と帰り支度を始めた。
その時、白石が俺のところに来た。
「綾瀬、台本、頑張って書くから」
「ありがとう。楽しみにしてる」
「白雪姫の王子様、似合うと思うよ」
白石が、少し照れたような顔で言って、俺の肩に手を置いた。
《綾瀬みたいな美形が王子様役なんて、完璧すぎる》
白石の心の声が聞こえた。
俺は、顔が熱くなった。
教室を出ると、廊下で千隼と奏多が待っていた。
「ごめん、待たせた?」
「全然!僕とかなもさっきまでクラスで残ってたし」
「それでどうだった?」
「うん。みんな、優しかった」
「良かったね」
奏多も、いつもの落ち着いた声で言った。
「クラス、悪くないな」
「うん」
廊下の窓から、夕焼けが差し込んでいた。
温かな光の中で、みんなの笑顔が浮かんで見えた。
——少しずつ、本当に「居場所」ができていく気がした。
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