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第38章 決着 ― 組織の刃
しおりを挟む初めて――グラドの膝が、石畳に沈んだ。
ドスンッと鈍い衝撃が地面を震わせ、砂埃が舞い上がる。
巨躯がぐらりと揺れる。その瞬間、周囲の盗賊たちの喉が一斉に鳴った。
「お、おい……頭目が……膝を……?」
「嘘だろ……あの頭目が……!」
ざわめきは恐怖と混乱の匂いを孕み、波紋のように広がっていく。
だが――。
顔を伏せていたグラドが、ゆっくりと顔を上げた。眼帯の下、残された片目が、獣じみた光を放つ。炎のように揺れる闘志。敗北など、一切受け入れぬ色。
「……これしきで――」
喉の奥で血が泡立つ。唇の端から赤がつっと垂れる。それでも彼は牙を剥くように笑い、大地から大剣をむしり取った。
「狼の牙は折れんッ!!」
叫びと同時に、大剣が風を裂く。筋肉が悲鳴を上げても、骨が軋んでも、巨狼は立ち上がる。
その雄叫びに、盗賊団の背筋が一斉に震えた。
まだ終わらない――。戦場にそう告げるように、グラドは再び前へ踏み出した。
◇
ガロウが吠える。
「社長! 俺が前で受けル!」
巨大な斧が、巨狼の大剣と真正面から激突する。轟音と振動が戦場全体を揺るがす。
火花が飛び散り、衝撃で地面の石が微かに割れる。筋肉が悲鳴を上げ、ガロウの身体が衝撃を受けてわずかに震む。
「ぐっ……さすがに重ェ!」
巨大な斧が、巨狼の大剣と真正面から激突する。轟音と衝撃が戦場全体を揺るがし、石畳が振動で唸る。押し返し、斧を振り上げる。ぶつかるたびに衝撃波が空気を裂き、風圧が辺りを押し流す。
「くそッ……まだ力は残ってんのカ!」
火花が散り、腕と肩に痛みが走る。だがガロウはひるまず、力の限り大剣を押し返す。
ぶつかり合う度に、互いの呼吸が荒くなり、戦場の空気が振動で震えた。
まさに巨漢同士の力と力の打ち合い。戦場の中心で、二人の巨体がぶつかり合うたびに周囲が揺れる。
すかさずロイが斜め後方から勢いよく突撃する。槍を構え、地面を蹴りながら軌道を正確に調整。
穂先がグラドの脇腹を狙う。
「ここで倒れるな! 俺たちは仲間だ!」
だが、大剣の横薙ぎが鋭く振り抜かれる。ロイの槍は弾き飛ばされ、衝撃で肩と胸を打ち付けられる。
バランスを崩したロイは空中で一瞬足をもがき、体勢を立て直そうとするが、重力に逆らえず地面に転がった。石畳をかすめる音と共に砂塵が舞い上がり、ロイの鎧に擦過傷が走る。
体が跳ね、腕と膝が地面を叩く衝撃が全身に響く――しかし、苦痛に顔を歪めつつも、彼の視線は仲間と戦況に鋭く向けられていた。
「ちょろちょろと……鼠どもが!」
グラドが一歩踏み込む。その巨体が地面を揺らし、周囲の砂塵を巻き上げる。その瞬間、影からミナが飛び出した。短剣が鋭く閃き、グラドの腕をかすめる。
わずかに切れた傷から血がにじむが、動きは完全には止まらない。
「誰が鼠よ! 猫って言ったでしょ!」
鋭い声と共に、ミナは即座に距離を取る。グラドは腕の違和感に気付き、一瞬足を止める。
その巨体がわずかに揺れ、かすかな痛みに戸惑う動きが交錯する。
◇
「今です!」
リュシアの鈴が鳴り響き、庶民兵が一斉に押し寄せる。盾で押し、槍で囲み、グラドの巨体を縛るように動きを制限する。漣司はその光景を見て、大剣を構えた。
(ここが勝負だ……!)
「来い、小僧!」
グラドの咆哮が戦場に轟き、大剣が唸りを上げる。漣司の刃に衝撃が走り、腕が痺れ、膝が沈みそうになる。だが、踏みとどまり、地面を蹴って姿勢を維持する。
「俺は……一人じゃない!」
後からガロウが斧を振り下ろし、地面の衝撃が伝わる。ロイが槍で横から突き、刺突の軌道でグラドの側面を狙う。ミナが短剣を投げ、腕をかすめて小さな傷を与える。その瞬間、リュシアが鋭く叫ぶ。
「右に隙!」
庶民兵たちの盾と槍が連携して巨体を押し込み、戦場の中心でグラドは徐々に動きづらくなる。風圧、土埃、衝撃――あらゆる感覚が戦闘の緊張で震え、戦場全体が一体となって動く。
◇
一瞬――。
グラドの大剣が振り下ろされ、轟音と共に漣司の剣が弾かれる。腕に衝撃が走り、地面の石畳が微かに裂ける。しかし、漣司の足は踏みとどまり、体勢は崩れない。背後では、仲間たちの連携が光っていた。
ガロウが全身の力で斧を押し込み、巨体を押し返す。
ロイが脇を突き、槍の穂先がグラドの側面を貫く寸前で脅威を与える。
ミナの短剣が腕をかすめ、鋭い痛みと動揺を叩き込む。
その刹那、漣司の目が光る。仲間たちの支えと、自分の意志を一つにして、大剣を前に押し出した。
大剣の切っ先が、狼の頭目――グラドの喉元を貫き、戦場の空気が一瞬凍りつく。
火花も土埃も、まるで時間が止まったかのように感じられた。
「……これで終わりだ、グラド」
血を吐き、巨体が膝から崩れ落ちる。嗚咽にも似た息と、悔しげな低い声。
「一人の力ではなく……全員の牙で……か」
最後の力を振り絞るように呟き、ついに地に伏した。戦場に、仲間たちの息遣いと、勝利の静寂だけが残る。振り返れば、互いに血と土にまみれた姿――だが、誰もが誇らしげだった。
◇
勝利の歓声が戦場に轟いた。
「勝ったぞ! 俺たちが勝った!」
「社長がついに倒したぞ!」
漣司は大剣をゆっくりと下ろし、血と土にまみれた仲間たちを見渡す。汗と埃に光る顔――皆の瞳に宿る熱気と誇りを、彼は確かに感じ取った。
「俺が倒したんじゃない。全員が、この一瞬を繋いで勝ったんだ」
仲間たちの笑顔、握り合う手、互いを称える声――
その光景に、漣司はしばし胸の奥から込み上げる安堵を感じた。だが、心の奥底には静かな焦りもあった。戦いの最中、あの大剣の一撃を、もし自分一人で受け止められなかったら
――仲間を守りきれなかったら、と考えると、安堵の笑顔の向こうに不安が影を落とす。
(あの刃を、俺一人で受けきる力がなければ……次は仲間を守れない)
戦場の熱気が冷め始める中、漣司は自らの胸に手を当て、静かに誓う。
「剣を鍛えなければならない――組織の将としてだけではなく、一人の戦士としても、俺は強くならねばな」
戦いの痛みも、仲間の声も、すべて胸に刻み込みながら。力を求める決意が、漣司の体と心を熱く貫く。武装法人二階堂商会の未来は、新たな段階へ踏み出そうとしていた。
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