【本編完結】セカンド彼女になりがちアラサー、悪役令嬢に転生する

にしのムラサキ

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【高校編】分岐・相良仁

雨の海

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 結局また雨が降り出した。
 しとしと、レベルじゃなくてバケツをひっくり返したような雨!

「これさすがに送るわ、2人とも」

 仁が車のキーを持って言った。

「……そうさせて頂いて構いませんか。迎えに来てもらうのも」

 この雨ではためらいますね、と千晶ちゃん。お迎えって多分運転手さんだけど。
 カフェの前まで車をまわしてもらって、ぎゃーぎゃー言いながら、2人で後部座席に乗り込んだ。

「きゃーっもうなにこれ」
「ちょっとの距離だったのにっ」

 カフェの入り口から車まですぐだし、傘もさしていたのに、しとどに濡れてしまった。

「ほらタオル」

 ぽい、と運転席からタオル二枚が頭に降ってきた。
 軽く拭いてタオルを肩にかけた。結構冷える。

「あのさー、鍋島さん」
「なんですか」
「ちょっと華連れてくから、先に送るね」
「……そうですか」

 千晶ちゃんはそう返事した。

「まぁ前世からのご縁ですし、その辺は大事にされて構わないと思うのですが……まぁ、わたしは。華ちゃん見てて、樹くんとこのまま幸せになってくれたらなぁ、なんて思うようになってきてますので」

 千晶ちゃんは言う。

「現世、今でのお立場なんかもよくよくお考えくださいね」

 にっこり、と運転席に向かって微笑む千晶ちゃん。
 仁はなにも言わなかった。

 千晶ちゃんを送り届けて、私はしばらく後部座席で黙って雨を眺めていた。

「なぁ」
「なに」
「こっち来ない?」

 仁が言う。助手席ってことだろう。
 路肩にとめてもらって、移動した。
 シートベルトを締める。

「寒くない?」
「うん」

 タオルあるからあったかい、と返した。梅雨寒って感じだ、ほんとに、今日は。

「てきとーに流すわ」
「……うん」

 すぐに帰す気はないらしい。車はゆっくりと動き出した。

「あのさ」
「なに?」
「最初はな」

 仁は苦笑いした。

「お前のこと誘拐しちゃおうと」
「誘拐!?」

 犯罪だ! 唐突になにを!

「うん。攫って逃げようと思ってた」

 悪びれもなく、飄々と仁は言い切った。

「うわーお」
「なんだよその反応」
「いやぁ極端だなと」
「だってそうじゃなきゃ、」

 仁は前を向いたまま言う。

「お前、別のやつと結婚するじゃん」
「……わかんないけどね?」

 樹くんがほかの人に恋するかもだし、……でもあのクソ真面目な樹くんのことだ、そんな感情押さえつけてしまうのかも。
 ゲームではできてた婚約破棄、それだけ"華"が酷かったのかもしれない。

「だからな、そうするつもりで……でも、お前はそれ嫌なんだよな?」
「え、うん」

 私はうなずく。
 だって、そんなことになったら敦子さんが困る。敦子さんは今頑張っているところらしいのだ。お仕事のことは、よく分からないけれど……。

「だからさ、じゃあ邪魔なやつ消そうと思って」
「……邪魔?」
「例えばお前の大伯父とか」
「大伯父様……」

 御前。そう呼ばれる、常盤の妖怪だかなんだかよくわからないクソジジイ……最も、失脚寸前らしいけど、って。
 私はばっと仁を見た。

「……なにしたの?」
「さあ」

 少し楽しげに、仁は言った。

「何をしたんでしょうね、ボクは」
「ええええええ」

 怖い怖い怖い。なにそれ!

敢えて挑んだ者が勝つ Who Dares Wins、邪魔されたら撃破あるのみ」
「ねぇ、私が死んでる間に何があったの? 超攻撃的になってない?」
「はっはっは」

 仁はわざとらしく、でも楽しそうに笑う。

「ついでに再就職先も確保してきた」
「再就職先ぃ?」
「そうそう。お前が高校卒業したら、俺教師辞めるし」

 言いながら、仁はウィンカーを出して路肩に車を止めた。
 雨の海が見える。こんな日は、誰も海になんか来ない。

「え」

 もったいない、という感情が顔に出たのか、仁は少し笑った。

「なに、俺、教師合ってた?」

 シートベルトを外しながら、仁は言った。

「? うん、向いてそうだった」
「そうかー。でも生徒に手ぇ出しといて教師は続けらんねーわ」

 かちゃり、と私のシートベルトも外される。なんでだろ。

「なにしてんの? てか、手、とかいうほどまだ何もされてないし、卒業してからなら」

 セーフじゃないの、という言葉はキスに吸い込まれた。

「ちょ、」
「無理」

 口の中食べられてるみたいなキス。片手で後頭部を支えるように、深く深く深く。
 息ができない。酸欠みたいになって、頭がくらくらする。

「ずっと」

 仁が言う。笑っているけど、泣いていた。

「ずっとこうしたかった」
「……ごめんね」
「そんなん聞きたくない」

 私の目からも、ポロリと涙がこぼれた。仁がそれを指で拭う。

「好き」

 なんとか、そう言った。お互いボロボロだ。なんか色々。

「俺も好き。めっちゃ好き、ずっと好きだった」
「うん」

 ぎゅう、とお互いを抱きしめる。

「あーーーー」

 仁が泣いてるのに、笑いながら言う。

「そんな感じです」
「どんなまとめよ」

 一応突っ込んだ。

「あとなにが邪魔?」
「やめて、なんかサイコパスだよその質問の仕方」

 にこやかな仁にそう言う。

「いやもう俺、なりふり構ってらんないからさ」
「いやもう少し構って」
「ちゅーしたから元気百倍だし」
「な、」
「絶対幸せにするから、結婚してください」

 仁はそう言って、私の左手を取る。そしてその薬指に口付けた。

「あの」
「なに? この期に及んでまだ抵抗するの」
「しないけど、」
「うん」
「幸せにするから、より、幸せになろうとかの方が、私、好き」
「……お前らしいな」

 仁はにやりと笑って、私を抱きしめた。
 外は強い強い雨が降っていて、窓ガラスの向こうなんかほとんど見えなくて、実際のところ、私たちの未来もそんな感じなんだと思う。
 それでも、私はこの温もりを信じたいと、そう思うんだ。
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